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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
  第二十一話 はじまりの街の死神

第一層 はじまりの街

あれから、のんびりと歩きながら四十四層の転移門をくぐり、はじまりの街までやってきたソレイユはさっそく教会へ向けて足を進める。
しかし、その途中で甲高い悲鳴が聞こえた。その悲鳴を不審に思ったソレイユは悲鳴の下方向へと足を進めると思いもよらぬ光景が目に入ってきた。

「ひあっ・・・や、やめっ・・・」

悲鳴を上げ、ソードスキルによって吹き飛ばされていく灰緑と黒金色で統一された装備を纏った≪軍≫のプレイヤー。その男たちを吹き飛ばしているのが、凶戦士もかくやといったような爛々と光る眼を向けながら細剣を振るっているアスナといつもより怒っている感じで刀をふるっているルナであった。

「・・・・・どうなってんだ、これ?」

「えっ・・・あっ、ソレイユさん」

状況がわからずにいるソレイユの存在に気付いたプレーンドレスを纏った女性が声をかけてきた。その女性はソレイユも見覚えのある女性だった。考えていても埒が明かなかったので、ソレイユはその女性に聞くことにした。

「・・・なぁ、サーシャさん。これ、一体どうなってんの?」

「じ、実は・・・」

サーシャと言う女性の説明によると、アスナたちがソレイユの知り合いということでユイの保護者探しに教会まで来たところ、≪軍≫の徴税隊に子供たちが襲われていることを知り、それを止めるため教会を慌てて出て行こうとした。そのとき、話を聞いたアスナたちがともに行くと進言し、同行するということになった。現場についてみると、≪軍≫のプレイヤーたちが複数人で子供たちをかこっていた。最初こそ静観していたアスナとルナだが、ついに我慢の限界が来たアスナとルナが暴走して今に至るらしい。

「・・・・・まぁ、経緯はわかった」

何ともいない表情でソレイユはアスナとルナの戦いぶりを眺めている。およそ三分後、我に返ったアスナとルナが足を止め、剣を降ろすと≪軍≫の連中は地面に伸びていた。
一息ついた後周りを見渡してみると、絶句して立ち尽くすサーシャと、教会の子供たちの姿に気が付いた。アスナとルナは子供たちを怯えさせたと思い、悄然と俯くが子供たちの反応は違った。

「すげぇ・・・すっげえよ姉ちゃんたち!!初めて見たよあんなの!!」

「このお姉ちゃんたちは無茶苦茶強い、って言ったろう?」

にやにや笑いながら進み出てくるキリト。そのキリトの左腕に抱かれているユイがソレイユの存在に気が付いた。

「にぃに!!」

「よう、ユイ」

キリトの左腕の中でユイはソレイユに向かって手を振っていた。ユイがソレイユの存在に気が付いたことでキリトやアスナ、ルナやほかの子供たちもソレイユがいることに気が付いた。そこで大きな反応を見せたのは教会にいた子供たちだった。

「「「「「「ソレイユの兄ちゃんだっ!!」」」」」」

ソレイユを見るなりソレイユに群がりはじめる子供たち。そんな様子をキリト、アスナ、ルナの三人は目を白黒させて見ていた。
しかしその時、細くも良く通る声が響いた。

「みんなの・・・みんなの、こころが」

キリトの腕の中で、宙に視線を向け、右手を伸ばしていた。その方角を見やってもそこには何もない。

「みんなのこころ・・・が・・・」

「ユイ!どうしたんだ、ユイ!!」

「ユイちゃん!!」

キリトと近寄りながらルナが叫ぶとユイは二、三度瞬きをして、きょとんとした表情を浮かべた。アスナも慌てて走り寄り、ユイの手を握る。

「ユイちゃん・・・何か、思い出したの!?」

「・・・あたし・・・あたし・・・」

眉を寄せ、俯くユイ。そんなユイをソレイユは眉一つ動かさず事の成り行きを訝しげに見守っていた。

「あたし、ここには・・・いなかった・・・。ずっと、ひとりで、くらいとこにいた・・・」

何かを思い出そうとするかのように顔を顰め、唇を噛む。と、突然―――。

「うあ・・・あ・・・あああ!?」

その顔が仰け反り、細い喉から高い悲鳴が迸った。SAO内で初めて聞くノイズじみた音がアスナたちの耳に響いた。その直後、ユイの硬直した体のあちこちが、崩壊するように激しく振動した。アスナも悲鳴を上げ、その体を両手で必死に包み込む。

「ママ・・・こわい・・・ママ・・・!!」

か細い声を上げるユイをキリトの腕から抱き上げ、アスナは胸に抱きしめる。数秒後、硬直したユイの体から力が抜けた。

「なんだよ・・・今の・・・!!」

怪奇現象が収まった後の静寂とした空き地にキリトのうつろなつぶやきが響いた。



「ミナ、パン一つとって!」

「ほら、余所見してるとこぼすよ!」

「あーっ、先生ー!ジンが目玉焼き取ったー!」

「かわりにニンジンやったろー!」


「これは・・・すごいな・・・」

「「そうだね・・・」」

「ここではいつもこんな感じなんだがな・・・」

眼前で繰り広げられる戦場さながらの朝食風景を見たキリトとアスナとルナは呆然と呟きをかわしていた。しかし、ソレイユは驚いた様子もなくお茶を啜っている。


昨日、謎の発作を起こし倒れたユイは、幸いにも数分で目を覚ました。しかし、ユイを移動させる気がなかったアスナはサーシャの熱心な誘いとソレイユの提案があり教会の部屋を借りることにした。
今朝からユイの調子は良いようであるが、楽観はできない。


「サーシャさん・・・」

「はい?」

ユイの髪を撫でながらアスナが物思いに耽って、ルナがアスナの様子に溜息を吐き、ソレイユが相変わらずお茶を啜っていると、キリトがカップを置き話し始めた。

「・・・・軍のことなんですが。俺が知ってる限りじゃ、あの連中は専横がすぎることはあっても治安維持には熱心だった。でも昨日見たやつらはまるで犯罪者だった・・・。いつからああなんです?」

サーシャはキリトの言葉を聞き、口許を引き締めると答えた。

「方針が変更された感じがしたのは、半年くらい前ですね・・・。徴税と称して恐喝まがいの行為を始めた人たちと、それを逆に取り締まる人たちもいて。軍メンバー同士で対立している場面も何度も見ました。噂じゃ、上の方で権力争いか何かあったみたいで・・・」

「一枚岩じゃないんだろう、軍も」

お茶のお代わりを注ぎながら口を開いたのはソレイユだった。その言葉にキリトは数秒悩み、アスナとルナのほうに話を振った。

「アスナ、ルナ。奴はこの状況を知っているのか?」

「知ってると思うよ」

キリトの問いに答えたのはルナだった。

「何度か参謀職の会議で上がったことのある議題だよ。でも実際、攻略組には何の関係もないから放置っていう結論に至ったけど。ヒースクリフ団長は攻略のことにしか興味がないっぽいんだよね」

「まぁ、奴らしいと言えば言えるよな・・・」

「そういえば、オシリスが一度、軍の上層部と会談していろいろと注意したことがあらしいぞ。まぁ、ほとんど聞かなかったらしいがな」

思い出したように言うソレイユ。その言葉にキリトは再び頭を悩ませる。

「それじゃ、おれたちができることなんてたかが知れてるなぁ・・・」

「お~い、お客さんが来たぞ、一人だ。鎧を着てるらしいから軍だと思うぜ」

「なんでわかるの」

「鎧を着て歩いている音がするからだよ。≪聞き耳≫スキルの恩恵だ」

ソレイユがお茶を飲みながらそういったのと同時にみんなに緊張が走ったところで、館内にノックの音が響いた



出迎えたサーシャと念のためついていったキリトに挟まれながら教会に入ってきたのは、銀色の長い髪をポニーテールで束ね、鉄灰色のケープを着込んだ女性だった。右腰にはショートソードを差し、左腰には黒革のウィップが吊るされていた。
装備が軍のものだとわかり、ソレイユを除いた全員が緊張するが、サーシャの大丈夫、という言葉により子供たちは食事へと戻り、ルナとアスナは緊張を解いた。来客とキリト、サーシャが椅子に腰かけたところでキリトが口を開いた。

「ええと、この人はユリエールさん。どうやらおれたちに話があるらしいよ」

キリトの紹介にユリエールという女性は軽く頭を下げてから口を開いた。

「はじめまして、ユリエールです。ギルドALFに所属しています」

「ALF?」

初めて聞く名前にアスナが首をかしげているとソレイユから補足説明が入った。

「アインクラッド解放軍の略称。もとはMTDと言う名前だった。因みに、MTDっていうのは≪MMOトゥデイ≫のことを指している。それから、はじめまして、ソロのソレイユです」

「わたしはギルド血盟騎士団の――――あ、いえ、今は一時脱退中なんですが、アスナと言います。この子はユイ」

「同じく血盟騎士団のルナです」

自己紹介が終わったため、そこからユリエールの話しが続いた。簡潔に説明すると―――


昨日の件で抗議に来たのではなく、お願いがあってきたということ。軍の在り方と状況。キバオウというプレイヤーの犯した罪に関して。そのことを糾弾され、話し合いということで応じ、ダンジョンに閉じ込められてしまったシンカーというプレイヤーについて


――――ということになるらしい。そして、シンカー救出に力を貸してほしいということであった。しかし、この二年間で培われてきた経験は、無傷で動くことの危うさへ大きく警鐘を鳴らしていたため、アスナたちは容易に頷くことはできなかった。

「「「・・・・・・・」」」

キリトたちの重い口が開くことができなかったが、そんな中に今まで沈黙していたユイが口を開いた。

「だいじょうぶだよ、ママ。その人、うそついてないよ」

昨日までの言葉のたどたどしさが嘘のような立派な日本語であった。

「ユ、ユイちゃん、そんなこと、わかるの?」

「うん。うまく・・・言えないけど、わかる・・・」

アスナの疑問に頷きながら言うユイ。そんなとき、ルナに一つの案が浮かび、それを実行することにした。

「そういえば、アスナの胸のサイズっていくつだっけ?」

「なっ、なんで今そんなこと言わなきゃいけないのよ!!」

「いいから、いいから。で、いくつなの?」

「う・・・、きゅ・・・、きゅうじゅう・・・」

ルナに笑顔で押し切られ恥ずかしそうに言うアスナだったが、そこにユイの言葉が響いた。

「ママ、うそついてる」

ユイの言葉にひどくショックを受けてしまうアスナだったが、そんなことは気にせずにルナは話を進めていく。

「ホントね。ユイちゃんの言葉はこれで信用できる、と。ソレイユ、これからどうするの?」

「ユリエールさんの言葉に嘘がなくて、手を貸してほしいって頼まれたら断るわけにもいかないだろ」

胸を手で隠しながら失意に沈むアスナを無視して話を進めるルナとソレイユ。キリトはそんなアスナをがんばって励ましていたが、そんな二人を無視してソレイユはユリエールにあらためて向かい合い、口を開いた。

「というわけで、ユリエールさん。おれたちはシンカーの救出に手を貸すことにします」

「ありがとう・・・ありがとうございます・・・」

そのソレイユの言葉に涙をためながら、深々と頭を下げた。



「ぬおおおおお」

右手の剣でずばーーーーーーっとモンスターを切り裂き、

「りゃあああああ」

左手の剣でどかーーーーーんと吹き飛ばす。

その光景を見ているユリエールは驚いて目と口を丸くしていたが、アスナはやれやれといった心境で、ルナは苦笑いをし、ソレイユは眠いと言いたげに大きな欠伸をしていた。しまいには、ユイの声援が響き渡り、何とも緊迫感がないに等しい。ちなみに、ルナとアスナはしっかりと武器を装備しているが、ソレイユは手ぶらだった。


あれから、ユリエールによってシンカーの閉じ込められているダンジョンに案内してもらったのだが、そのダンジョンが意外な場所にあった。はじまりの街の中心部の地下にそのダンジョンはあった。ユリエールの話しでは、上層に行くにつれて解放されるタイプのダンジョンであるらしい。ベータテスターであるキリトははじまりの街にダンジョンがあったことにショックを受けていたが、続く話を聞いて真面目な表情になっていく。キバオウの派閥がそのダンジョンを独占しようとしたが、思いのほか苦戦したとのこと。どうやら、六十層クラスの強さらしい。そして、先遣隊の一人がダンジョンの奥で巨大なボス級モンスターを見かけたということ。それを聞いたうえで、ソレイユたちはシンカーを救出するためにダンジョンに潜った。


「なぁ、帰っていい?」

キリトのバーサーカー状態を欠伸をしながら見ていたソレイユの発言にアスナとルナは苦笑いをやめることなくソレイユを窘める。

「そんなこと言わずに、ね。もう少しだけいよ?」

「そ、そうだよ。だいたい、ユリエールさんに手を貸すって言ったのはソレイユ君なんだから最後までいなくちゃだめだよ」

「はいはい・・・。わかってますよ・・・」

ため息交じりに言うソレイユだが、実際に戦っているのはキリトのみであるため、ソレイユ、ルナ、アスナ、ユリエール、ユイの五人は暇でしょうがないのだ。そんなやり取りをしているとき、周りの敵を蹴散らしたキリトがソレイユたちのほうによって来るなり、ウインドウを操作して、赤黒い肉塊を取り出した。それを見たアスナとルナは顔をひきつらせた。

「な・・・ナニソレ?」

「カエルの肉!ゲテモノほど旨いっていうからな。あとで料理してくれよ」

「絶、対、嫌!!」

そのやり取りを見ていたソレイユたち四人は声を出して笑っていた。

そうして、水中系生物型モンスターやおばけ系モンスターや骸骨剣士などを倒しながら進んで行くと、暖かな光の漏れる通路が目に入った。

「奥にプレイヤーが一人いる。グリーンだ」

「シンカー!」

キリトの言葉に我慢できないというふうに一声叫んだユリエールは安全地帯に向けて走り始めた。ソレイユたちもそのあとを追うように走り出す。

「ユリエーーーーーーーーーール!!」

「シンカーーーーーーー!!」

普通ならここで感動の再開が行われるのであろうが、そういかないのが現実と言うものである。安全地帯にいる男が再び叫んだ。

「来ちゃだめだーーーーっ!!その通路は・・・・・っ!!」

男の言葉にアスナたちは減速していくが、ユリエールは聞こえてないのか、停まろうとしなかった。そして、安全地帯の手前にある十字路の右側の死角部分に、不意に黄色いカーソルが一つ出現した。アスナが素早く名前を確認すると、そこには、

≪The Fatal-scythe≫

と表示されていた。固有名詞を飾る定冠詞。それはボスモンスターの証だった。そのことを確認したアスナが絶叫しようとしたとき、ソレイユの姿が掻き消えた。

「・・・・・」

「きゃっ!?」

ユリエールに追いつき、首根っこをつかむと急停止する。その際、首が思いっきりしまってしまうが、死ぬよりはマシだろ、と勝手に結論づける。急停止したおかげで十字路の手前で止まることができたが、黒く大きな影はソレイユとユリエールの眼前を地響きを立てて横切っていく。そして、再び突進してくる気配を感じたソレイユはユリエールを安全地帯のほうに行くように指示する。あとから追いついてきたアスナはユイをユリエールに預け、左に向きなおる。

「急いで安全地帯に避難してください。ここは危険です」

ルナの言葉にユイを引き連れて安全地帯に行くユリエール。ソレイユ、キリト、ルナ、アスナの眼前には全長が二メートル半はあり、ぼろぼろの黒いローブをまとった死神だった。フードの奥と袖口からのぞく腕には、密度のある闇がまとわりつき蠢いている。右手に握るのは長大な鎌であり、凶悪に湾曲した刃からは、血の雫が粘っこく垂れおちている。その姿に、恐怖を抱くアスナとルナ。そんなアスナとルナにキリトは掠れた声で言った。

「アスナ、ルナ、下がれ・・・」

「「え・・・?」」

「こいつ、やばい。おれの識別データでも見えない。強さ的には多分九十層クラスだ・・・」

キリトの言葉に怪訝な顔をするアスナとルナ。しかし、キリトから発せられた次の言葉によって顔をこわばらせながら後ずさってしまう。しかし、そんな中であるにもかかわらず悠長にウインドウを操作し、ある一本の長刀を取り出すとソレイユは死神に向かって悠然と歩いていく。

「・・・っ!?何やってるんだ、ソレイユ!!さがれ、そいつは・・・」

それを見たキリトが止めようと叫んでいるが、ソレイユは止まらなかった。そして、刀を抜きながら、

「試し切りには、ちょうどいい。いくぞ、≪天凰フェニクニス≫」

そう呟くのだった。
 
 

 
後書き
という訳で二十一話の更新です。
よくここまで続くものだな・・・

ソレイユ「まったくだ」

さて、次回はソレイユvs運命の鎌です。
ソレイユがどう戦っていくのか楽しみですね・・・しかも、試し切りって・・・

では、みなさん。差支えなければ感想などいただけると幸いです。
また会いましょう(^_^)/~ 
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