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第二章

「本当にな」
「誰かいないかしら」
「さてな、あとな」
「あと?」
「実家の親父から話があってな」
「お義父さんから?」 
 美代子からすればそうなる、他の県で学園を経営している宗教団体の教会の責任者を自分の妻と共に務めている。
「何て?」
「いや、そろそろ隠居してな」
「跡をなのね」
「兄貴に継がせたいって思ってるってな」
「言ってきたの」
「それで俺にもな」
 考える顔になりつつだ、一郎は美代子に話した。
「教会、今会長さんがいない教会にな」
「入ってなのね」
「それでやっていったらどうかってな」
「そんなお話してきたの」
「ああ、どうだろうな」
「私達が継いでも」
 教会をとだ、美代子は夫に難しい顔で答えた。
「子供が」
「いないよな」
「だからね、教会を継ぐ人が」
「協会を継がせてもらうことは有り難い」
「そのこと自体はね」
「是非にと思うがな」
「そのことがあるから」
 ここでも子供がいない、二人でこのことを言うのだった。
「だから」
「親父にそう言って断るか」
「そうするのね」
「ああ、今度電話をするな」
 こう美代子に言うのだった、だが。
 一郎の父は断りの電話を入れて来た彼にだ、すぐにこう返した。
「そのことも考えてある」
「俺が断った場合もか?」
「違う、子供のことだ」
「子供の?」
「教会長になれば里親になれるだろ」
 親のいない子供を引き取ってだ。
「そのこともあってだ」
「俺に会長さんになれって勧めたってのか」
「そうだ、どうだ?」
「そこまで考えていたのか」
「丁渡御前と美代子さんには子供がいないしな」
 このことは一郎の父も懸念していた、それで言ったのである。
「だからな」
「里親にもなってか」
「会長さんになったらどうか」
「考えさせてくれるか」 
 一郎は即答を避けた、仕事のことでもあるのでここは美代子とじっくり話をして決めるべきだと思ったからだ。
 それでだ、実際にだった。
 美代子と何日も話した、そしてそのうえで結論を出した。その結論は父の言葉に従うことだった。
 こうして一郎は教職を辞して教会に入ることになった、無論美代子も一緒だ。新しく入った家は古いが広くしっかりとしたもので信者の人もそれなりだった。
 その教会に入ってだ、暫くしてだった。
 父がその里子の話をしてきてだ、二人はその子を受け入れることになった。来たのはまだ物心ついていない小さな男の子だった。
「琢也っていうんだ」
「その子がか」
「ああ、生まれてすぐにな」
 父は難しい顔で彼と一郎に話した、教会の和室の仲で。
「事情があってな」
「孤児院に入っていたんだな」
「そうだ、それでな」
「俺達がか」
「里親になってくれるのならな」
「その子が俺達の子供になるんだな」
「頼むぞ」
 確かな声でだ、父は一郎と彼の横にいて今は黙って話を聞いている美代子に言った。
「この子のこと」
「ああ、約束したからな」 
 確かな声でだ、一郎は答えた。 
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