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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第五十四話 傷

 
前書き
久しぶりの更新です。 

 
 あの激しいデモンズタワーでの死闘から数週間が経った。
 光の教団がグランバニアに残した傷跡は大きかったが、その傷はオジロンや魔物達の頑張りにより少しずつ癒えようとしていた。

 ある一つの余りにも大きな傷を除いては。

「ミレイ。ご飯だよ」

 ドリスがミレイの部屋のドアを開き、食事の乗った盆をテーブルに置いた。

「ほら。今日はミレイの好きなラズベリーのスコーンがあるから食べなよ、とっても美味しいから」

 ドリスはそう言って笑いかけるが、ミレイは返事を全くせずただ焦点の合っていない目でぼんやりと虚空を見つめているだけだった。
 
「じゃあ、ちゃんとご飯食べなよ」

 物悲しそうな声でドリスはそう言ってミレイの部屋から出て行った。

「どうでしたか。ミレイ殿は」
「相変らずだよ。返事もしないでただぼんやりとしている」
 
 それを聞いてピエールはため息をついた。


 ミレイがあのようになったのはデモンズタワーでゲマが、アベルとビアンカを石化しミレイの魔法を奪ったことが原因だった。
 そのせいでミレイは仲間を守れなかったばかりか力を奪われた絶望とアベルとビアンカに対しての罪悪感を感じ、すっかり塞ぎ込んでしまった。
 食事は取らず水もたまにしか飲まず、一日中虚空を見つめていて夜には魘され啜り泣く。いつしかミレイの顔には表情がなくなり、やつれ、死人のように白くなり、目は赤く泣き腫らしていた。
 そんなになってしまう程、ミレイの心には深く癒えない傷が刻み込まれたのだ。
 明るく、快活な少女であっただけに、そんな様子を見ているピエール達は胸が締め付けられるほど痛くなった。
 最初の頃はピエール達も、ドリスもミレイを助けようと頑張った。なんども励まし、笑いかけたがミレイには全く響かず、ミレイは心を閉ざし続けていた。

「なんとかしてあげたいものですが……」
「そうだね。でも、どうすればいいんだろう」

 ドリスは窓の外を見遣った。
 
「最近雨だね」
「……そうですね」

 デモンズタワーから帰還して以降、ここ数日グランバニアでは強い雨が続いていた。その雨足は強く、一向に弱まる気配を見せない。

「……晴れるといいんだけどな」

 * 

「どうするべきですかな……」

 会議室ではオジロンとサンチョとマーリンがそれぞれ話し合っていた。
 アベルとビアンカの行方。これからのグランバニア。ミレイの事。そして、レックスとタバサの事。それらの事はここ数週間に渡って3人の頭を悩ませていた。

「国政に関しては私が再び国王代理になればいいが……、後の3つである王と王妃の行方、ミレイ殿の事、そして……何よりもレックス王子とタバサ王女の事が非常に気がかりなのです」

 ゲマに連れ去られたアベルとビアンカの行方や心に深い傷を負い、防ぎこんでしまったミレイといった問題はあるがそれよりもなお頭を抱える問題があった。
 それがレックスとタバサの事だった。2人が王子と王女という事もそうだが、それよりも大きい問題があったのだ。
 ゲマによってアベルとビアンカが石にされて連れ去られたあの時、突如2人は大声を上げて泣き出した。なんとか2人を泣きやませようとオジロン達が努力していると、天空の剣が突如レックスの枕元に現れ聖なる光を放った時、2人は泣き止んだ。オジロン達がどうやっても泣きやまなかった2人が、だ。
 更にその翌日、メディが2人の様子を見に行くとレックスは笑いながら天空の剣を玩具のように軽々と降っていたのだ。
 
 グランバニア中の兵士はおろか、アベルやピエール、ジョーといった剣の達人をも振るえなかったその剣を、だ。

 その事が示しているのはただ一つ。レックスこそが長年パパスが追い求め続けていた天空の勇者だという事だった。それに勇者ではないにしろ、双子の妹であるタバサも何らかの宿命を背負っているには違いない。

「その為王子と王女を教え、育て、導いてくれる者が必要なのですが……。それが出来そうな人物は今のグランバニアにはおりませんし……」

 オジロンは頭を抱え、溜息をつきながらもう一度言った。

「どうするべきですかな……」


 *

「どうしようか……?」

 一方その頃ドリスの部屋では、ドリスとピエール、ジョー、スラりん、ホイミン、ドラキチがなんとかしてミレイを立ち直らせる事が出来ないかと相談していた。

「私達がいくら呼びかけてもミレイは何の反応も返してくれないし……」
「じゃあさ、ヘンリーに来てもらうっていうのはどうだ?」

 そうドラキチが提案するが、ピエールはそれを否定した。

「アベル殿、ビアンカ殿、ミレイ殿の状況はヘンリー殿にお伝えしましたが、ヘンリー殿の返事は『とても心配で力になってあげたいがラインハットの立て直しがあるからすぐには無理だ。すまないな』との事でした」
「そうか……」

 ドラキチが沈んだ声を出す。

「でも誰かに来てもらうのはいい案だと思うんだけどな……あっ!」
「どうしましたか?スラりん?」

 突然大声を上げたスラりんに全員の目線が集中する。

「ヘンリーさんに来てもらうのがダメだったらさ、あの人に来てもらおうよ」

 スラりんがその人物の名前を告げると、ピエールはしばらく考え込むような様子をしていたが、頷いた。

「いいでしょう。あの人に来てもらいましょう」


 *

「それで、この私を大雨の中こんな遠くまで呼びつけたという事なのね」

 不機嫌そうな様子を隠そうともしないで、その人物は言い放った。

「はい。ですが、ミレイ殿を救えそうなのは貴方しかいないのです」

 ピエールはしっかりと相手の黒い瞳を見据えた。

「どうかミレイ殿を助けて下さいーーデボラ殿」
 
 
 
  
 

 
後書き
今回は傷心したミレイとデボラの再登場でした。
次回はデボラとミレイにスポットが当たります。

そういえばこの小説内でのフローラが完全に空気でしたね。(汗)
出来るだけ登場はさせたいです。

次回で青年時代前半編は終了(予定)

後は前半編の後日譚と後半編の前日譚を書いた後に後半編を始めます。

後半編は光の教団との戦いや『影響』についてもより深く書いてゆくので応援お願いします。 
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