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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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StrikerS編
  109.5話:ストライカー達の戦い

 
前書き
 
最近更新速度が速くて、ホクホクしている作者です!

今回はフォワード陣を中心に。
そして遂に、オリキャラがそのベールを脱ぎます!

私の心情としては…

「さぁ、存分に暴れてこい!」

って感じです(笑)
それではどうぞ!
  

 
 





「はぁ…はぁ…」


 ミッドチルダの廃ビルの中。三人の戦闘機人を相手取っているティアナ。
 得意の幻術と射撃を駆使し、なんとか誤魔化しているが…相手は戦闘機人、念話を傍受することができるのだから、幻術を見破るぐらい訳ない筈。

 何が言いたいかというと…見つかるのは、時間の問題だということ。
 そして何よりの問題は…彼女達の攻撃で右足を負傷してしまったことだ。これでは逃げ回ることもできない。


〈 They confirmed our position.(発見されました)They are moving in our direction.(3方向からまっすぐ向かってきます)〉
「…シューターとシルエット、制御OK、現状維持。後は…ここで迎え撃つ!」
〈 Yes. 〉


 言ってる側から、この様だ。
 クロスミラージュを両手に握り立ち上がる。射撃や幻術の維持に、かなりの魔力とカートリッジを使ってしまって、もう残り少ない。
 ただ一つ、それらしい計画も立てたものの、それもイチかバチかの一発勝負、大博打だ。必ず成功するとは限らない、もし失敗すれば―――


「…ほんとはさ、随分前から気づいてたんだ。私はどんなに頑張っても、〝万能無敵の超一流〟になんて…きっとなれない」


 そう独白し始めるティアナ。誰かに聞いて欲しい訳でもない、この場にいるのは自らの相棒―――クロスミラージュだけなのだから。

 それが分かったときは、悔しくて、情けなくて…認めたくなくて。それは今も変わらないんだけど……


「だけど―――」


 その瞬間、天井が爆発し煙が発生した。咄嗟に振り向くと同時に、クロスミラージュをダガーモードに変え、振り下ろされる双剣を受け止める。
 そのバックから襲い掛かる蹴り、味方は避けつつ的確にティアナを狙ったそれは、大量の煙を作り出した。

 だがそこから伸びたオレンジ色の紐と、ティアナの姿が。そこを狙い撃つように打ち出されたスフィアだが、それはティアナの体をすり抜けた。どうやら幻術だったようだ。
 そして煙が晴れたそこには、ダガーと銃を一個ずつ持つティアナの姿が。これは幻術ではなく、ティアナ本人だ。


(だけどそれでも、叶えたい夢がある。達成したい目標が…!)


 兄が目指し、そして叶えられなかった〝執務官〟という夢。それを引き継ぎ、今まで歩んできた。
 例え自分が〝万能無敵の超一流〟になれないとしても、自分の選んだ道を諦めるつもりはない。必ずやってみせる!

 〝執務官〟という夢を、夢のまま終わらせない為に…
 あの人達から学んだ〝力〟と〝技〟で、必ず―――生きて帰るんだ…!
























 目の前に立つ、自らの姉。
 数日前の襲撃事件で戦闘機人にさらわれた姉、彼女はこの数日の間で思考回路を弄られたようだ。自分の問いかけにも応えてくれない。


「―――ぐ…ぁ…」
「…………」


 そしてその姉は、自分の首へと手を伸ばし…掴んで持ち上げていた。
 当然首が絞まり息ができず、苦悶の声が漏れる。


「抵抗を止めて、投降しなさい」
「―――ッ!」


 姉―――ギンガの言葉を無視し、スバルは自らを掴む腕を返し、背負い投げをしようとする。
 が、スバルの怪力をもってしてもギンガを投げ飛ばすことは叶わず、逆に襟首を掴まれ投げ飛ばされた。


「行動不能段階まで破壊…その後、回収します」
「ッ、ギン姉!」


 スバルが叫ぶも、やはり届かず。スバルに迫ったギンガは容赦なく腹部へ左拳を、上体を起こしがら空きとなった顎へと、右のアッパーが入る。
 威力のある攻撃でスバルは上空へと打ち上げられ、更に脳を揺さぶられたことで意識が飛んでしまった。

 そこへ追い討ちをかけるべく、ギンガはウイングロードを発動。改造された左のリボルバーナックルを、手の部分を回転させながら突撃し、空中へと飛び出した。
 空中に飛び出した勢いと、回転するリボルバーナックル。気絶しているスバルには当然、防御の術はなくこのまま攻撃を受け、多大な被害を受けてしまう。

 だが、それを阻止するものが。


〈 ――― Wing Road ! 〉
「ッ!?」


 半物質化した道が出現、その上をローラーが滑り、迫っていたギンガの左手を弾いた。
 それだけではない。


〈 Calibur shot, left turn !(キャリバーショット、左回転!)〉


 発せられているのは、スバルの相棒―――マッハキャリバー。
 その声に従って、気絶している筈のスバルが体を捻り左回転、ウイングロードに合わせるかのように右足を振り上げた。

 咄嗟に左手で防御するギンガ、だが振り上げた右足はウイングロードを進み、宙で縦に一回転。その勢いのまま…!


〈 Shoot it ! 〉


 右拳を打ち出した。
 防壁を作り両手でガードするギンガ、後ろに作ったウイングロードに上手く着地するが、すぐに上げた表情には確かに驚きの色があった。
 それも当然だろう、何せ気絶させた筈の相手が、空中で見事な連撃を繰り出してきたのだから。

 対して、スバルはというと…
 ボロボロの状態ながらウイングロードに立っており―――たった今、意識を取り戻した。
 自分がウイングロードに立っていて、更に正面には驚いた様子のギンガがいる。先程とは全く違った光景に、スバルも驚かされていた。


〈 Just as rehearsed.(練習通りです)〉
「え…? マッハキャリバー…?」


 状況がよくわかっていない彼女に、マッハキャリバーはそのまま続けた。
 まだ動ける、自分もスバルも。なのに、こんな所で終わる気なのか、と。


〈 You taught me the reason of my being here,(あなたが教えてくれた私の生まれた理由、)
  my strength and power which you adore so much.(あなたの憧れる強さ)
  Don't make everything a lie.(嘘にしないでください)〉


 相棒の言葉に、スバルはハッとされる。

 そうだ、私が目指した強さ。
 なのはさんと士さんに助けてもらった、あの時に見た二人の姿。私を助けてくれた士さんの優しさ、壁を撃ち抜いたなのはさんの強さ。憧れた二人を追いかけて…私は、『魔導士』になった。


『災害とか争い事とか、そんなどうしようもない状況が起きたとき、苦しくて悲しくて、「助けて」って泣いてる人を助けてあげられるようになりたいです。自分の力で、安全な場所まで、一直線に!』


 この手の力は壊す為じゃなく、守る為の力。悲しいものを、撃ち抜く力。
 自分の思い描いた自分になる為に、あの人達から学んだ力だ。


『お前らはなんの為に力が欲しいんだ? その欲した力で、何を成すつもりだ?』


 戦う為じゃない、誰かを傷つける為じゃない。
 私はこの力で…救うんだ。大切なものを、泣いてる人を助ける為に。

 これが私が、あの人達から学んだ力でやりたいこと。だから、今は目の前にいるギン姉を……助けるんだ…!


「―――いくよ、マッハキャリバー!」
〈 All right buddy. 〉
























「―――俺達が守りたかった世界は、俺達の欲しかった力は、俺とお前が夢見た正義は…いつの間に、こんな姿になってしまった…ッ」


 机の上には、古い写真が二枚。若かりし頃の二人―――レジアス中将とゼスト。そしてゼストの部下―――クイント・ナカジマとメガーヌ・アルピーノ、他数名が映っている写真だ。
 古びたその二枚は、かなり年期が入っているのが見て取れる。というのも、既に何年も経った写真なのだから当然なのだが。

 しかし問題は、今ゼストが問うたように、二人が語り合ったものを今、レジアスはどう思っているのか、だ。
 かつてゼストはスカリエッティの実験施設へ部下と共に乗り込み、戦闘機人の返り討ちに会った。結果クイントを含めたほとんどが死亡し、ゼストとメガーヌ、他数人はスカリエッティの実験素体として回収された。

 当時もスカリエッティと手を結んでいたレジアスだが、彼がそのことを知ったのは事後。しかもゼストに忠告した後だった。
 レジアスはこのことを酷く後悔していた。しかし今更スカリエッティから手を引けば、地上を守ることはできない。だから後悔しながらも、地上の平和を守ろうとしてきた。


「ゼスト…俺は―――」


 レジアスの独白が始まろうとした、その時。


 ―――背後に、秘書の女性が立って…



「―――ッ!」


 鋭利な爪を、突き刺そうとしたその時だった。
 突き出した爪は甲高い音を立て、途中で止まったのだった。


「な…ッ!?」
「ッ、貴様!」
「な、何故…!?」

「―――おいおい、野暮なことをするんじゃねぇよ」


 その場にいた全員が驚いた。
 そこにいる筈の誰かが言った言葉、それはその場にいる誰かのものではなかった。

 だが、秘書の女性の爪の先。そこに黄金の剣が現れる。
 そしてそれと共に、その剣の持ち主―――青髪の、筋肉質の男性が立っていた。


「あなたは…ッ!?」
「悪いですが、少し大人しくしていてください」
「ッ!?」


 新しい声、同時に秘書の女性にバインドが施される。
 突然のバインドに驚く秘書、その背後に現れる黒髪の女性。彼女の手には、魔導の杖が握られていた。


「お前は―――アイク!」
「おうゼスト、未練があって蘇ってきたか?」
「お久しぶりです、ゼスト。それと…オーリスも」
「イーナさん…」


 現れた二人は、アイク・ヴォーデンとイーナ・トレイル。
 『特別対策部隊』の部隊長とその副官だ。

 実は二人とゼスト、レジアスは同期の局員だったのだ。若干二人の方が若いが…
 


「何故、お前達が…」
「地上(こっち)に帰ってくれば、こんな大きな騒ぎが起きていて、驚いたものだ。で、こっちで色々調べるうちに、お前さんが怪しいと睨んでな」
「そうこうしているうちに、更にはこの大騒動。念の為あなたの警護も兼ねた捜査を、と思いこの部屋に忍び込んでいました」
「い、いつの間に…」


 さらっと言っているが、聞いている三人は若干唖然としている。二人が『特策隊』で多忙を極めているのは、レジアスやオーリスは勿論、ゼストも知っていること。
 そんな二人がこの騒動を治める為ではなく、同僚のいざこざに力を尽くしていたのだから。驚くのも無理はない。


「取りあえずあなたは、大規模騒乱罪その他諸々の罪で逮捕です」
「くッ…」
「それからレジアス、オーリス。そしてゼスト、お前らにも話してもらうことがたくさんあるからな、覚悟しとけよ」


 アイクの言葉に、曖昧な返事を返すレジアスとオーリス。しかしゼストはそれに応えず、ただうつむくだけだった。


「…ゼスト?」
「…アイク、悪いがそれはできん。俺はもう、長くは―――」


 そこまで言うと、突然胸倉を掴まれる。掴んできたのは、アイクだった。


「そうかもしれんとは思っていたが、だとしたら余計安静にしてもらわないとな」
「…俺の用は済んだ、もう生きる目的はない。だから俺は…」
「だから捕まりたくないってか? それは筋が通らねぇな、お前はこの騒乱の一員なんだ。その罪を償ってもらわなくては」
「…そうじゃない、俺はそもそも死人だ。俺自身の目的は果たした、後はもう…死ぬだけだ」


 そう言った瞬間―――拳が、ゼストの頬を叩いた。
 衝撃と痛みで、ゼストは数歩下がる。殴られた頬を拭う仕草をすると、アイクを睨みつけた。


「死ぬだけだと? ふざけるな…お前には、そこに命があるだろう! それなのに何故生きようとしない!」
「今の命は所詮、ただの仮初のもの…」
「……お前には…悲しむ奴がいる筈だろ!」
「そんなもの、俺にはない」
「いない? ざけんな…いるだろうが! ―――ここに、四人も!」
「ッ…!」


 驚くゼスト、その様子を見るイーナ、オーリス、そしてレジアス。
 かつてそれぞれの正義を語り合い、世界を守ろうと誓い合った仲間達。


「ゼスト…」
「ゼストさん…死ぬなんて、言わないでください…!」
「………」


 その全員が、悲しそうな目でゼストを見ていた。
 死んだと知らされていた親しい人が、今目の前で立っている。なのにその人は、命に意味がないという。悲しくない訳がない。


「それに、お前と一緒に居た彼女はどうする気だ?」
「ッ…それは、お前達管理局が保護を―――」
「確かに、彼女も今騒乱の中にいる。多少の罪はあるだろうが、小さい少女なのは変わりない。比較的軽い刑で済むだろう。―――でもその後はどうする!?」


 刑を全うし、普通の生活が送れるようになったら、誰が面倒を見る! 誰が彼女を支えてやれる!


「少しの間でも、彼女と一緒に過ごすんだ…これまでと同じように―――否、これまで以上に! 大切にしてやるべきじゃないのか?」
「……俺に、その資格があるのか…? こんな、俺が…」
「今まで一緒にいたあなただからこそ、そうするべきです。彼女もあなたの事を、何も思っていない筈がないのですから」
「……クッ…!」


 カラン、と音を立て、ゼストのデバイスが床に落ちた。片手で顔を覆い、肩を揺らす。
 そこへ上から、赤い布が覆いかぶさる。アイクの背中を覆っていたマントである。


「一緒に居ることに、資格なんかいるかよ。『そいつを守る』って思いさえあれば、十分なんじゃねぇのか?」


 アイクのその言葉に、ゼストは遂に膝をついた。
 倒れないように、咄嗟に後ろから両肩を抱え支えるイーナ。丁度そのとき、部屋の中へ数名の人物がやってきた。


「だ、旦那!?」


 一番最初に飛んできたのは、妖精のような姿形をした小さな女の子―――アギト。
 彼女は部屋にゼストのはっきりした姿がない事を確認すると、一目では誰だかわからない状態になっている人物の下へ。それがゼストだと気づくと、周りで心配そうにグルグルと跳び回った。


「あなたは…アイク一等陸佐!」
「確か、機動六課のシグナム二尉だな」
「はい…ゼスト殿は?」
「説得できた。それと、戦闘機人の一機を捕縛した」


 部屋に入ってきた数名の内の一人―――シグナムはアギトと同サイズで飛ぶリインフォースⅡを連れて、騎士服に身を包んだアイクへと問うた。
 その問いにアイクは短い報告を返し、シグナムは少し驚いた様子を見せる。


「そうですか…流石は〝エースオブエース〟ですね」
「おいおい、それは〝あの嬢ちゃん〟のだろ? 俺はそんなんじゃねぇ」


 シグナムの言葉に、謙遜するかのような素振りを見せるアイク。
 その様子をシグナムの少し後ろで見ていたリインは、改めてアイクの姿をまじまじと見る。


(こ、この人が……地上での白兵戦において右に出る者はいないとも言われている、〝陸のエースオブエース〟―――アイク・ヴォーデン一等陸佐、ですか…。士さんの上司なだけあって、やっぱり貫禄あるですね…)


 しかし現在では他世界へと渡ることもあるので、厳密には〝陸〟ではないのだが、それは置いておくとしよう。


「シグナム二尉、犯罪者の護送はこちらでやる。君達は地上の援護に行ってやってくれないか?」
「私が、ですか? あなたが戦場に出た方がよいのでは?」


 シグナムの当然とも言える質問に、アイクは鼻で笑って窓の外に見える空を見上げた。


「あっちは俺が居なくても大丈夫だろうよ。―――うちの自慢の前衛(フォワード)が、今そっちの代わりに防衛ラインの援護に回ってるからな」


 そう言ったアイクの表情は、非常に自慢げなものだった。
























 その地上防衛ラインは、というと……


「―――ぐあぁ!?」


 苦戦を強いられていた。
 何分六課からの援護がない中で、それでも懸命にガジェットと戦っていた。なのはやヴィータに教導された人員が、うまく立ち回っていたが……

 ある時を境に、状況は一変した。


「ギャギャギャギャギャ!」
「ガアアァァァァ!」
「グオオォォォォ!」


 新たな魔法陣から、不気味な生命体が現れたのだ。
 彼らは人型でありながら、様々な動植物、昆虫などの特徴が取り入れられた体を駆使し、防衛ラインを死守しようとしていた魔導士達に襲い掛かってきた。

 この場を指揮するゲンヤ三佐も、これには流石に少しずつ防衛ラインを下げざる負えなくなり、ジリジリと余裕がなくなってきていた。


(どうすりゃあいい…このままじゃ、本気でマズい…!)


 早く何か対抗策を出さないと…!
 そう焦るゲンヤ、だがそれは突然やってくる。

 上空から、フクロウのような顔と翼を持った生命体が、ゲンヤ目がけて急降下し始めたのだ。


「ナカジマ三佐!」
「ッ!」


 魔導士も魔力弾で迎撃するが、あまり効果は見られない。ゲンヤも焦っていた所為か、それに気づくのが遅れ既にすぐそこまで迫っていた。
 このままではやられる、そう結論付けた―――次の瞬間!


「ゴェ…ッ!?」


 迫っていた生命体の顔に、誰かが乗るバイクの前輪がめり込んだではないか。
 フクロウのような生命体はそのまま吹き飛ばされ、バイクはバランスを保ったまま地面に着地した。

 バイクを跨いだまま、乗っていた人物はヘルメットを脱いだ。
 そこにいたのは、少し長い長髪を後ろで束ねた、まだ少年のようなあどけなさの残る青年だった。


「今の危なかったな! もう少しで、爪で八つ裂きにされてたりして」


 だっはっはっは、と笑う青年。しかしゲンヤとしては冗談じゃないと怒りたい気分だったのだが、先程謎の生命体に襲われそうになった恐怖の所為で、気持ち的にはそれどころではなかった。


「―――そんなこと言ってないで、さっさと仕事するぞ、アスカ」


 そんなゲンヤの後ろから、聞きなれない声が聞こえてくる。
 振り向くとそこには、『アスカ』と呼ばれた青年とは違い、くせっけの強そうな短髪で、どこか不機嫌そうな青年が立っていた。


「なんだよガイラ、そんな面倒くさそうに…あれか、飯食い損ねたか?」
「お前じゃないんだから、そんなことで不機嫌にはならない」
「なんだよ~、ツレないな~」

 『ガイラ』と呼ばれた青年は、ゲンヤに目もくれず前へ。アスカの隣に並ぶと、目の前にいるガジェットや謎の生命体へと視線を向ける。


「スカリエッティの〝怪人もどき〟…情報通り、本物の怪人程ではないようだな」
「あぁ、これならしっかり、暴れられるぜ!」
「お、お前達! いったい何を…!?」


 静かに観察するかのように佇むガイラと、拳を手のひらに打ち付け気合十分といた様子のアスカ。
 そんな二人に、慌ててゲンヤが声をかけた。まさかあんな状態で戦場に向かう気じゃ…!


「あぁ、ゲンヤ・ナカジマ三佐ですね。『特策隊』のガイラと、このバカがアスカです」
「あ、おい今バカっつったろ!」
「アイク部隊長から任されてます。取りあえず援護は欲しいですが、混戦になるので俺達に当たらないようにしてください」
「おい、聞けよ相棒!」
「相棒っていうなって何度言ったらわかる」


 ボカッと、アスカの頭部に拳が飛ぶ。
 嫌な音と共に、アスカは殴られた部分を抑えうずくまる。相当痛かったようだ。


「『特策隊』って、あの門寺がいた…」
「そういうことなんで、俺達行きますね」
「あ、おい待てって! 置いてくんじゃねぇよ!」


 さっさと向かうガイラを、慌てて追いかけるアスカ。
 あまりに急なことで、ポカ~ンとなるゲンヤ。その後ろから部下の一人が「大丈夫ですか?」と声をかけた。


「―――援護だ…」
「え…?」
「あの二人を援護しろ!」


 ゲンヤの大声に、全員が驚いた。いきなり現れた二人に、この戦場を任せるとも取れる発言だったからだ。
 しかしそんな事を知る由もなく、アスカとガイラの二人は会話を交わしながら歩いて行く。


「ガイラ、こいつら倒した数で勝負だ!」
「…お前は一々勝負にしないと戦えないのか?」
「いいじゃねぇか! それとも何か、負けるのが怖いか?」
「―――いいだろう、受けて立つ」


 アスカの挑発にあっさりと乗り、ガイラは懐から〝あるもの〟を取り出す。
 それは左右非対称に形作られている、赤いスロットのようなもの。しかしスロットと言っても、それは筒のような形ではなく、赤い部分はL字になっており、下部には透明な部品も付いている。


「お、今日はノリがいいねぇ―――それじゃあ俺も行こうか、〝アークル〟!」


 それを取り出したガイラを見て、アスカは笑って首から下げていた赤い宝石―――〝アークル〟を掴む。掴んだ手の隙間から、オレンジ色の光が漏れる。

 ガイラは取り出したもの―――〝ロスト〟をへその辺りへ当てる。するとロストの端からベルトが出現し、反対側の端と繋がり一つのベルトへと変わる。
 アスカは両手をへその前で、三角形を作るように構える。光るアークルはアスカの周りを飛び回ると、手で作られた三角形の中央へ。
 眩いばかりの光を放つと、アークルは中央に赤い宝石、その周りに金色の装飾。そして銀色のフレームのベルトへと変化する。

 更にガイラは、懐から取り出したもののスイッチを押す。


〈 ――― Joker ! 〉


 すると取り出したもの―――〝ジョーカーメモリ〟から音声が流れる。
 そしてガイラは、それを空高く放り投げた。

 アスカはベルトが出来上がると、左手を腰の右側に移動させ、更に左上方へ。だがそこに留めることをせず、腰の左側へ動かすと共に右腰に添えていた右手を左上方へ。

 落ちてきたジョーカーメモリを左手で掴み取ると、メモリをロストの赤いスロットへ滑り込ませる。

 アスカは突き出した右手を右へスライド。ガイラは左手はメモリの上に添えたまま、右手を顔の左側で握りしめる。

 二人のボルテージが高まり、限界へ達したその時―――


「変身ッ!」
「変身…」


 その言葉(コード)は、放たれた。
 スライドさせた右手と左腰に添えていた左手で、ベルト両側のスイッチを押す。
 握った拳をそのまま、添えていた左手でスロットを倒す。L字だったスロットは、横倒しになったS字のように形を変える。

 二人のその行動が、トリガーとなる。
 アスカはオレンジ色の、ガイラは紫色の光に包まれる。

 オレンジ色が弾けた、そこにいたのは……
 オレンジ色のロングコートを身に付け、胸部は中央には赤い宝石がはめ込まれている黄色いプロテクター。黒一色のアンダースーツ、両手首と両足にはオレンジ色の手甲と足甲が。
 黒かった髪は赤く染まり、一つに束ねられていた髪は二手に分かれて束ねられた。額の部分にはフレームの細い白いヘッドギアが装着されていた。

 紫色の光が砕けた、そこに立つ影……
 両側に白い二本のラインが書かれた黒いロングパンツに、中央に同じく白い二本のラインが走る黒のシャツ。その上に白のラインがあるロングコートを着た、まさに黒ずくめと言ったバリアジャケット。
 くせっけのある黒髪はそのままに、両手首にはスロットのある手甲、足首にも同じくスロットのある足甲が装着された、ガイラの姿だった。


「それじゃあ……いくぜぇぇぇぇぇッ!!」
「相変わらず暑苦しい…静かに戦え」


 ガツンッと両手の拳を打ち付け、一気呵成にガジェットと〝怪人もどき〟の軍団へと駆け出すアスカ。
 それを少し嫌そうに一瞥し、手首をスナップさせてから同じく走り出すガイラ。

 まず標的になったのは―――先程アスカがバイクで跳ね飛ばした、フクロウもどきだった。


「―――〝焔崩し〟!」


 フクロウもどきが立ち上がりアスカを確認したところで、その腹部にアスカの劫火を纏った拳がめり込んだ。
 のけ反ったところへ別の手で一撃、更に一撃―――と、全部で四回の攻撃が、フクロウもどきの肌を焦がす。

 そして最後に右ストレートが綺麗に決まり、フクロウもどきを吹き飛ばすと同時に炎を纏ったスフィアを飛ばす。
 スフィアはフクロウもどきを巻き込みながら突き進む。ガジェットを巻き込みながら進み、あるところで爆発する。ガジェットとフクロウもどきの爆発は、他のガジェットや〝怪人もどき〟を巻き込んで燃える。


 それを見て嬉しそうに「しゃあ!」と声を上げるアスカ、そこへ別の〝怪人もどき〟が襲い掛かる―――が、到達する前にガイラの拳が顔にめり込み、吹き飛ばされる。


「喜んでないで、少しは周りを見ろ」
「はは、ありがとな〝相棒〟」
「…〝相棒〟っていうな」


 本当に嫌そうに呟くガイラ、それを見て笑みを見せるアスカ。
 そんな二人を囲い込む敵の数々、だが二人はそんなものに物怖じしていなかった。

 背中合わせになった二人は拳を構える。口角を上がってる笑みと、静かに眺める無表情という正反対の表情の二人。

 しかし背中合わせに構える姿は様になっていると魔導士達は見て思った。


 ―――ここから、炎と雷と、力と技が飛び交う戦いが始まる。
























 空中に出現したモニターには、赤い糸のようなもので拘束されたフェイトの姿が映し出されている。
 それを一目見た後、相対する者達に挟まれる形でそれぞれ構える二人―――エリオとキャロ。


「ルーちゃん、私達が戦う理由なんてない! 私達と戦って、何にもならないよ!」
「ガリュー、君も主人を守る戦士なら、ルーを止めて! ルーはあいつらに騙されてる…操られてるだけじゃないか!」


 必死に目の前にいる相手―――ルーテシアと、その召喚獣であるガリューに、説得を試みる二人。
 だが、二人からの敵意は変わらない。それは譲れない思いがあるから。


「…あなた達にはわからない。優しくしてくれる人がいて、友達がいて、愛されてる。私の〝大切な人〟はみんな、私の事を忘れて、いっちゃう。―――ひとりは、嫌だ…ッ!」


 ルーテシアの小さな叫びと共に、彼女の足元に召喚魔法陣が展開される。そして同じ物が、彼女の後ろの上空に出現。
 そこから現れたのは、彼女の切り札と言える巨大な召喚獣―――彼女自身の『究極召喚』の〝白天王〟。


「寂しいのは、もう嫌だ…ッ!」
「……ッ」
「独りぼっちは―――嫌だぁぁぁぁぁッ!」


 悲痛な叫び、それに呼応するかのような白天王の雄叫びが上がる。
 それに対しキャロが動く。彼女とは違う桃色の召喚魔法陣を展開し、詠唱を始める。


「『天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠(とわ)の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者』…」


 背中の羽を動かし、地上より高く飛ぶ白天王。その隣に、キャロの召喚魔法陣が展開される。先程白天王が召喚された時と同じぐらいの大きさのものだ。
 そしてそこから、大量の業火が立ち上がる。それはこれから召喚される竜の、象徴とも言える炎だ。

 時を同じくして、ガリューが動く。空へ飛びあがり、エリオへ向け飛びかかる。
 だがエリオはストラーダを構え、ガリューの突撃を弾き返す。二人はほぼ同時に着地し、再び警戒するように構える。

 そこで、エリオは口を開く。


「―――よく似てるんだ、僕達とルーは」


 ずっと独りぼっち、守ってくれる人は誰もいない、誰も信じることができない。
 何も知らなくて、何もわからなくて。誰かを傷つけることしかできなかった。


「だけど、変われるんだ! きっかけ一つ、想い一つでッ! 変わっていけるんだッ!」

「『竜騎招来、天地轟鳴』!」


 瞬間、立ち上がる炎は勢いを増し、魔法陣から黒い影が現れる。


「―――『来よ、ヴォルテール』ッ!」


 燃え盛る炎を弾き、召喚されたのは―――『大地の守護者』と呼ばれる黒き火竜〝ヴォルテール〟。
 咆哮を上げると、目の前にいる白天王と睨み合う。白天王の振り下ろされる腕を、ヴォルテールは受け止める。


「あなたのお母さんを助けるの、私達がきっと手伝う! 絶対絶対約束する! だから、こんなこともう止めて!」
「……ウソだ…!」
「嘘じゃない!」
「―――ウソだ、ウソだあああぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ルーテシアの涙の叫び、彼女から瘴気のように溢れる紫の魔力。
 それに呼応するように白天王の腹部に水晶体が出てきて、エリオと対するガリューの両腕からは六本の刃が生える。刃は無理矢理生えたのか、ガリューの赤い血がぽたぽたと落ちる。


「―――殺して、私の邪魔をする奴…みんな、みんなッ! ころしてぇぇぇぇッ!」


 涙を流しながら叫ぶルーテシア、エリオがガリューに呼びかけるが首を横に振り拒否される。そんなガリューの目からは、赤い血の涙が。
 止まれないのだ。主の為とならないとわかっていながら、しかし止まれない。

 キャロがルーテシアに手を差し伸べるが、彼女はそれに攻撃という答えを返す。
 インゼクトからの攻撃は、帽子を吹き飛ばされながらも自身の防壁で防ぐ。


「それに、召喚士の我がままで大事な召喚獣を、悲しませちゃダメだよ。ガリューも白天王も、泣いてるよ?」
「―――ぁ、あぁ…ああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫ぶルーテシア。止める為にはやはり、戦うしかないんだ。


[―――エリオくん]
[…うん]


 それが分かったキャロは、エリオへ向けて念話を飛ばす。
 ガリューの目を見て、それはエリオも分かっていた。

 彼女は本当に、自分達と似ている。
 彼女は一人で生きてきた。守ってくれる人もなく、信じるということ自体が分からない。

 一人で生きてきたから、誰とも触れ合えなかったから、何も知れなくて…わからなくて。助けて欲しいのに、頼れる相手がいない。
 自分の力が、傷つけることしかできないと決めつけ、想いもなく力を振るう。関係ない筈の人達まで、傷つけてしまう。


 ―――それでも、変われる筈なんだ。
 どれだけ辛くても、寂しくても、悲しくても。人を信じられなくても、変われる筈なんだ。

 自分を変えてくれる〝大切な人〟と出会うことで…!
 少しでも自分を変えようとする〝意思〟があるなら…!


 それでも、今の彼女ではそれも無理だ。
 彼女を縛る鎖を、呪縛を破り解放してあげなければならない。

 それが今できるのは…自分達だけだ。


(必ず、助ける!)
(『助けて』って、聞けたから!)


 以前は誰かを傷つけるしかできなかった力。でも今はその力を、彼女を助ける為に振るう。それは自分達が、あの人達のおかげで変われたから。

 『人は変われる』のだと、彼女に伝える為に。それが嘘ではないと、彼女に示す為に。
 必ず、絶対―――助けるッ!

 その強い想いと共に、二人は―――勝負をかける。





  
 

 
後書き
 
コピペしてみれば久々の一万字越え。
フォワード陣は直前のプロローグで書いたところを、更に掘り下げていった想いをぶつける直前を書きました。ちゃんと時系列も気にしつつ、所々にネタも入れつつって感じです。


そして遂に登場、アスカとガイラ!
色々と差っ引いてるので、ここらで捕捉を。


まずはアスカ。
ビジュアルは登場時は『最強銀河 究極ゼロ ~バトルスピリッツ~』の〝一番星のレイ〟そのまま。
彼のデバイス〝アークル〟は、クウガのアークルとアギトのオルタリングを足して2で割った感じです。

変身ポーズも最初はアギトから、右手を突き出したところからクウガへ、といった感じです。
変身後は髪型は『最強銀河 究極ゼロ ~バトルスピリッツ~』の〝灼熱のゼロ〟、オレンジのロングコートは『バトルスピリッツ ソードアイズ』の〝ツルギ・タテワキ〟の〝光の赤〟、胸部プロテクターはアギトの、中心にある黒い部分を赤に変更しただけのものです。

因みに〝焔崩し〟は『ダンボール戦機W』からです。


次はガイラ。
見た目は『バトルスピリッツ ブレイブ』の〝馬神ダン〟。髪色を黒にし、もう少し冷めた目線を向けている感じ。
デバイス〝ロスト〟はWのロストドライバーそのまま。使ってるメモリも原作そのまま。ただミッドチルダ製なので、魔力で動くのは勿論バリアジャケットが出る。

そのバリアジャケットは、『ソード・アート・オンライン』から〝桐ケ谷和人〟が纏う〝コート・オブ・ミッドナイト〟。
内側のシャツとズボンの両側に、Wの中央のラインに似た二本の白いラインがあるのと、背中に剣を背負っていない。両手両足にスロットのある手甲が装着されている、という違いがある。
変身ポーズは、メモリを投げるのは鎧武の斬月、掴んでからはWのジョーカーそのままです。


他にも考えている設定もあるのですが、それはまた別の機会に!

誤字脱字などのご指摘、小説のご感想などお待ちしております!
それではまた次回で、お待ちしていてくださいm(_ _)m
  
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