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イエ

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第一章

                 イエ
 ルーマニアといえばだ、ルーマニア人もこう言う。
「ドラキュラ伯爵か」
「ブラド四世」
「あの人が有名過ぎて」
「吸血鬼の国になってるよな」
 こう自嘲めかして言うのだった。
「何かと」
「困ったことに」
「それで観光もやってるにしても」
「他にもあっても」
「何でもまず吸血鬼」
「ドラキュラ伯爵」
 そしてブラド四世である。
「他のことはどうも」
「外国に知られてないな」
「他にないのか?」
「有名なことは」
 吸血鬼関連以外でというのだ。
「どの国の人もそればかり」
「吸血鬼から離れてくれ」
「他の話題ないのか」
「ドラキュラ伯爵以外には」
 多くの人間が思っていた、そして。
 首都のブカレストで飲食店を開いているゲオルゲ=モレノもだ。観光客が誰もが吸血鬼の話題をしてくるのに辟易していて。
 そのうえでだ、妻のエレナにこう言ったのだった。
「うちの店もな」
「吸血鬼の話ばかりね」
「ルーマニアは吸血鬼の国か」
「だから他の国から見ればよ」
 それこそとだ、エレナは白い顔をむっとさせて夫に答えた。目はアイスブルーで睫毛は長く薄い色のブロンドの髪を首の付け根の高さで切り揃えていて丈の長いスカートに白いブラウスとエプロンという格好である。
「我が国はそうなのよ」
「吸血鬼か」
「その国なのよ」
「やれやれだな」
 ゲオルゲは腕を組んで言った、皺が少し目立つがまだ三十になったばかりだ。黒髪をオールバックにしており目は灰色だ。肌はエレナと同じだけ白く鼻が高い。すらりとした身体で黒のズボンと白のブラウス、そしてエプロンを着ている。
「他にないのか」
「あってもね」
「注目されないか」
「インパクトが強過ぎるのよ」
 吸血鬼のそれがというのだ。
「本当にね」
「迷惑なことだ」
「とはいってもよ」
「吸血鬼で注目されてか」
「観光客も来てるのよ」
「トランシルバニアにまでな」
「吸血鬼目当てで」
 まzさにというのだ。
「それで潤ってる部分もあるのよ」
「そこはもう割り切るしかないのか?」
「割り切りたい?」
 妻は家のテーブルで共に食事を摂る夫に問い返した。
「果たして」
「割り切りたくないから言ってるんだよ」 
 今こうして、という返事だった。
「この通りな」
「そうよね」
「ああ、だからな」
「どうすればいいか」
「この店も吸血鬼以外の話をな」
 それこそというのだ。
「してもらいたいな」
「じゃあどうするか」
「そlれが問題だがな」
「知恵ある?」
 妻は夫にまた問うた。
「それで」
「具体的なか」
「それがあったら」
 それでというのだ。 
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