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恋姫†袁紹♂伝

作者:masa3214
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第37話

 
前書き
~前回の用語解説~

『知っているのか雷電』

額に大往生の文字を掲げ、ある時は中国拳法家、ある時は猿三匹を使った曲芸士、
そしてある時は武術の解説を務めた人物、雷電に送られた賛辞の言葉。
仲間達が彼に畏敬の念をこめ「知っているのか雷電!」と口にしたのが始まり。

以降、物知り且つ解説役を務め上げる賢人に対し、賞賛の言葉として用いられる。


名族大全集『袁家知心』より抜粋
 

 
「いっけぇッ二号! お前の兄の…ぶんも……グスッ」

 李典の脳裏に忘れられない光景が蘇る。

 自動衝車を完成させた彼女は、すぐさま主である華琳に報告した。
 その未知の原理に驚きを隠せない覇王、得意げに胸を張るカラクリ娘。
 
『耐久性は確かなのでしょうね?』

『へ?』

 門破壊を目的とするなら、阻止しようとする敵の攻撃を考慮し頑丈でなければならない。
 しかし、カラクリにばかり夢中になっていた李典には寝耳に水な確認だった。

『だ、大丈夫です。素材には頑丈なものをつこうてますし、生半可な攻撃には――』

『春蘭』

『ハッ!』

『――びくともしません……って、あーーッ!!』

 自信の傑作に向かって拳を振り上げる春蘭に悲鳴を上げる。
 考慮していなかったとはいえ耐久性には自信がある。しかしそれは矢や大斧による一撃に対してだ、断じて曹操軍が誇る武神(脳筋)の一撃ではない!

『……』

『……スマン』

 春蘭の一撃は見事に傑作を半壊させた。否、修復不可能な時点で全壊と変わりない。
 これにはさすがの春蘭も気まずくなり、一言謝罪しその場を後にした。
 大破した『一号』を前に李典は唖然とし、周りはそんな彼女に何と言葉を掛けるべきかと慌てていたが――

『耐久性は重視させなさい。いいわね?』

『…………ハイ』

 そんな放心状態の李典に対し、華琳は容赦なく改善するよう命を出す。
 一つ間違えればトラウマになりかねない出来事、しかし華琳は李典の瞳が熱を帯びたのを見逃さなかった。






「いっけぇ二号!」

 苦い記憶だが、おかげで二号の耐久性は折り紙つきだ。
 
 敵方が衝車を破壊しようと矢の雨を降らせる、びくともしない。
 燃やそうと火矢に変える。生憎、二号は鉄製だ。
 ついには人の頭ほどの大きさの石を落とし始めた、傷一つ付かない。
 二号は春蘭(脳筋)の一撃を意識して作られたのだ、この程度の衝撃で壊せるはずも無い。

 華雄軍の攻撃も虚しく、衝車の一撃で再び汜水関が揺れる。
 
「あ、姉御ォ……これは不味いぜ」

「……ッ」

 部下達の手前、これまで毅然としていた華雄も動揺が隠せない。
 
 巨石を運ばせてはいるが如何せん時間が掛かる。恐らく到着前に門が破壊されるだろう。
 一見詰みだが、手はまだある――華雄(自分)だ。
 華雄とその得物『金剛爆斧』の一撃を持ってすれば破壊できるはず、しかしそれが出来るなら苦労はしない。
 汜水関の門はすでに内側から固く封鎖してあった。

 連合は四日目で三軍を導入するという、熾烈な攻勢を仕掛けてきた。
 賈駆の話しを考慮するなら、次はそれを超える攻撃にでるはずだ。
 そう考えた華雄は内門を封鎖、敵が門を破壊しようとした場合に備え、巨石で補強したのだ。

 ――まさか裏目に出るとはな

 汜水関から打って出るには巨石を退かす必要がある。しかしそれをすれば、門は衝撃に耐え切れず破壊されるだろう。
 今運ばせている巨石の一つは、あの憎い衝車に落とすためのものだ。

「急げ! 巨石をここまで持ってくるんだ!!」

 部下の一人が急かす中、それを鼓舞すべき華雄は沈黙を保つ。

 ――間に合わない

 華雄の勘がそう強く告げていた。
 ではもう手が無いのだろうか、否、一つだけある。

「張義、縄梯子を今すぐ下ろせ!」

「縄梯子!? まさか姉御したに行く気……じゃ」

 華雄の姿は既に無く――瞬間、その地全体が揺れた。
 
「な、何や!?」

 その衝撃に耐え切れず尻餅をついた李典。余りの揺れに天災の類を疑ったが揺れは一瞬だけだ。
 では何の衝撃だろうか、確認しようと立ち上がり前方に目を――

「んな……アホな」

 向けて硬直した、彼女の視線の先では『二号』が大破している。
 だが李典が声を上げたのは自身の傑作に対してではない、その上に居る『衝撃』の正体に対してであった。

「衝車……破壊させて貰ったぞ!」

『ウオオオオオオォォォォォォッッッッッッッ!!!!』

 華雄だ! あろう事か彼女は汜水関から飛び降り、勢いそのまま衝車に戦斧を振り下ろし破壊したのだ。

 大胆不敵、勇猛果敢。
 その光景に連合、華雄軍双方から声が上がった。
 
「しょ、正気かいな!」

 李典の口から思わず言葉が洩れる、無理も無い。
 確かに華雄は衝車を破壊したが、その代償に敵中で孤立している。
 ここから連合が彼女を攻め立てれば、いくら猛将とはいえひとたまりも無いはずだ。

「無論正気だ」

 言うが早いか、華雄のすぐ側に縄梯子が下ろされる。
 上では彼女の部下らしき者達が『姉御ォ!』と声を上げていた。

「逃がすわけないやろ! 弓隊、敵将華雄に向かって一斉掃射や!!」

『ハッ』

「ちっ……!」

 容赦なく放たれる矢を戦斧で叩き落す。その人間離れした芸当に李典は目を見張るが、手は緩めない。
 いくら華雄とはいえ、梯子を上りながら矢を防げるはずが無い。
 このまま彼女の動きを封じ、春蘭達騎馬隊の到着を待つだけだ。

 突然の事態にも関わらず反応した李典は流石である。カラクリばかりに注目されがちだが、彼女も有能な将の一人なのだ。

「止む終えん」

 ――な、上る気かいな!?

 縄梯子を握った華雄、それを見て何度目かわからない驚愕に李典は目を見開く。
 しかし次の瞬間、李典の予想が破られると同時に再び驚愕させられる。

「張義!!」

「今だ野郎共! 引けぇッッ!!」

『応!!』

 そう、自ら上る必要など無いのだ。
 側近の一人、張義。特に打ち合わせたはずでもないのに彼は華雄の考えを理解し。
 彼女の合図と共に部下達に縄を引っ張らせた。

「させるか!」

 当然、李典達がそれを見てみぬふりするはずがない。
 梯子と共に上がっていく華雄に対し、再び矢の嵐を浴びせる。

「フンッ!」

 華雄はそれを得物を握っている右手で先程のように弾く。これまでの展開、全て計算通りだ。

 双方の軍が門に注目する中、華雄は曹操軍の配置を上から確認していた。
 衝車の周りに居るのは李典を始めとする工作兵、その後ろに援護の弓隊。
 門まで衝車を運んできた騎馬隊は、邪魔にならないようその後方に布陣している。
 
 ――いける!

 敵中に将が降り立つという異常事態、それに加え衝車が破壊されれば、動揺で数瞬動きが止まるだろう。
 後は精鋭の騎馬隊が来る前に、引っ張り易い縄梯子で離脱すれば良い。

 一見無謀にしか映らない行動、それら全て華雄の計算通りだった。

 そしてその証拠とでも言うが如く汜水関の中腹まで上がった頃、彼女の眼下に曹操軍の騎馬隊が到着していた。
 
 ――ほう、神速の名に恥じぬ速さだ

 もう少し離脱が遅れていたら……自身を睨む将と相対していた。
 たとえ討ち破れたとしても、後に続く兵士達に多勢に無勢で成す術もなかっただろう。

 華雄は――賭けに勝ったのだ!





「華雄様お怪我は!?」

「私は大丈夫だ、張義はどうした?」

「ッ……それが」

「……そうか」

 華雄を引き上げるため、彼女の兵達は手に持っていた矢避けの盾を手放していた。
 部下達が言いよどむあたり察しがつく。
 口の悪い側近だった。だが古株で、誰よりも華雄の考えを理解できる人物だ。
 彼なしに衝車の破壊は成しえなかっただろう。

「よくも、よくもウチの二号をぉぉ」

 短く追悼を送る華雄の耳に悲痛な声が聞こえてきた。
 李典だ、大破した衝車に被さり嗚咽を洩らしている。

「ウチは怒ったで華雄ッッッ!」

 顔を上げた彼女が右手を振る、それに呼応して旗が振られ始めた。
 どうやら何かの合図のようだ。

「負傷者を下がらせ、その穴を予備隊で埋めろ」

「ハッ」

「盾隊を再組織、梯子を掛けられた時の為に大斧の準備も急げ!」

 油断無く指示を送る、窮地は脱したが敵方の合図が気がかりだ。
 よもや自動衝車以上の物を用意しているとは思えないが……

「ああそんな、……華雄様」

「?―――ッ!!」

 側近の悲痛な声に、華雄は彼の目線を辿り前方に目を向ける。
 そしてそこで――信じられないものを目にした。

「三号、四号、五号! 兄弟の仇をとったれぇッッ!」

 衝車だ、それも一台ではない。
 先程破壊した物と同様のものが三つ、曹操の軍中を此方に向かって移動していた。

「……あ」

 側近の男は力が抜け、その場に崩れ落ちる。
 彼は華雄軍の中でもとりわけ知に秀でた者で、戦況の読みには定評があった。
 そんな彼が力なく崩れ落ちている、それが如何に絶望的な状況であるか再確認するには十分で――

「立て」

「か、華雄様!」

 崩れ落ちた側近を華雄が乱暴に掴んで起こす、確かに状況は絶望的だ。
 華雄の命を賭した一撃を持ってようやく破壊できた代物、それが三台。
 曹操軍の騎馬は門に隣接している、先程の奇策は使えない。
 運ばせいてる巨石は一つ、運良く一台破壊できたしても後が控えている。

 しかし華雄は――諦めない。

「運ばせている巨石を内門に戻せ。直ちに撤退、虎牢関まで退くぞ!」

「な!? それでは汜水関がみすみす――」

「最早全ては守れぬ、ここで避けるべきは我が軍の壊滅だ!!」

 部下の一人に賈駆に向けた伝言を任せる、内容は戦の仔細。

 巨岩で固めた門は突破に時間が掛かる、その後の汜水関の制圧。
 汜水関の通過とそれに伴う連合軍の動き、時間稼ぎには十分だ。

「アイツなら――賈駆なら! この事態に対応できる策を思い付くはずだ!!」






「報告! もうすぐ汜水関の門を破壊できるとの事です!!」

「妙……ですね」

 曹操軍本陣で報告を受けた郭嘉は、華雄軍の動きに違和感を感じた。

「あの大胆不敵な華雄が、二台目以降衝車に何もしないのは……恐らく」

「退却したわね」

 同じく本陣に居た華琳が言葉を続ける。
 主の聡明さに改めて舌を巻き、自身の存在意義に気を使って欲しい――と少し拗ねつつ郭嘉は肯定した。

「自動衝車三台を道連れにせず後方に下がり体勢を立て直す。
 洛陽にいる賈駆に早馬を走らせ、策を請う心算でしよう」

「ふーん、初動としては悪くないわね……稟!」

「前方に通達『汜水関制圧を後方に任せ、虎牢関を一気に攻め立てよ』」

「ハッ」

 董卓軍に考える時間など与えない。衝車の目的は門を破壊することだけなのだ、ならば策を編み出す前にかたをつければ良い。
 虎牢関の門も破壊できれば、圧倒的戦力差の前に董卓軍に成す術は無い。
 
「この戦――「急報!」」

 貰ったわね、と言葉にしようとした瞬間遮られる。
 不快ではあるが、この程度の事で激怒するほど華琳の器は小さくない。
 
 しかし――

「え、袁紹軍が動き出しました!!」

 伝者の言葉に、彼女の表情から余裕が消えた。

 
 

 
後書き
袁紹「我も仲間に入れてくれよ~(ゲス族)」 
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