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戦国異伝

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第二百四十七話 待つ者達その五

「その時は孫七郎殿にお願いするよ」
「あの人に羽柴家に戻ってもらうんだね」
「それか息子さんを一人養子に貰うよ」
「そうするんだね」
「うちの亭主は頭が回って人たらしだけれど」
「それで立身してるけれどね」
「そっちだけは困ってるんだよ」
 子供のことはというのだ。
「本当にね」
「何でも授かるって訳じゃないね」
「それが世の中だね、まあ子供が出来たら」
 その時、願掛けが適えばというのだ。
「その時は二人でお祝いだよ」
「その時が来るといいね」
「まあ今は勝って帰って来るのを待つよ」
 とりあえずはというのだ。
「麦飯に漬けものを用意してね」
「それで二人でだね」
「お祝いをするよ」
 ねねは笑って話す、そうした話をしながらだった。
 おまつと二人でそれぞれの夫が帰って来るのを待っていた。戦で主達が留守の安土は落ち着いていた。
 都ではだ、氏真はある寺に行ってだった。
 そこで今は出家している父義元と会った、義元は剃髪していて見事な法衣を着ている。その父に会ってだった。
 氏真はまずはだ、笑ってこう言った。
「いや、これはまた」
「似合っておるか」
「はい、とても」
 こう言うのだった。
「そうでありますぞ」
「そうか、やはり拙僧はな」
「当初出家されていましたし」
「だからじゃな」 
 それで、と言うのだった。自分から。
「似合っておるな」
「左様ですな」
「そうであろう、それでじゃは」
「この度参ったことはです」
「決めたか」
「はい、今川家はです」
 彼等はというのだ。
「もう大名ではなく」
「高家としてじゃな」
「生きようと」
「決めたか」
「はい、五千石頂いております」
 幕府、即ち織田家からだ。
「これだけありますので」
「だからじゃな」
「もう駿河は徳川家のものです」
「うむ、確かにな」
 義元も氏真のその言葉に頷く。
「そうなったな」
「はい、武田家から徳川家のものとなり」
「見事に治めていてな」
「そうなっております、ですから」
「もう大名にはならずか」
「高家として生きていきまする」 
 大名ではないが位の高い家として、というのだ。
「その所存です」
「吉良家と同じじゃな」
「そうですな、吉良家も高家となっていますし」
「だから今川家もか」
「そうして生きようと決めました」
「ならそうせよ」
 義元は微笑み我が子に返した。
「わしもこの通りすっかり仏門に入ったしな」
「そういえば公家言葉もなくなりましたな」
「ははは、あの喋り方は気に入っておったが」
 笑って言う義元だった。
「しかし仏門に戻って長い、それでじゃ」
「もう公家言葉はですか」
「抜けたわ」 
 忘れてはいないがというのだ。 
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