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破壊ノ魔王

作者:紅蓮刃
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一章
  15

お前を買いにいく

そう言って向かった町は、ほんと何もなくて寂れた悲しい町だった。そのせいか、町の人たちも荒んでいて、みんなして目付きが怖い。ゼロの目とはまた違う、げっそりした目。
ゼロはなんともないようにスタスタと歩くけど、ぼくには衝撃的だった。どうしてこの世界は、こんなにも差があるんだろう。うるさいくらい賑やかだったり、こんな風の音しか響かないところだったり

でも共通するものもある


「…………」

「眺めてねぇで剥がすかほっとくかしろ」


ほんとどこにでもあるゼロの手配書
1に0がいっぱいならんでなんだか現実味がない。このカメラマンさんの殺される瞬間なのか。暗闇のなかでぼんやりと見えるゼロは真っ赤な目でぎらりと見下ろしていて、振りかぶった剣の影がぞっとするほど迫力をだしている。戦闘中だったんだろうけど、本人のものかどうか怪しい顔の血が生々しい。一度見たら忘れられない写真だ


「いつの?」

「4、5年前」


意外と最近
というか、ゼロっていくつなんだろ……?


「つーかはやく宿とってこい。雲が晴れる」

「はーい」


今のぼくはもっぱらのパシりだ。宿どりに買い物ばかり。人と話す機会はあるから、この世界のことは勉強にはなってるから文句は言わないけど、ゼロはなにも教えてくれないし、口を開けばメンスやアニムスについての質問ばっか。ぼくは少しは仲良くしたいんだけど、ゼロにその気配は一切ない。一切。

まぁいいけどさ。浅い付き合いなんだから


「すみませーん。二人、お願いしまーす」


ぼくが選んだ(というか一つしかなかった)宿は、木造のボロ宿で、中には誰もいなかった。歩く度に床はきしむし電気がついているのに暗い。こりゃゼロが文句いいそうだ


「……子供が1人でどうした?親はどこいったんだ」


宿主はボサボサ頭でぼろぼろの服のおじさん。ぼくの服も長い旅路でぼろぼろだけど、おじさんのには負ける


「今買い物いってるよ。食べ物とか買わないと……。ほら、ぼくこの通りなんも持ってないから」

「へぇ、珍しい……。旅行客かい?」

「うん。文章をかいてるんだ。いろんな国のことをね」


ちなみにこれはゼロが考えた設定


「まぁ金払ってくれんならいくらでも泊まっていけ。鍵なんかついてねぇから好きな部屋選びな。あと、金は先払い」

「じゃとりあえず3日分。いくら?」

「30000ベル」


たっっっっっっか!!!


「はい」


まぁゼロは金持ちだからなんともないけど

ぼくの選んだ部屋は角部屋で受付から一番遠い。でもここにはベッドだけじゃなくてソファーもあった。だからここにした。ゼロとぼくがふたりで寝る、なんてのはあり得ないから、いつもゼロが椅子に座ったまま寝るか、もう時間帯を完全にずらしていたんだけど、ソファーがあったら少しは楽になるんじゃないかな、と思って
優しいでしょ?

あとは窓の鍵を開けておけば、ぼくの任務はおしまい
のんびり町を見回るもよし、ぐーたら寝こけるもよし、食べまくって飲みまくってもよし

…………いいのかなあ、これで


「あら、ぼっちゃん。なにか悩みごと?」


廊下からの声。女の人だ


「良かったら力になりましょうか?」


優しそうな女の人は、なんだかいい臭いがして、ふわりとベッドに腰かけた。


「ううん。大丈夫。それより、勝手に入ってきたらダメだよ」

「鍵があいてたからつい。ごめんなさい。あなたの後ろ姿がなんだか寂しかったのよ」


寂しい、か
雫神のみんなと別れてもうだいぶ経つよな

寂しい……のかな


「……寂しくなんかない。がんばんないと」

「いいのよ。まだ子供なんだから、あまえてもいいの」


あまえても、て
なんでそんな優しいの?


「ほら、おいで」


う……
なん、で……そんな、こと…………

あれ?なんか……目がぼやけてきた
なん、で……理由なんてないのに……


「さぁ」


優しい声に優しい香り……





バゴォォォォォォォン


「………………」


なにこれ
これって枕が当たった音?嘘でしょ


「なにほだされてんだ。クソガキ」


なにこれ めちゃ痛い。え?むっちゃ痛い!


「ひ……あぅ……ぜ、ゼロ……?」

「よぉ、探したぜ?そっちから現れてくれるとはな」


いつの間にか奪われてぼくに投げられた枕は破裂するほど強くぼくに当たって……ぼくは頭もぐらぐら、顔は激痛だったんだけど……おかまいなしに二人は話す
というか、知り合い?


「随分と俺の所有物相手に面白いことしてるじゃねぇか?」


所有物!?


「あ……その……すいません……ゆ、許して……」

「忘れたなら思い出させてやろうか?今度は見やすい場所につけとかねぇと、またこんなことするのかねぇ」

「た、助けてください……ごめんなさい!!」


ゼロはニヤリと笑い、片手で女のひとを突き飛ばし、床に押し倒した。ぼくが戸惑ってる間にぐいっと服をめくり…………って、えぇ!???


「ぜ…………ゼロ!待って!それは!!待って待って!!」

「あ?こいつの臭いと声にやられた馬鹿は寝てろ」


ぐいっとめくられた服の下からは華奢な背中がでてきて、そこには…………なにもなかった。綺麗な背中だけ


「お願い……助けて……お願い……」


なのに女の人はブルブルと震え、優しかった声は恐怖の色しかない。ゼロは変わらない目でそれを見下ろすだけ


「3日。時間をやる。受けるよな?」


ゼロは一枚の紙をちらちらと女の人の目の前に散らかせる。女の人は迷うことなく、ぱくりとそれをくわえ、ばっと走り去った。追うこともなく、ゼロはタバコに火をつける


「……あー。このマヌケ」

「あの女の人……なにかやったの?」

「昔な」


どうして……
というか、なにを?


「お前みたいなガキでもきくんだな。あの香水。一種の媚薬だぞ。あれ」

「……なんかぼんやりしてた」


今思い返しても、正直悪い気はしない
今はあの怖がった顔で頭いっぱいだし


「この宿の金を支払える小さな子供。いいカモだな。あーやってだまして殺し、金を奪う。随分と簡単にひっかかかるんだな」


う、うるさいやい

………


「ゼロもむかしやられたの?」

「……ククク」


よかった。怒んない


「俺に色仕掛けなんて味なまねしやがるから、ちょっと幻術かけてやったんだよ。背中をナイフで抉られるって幻覚。まぁ……随分とトラウマになっちまったようで」


おおぅ……
そんなことなんてことないですよーって顔できるのはゼロくらいだと思うよ?


「で。俺は夜まで軽く寝るけど、お前はどうする?」

「眠くはないからなんか勉強する」

「決めてねぇのか?」

「うん。とくには。本屋さんがあったらいいんだけど……」


荷物を持つことが嫌いなゼロは全てが現地調達だから、本だって持ち運ぶことはできない。何度も何度もその場所で手にいれた本1冊を読み直してそれでおしまい。ゼロもたぶん夜になったら、ぶらりと買い出しに行くはずだ。服とか煙草とか


「決めてねぇならコレを読んどけ。つーか覚えろ」


ん?珍しい……というか初めてじゃない?読め、なんて


「………………飛空挺の扱い方?」


まって
これ、市販のものじゃないよね?
完全にマニュアルなんだけど!


「あの女が3日でお前の身分証を作ってくる。で、お前はそれを使って飛空挺の乗船許可証をとれ。これからの移動は飛空挺だ」


ふぇええ??
うそ!めっちゃうれしい!!


「でもぼく年齢とかいいの?」


普通決まりあるよね


「そこは手を回してやる。お前はとにかくそのマニュアルを暗記。筆記試験はそこからでるから、丸暗記さえすれば通るだろ」

「筆記はがんばれるけど……実技は?ぼく、運転どころか乗ったことさえないよ?」

「あー。そんくらいやってやるよ」

「へ?」


やってやるって?
ゼロはごろんとベッドに寝転がって眠そうにあくびをする。


「いーか。試験は応募者全員、筆記と実技がある。試験官はだいたい10人くらいの軍人かぶれだ。実技は船内に1人と下から運転技術を見るやつが5人、機械異常とかパラメーターで判断するやつが残り。つまり、その1人をなんとかしちまえばお前がやらなくてもどうにかなる」

「どうにかって……どうするの?そういう人なら弱くないでしょ?たぶん」

「まぁな。だいたいがティナ持ちだし、そういう異常事態があれば失格どころじゃねぇが、相手は俺だ。どうとでもしてやるよ」


まさか殺すんですか?
いや、試験官は殺さないっか


「ただ、筆記だけは応募者全員で同時に一室で行われる。当たり前だが、試験官はそれを見張ってる。さすがに俺は介入できねぇ」

「な、なるほど……」


ぼくはとにかく筆記か
よし、がんばろう!時間があるならなんとか……


「じゃ、試験は5日後。がんばれ」


ちょぉーーーーっっっとお!???


「5日!?そんだけ!?そんだけしかないの!??」

「あ?5日もあるだろ。トップ以外はどんなに実技がよかろうと落とされるから、まぁがんばれよ」


鬼ですか!?
鬼なんですか!??

まだこの世界のことあんまりわかってないぼくが、こんな分厚い辞典みたいのを覚えろって!?うそやん!うそやーーーぁん!!!


「ゼロ…………」


あ、もう寝てる

…………やるしかない、ってことか……な?
 
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