ソードアート・オンライン～神話と勇者と聖剣と～

　ターンカウントは

■ターン数　ターンプレイヤー　ライフ　リザーブ　トラッシュ　手札

　です。基本的には。
刹「つまり変わる可能性ありと……」 

「とうっ！」

　勇ましいような可愛らしいような、そんな鬨の声を上げ、テーブルの上に鎮座していた剣が跳ね起きる。
　それは一度強く光り輝くと、人間の姿をとった。

「！？」
「やっほー！」

　出現したのは、一人の少女。金色の髪、金色の目の、愛らしい少女だ。ただし、剣から変身したという時点で、既にまともな人間ではないことは明白。そして清文は、彼女がそもそも人間ですらない事を知っていた。

「クイーン？　エースの所の……」
「そうだよー。皆おひさー！」

　にぱっ、と形容するべきか。太陽の様な笑顔を浮かべて、金色の少女……クイーンは手を振る。

　彼女は、清文と共闘経験のある、別の世界における《黒の剣士》キリトの兄、エースの切り札だ。カーディナル・システムに、ひいてはSAOに組み込まれた最強の装備のうちの一つ、《デュランダル》に宿ったサポートAI。キリトの『娘』であるユイが属するMHCPと原理上は同一の存在だが、その自由度はアリスら人工フラクトライトに近い。

　そんな彼女がなぜここにいるのか。そもそもVR世界内だけの存在ではないのか、等々と疑問は尽きない、が。

「六絶神が言っていた……『今回そう言うの無視な』、と」
「？」

　すぐ隣を、両手に大量のカードを抱えた陰斗が通り過ぎつつ何かを言う。そのまま別のコーナーへ消えていく陰斗。何だアイツ。

「まぁいい。相手をしてくれるのが知っている奴だというのは好都合だ。ユーリさん、いいな？」
「あ、はい！」

　ユーリが頷いたのを受けて、彼女とクイーンはテーブルの上の椅子に座る。

「デッキは既に組んであるな？」
「はい」
「もちろんだよー」

　お互いに黒い背表紙のカードデッキを取り出し、セットする。因みに先行は、秋也がどこからか取り出したダイスの結果クイーンになった。因みに琥珀と笑里は隣の卓で初心者同士練習。監督は経験者の刹那がやってくれることになった。

「それじゃぁはじめよっか！　ゲートオープン界放！」

■ターン１　クイーン　ライフ５　リザーブ４　トラッシュ０　手札４→５

「アタシは手札から｛天使スピエル｝と、｛天使マカエル｝Lv2を召喚！」
　
　クイーンの手札から、黒い帽子をかぶり、小槍を構えた天使と、双剣を携えた天使が繰り出される。どちらも黄色のスピリット。系統：天霊を代表するスピリットだ。

【天使スピエル　コスト0　Lv1<1>1000】
【天使マカエル　コスト2　Lv2<2>3000】

【クイーン：リザーブ４→０　トラッシュ０→１　手札５→３】

「クイーンのデッキは天霊ビートか」
「｛砲天使カノン｝に注意だな」

　セモハザが解説しているが、バトルに集中している少女二人には聞こえていない模様。

「ターンエンドだよ」

■ターン２　ユーリ　ライフ５　リザーブ４→５　トラッシュ０　手札４→５

「私のターン……えっと、手札から｛ブレイヴドロー｝を発動」

　ユーリは、赤い龍が魔法陣から湧出する演出のカードを発動。コストは５だ。

「ほう、初手からマジックか」
「しかもブレイヴドロー……ユーリさん、もしかして思ったより才能ある……？」

　清文が驚いたのは、ブレイヴドローを選んだユーリのセンスと、それを初手から使ってくる戦法だ。
　初心者バトラーは、通常『数撃ちゃ当たる』戦法をとりやすい。大量のスピリットには大量のスピリットを展開し、フルアタックを仕掛けやすいのだが……ユーリは、初手からスピリットを出すのではなく、マジックを使用して見せた。

「デッキから2枚ドローし、3枚オープン。オープンカードは｛天使ボムエル｝｛天翼の剣刃探知機｝｛土星神剣サターンスレイヴ｝……ブレイヴカードのサターンスレイヴを手札に」
「！！」

　ユーリは、紫と金を基調とした、奇妙な形のロングソードの描かれたカードを手札に加える。クイーンが目を見張った。なぜなら、そのカードは……！

「惑星神剣！　それに黄色のカード！？」
「まさか、ユーリさんのデッキは……！　なんて無茶なデッキを使ってるんだ！！」

　その時点で二人はデッキの内容に気が付いた。『惑星神剣』シリーズのカードが積まれた黄色のデッキと聞いて、彼らが思いつくデッキは一つしかない。そして、恐らくそれは正しい。

　とはいえ、このターンではコアを使い切ったユーリにできることは無い。

「ターンエンド」
「むむむ……！」

【ユーリ：リザーブ5→0　トラッシュ0→5　手札5→4→7】

■ターン３　クイーン　ライフ５　リザーブ0→2　トラッシュ1→0　手札3→4

「アタシのターン！　ネクサス、｛天翼の大観覧車｝を配置！」

【天翼の大観覧車　コスト4　Lv1<0>】

「アタックステップ！　マカエル、スピエルでアタック！　それぞれフラッシュは無いよ！」
「……両方ライフで受ける！」

　ユーリのライフのコア二つがリザーブに置かれる。

「ターンエンドだよ」

【クイーン：リザーブ0　トラッシュ2　手札3】

■ターン４　ユーリ　ライフ３　リザーブ0→8　トラッシュ5→0　手札7→8

「私のターン。｛天使ボムエル｝を召喚」

【天使ボムエル　コスト4　Lv1<2>4000】

「召喚時効果発揮。デッキトップ三枚オープン。｛天翼の剣探知機｝｛月光神剣ウイングオブルナ｝｛火星神剣マーズブリンガー｝……ブレイヴカード二枚を手札に。さらにLv2召喚時効果で天使マカエルをBP0に。効果で破壊」

「ターンエンド」

【ユーリ：リザーブ8→3　トラッシュ0→4　手札9】

「むぅー……先に使われたー……手札増やしてばっかりじゃぁ勝てないよ？　私のターン！」

■ターン5　クイーン　ライフ５　リザーブ2→3→5　トラッシュ2→0　手札4

「クイーンにとっては厳しいな」
「ああ。彼女のデッキは『天霊ビート』……特にあの並び、そして観覧車から見るに、BP-を基本戦術とするタイプのデッキだろう。対してユーリさんのデッキが《アレ》ならば、彼女はこの先ほとんどスピリットを展開しないと考えていい。クイーンのカードはなかなか生かさせてもらえないな……」

　その通りである。
　クイーンのデッキは、数あるカード内でも黄色の主に相手のBPを減少させていくスタイルのデッキだろう。天霊のカードは、BP-を補助するキーワード能力、黄の【強化(チャージ)】を持つ系統だ。故に、相手のスピリットのBPが0になることでドローできる｛天翼の大観覧車｝を始めとするサポートカードが揃っているのだ。

　だがユーリはなかなかスピリットを展開しない。これでは形無しだろう。それどころか、お得意のBP-すら、相手に先に使われているのだ。

「もう手加減無し、なんだからね！　光輪より下界見下ろす大天使、その微笑で、今ぞ世界を照らしたまえ！　｛大天使ガブリエレン｝、Lv2で召喚！」

　しかしクイーンも、ただ悔しがっているばかりではもちろんない。相手の場にスピリットが出現したこのチャンスを、逃す訳が無い！

【大天使ガブリエレン　コスト5　Lv1<1>5000　Lv2<2>7000】

【クイーン：リザーブ5→0　トラッシュ0→3　手札4→3→4】

「アタックステップ！　ガブリエレンでアタック！　効果で相手のスピリット二体をBP-3000！　さらにスピエルの【強化(チャージ)】で効果アップ！　ボムエルのBPをマイナス4000して、BPが0になったので観覧車の効果で一枚ドロー！」
「……！」

　怒涛のBP-コンボ。クイーンは手札差を詰めてくる。

「ライフで受ける！」
　
　ユーリはさらにライフを削る。お互いのライフ差は広がるばかりだ。

「どうよ！　ターンエンドっ！」
「……私のターン」

■ターン6　ユーリ　ライフ2　リザーブ3→4→5→9　トラッシュ4→0　手札9→10

「｛大天使アヴリエル｝、Lv3で召喚」

【大天使アヴリエル　コスト6→5　Lv3<3>9000】

　ユーリが切ったカードは、金髪に赤い服の、登場当初どこぞの赤王に似てると話題になったスピリットだ。
　そしてこのカードが出てきた、ということは、もう彼女のデッキは確定したと言っていいだろう。

「天使ボムエルをLv3にアップ。アタック」
「ライフで受ける！」

【ユーリ：リザーブ9→0　トラッシュ0→5　手札10→9】　

「ターンエンド」
「むぅ、またこれ以上攻めてこない……」

■ターン7　クイーン　ライフ4　リザーブ0→2→5　トラッシュ3→0　手札4→5

「もう決めちゃえ！　ガブリエレンをLv3にアップ！」

【大天使ガブリエレン　Lv3<4>10000】

「さらにブレイヴ、｛光翼の神剣エンジェリックフェザー｝を、ガブリエレンに直接(ダイレクト)合体(ブレイヴ)！　不足コストはスピエルから確保！」

　クイーン、召喚したのは、黄金のレイピア。

　輝ける純白の刀身、光の黄の剣刃(ソード)ブレイヴ――｛光翼の神剣エンジェリックフェザー｝が、ガブリエレンに重ねられる。合体(ブレイヴ)――スピリットにのみ許された、ブレイヴを自らを強化する装備に変える力。

【大天使ガブリエレン+エンジェリックフェザー　Lv3<4>10000+5000】

「アタックステップ！　合体(ブレイヴ)スピリットでアタック！　アタック時効果発揮、相手のスピリット一体をBP-3000して、BPが0になれば回復！　スピエル、フェザーの【強化(チャージ)】の効果で、さらに－2000！　ボムエルをBP5000して回復！　観覧車の効果で一枚ドロー！」

　再びのBP－コンボ。これには清文と秋也も舌を巻く。

「すごいな……」
「ああ、エンジェリックフェザーの使い所をわきまえている。それに……」

　そう、効果は、まだ残っている。

「ガブリエレンのアタック時効果！　アヴリエルからもBP-6000！　さらにLv3効果で、BP3000以下のスピリットにブロックされた系統：天霊のスピリットは、ブロックされなかったものとして扱う！」

　今、ユーリのフィールドにいるスピリットは、BPが0になった｛天使ボムエル｝と、BPが3000になった｛大天使アヴリエル｝の二体だ。

　ガブリエレンはダブルシンボル。このままでは、2点のダメージが入りクイーンの勝利が確定する。

　これは勝負あったか、と、清文が思った、その時だった。

「フラッシュタイミング」
「！」
「マジック、｛跪いてエブリワン｝を発動。このターンの間、コスト4以上のスピリットは私のライフを減らせない。不足コストはボムエルから確保し、ボムエルはLv1にダウン」
「そ、そんなぁ」

　情けない声を上げるクイーン。

「うー、ターンエンド」

【クイーン：リザーブ5→0　トラッシュ0→3　手札5→4→5】

「すごいな……」
「し、しのぎ切ったか……あれを」

　清文と秋也が口々に感嘆の声を漏らす。

　しかしそれは届かない。集中し切ったユーリには、目の前の対戦相手しか見えない。彼女は《紫紺の剣姫》。アインクラッドを生き抜いた、最強のプレイヤーの一人なのだから。

「……このターンで決まるな」
「ああ」

　清文と秋也は、もう分かっていた。

　先のターンに、アヴリエルが召喚された意味を。もうこれ以上、バトルが続かないことを。

「私のターン」

■ターン８　ユーリ　リザーブ0→6　トラッシュ5→0　手札9→8→9

「剣を構えよ、天使の剣姫。｛アルティメット・アヴリエル｝、Lv4で召喚！」

　そう、あのカードが、召喚されるのだから。

【アルティメット・アヴリエル　コスト7　Lv4<2>16000】

「アルティメット……！」

　クイーンが息を呑む。アルティメットはスピリットとは違う。隔絶された超越者。化け物の様なBP、それまでの効果一切が通用しないという恐ろしいまでの耐久性、そして何より、一撃必殺の可能性を秘めた専用効果、【U(アルティメット)トリガー】。
　当然デメリットもある。【召喚条件】と呼ばれる厳しい条件を満たさなければ召喚さえ許されないし、既存効果が通用しないということはサポートもできないということだ。そして最大の特徴は、『スピリットでないため、合体(ブレイヴ)ができない』、という点にある。

　これは恐ろしいデメリットだ。合体ができないということは手軽なBP強化も打点強化もできないし、アルティメットが有するUトリガーのヒットも難しくなる。コストの増加が見込めないからだ。

　しかし。

　しかしその条件は、ある一定の状況に置いては、覆されることとなる。

「そう言えば、さっきのブレイヴは……！」
　
　顔を青くするクイーン。気が付いたのだ。既にユーリの手札に、最低でも三枚、『それ』があることに。

「ボムエルを破壊。リザーブのコア2個をトラッシュに置き、召喚、｛土星神剣サターンスレイヴ｝｛月光神剣ウイングオブルナ｝。ア(・)ル(・)テ(・)ィ(・)メ(・)ッ(・)ト(・)・(・)ア(・)ヴ(・)リ(・)エ(・)ル(・)に(・)直接(ダイレクト)合体(ブレイヴ)！！」

　不可能なはずの、アルティメットの合体(ブレイヴ)。それも、スピリットにすら困難な、二体合体(ダブルブレイヴ)。

　それが、出来る。『惑星神剣』には、そしてアルティメット・アヴリエルには、出来るのだ。

「さらにマジック、｛レベルドレイン｝を発揮。ガブリエレンのコアを2個に」
「くっ……！」

　｛レベルドレイン｝は、相手のスピリット一体の上のコアを、一つ下のLvのコアと同じ数になるようにトラッシュに送る強力なマジックだ。そしてこれによって、ガブリエレンはLv2にダウンしてしまった。

「アタックステップ。切り裂け、剣刃合体(ソードブレイヴ)アルティメット！！　アタック時効果発揮……【U(アルティメット)トリガー】、ロックオン！」
「くっ……｛砲天使カノン｝、コスト8！」
「ヒット！」

　Uトリガー。

　前述の通り、アルティメットのほぼすべてが保有する、彼らの、いわば必殺技。相手のデッキの上から一枚をトラッシュに送り、そのコストが発揮したアルティメットのコスト未満ならば、強力な効果を発動する。

　本来ならばコスト7の、アルティメット・アヴリエルのUトリガーはガードだ。しかし、土星神剣の手によってコスト+2が成され、コスト9となった剣刃合体(ソード)アルティメットには何ら問題が無い。

「Uアヴリエルの効果、このアルティメットのシンボル一つにつき、相手のLv1、Lv2のスピリットをデッキの下に戻す。天使スピエル、合体(ブレイヴ)スピリットをデッキボトムへ！」
「ひゃぁぁぁっ！？」

　アルティメットの効果によって、ガブリエレンとスピエルがデッキの下へと送られる。後には、金色のレイピアが残っただけ。

「くっ……で、でも、エンジェリックフェザーは残るんだよ……！」
「いいえ。月光神剣の効果発揮。相手のスピリット一体を手札に戻す！」
「えぇぇえぇえぇえ！？」

　残った一体、エンジェリック・フェザーもまた、手札へと還る。これで、残ったスピリットは、0体。

「穿て、ブレイヴスピリット！」
「ひゃぁっ、防御札、防御札……」

　クイーンは急いで自分の手札を見る。しかしそこに在るのは、無慈悲な情報のみ。

｛天の階｝
｛天使グレット｝
｛天使プリマ｝
｛大天使ララファエル｝
｛天翼の大観覧車｝
｛光翼の神剣エンジェリックフェザー｝

「無いぃぃぃぃっ！」

　さっきのターンで決められなかったのは、痛かった。

「くぅ……ライフで受ける！」
「剣刃合体アルティメットはトリプルシンボル！　あなたのライフを3つ削ります」
「うっひゃぁ！」

　クイーンのライフが、4つから、一気にたった1つに。そして、相手のフィールドには、まだスピリット。

【クイーン：ライフ4→1】

「｛大天使アヴリエル｝、アタック……！」
「ライフで受ける！　やーん負けたぁぁぁっ！」

【クイーン：ライフ1→0】


　＊＊＊


「……」
「……ユーリさん」

　びくり、と少女の肩が跳ねる。

「君……ルール知ってたろ。『デッキトップ』はともかく、『デッキボトム』なんて用語、カードゲーマーじゃないと分からないよ……それにそのデッキ、初心者に使いこなせるようなデッキじゃないしな」
「『惑星神剣』はアルティメットに合体できる代わりに、スピリットに合体できないブレイヴ。本来ならば剣聖スピリットを入れて、合体条件を無視するところだが……その型のデッキ、【アルティメット・アヴリエル】に、そんなスピリットを入れる隙間は無い。扱うことは、非常に難しい……それを君は、難なく使いこなして見せた」

　清文と秋也が、ユーリを問い詰める。

　別に責めるつもりはない。その証拠に、声音は穏やかだった。

　聞きたいのは、そんな事ではない。

「何で、初心者だって嘘ついた？」

　そう、それだ。

　初心者ではない彼女は、ここにやってきて、清文たちにルールをきく理由が、ない筈なのだ。

　しかし少女は、答えた。

「え……な、何言ってるんですか？　私は本当に初心者ですよ」
「……！？」

　清文は、息を呑んだ。

「何を言って……」
「秋也、本当だ。ユーリさんは、嘘をついてない」
「何……だと……！？」

　それは、つまり。

「じゃぁ、さっきまでの戦い方は、一体……？」

　謎が、増えたということだった。



　＊＊＊



　一方その頃の陰斗。

「あぁっ！　これだよこれ、やっと見つけたぜ【アブソリューツ】のコーナー！　いやぁ長かった！　これでようやくデッキが組める！」

　詩姫(ディーバ)ブースターのコーナーを漁っていた。
 

　演出の都合上同時アタックとかさせてますが、現状同時アタックをする手段はありません。イマジンブレイヴも左右バラバラにアタックするっぽいですし。
　他のスピリットのアタック時効果が使いたい人はエースキラーを使おう！
刹「……」

　さて、今回はユーリさん初（？）バトルということで、早々にぶっ飛んだデッキの登場でした。もちろんUアヴ子がこの程度なわけはねぇ……。彼女の全容を知りたい方は、『アルティメット・アヴリエル　デッキ』で検索を……
刹「何をやっているんですか」（ざしゅっ！
　いぎゃぁぁっ！　カードで！　カードで斬られたぁ！

刹「はぁ……久しぶりですねこの感触……。
　　とにかく、次回もお楽しみに！」