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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第四十八話

 目の前に突然現れた自称神様は、ニヤニヤと笑いながら私の前に現れた。
いや、多分普通に笑ってんだろうけど何故かそう見えるんだよねぇ……。

 「ひ、久しぶり、げ、元気にしてた?」

 軽く片手を上げて私に挨拶してくるけど、それにのんびりと応えてやれる余裕は私には無い。

 「話の筋ってどういうこと? つか、これから政宗様を止めなきゃいけないんだから戻せっての!」

 そう言って神様の何のキャラだか分からない可愛い女の子の絵がプリントされたTシャツが
破れんばかりに掴んで身体を揺すってやれば、神様が止めてと悲鳴を上げている。

 「だ、駄目なんだよ。だ、伊達が石田三成に負けるのは、き、決められた道筋だから」

 「だからそれって何だっての!!」

 「ば、BASARA3の、だ、伊達政宗ルート、い、石田三成と戦って負けたところから始まるんだ」

 よく話を聞けばBASARA3の伊達政宗ルートでは、冒頭石田三成と戦って派手に破れるシーンから始まるらしい。
で、そこで石田に負けたことをきっかけに憎しみによって采配を振るうようになる……ってのが“一週目”の話の流れだと言った。

 「一週目?」

 一週目とか訳がわからん。一体何の話をしてるんだか。

 「ま、マルチエンディングだから、に、二週目以降は、は、話の流れが少し変わるんだ。
い、石田三成を最初に倒すのか、ラスボスにするのかで、せ、関ヶ原の戦いが起こるかどうかも変わってくる」

 なるほどねぇ……それで一週目か。つか、BASARAってやったことがないからよく分かんないや。

 「というか、その話の流れってのを覆すとどうなんの」

 「ば、バグが起こる。た、例えば……そ、そうだな、だ、伊達政宗が初めから存在しなかったことになるとか」

 そ、そりゃとんでもない話だわ。
そうか、ついつい忘れてたけど、あそこはゲームの中の世界だもんね。
ゲームってのはストーリーがあって、きちんとその流れを踏んでいかないと話が進まないもんね。
オープニングから覆しちゃうと話自体が進まなくなるってのは道理か。

 ……でも、負けるのを分かってて黙って見てるってのはしんどいな。
それに、決められたルートで淡々と話を進めてくってのもアレだし……。
っていうか、BASARAを知らないってのが一番ネックだわ。
話の筋書き変えるなって言われても、どういう筋書きで話が進むのか分からないもん。

 「ねぇ、神様んとこにBASARA3はある?」

 「あ、あるよ」

 「じゃあ、私をあのワンルームに連れて行ってBASARAやらせろ」

 半ば脅迫するように連れて行かせて、気が済むまでBASARA3をやりました。
つか、3の番外編である3宴なんてもんが出てたらしくて、それもプレイしました。
小十郎の使い易さに吃驚なのと、あのネタ武器に笑ったのと、第二衣装が今私が着てる着物に似ててちょっと驚いたかな。
てか、小十郎ってば無駄に色気があってどうしようかと思ったわ。弟じゃなければ本当襲ったわよ、この子。

 潮風か。そういや、こんな名前の笛持ってたっけか。
あんな顔して実は天才的に笛が上手いから面白いわよね。絶対に芸術関係分からなさそうって顔してんのに。
奥州に戻ったら作って渡してあげよう。お楽しみ武器、攻撃力最高だし。あと第二衣装もセットで。

 とりあえず3の政宗様のエンディングを全部見て、小十郎でストーリーも天下統一も果たしてこれからどういう道筋を辿るのかも分かった。
神様が予めプレイしてたおかげでレベルが高かったからサクサク進んだけど、あの世界じゃこんなにサクサクは行かないだろう。

 「ねぇ、関ヶ原の舞台が結構いろいろあるけど、これって?」

 「か、各武将ごとに、こ、異なるんだ。は、話の展開が」

 石田三成と徳川家康をダブルで戦う乱入ステージなんかがあるんだ。
それで、天下取っちゃおうってこと? よく分からないけれどキャラクターごとにいろんな展開があるわけね。

 うーむ……一遍全部やってみた方がいいのか? それだと膨大な時間がかかるし、何より飽きる。
だって、同じステージ延々と繰り返してるのって案外面倒臭いわけよ。
私って、結構飽きやすい性格してるからさぁ、積みゲーなんかたくさんあるし……
こうなると、ストーリーだけ動画サイトとか何かで見た方が早いのかしらって思っちゃう。
ま、現実の世界でそういうことやると罪に問われるんだけどね。

 「ねぇ、神様。どういう展開にすれば納得するわけ?」

 「い、一応、徳川家康が天下を獲った、ってことで、は、話を進めたい。
だ、だから、伊達政宗の一週目で、は、話が進むと思ってもらえれば」

 ってことは、家康が最終的に天下を獲ればそれでいいと。
そうすればバグとやらも起こらなくなると。

 「……多少、話の流れがおかしくなっても、最終的に家康が天下獲れればある程度は自由に動けるわけね?」

 「ま、まぁ……そうだけど」

 「小十郎のサイドストーリーとかも完全に無視しちゃっていい?」

 「む、無視すると、あ、“あの日の誓い”が」

 そっか、ここで小十郎が腹括らないと政宗様のルートに入らないわけだもんね。
少なくとも、この一番最後の刀を地面から抜くところはやらせないと駄目だってわけか。

 うーん、筋書き通りに話を進めるってのも、なかなかめんどいな。

 「と、ところで……か、片倉小十郎は、英雄外伝の方がお、面白いよ」

 「へ?」

 神様にそんなことを言われて、私は思わず首を傾げてしまった。
何、その英雄外伝ってのは。3の前作か何か?

 「お、お楽しみ武器と、だ、第二衣装」

 言われてPS2を起動してみたら、まぁ、これが面白いこと面白いこと。
コレ、完璧にヤクザじゃんと思ってしまうほどにヤーさんでしたよ、小十郎。
確かにこういう凶暴なところはあるけど……ってか、あのアニメ、全体的に顔が濃いな。
最後の松永さんに噴いたのは私だけではないはず。

 よし、それじゃ小十郎には葱と牛蒡とこの衣装も作って、纏めてセットで贈ってあげよう。結婚祝いに。
怒られたら小十郎には絶対に似合うと思って、って言い包めよう。うん、それで行こう。

 「じゃあ、神様。さっさと戻して。石田さんとも話がしたいし、もう立ち去っちゃった後ってのは止めてよ」

 「へ、変に話の流れを変えない?」

 「最終的に徳川家康が天下獲れば良いわけでしょ? そういう風に仕向けていくから安心しなって」

 ま、どういう展開になるのかは私にも分からないけれど、
出来る限り伊達が良いポジションに立てるように話を持って行くつもりではあるかなぁ。
だって、伊達にいるのに他方の武将だけを立てるわけにはいかないっしょ。
伊達にも美味しい役回りを持たせておかないとね。

 三十年前と同様に突然何処かに落とされるような感覚が私を襲い、そのまま辺りが暗くなった。



 がばっと身体を起こすと、どういうわけか伊達の本陣に倒れていた。
本陣で待機していた兵達がいきなり現れた私を見て驚いていたが、無事だったのかと心配そうに駆け寄ってきた。

 「突然いなくなったから心配したっすよ! 敵に攫われたんじゃないのかって」

 「事情は後で話す、状況は」

 「一刻ほど前に小田原城に攻めに行きました。今頃、豊臣の連中とぶつかってるんじゃないかと」

 なるほど……こいつはヤバいな。もう始まってるってわけか。

 「風魔!」

 呼んだ瞬間、私の目の前に現れた風魔は表情一つ変えずに立っている。

 「状況は」

 「『現在、石田三成と戦闘中。独眼竜はかなりの重症を負わされている。
首を獲られるというところで竜の右目が止めに入ったが……』」

 遅かったか、と思わず舌打ちをする。いや、遅くなるようにあの神様が私をここに戻したんだろう。
話の筋書きを下手に変えないように、って。

 もう過ぎてしまったことはどうしようもないから置いておくとして、今はこれからのことを考えないと。
政宗様でも重症を負わされたということは、おそらく小十郎も無事ではいないはずだ。
あの子は政宗様の剣の師匠でもあるから決して弱くは無いけれど、政宗様と力量は大体同じか少し上かくらいだったはずだ。
ま、極殺入ると小十郎の方が軍配上がるけどね。
あの子が極殺で政宗様に攻撃仕掛ける時は、畑絡みで何か政宗様がやった時くらいしかないけどさ。

 流石、一人で城落としをする猛者……ここでぼんやりしてられないか。

 「本陣、撤収の準備を。本隊が壊滅的な被害を受けている。政宗様を連れて来るからいつでも逃げられる準備を整えておけ!」

 「ちょ、ちょっとどういうことっすか!?」

 「説明は後だ!! 迎えに行って来るから、それまでの間にやっておけ!!」

 「は、はい!!」

 手早く指示をして、兵達を動かしておく。この分なら何とか撤収の準備は整うだろう。

 風魔に指示を出して小田原城へと連れてって貰った。
危険じゃないのかとは言われたが、おそらく今の段階で私が死ぬことはないだろう。根拠は無いけど確信はある。
完全に事が済んだ後に戻さなかったところを見れば、自称神様も私の出番を奪う気はなさそうだし。

 小田原城へと辿り着いたところで目にしたのは、地に伏す無数の兵と政宗様の姿。
政宗様を守ろうと必死で刀を振るう小十郎も、もうほとんど気力だけで刀を振るっているのは目に見えている。
これはもう完全に負けるのも時間の問題だろう。

 「いぃしぃだぁああ、みぃつぅなぁりぃいいいい!!」

 上空で刀を抜き、風魔の手を離れて重力でコントロールしながら石田目掛けて落ちていった。
それに気付いた石田が後方へ飛んで避ける。上手く着地した私を小十郎が驚いた顔で見ていた。

 「姉上!? 今までどちらに」

 「豊臣と伊達が戦うのを邪魔されたくない奴に捕まってたのよ。遅くなってごめんね」

 とりあえず適当に謝っておけば、小十郎と石田が揃って眉を顰めている。

 「……道理で伊達の中に貴様がいなかったわけか。女の言うことなど聞かんと切り捨てたのかと思ったが」

 「まっさかぁ~……これでも、政宗様の左腕くらいのポジションにはいるからね。
ちなみに右腕はこっち。ま、うちでは右目って言ってるけど」

 「姉上、知っているのですか」

 そりゃ、勿論知ってますよ。だって、少し前に話をしたばっかりだもん。
でも、そういう事情をここでゆっくりと話してる暇はないんだな。

 「もう十分じゃない? 負けを認めるから引いてもらえないかしら」

 「いくら貴様の言うこととはいえ、聞くわけにはいかない」

 ま、逃がしてくれってのは虫の良い話とは思うけどもさ、ここは逃がしてもらわないと困るわけだ。
だってねぇ、政宗様が討たれちゃえば話が進まないわけだし。

 「奥州ってのがどういう国だか知ってる? 内輪ばかりで戦って、いつまで経っても群雄割拠だった国なわけよ。
奥州平定なんてのが出来たのは政宗様の手腕によるところ……
いくら豊臣が伊達を討って奥州を我が物にしたからと言って、すぐに纏めるのは難しいんじゃないのかしら。
ただでさえ、そっちは天下統一で忙しいのに、奥州の内乱に人手を割くのは寧ろ不利益でしょ?」

 石田は少し何かを考えた後、私の言わんとすることを分かってくれたようだ。
つまりここは見逃して従属を迫れと遠回しに言ったわけだ。
まぁ……私の立場で言っちゃならない助言ではあるけども、命を獲られるよかずっといい。
政宗様の跡をきちんと引き継げる後継者がいない今、レッツパーリィな政宗様でもいてもらわないと困る。

 ……本当、馬鹿じゃなくて良かった。これでただの復讐馬鹿だったらどうしようかと思ったよ。

 「……分かった。どちらにせよ、しばらく伊達は動けないだろう。
……半兵衛様も伊達の首を獲れとは仰られなかった。それを見越して言われたのかもしれん」

 刀を鞘に納めた石田に、兵達が引く様子がない。小十郎も刀を納めないし、そんな様子のうちの兵共に向かって私は口を開いた。

 「勝敗は決した!! おめぇら、刀を納めろ!!」

 「で、でも、景継様!」

 「この戦、伊達の負けだ。政宗様の手当てをしなければならないだろうが。
……生きてりゃ、チャンスはある。それにこの状況は命の賭け時じゃねぇ……今は退くぞ」

 悔しそうな顔をするものの、皆刀を納めてくれた。小十郎もまた、反論出来ずに刀を納めている。
ここでこれ以上戦うのは無駄に命を散らすだけ……出来れば誰も欠けることなく奥州に戻りたいと思う政宗様も認めはしないだろうし。

 石田はこの様子を見て、そのまま背を向けて立ち去ろうとする。そして、足を止めて一度振り返った。

 「……半兵衛様からの言伝を忘れるところだった。“恩は返した”、この状況になったらそう伝えるようにと」

 恩は返した……じゃあ、これもあの人の策略のうち? 私が止めに入ることも全て見越して。

 どんだけなのよ、竹中半兵衛……。私はどれだけ竹中さんの掌で踊らされてるわけ……。こりゃ敵わないわ。はっきり言って。

 「一度くらい、酒でも酌み交わしてゆっくり話がしたかった……そう、伝えておいて」

 「……承知した」

 きっと、この後の展開を考えてもそれは無いんだろうけど。
去っていく石田の背を見つめながら、そんなことを思った。

 「帰ろう、小十郎。奥州に」

 「……姉上、何故」

 止めに入った、そう言いたそうな小十郎の鳩尾に刀で一撃入れて意識を奪う。
ここで押し問答を繰り返してる暇は無い。つか、小十郎を納得させるのも地味に面倒臭い。
まぁ、放っておいても頭のいいこの子のことだから、自分で答えには辿り着くんだろうけども……
このままぼんやりしてると小田原の兵達に追撃をかけられてしまう。早く戻らなければ。

 生き残っている兵達に手早く指示を出して、撤収の準備を整える。
死んだ兵達を全員引き取って帰りたいところではあったけれど、それをするだけの暇は無い。

 ……ごめんね。

 心の中で彼らに詫びて、伊達の本陣があった場所へと引き返していく事にした。 
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