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【仮面ライダー×SAO】浮遊城の怪盗

作者:蓮夜
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世界の破壊者

 灰色の世界――自分たちが今までいた浮遊城とは似ても似つかぬその景色に、キリトの思考は勝手にソレを拒絶するものの、見れば見るほど慣れ親しんだ自分たちの家であり。そのひび割れた竹林も、何もなくなった湖も、どれもアスナやユイとの思い出がある場所だった。

「そうだ……アスナ! アスナ!」

 海東が召喚したであろうライオトルーパーたちと戦っていた、愛する人の名前を思いだしたように叫ぶキリトだったが、当然ながらどこにも返答の声はない。血に染まったような空に吸い込まれていくだけだ。

「パパ……ママだけじゃなく、プレイヤーの反応がどこにもありません……」

「…………」

 周囲のデータやプログラム自体にもアクセス出来るユイが、キリトにとって信じがたい事実を告げる。このALOという世界全てに、もはやプレイヤーはいないという。それでも諦めることはなく、キリトは仲間の名前を叫び続けるものの、その叫びに反応したのは仲間たちではなかった。

「パパ! 周りに何か反応があります!」

「何だ、こいつら……!?」

 キリトたちの周りに何の前触れもなく現れたのは、白い昆虫型のモンスター。具体的にどの昆虫かと言われると判断に窮するが、とにかく昆虫のパーツを組み合わせて人間にしたかのような、そんな怪生物――《アルビローチ》と呼ばれる怪物だった。その動作はゆっくりとしたものだったが、明確にキリトたちを襲おうという意志を感じさせた。

「うっ……」

 そのゆったりとした動作でこちらを襲う姿に、キリトはこの地獄のような大地と併せ、生理的に受けつけないゾンビのようなものを連想する。まるでバイオハザードでも起きたようだ、という嫌な想像を頭からはねのけ、ただのゾンビ型Mobだと思考を切り替える。

 問題はその数。海東との戦いで疲弊した今のキリトに、いつ果てるとも知れない謎の敵と戦うのは、肉体的にも精神的にも苦しいものであった。それでも黙ってやられる訳にはいかないと、ひとまず右手に《聖剣エクスキャリバー》を構えると――

 ――上方から放たれた銃弾により、キリトの周囲のアルビローチたちは薙払われていく。

「これは……」

 その銃弾には覚えがあった。いや、覚えがあったというより――今の今まで苦しめられてきた、というべきか。その銃弾が放たれたところを目で追っていくと、そこにいたのはやはり、キリトの予想通りの人物だった。

「海東!」

「やあ、久しぶりだね。キリトくん」

 先程まで会っていたばかりだというのに、ログハウスの屋根の上に乗っていた海東は、キリトに対してそんなことをうそぶいた。そして跳躍したかと思えば、キリトを守るように立ちはだかり、ドライバーにカードを挿入していく。

「暴れておいで、兵隊さん」

『KAMEN RIDE RIOTROOPER』

 再び量産型の騎士たち《ライオトルーパー》が複数体召喚され、途切れることなく地上から湧き出てくるアルビローチたちと戦闘に入る。その後は海東は適当に援護射撃をしたのみで、アルビローチたちではなくキリトたちに向き直った。

「そこの家で話そうか。君も話を聞きたいだろう?」

「……ああ、そうだな」

 キリトは海東のことを睨みつけながらも、話をしようという申し出には同意し、三人で崩壊したログハウスへと入っていく。入ったとはいっても、何とかその形態を維持しているだけで――生活の痕跡すらも破壊されたその姿に、キリトの肩に乗ったユイが嗚咽を漏らす。

「へぇ……やっぱり僕が目を付けただけあって、たいしたお宝だ。そんな人間らしい感情を持てるなんて」

「海東……この世界に、何をした」

 抑えきれないほどの怒りを感じさせながら、この期に及んで飄々とユイを眺める海東に対し、キリトはその胸ぐらを掴みながら問いただす。胸ぐらを掴まれた海東は静かにキリトの頭に銃口を向け、一瞬の後にどちらからともなく離れていった。

「落ち着きたまえ。まずこの《滅びの現象》は僕のせいじゃない。その《Yui-MHCP001》を求めてきた、世界を破壊する現象のせいだ」

「……なに?」

 そう言いながらも、海東がログハウスの外を見るように示す。確かに、崩壊した大地に異様な空、際限なく現れる怪物――と、世界が滅びる前兆と呼ばれてもおかしくない状態だ。もちろんキリトの常識から照らし合わせれば、まるで荒唐無稽なありえない話だったが、今に始まったことでもなく、現に起きている以上認めない訳にはいかないことだ。何とかその言葉を理解しながら、キリトは海東に続きを促した。

「その世界に本来ありえないものを増殖させ、世界が耐えられなくなったら、その世界は崩壊する――そんな傍迷惑が歩いているような連中さ」

 本来ありえないもの。海東の言っていることを信じるならば、確かに際限なく現れる昆虫型の怪物は、この世界にはありえない異物だろう。それに耐えられなくなった世界が自壊を始めた――そんなB級SF映画にも満たない話だったが、むしろそんな話の方が分かりやすい。

「それで、その傍迷惑な連中がユイを狙ってきた、ってことか?」

「ああ。その《Yui-MHCP001》は僕から見てもたいしたお宝だからね」

 一体制作者はどんなプログラムにしたのか、もの凄く興味があるよ――と、海東はキリトの肩に立つユイに向けて微笑みかける。キリトは心中で何度目になるか分からない、あのSAOを作り上げた天才への殺意をぶつけながら、海東に肝心な内容を聞く。

「事情はまあ……分かった。どうすれば世界は直るんだ」

「簡単な話さ。その《Yui-MHCP001》を僕にくれ」

 海東は続けて言葉を紡いでいく。《Yui-MHCP001》――ユイはその《滅びの現象》の標的となった『特異点』とも呼べる存在であり、海東がこの世界からユイを連れだせば、《滅びの現象》はこの世界に来る理由を失う。そうなれば歴史を直す連中が介入し、この世界はすぐにでも直るだろう、と。

「……まさか、この世界全てとソレを天秤にかける訳じゃないだろう?」

「パパ……」

「………………っ」

 海東の言葉はそれで終わる。ユイというお宝を手に入れる海東の方便、ということも考えたが、ここで海東の言う言葉を拒否してもキリトに打つ手はない。それでもユイを、娘と世界を天秤にかける、そんな答えの出ない問題に奥歯を噛み締める。

「……パパ……ならわたしが……」

「ダメだ!」

 ユイの言葉を途中で遮りながら、キリトはまた黙って考えた後――二刀を構えて、崩壊したログハウスから外に出て行こうとする。

「どうする気ですか!?」

「決まってる。あの連中を全員倒せばいいんだろ」

 あのアルビローチたちが出過ぎたことで世界が崩壊したのならば、アルビローチたちを全て消せば世界は元に戻る。そう結論を出したキリトはユイの制止も効かず、ログハウスの玄関のドアノブに手をかける。

 しかしドアノブを捻るより早く、その前に海東が立ちはだかった。

「邪魔だ」

「いいや、合格だ」

 楽しげに笑う海東に、キリトはつい「……は?」と素の反応を返してしまう。クルクルとディエンドライバーを指で回しながら、海東はキリトに問いかける。

「合格だよキリト。もう一つの手段は……君が世界を破壊することだ」

「世界を、破壊……?」

 海東は言う。この世界が破壊する特異点が《Yui-MHCP001》ならば、この世界を破壊させる特異点がまた別にいる、と。分かりにくい言い方だったが、キリトはその正当にたどり着いた。

「つまり……この《滅びの現象》の中に特異点がいて、そいつを倒せばいいってことか?」

「ああ。創造は破壊からしか生まれないからね。残念なことに……君にその覚悟はあるか」

 ユイといういればこの世界が崩壊する特異点がいる――ならば、訪れた場所を破壊する特異点、すなわちあの昆虫たちのボスもいるということであり。もはやあの昆虫たちに支配されたこの世界は、一度破壊しなくては元に戻ることはない。それを承知かと海東はキリトに問う。

「やってやるさ。俺が世界の破壊者だ」

 ログハウスの扉を開ける。海東が呼びだしたライオトルーパーたちはやられてしまったのか、視界に映るのは大地を埋め尽くさんほどのアルビローチのみ。そんな相手にも怯まずキリトは前に出ると、海東はそのすぐ横につく。

「僕もあの虫どもは個人的に嫌いでね。手伝ってあげよう」

「……そりゃどうも。ユイ、隠れてろ」

「はい。……頑張ってください、パパ! 泥棒さん!」

 肩からキリトの胸ポケットに移動し、ユイはキリトの邪魔にならないよう務める。その前に投げかけられた言葉が意外だったのか、海東は変身も忘れてポカンとした表情を見せていた。

「どうした?」

「……いや、なに。頑張って、なんて声援は久しぶりでね。少しやる気が出たよ」

 襲いかからんとするアルビローチをディエンドライバーの銃口で牽制しつつ、海東はいつもの調子を取り戻す。そして戦いに入るより先に、キリトはずっと気になっていたことを海東に問いかけた。

「もしかしてお前……この世界を守ろうとして、ユイを盗もうとしたのか?」

 海東の言葉をあくまで信じるならば、の話だが。ユイがキリトの妨害がなく海東に盗まれていれば、この世界は崩壊することはなかった。ならば、この《滅びの現象》に先んじてユイを盗もうとした海東は、結果的にはこの世界を守ろうとしていたのか。

「まさか。覚えておきたまえ……僕の旅の行き先は、僕が決める」

 そんなキリトの問いを鼻で笑いながら。海東はアルビローチに向けていた銃口を、一枚のカードを銃の側面に挿入しながら、真紅に染まった天に向ける。

「変身!」

『KAMEN RIDE DIEND』

 天空から降り立った幻影が重なっていき、海東の姿をディエンドへと変身させる。そのディエンドの登場を皮切りにしたかのように、キリトもまた、アルビローチの大群へと二刀を携えて向かっていく。

「うぉぉぉお!」

 数は世界全土を埋め尽くさんほどだが、一体一体はそう対した強さではない。キリトのスピードにアルビローチたちは対応出来ず、キリトが剣を振るう度に緑色の炎とともに消え去っていく。

「そいつらの爪には致死量の毒が塗られている。気をつけたまえ」

「先に言え!」

 海東の忠告とキリトの文句が響きながら、キリトは隙を見てアイテムストレージからありったけの対毒ポーションを。ディエンドは新たなカードをドライバーにセットしつつ、自らに近づこうとするアルビローチへと弾幕を張る。

『KAMEN RIDE DELTA DRAKE』

 二体の銃士が召喚され、ディエンドとともに弾幕を強めていく。海東に爪を届かせるまで接近出来ずアルビローチはおらず、海東はログハウスの近くから動かず射撃を続けていく。

「……よし!」

 海東の援護射撃――というよりは、好き勝手撃っているだけという印象だが――により、キリトも持っているだけ対毒ポーションを飲み終える。そもそも異世界からの敵に、店売りの対毒ポーションが効くかは疑問だったが、毒という状態に対して有効らしく。

 後顧の憂いをなくしたキリトは、ディエンドの弾幕に巻き込まれない用、迫り来るアルビローチを迎撃する。ただ正面から来るだけなら楽なものだが、今し方倒したはずの大地からも現れる。全方位に反応しながら迎撃するのはさしものキリトは難しく、苦戦を強いられていたが――胸ポケットからユイが頭を出すと状況は一変する。

「パパ! 右斜めに発生です!」

「――せやぁっ!」

 いつものモンスター狩りのようなユイのナビゲーションに従い、エクスキャリバーを指定された方向まで横一線で斬り伏せると、現れた瞬間のアルビローチが数体切り裂かれた。

「……ユイ」

「パパに守られてるばっかじゃダメだって、ママに教わってますから!」

 本来はこの世界にあるプレイヤーのモンスター、ダンジョンの配置しか分からないユイだったが、この短い時間にアルビローチの反応にも対応してみせた。ユイのナビゲーションに従いながら、勢いを込めた横蹴りでアルビローチの一団を蹴り飛ばし、ディエンドの銃弾の雨へと巻き込んでいく。背後から襲いかかってくるアルビローチも見えており、宙返りで回避しながら剣を叩きつけ、叩きつけられた剣から発生した炎が四方八方に飛んでいく。

「そろそろか……キリト、避けたまえよ?」

『FINAL ATTACK RIDE DIDIDIEND!』

 そして何体切り裂いたか、撃ち抜いたか分からなくなってきた頃、ディエンドからキリトに警告が飛ぶ。ディエンドが挿入したカードには覚えがある――何せ、先はその高出力の攻撃に死にかけたのだから。キリトが飛び退いた直後、召喚していたデルタとドレイクを吸収し、さらに高出力のレーザーが背後以外のアルビローチを跡形もなく消し去っていく。背後以外なのは、銃口の位置を変えて薙払っていくディエンドに、背後のログハウスもやられてはたまらないと、キリトが背後に現れていたアルビローチを担当したからだが。

「ご苦労様。……そろそろ本番だがね」
「高エネルギー反応です、パパ!」

 あのアルビローチたちは前座に過ぎない。あくまでキリトたちの狙いはローチたちのボス――《特異点》であり、雑魚をどれだけ倒そうが意味がないのだ。そして、その出現する際の独特のエネルギーで出現をナビゲートしていたユイが、これ以上ないほどの出力を感じる。

「来るなら、来い……」

 海東とこのアルビローチたちとの二連戦に、刀身が綻びかけている二刀をそれでも構えながら、キリトは《特異点》の出現を待つ。そこに今まで以上の数のアルビローチを率いて現れたのは――キリトが想像していた、昆虫タイプの敵とはまるで違っていた。

 漆黒に金色の縁取りが入った鎧の騎士。キリトはどことなく海東――いや、ディエンドに似ていると感じさせた。その名はディケイド……仮面ライダー、ダークディケイドという。

「出たね……!」

 敵意を隠さない海東が先制射撃を行うものの、その射撃は全てアルビローチを盾にして防がれる。銃撃をアルビローチで防ぎながら、ダークディケイドは腰のケースから一枚のカードを取り出すと、ディエンドと同じようにベルトに挿入していく。

『ATTACK RIDE CLOCK UP』

「ぐあっ!」

「海東!?」

 そのカードがベルトに読み込まれた瞬間、キリトの背後にいた筈の海東がさらに背後へ吹き飛んでいき、竹林へと消えていく。キリトに見えたのは、ダークディケイドに蹴り飛ばされているディエンドの姿のみ。

「……海東!」

 もちろん助けに行こうとしたキリトだったが、行かせまいと前にダークディケイドが立ちはだかる。その間にアルビローチの一団はディエンドが消えた竹林に向かっていき、ダークディケイドはキリトが行動を迷う隙に新たなカードをドライバーに読み込ませていた。

『ATTACK RIDE SWORDVENT』

 カードと引き換えにダークディケイドの手に剣が出現し、キリトの前にゆらりと構える。海東が新たな仲間を呼び出すなら、こいつは武器や特殊能力を呼び出すのか――と仮説を立てながら、キリトは雄叫びとともにダークディケイドに斬りかかった。

「てやっ!」

 渾身の当たり。牽制のつもりで放った一撃だったが、最高速度を誇るソードスキル《スラント》は、無抵抗のままダークディケイドの胸部を切り裂いた。……が、無抵抗だったのは、キリトの一撃に反応出来なかったわけではなく。

「っ――!?

 防御する意味がない――とばかりに、何の手応えもなかった。ダークディケイド自身もまるでダメージを負った様子はなく、手に与えられた剣でキリトの肩にカウンターを決める。

「パパ!」

「大……丈夫だユイ、隠れてろ!」

 その斬撃の衝撃を利用しながら、何とかダークディケイドから離れるものの、キリトの利き腕は完全に負傷した。握っていられるだけの力もなく、《聖剣エクスキャリバー》を地面に取り落とす。

「……まだだ!」

 徐々に取り囲んでいくアルビローチたちから逃れる意味もあり、たとえ左腕一本になったとしても、キリトは攻撃することを止めず。今出来る最高の火力と速度を誇る、《ヴォーパル・ストライク》がダークディケイドに炸裂する。あのダメージの無さが《スラント》の威力の低さから来るものであれば、この《ヴォーパル・ストライク》の一撃ならば――

「く、そぉ……」

 ――というキリトの思考は、攻撃を食らっていないかのようなダークディケイドにより、すぐさま否定される。……いや、もしかしたら正しいのかも知れないが、今のキリトにこの《ヴォーパル・ストライク》を越える火力はない。

 ならば連撃だと、片手剣四連撃ソードスキル《バーチカル・スクエア》を、それぞれ炎や雷などの属性を付与しながら、零距離でダークディケイドへと叩き込まれる。利き腕ではないことで威力を減じているにしろ、それらは全て吸い込まれるようにダークディケイドに直撃するが、まるで鉄を素手で殴っているかのような感触しか湧かない。

 アレが力の証なのかと最後の一撃はダークディケイドのベルト、ディケイドライバーに炸裂させるが、それも意味なく終わったことでキリトは悟る。

 何かが根本的に違うのだ。キリトが体験していた世界の常識とは。そうキリトが理解して左腕に持っていた剣も落としてしまう。そして、そこにいることに今気がついた、と言わんばかりのダークディケイドの深い蒼色の目がキリトを見るとともに、周囲からアルビローチがやはりゾンビのように近づいてきた。

『…………』

 キリトにトドメを刺そうとしてか、ダークディケイドが新たなカードをケースから取り出し、ベルトへと入れようとしたところ――キリトはダークディケイドの腕を力の限り掴み、カードを投入出来ないようにすると、そこでダークディケイドは一瞬だけ動きを止める。

「――海東! 今だ!」

 キリトが剣を取り落としたのは諦めた訳ではない。彼は誰かの為ならば、決して諦めることをしない。確かに異世界のことなどはキリトの理解の外にある――が、異世界からの旅人ならばこちらにもいるのだ。それもより多く、長く旅してきた怪盗が。

「そのままにしておきたまえ!」

『KAMEN RIDE TODOROKI』

 吹き飛ばされた竹林から高速移動で現れた海東――ディエンドは、飛びながらディエンドライバーの銃口をダークディケイドの背後に向けることで、アルビローチの壁を通り越して新たなライダーをダークディケイドのすぐ背後に呼びだした。さらに続けざまに、もう一枚のカードを読み込ませながら着地する。

『ATTACK RIDE CROSS ATTACK』

 召喚したライダーの必殺技を発動させるカード――このカードの効果により、ディエンドに召喚されていたギターを持った灰色の鬼、《轟鬼》はダークディケイドに自身の得物たるギターを突き刺した。

『音撃斬・雷電激震!』

「魔化魍を利用した防壁なのはだいたい分かった……なら清めの音を使うだけだ」

 召喚された轟鬼は、アルビローチに妨害されながらもギターをかき鳴らし、ダメージらしいダメージをダークディケイドに与えていく。しかし最後まで必殺技が完成することはなく、轟鬼は途中でアルビローチにやられて消えてしまうが――詳しい理由はともかく、攻撃が通じるようになったと伝わったキリトが零距離にいた。

「はぁっ!」

「その姿をしていいのは僕と士だけだ。覚え……いや、魂に刻みたまえ!」

 いつになく敵意を剥き出しにした海東の言葉とともに、キリトの体術ソードスキル《エンブレイサー》が繰り出される。ダークディケイドが逃げる暇もなく、黄色に光り輝いたキリトの左腕はダークディケイドのベルトを捉えた。

『……――…―――…!?』

 まるでバグでも起こしたかのように苦しみだすダークディケイドから離れ、キリトは取り落とした剣を拾いながら、ディエンドへと合流する。キリトの着地を狙おうとしていたアルビローチを銃撃で劇はしながら、ディエンドはキリトにダークディケイドの方を指差した。

「見ておきたまえ。あれがただの正体さ」

 ベルトを破壊されたダークディケイドはその存在を保つことが出来ず、一回り大きいだけのアルビローチへと変貌する。……いや、盾と巨大な大剣を持ったカブトムシのような形状となり、他のアルビローチとは一線を画してはいたが。仮に《ボスアルビローチ》とも言うべきだろうが――先のダークディケイドとは違い、圧倒的なオーラを感じさせるほどではない。

「さて、そろそろ終わりにしようか。……痛みは一瞬だ」

「何? ちょ、何す――」

『FINAL FORM RIDE KKKKKIRITO!』

 それでもダメージを負った今では充分に強敵だ、どうするか――と考えていたキリトに対し、ディエンドがその背中におもむろに発砲する。海東が言った通りに、痛みらしい不快感がキリトの身体中を駆け巡っていき、身体の芯が不愉快な感覚に警鐘を鳴らす。せめて何が起きてもいいようにと、キリトが胸ポケットからユイを逃すと、海東とユイはキリトに起こっていた変化に気づく。

「ん? 思ったのと違うな」

「パパ……そのアバターは……」

「え……?」

 ユイにアバターと言われてキリトは身体を見てみると、ボロボロにやられていた筈の右腕が回復していた。海東の先の一撃は回復させるためのものだったのか、と思ったものの、回復とはまた違った感覚だった。

 どこか懐かしさを感じさせるような――そして崩壊したログハウスの窓ガラスに映った自身の姿を見て、キリトはその感覚が間違っていなかったと知った。

 全身を包む闇のようなコート《コート・オブ・ミッドナイト》を防具に、鍛冶屋の少女の想いが籠もった純白の片手剣《ダークリパルザー》に、数多くの戦場を共に駆け抜けた漆黒の剣《エリュシデータ》。そして今より少しだけ、幼さを感じさせる顔つき――それはもうこの世などこにも存在しない、デスゲーム《ソード・アート・オンライン》を終局まで導いた一人のプレイヤー――《黒の剣士》キリトの姿だった。

「また、頼むぜ……」

 キリトは素早く状況を把握した後に、この浮遊城が新生した時に消去してきた、二年間のデスゲームを駆け抜けたアバターにそう告げる。踏み抜いた足は妖精の翼がないにもかかわらず、瞬間移動のように感じさせ、《ダークリパルザー》の一振りはその名の通りアルビローチたちを消滅させる。

 もちろんすぐさま復活するものの、キリトの二刀が煌めく度にアルビローチが百と消えていく。もはや世界全土を覆い尽くすほどの数があったアルビローチも、復活が間に合わず――いや、Mobとして沸かなくなった。結局残ったのは、アルビローチを盾にしていたボスアルビローチのみだったが、攻撃の余波にもはや虫の息となっており。

「決めたまえ」

『FINAL ATTACK RIDE KKKKKIRITO!』

 ディエンドの最後のカード。姿を変えたものの必殺技を起動させる効力を持ち、もちろん《黒の剣士》となったキリトにもそれは適応された。このALOにはなくなった必殺の――二刀流ソードスキル。

「スターバースト・ストリーム……!」

 その中でもキリトが最も得意としていた、二刀流十六連撃ソードスキル《スターバースト・ストリーム》――黒と白の軌跡がボスアルビローチに殺到していき、その原型を留めないほどに細切れとなった後、配下と同様に緑色の炎となって燃え上がっていく――


「……あれ?」

 ――次にキリトが意識を取り戻した時には、そこは見慣れたALOに浮かぶ新生アインクラッドだった。美しい自然が栄える妖精境に取り込まれてもなお、この第二十二層は美しかった。

「パパ……泥棒さんは……?」

「分からない。だけど……」

 いろいろと確かめてみるも、アバターにダメージらしいダメージもなく、今までの戦いがあった記録が何もない。胸ポケットから顔を出したユイが同じく疑問を発するものの、どこにもディエンドの――海東の姿はない。とにかく神出鬼没な男だったが、最後の最後までそうらしい。

「……終わったんじゃないか。多分」

 それでも、キリトに分かったことは一つだけ。もはや夢のようになってしまったあの戦いは、もう幕を閉じたのだということ。分からないことも多いが、きっとそれを真に理解できるのはまだ先のことだろう。

「ユイちゃーん! ……あ、キリトくん!?」

 クエストに行く用の格好ではない、家でくつろぐ時の普段着のような格好をしたアスナが、ユイを探しながらログハウスから現れた。そこでキリトの姿を見つけて、まるで幽霊でも見たかのような反応を示す。

「早すぎるでしょ、さっきメールしたばっかりよ?」

「え……」

 時刻を確認してみると、確かにアスナの言った通りで。時間はアスナからのメールを受け取って、喫茶店を出ようとしたくらいの時間だった。本当に瞬間移動でも使ったかのような事態に、胸ポケットから現れたユイがアスナに説明する。

「パパはママが作ったケーキが楽しみで、凄く急いで来たんですよ」

「そ……そうそう。ちょうど腹減っててさ」

「……もう調子いいんだから。ユイちゃんも、勝手に出て行かないこと!」

 アスナに揃って怒られながら、キリトたちは家族揃ってログハウスに入っていく。アスナは用意してあるケーキを取りにキッチンへ、妖精の姿から本来の姿に戻ったユイとキリトは、どちらからともなく見つめて小さく笑いあっていた。

「あれー?」

「……どうした!?」

 突如として響き渡ったアスナの疑問の声に、慌ててキリトはキッチンに駆け込んだ。また何か不可思議なことが起こったかと身構えていたが――そこには、何かを捜しているようなアスナしかおらず。

「おかしいなぁ……ケーキが無いの」

 泥棒でも入ったかしら――というアスナの言葉に、キリトはケーキの行き先を一つだけ思い至る。今はもうどこを旅しているのかも分からない、あの自称トレジャーハンターのことを。

「まさか、あいつ……」


「お、なかなか美味いじゃないか。さて、次は……」

 ――どこかの世界。海東大樹は手に入れたケーキに舌鼓を打ちながら、手に入れた二つのお宝――もうどうあっても存在することはない、世界から消えた剣《エリュシデータ》と《ダークリパルザー》をコレクションに加え、次はどんな世界に行くかを考えていた。

 だけど今は、それより優先することがある。目の前の喫茶店のような建物から出て来た、カメラマンのような青年の前に姿を見せる。

「やあ士。奇遇だね」

 破壊者を終わらせる者、ディエンド。幾つもの世界を盗み、その手には何を掴む――

 
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