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【銀桜】9.たまクエ篇

作者:Karen-agsoul
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第3話「ペットのネーミングは飼い主のセンスが表れる」

 あちこち配線が張りめぐられた薄暗いトンネルの川を、お椀がどんぶらこどんぶらこと流れる。
 オイルの川をせっせと漕いで先に進むのは、『一寸法師』こと万事屋一行と双葉。
「今どのへんアルか」
 珍しく疲労の色がにじみ出てる神楽がツマヨウジで漕ぎながら言う。
「口から入ったから多分胃のあたりかな」
 同じく新八も隣で漕ぎながら疲労混じりの声で答える。
「つーか機械(からくり)に胃なんてあるの?」
「知らないです」
「そもそもさ、俺達どこに向かってんの」
「知らないです」
「俺達なにすりゃいいんだよ」
「知らないです」
「俺達どうやって明日生きてくんだよ」
「知らないです」
 銀時のやけくそな質問にそっけなく返す新八。
 しかし、リーダーが苛立っているのも無理はなかった。
 オイルはやたらズッシリしていて重い。普通の川より力を入れて漕がなければならないから余計疲れる。おまけに鼻を突く油の独特な匂いは、逃げ出したくなるような臭さだ。
 辺りも先もろくに見えない酷い空気が充満してる空間に放置されれば、誰だって気が立つだろう。
 しかし、銀時を苛立たせている原因はもう一つあった。
「知らねーじゃねーだろ!!どーすんだオイいきなりウィルス倒せとか一寸法師にされて機械(からくり)の口にほうり込まれてよォ。俺達ウィルスの倒し方もウィルスがどこにいるのかもなーんも知らねーんだぜ」
「僕にあたらないで下さい。全部源外さんのせいです」
 しびれを切らした銀時の怒声がトンネル内に響くが、新八はやはり素っ気なく返事をするだけ。こういうのをいちいち相手にしてても仕方ないと、よくわかっているのだ。
 だが相手にされなくったって、銀時は文句を吐き続ける。
「いきなりドラえもんみたいな道具出して人を地獄に叩き落としやがってよォ!こんなツマヨウジで何ができんだよ!こんなモン歯に挟まったイカ取るぐらいしか使えねェだろ!!」
「はいはいグチはそこまでにしましょ。たまさん救うにはこれしか方法ないんですから」
 ツマヨウジをガリガリ噛む銀時をなだめる新八ではあったが、彼の言い分ももっともだと思った。
 ウィルスに感染しドット絵化したたまを救うためとはいえ、何をどうすればいいのか肝心なところは何も聞かされていない。源外の無責任さにも困ったものである。
「ハァ……オイルって漕ぐの異様に疲れるアル」
 そろそろ限界なのか、神楽が溜息混じりな声をもらす。それには新八も頷いた。
「そうだね。……銀さん交代してくんないですか」
「ふざけんな。さっき代わったばっかだろ。おめーら若ェ奴は普段持て余してる力を今使いやがれ」
 半ば予想してたとはいえ、こんな状況でも怠ける銀時に新八は呆れた。
「おいピザ女。サボってないでお前も漕げヨ」
 ムスッとした目で神楽は後ろの双葉に言う。
 たまの体内に入って以降、双葉は瞳を閉じ腕を組んで座っている。喚いてばかりの兄と違って、身を沈めるようずっと黙しているのだ。
 そんな何もしないでいる双葉に、神楽は交代を言いつける。
 しかし興味がなければやらず、他人に命令されるのを一番嫌う彼女が当然やるわけもない。
「え?」
 ……と思いきや、双葉はすんなり場所を交代してツマヨウジで漕ぎ始めた。
 従順すぎる彼女の行動に、銀時たちは顔を見合わせる。
「オメェ……やけにアクティブだな」
「別に」
 銀時に返事をする顔は冷たく、普段と同じ無愛想さだ。しかし何だか様子が違う。
「悪ィモンでも食ったか?」
「なんだ。頼まれたことを引き受けてはいけないのか」
 そう跳ね返されると、もう何も言えない。
 下手なことして妹のやる気を削ってしまうのもあれなので、銀時は追及しないでおいた。
 そうこうしている間に、お椀は岸に流れ着いた。
 胃を通ったから小腸あたりだろうか、と新八は予想する。もっとも、機械にじん臓や肛門なんてあるか不明だが。
 ただこのままここにいても仕方ないので、とりあえず先に進むことにした。
 ふいに視界の片隅に何かが写る。
 よく見れば、少し離れた場所に尻に矢が刺さった全身真っ白な男が倒れていた。
「人ォォォォォ!なんでェェェェェ!?なんでたまさんの体内に人がいるんだよ!!つーかなんで全身タイツ履いてんだよ!!」
「よくわからねーが地獄に仏だ。色々聞いてみよう」
 ツッコミの絶叫を上げる新八をよそに、銀時は全身白タイツの男に近寄って肩を揺さぶってみる。
「あのォお休みのところ悪いんですが、ちょっとお伺いしたい事がありまして」
【………】
「こちらにお住まいの方ですか」
【………】
「僕ら社員旅行でここ初めて来たんですけど勝手がわからなくて」
【………】
「色々教えて欲しいんですけど」
【………】
「あのスイマセーン。ケツに矢刺さってますけど大丈夫ですか」
【ああ旅の人よ】
「おわ!?」
 突然男の顔がぐるりとこっちを向いて、銀時はビクッと後ろに退がる。
【どうか死にゆく私の最期の頼みを聞いてもらいたい】
「『死にゆく』ってケツに矢刺さってるだけですけど」
【我が王に言伝(ことづて)を頼みたいのだ】
「王?……イヤだからケツに矢刺さってるだけだって」
 口元をひきつらせる銀時に、全身白タイツの男は一方的に何かを話し始める。
 それに気づいた新八達も駆け寄って耳を傾けた。
【残念ながらウィルス軍を前に我等『白血球軍』は壊滅。じきこの世界は奴等『獏』の手に落ちるでしょう。願わくば王だけでもここからお逃げいただきたい。そして――】

【古くから伝わる伝説の異界の戦士『一寸法師』をお探しください…と】

 残された力を全て言葉に代えると、全身白タイツの男は動かなくなった。
 見開かれた瞳からはもう生気は感じられない。
 双葉はそっと虚空より遥か先を見据える男の目蓋(まぶた)を閉じた。
 亡者を弔うその仕草は、妙に思い詰めた様な暗さを含んでいた。やがて彼女は静かに立ち上がり言った。
「行くぞ」
 と、ただ一言。
「ええ?何しに行くんですか」
 困惑する新八に、双葉は冷淡な眼差しを向けて告げた。
「何って決まってるだろ。王に言伝を渡しにだ」

* * *

【ようこそ、『白血球王国』へ】
 真顔で異邦の銀時達を迎えたのは、槍を持った全身白タイツの男。
 『白血球王国』と刻まれたアーチ門の先にある『武器屋』『宿屋』『教会』。
 ならびに街を行く武具を備えた全身白タイツの男たち。
 たまの体内に広がるのは、まさにRPGの世界。
「何コレェ!?何でたまさんの中に全身タイツの国があるんですかァ!何なんですかこのウロウロしてる全身タイツの人たちィ!?」
【ご安心ください。彼等は私の手の者です】
 騒がしい新八のツッコミに答えたのは、妙に落ち着ついた少女の声。
 振り返ってみると、なんとそこにいたのはドット絵の『たま』だった。
「たまさん!?なんで、たまさんの中に『たま』さんが?」
【皆様をサポートするため、まだ無傷のシステム領域から即席の分身(コピー)を作って来ました】
「身体がやられているのだろ。サポートに回って大丈夫なのか」
 テクテクとその場で両足を交互に上下させる『たま』を見下ろして、難しい顔をしながら双葉が聞き返した。
【問題ありません。私のために皆さんが戦ってくれている時に、おめおめ寝てはいられませんので】
 どこまでも人を気遣い、自分に厳しい『たま』。
 彼女によれば、全身白タイツの男たちは対ウィルスプログラムの『白血球』だという。彼らは体内に侵入したウィルスを駆除して主のたまを護る『セキュリティシステム』なのだ。
 しかしそのために国――巣を作っているとはいえ、傍目からしたらドラクエごっこをやってる様にしか見えない。本当に護ってくれているのか怪しいものだ。
【まずは白血球王に会い、協力を頼みましょう。彼の協力なしでは『獏』を倒すのは不可能です】
「それなら丁度いい。私も王に用があったところだ」
「そうだ。僕ら王様へ言伝を頼まれてましたもんね」
 行き先が決まったところで、双葉と新八達はさっそく城に向かおうとしたが――
「兄者、どこへ行く?」
 フラフラと何かに吸い寄せられる銀時を双葉が呼び止める。
「いや~だって戦うとなりゃアレだろ。強い武器がいるだろ。だったらコレが欲しいだろ」
 そう言って二本の指で作った輪を得意げに見せる銀時。
 足の向く先は『カジノ』の看板が掲げられた派手な建物。
「寄り道してる場合ですか!早くしないと、たまさんがどんどんウィルスに侵されてしまうんですよ」
「そうだ。まずは西の毛細血管洞窟でレベル上げだ」
「それも違いますよ双葉さん!」
 すぐさまツッコむ新八だが、坂田兄妹のゲーム論はまたもや勃発する。
「うるせェな~。RPGは冒険出る前の下準備が大事なの。木剣とかゆるい装備じゃこてんぱんにやられちまうだろ。まずは金稼いで能力値(ステータス)高ェ武器買って、回復アイテム揃えてからバトルのが基本。俺は危ない綱渡りの冒険は避けたい主義なの」
「そうやってミニゲームに夢中になっているからメインシナリオも進まず、クリアできない積みゲーが増えるんだ。寄り道ばかりしてないで、とっととエンカウントを積み上げろ」
「双葉、アレか?かたっぱしから戦って経験値稼ぐタイプか。お前みてェな奴が初っ端からゲームオーバーばっかになって、しまいにゃコントローラー投げ出しちまうんだよ」
「勝手に決めつけるな。だいたいミニゲームばかりしていてはいつまで経っても強くなれないだろ。装備やアイテムは経験値のついでに稼いだ金で買えばいい」
「バトル尽くしもいいけどよ、少しはカジノとかサブイベントも楽しめよ。ゲームが早く終わっちまってつまんねぇだろが」
「このバカ兄妹!!RPGで揉めるのもいい加減に―」
 直後、何かが喉に突き当たり沈黙する新八。
 NGワードに反応した双葉がツマヨウジを押しつけたのだ。
「駄メガネ、誰が『バカ』だと……」
「ああ、す、すんませんでした」
 反射的に両手を挙げて謝ってしまう新八。
 木の棒なので殺傷の心配は全然ないが、彼女の眼は殺気に満ちている。刃を向けられるより怖い。
「まぁちょっくらカジノで一発当ててくるわ」
“バコッ”
 隙をみて抜け出そうとした銀時も、喉に衝撃をくらって倒れた。
 さっそうに兄の前方に回った双葉のラリーアットが炸裂したのである。
「遊びはここまでだ。さっさと城へ案内してくれ、カラクリ」
【了解しました。ではこちらへどうぞ】
 気絶した銀時をズルズル引きずって双葉はスタスタと進んで行った。
 そう、彼女だけやけにスタスタと。

* * *

 たまの案内で城の王室に入るなり、双葉はさっそく頼まれていた言伝を王に伝えた。
【おお、なんということか。我が白血球軍がウィルス軍に敗北したと申すか】
「兵士の最期の伝言だ。できればウィルスの魔の手が国に迫る前に王も逃げてほしいと」
【おお、この国のために戦い傷ついた白血球達を残し逃げるなど、其のような事ができようか】
 感慨深く頭を抱えて嘆く白血球王。
 だがやたらゆっくりな口調と暑苦しい肥満体型のせいか、何だかわざとらしく聞こえる。
 しかも玉座の白血球王は見張りの衛兵二人と同じ全身白タイツで、全然王様に見えない。
 気品なんてかけらもない王は、厳しい顔で話を続けた。
【旅の人よ。この国には古くから言い伝えがあるのだ。
『この地に大いなる災いふりかかし時 女王の舞い災厄を揺るがし 
 異界よりツマヨウジたずさえし勇者 この地を救わん』……と】
「えぇ?それってもしかして僕たちのこと?」
 期待の眼差しを注いでくる王につられて、源外から貰った木製針を見ながら新八は呟いた。
 そういえば源外も、言伝を頼んだ兵士も、似たようなことを言っていた。
 言い伝え通りなら、世界ことたまを救うには自分達がツマヨウジで戦えばいいという事だ。
 しかしこの予言にはまだ一つ謎が残っている。
「じゃあ『女王』って誰だ?」
「はいはいはい!きっと『かぶき町の女王』の私に間違いないアル」
「おめーは盆踊りしかできねェだろーが。んなモンでどうやって世界救うんだよ」
「そこはオカリナ吹いて奇跡を起こすアル」
 わかったわかった、と元気よく手を挙げてきた神楽を銀時は軽くあしらってから王に向き直る。
「まぁ『予言』とかまどろっこしい前置きはいいから、さっさと敗残兵全部よこせ」
「あと宝物庫の宝も全てピザ代にまわし回復アイテムとして献上しろ」
「勇者どころかまるで盗賊なんですけど、この兄妹」
 呆れる新八だが、王はなぜか身勝手な要求を前向きに受け取った。
【なんと共に戦ってくれると申すか。やはり、そなた達こそ伝説の勇者・一寸法師!……しかし我が国は戦で疲弊し軍を貸す余裕はない】
「そこの衛兵二人とお前がいるだろうが。来い、馬車馬のようにこき使ってやる」
「ちょっとやめてください銀さん!」
【フム。どうしてもと言うのなら、我が国が誇る最強の魔獣を一つ授けよう】
「え!?ホントですか」
【『武闘の魔神・デスピガロ』。『炎の魔獣・ドラゴン』】
 その名に期待をふくらませる新八。
 『魔神』、そして『竜』――どちらも伝説的な存在だ。その名の通り人智を遥かに超えたチカラを持ち、それは『神』に匹敵するとも言われている。
 ましてやRPGにおいて魔王(ラスボス)と互角に戦える最強の魔獣(モンスター)だ。
 そんな彼らは何よりも心強く、仲間にできるのはもう無敵になったも同然である。
【さぁ、どちららでも好きな方を連れて行くがよい】
 王は威風堂々と勇者たちに献上する。
 『ドラゴン』……と呼んだ雑種犬、『デスピガロ』……と称した老婆を。
「どっちもいらないんですけどォォ!!」
 心の底から絶叫する新八。
 登場したのはブルブル震えた小汚い白犬と、膝がガクガク揺れてる今にもぶっ倒れそうな老婆であった。おまけに柱の影から頭に金ピカの王冠をのせた少年が、涙を流してドラゴン(雑種犬)を見つめている。
 差し出された二体の魔獣(?)に、図太い血管を額に浮かべて銀時は玉座の王まで駆け上った。
「オイぃぃぃぃぃぃ!コレのどこが最強なんだよ!!なんでドラゴンの後ろで王子らしき野郎が泣いてんだァ!!コレ完全に王子が拾ってきた捨て犬だろーが!!」
【待て待て。アレを見るんだアレを】
「あん?」
 王が指差すのは、いつの間にか白犬の前に立つ双葉だった。
「ひざまずけ。手を差し出せ。シロ」
 白犬に命令を下す眼こそ冷徹だが、その頬はほんのり赤い。潤んだ円らな瞳に可愛いモノ好きの心は打ち抜かれたらしい。
「ちょっと双葉さんもう手懐けようとしてるよ!それって『おすわり』と『お手』のつもりィ!?『シロ』ってまんま過ぎだろ。ベタ過ぎてネーミングセンスの欠片もねェよ!!」
 新八の嵐のようなツッコミが炸裂するが、聞こえないのか双葉は白犬に次々と芸を教え続けている。どうやら可愛いモノに夢中になり過ぎて周りが見えなくなっているようだ。
 白犬の前足を掴んでじゃれる双葉の姿を満足そうに眺めて王は言った。
【勇者はドラゴンを選んだか。どうやら旅立ちの門出は整ったようだな】
「ボロ雑巾犬連れて旅立つ勇者がどこにいんだよ!?」
 勝手に冒険の書を進めようとする王の胸倉を掴んで、銀時はジリジリ詰め寄った。
【ふ、不満と申すか。ならば魔神デスピガロも連れて行くがよい】
「あんなの魔神じゃなくてヨボヨボ老人だろがァァ!」
【いや違う違う。お母さっ…デスピガロはさきの戦いで力を使い果たしてヨボヨボになっているだけだ。復活の呪文唱えればまた使えるぞ】
「使い捨て俺らによこそうとしたのかァァ」
「しかも今デスピガロをお母さんって言いかけたよ。王様お母さんの面倒見るの嫌で勇者パーティに身売りしようとしたよ」
「とんでもない奴ネ。ウィルスよりタチが悪いアル。まずコイツから駆除した方がイイネ」
銀時に次いで新八と神楽の痛々しい視線が突き刺さり、王はブンブン首を横に振った。
【待って待って待って!そーいうんじゃない!!全然誤解!!全く誤解!!確かに最近お母さんの世話ごとで悩んだり、たけしが汚ねェ雑種犬拾ってきて喧嘩しましたよ。でもそれとこれとは全然違うんですよ】
「違わねーだろ。思いっ切りリンクチャージしてんだろーが」
【じゃせめてあの汚ねェ犬もらってください。ほら、妹さんあんなに可愛がってるじゃないっすか】
「冗談じゃねーよ。ウチのゴミ袋はデカ犬のフンでもうパンパンなんだよ」
【そこを何とかお願いしますって。……ったく王様ならパーと華やかな暮らしできると思ったのによ、なった途端家庭も人生もパーになっちまいやがった。いやもう王様マジしんどいっすわ~。家族の裏事情抱えるお父さんの辛さ、旦那ならわかってくれやすよね~】
 ズルズルと愚痴る王からは威厳も何もなく、そこらの飲んだくれオヤジと変わらない。
 呆れて溜息も出ない新八達だが、王の長ったらしい言い訳はまだ続いた。
【聞いてくださいよ。実はですね、この二人今でこそこんな姿になってますが、実はウィルスに呪いをかけられてこんな姿に変えられてしまったんですよ】
「嘘つけ!そうやって俺らに厄介払いしよーとする気だろ!!」
【いやマジほんとですってば。真実を写し出すという『ラーの鏡』使えば元の姿に戻って、即戦力になります。あ~でも今ないんだよね。残念だな~。『ラーの鏡』さえあれば見せてあげられるのにな~】
 心底惜しいような、ガッカリした顔で王は言う。だがその声はどこか嬉しそうにも聞こえた。
 それは単なる気のせいかもしれなかった。
 しかし、先ほどから王は協力するようにみせかけて、自分たちの旅の邪魔ばかりしているみたいだ。
 そんな違和感が沸き始めた頃……一つの道具が世界の事実を大きく動かした。
【『ラーの鏡』ならここにありますよ】
 銀時たちが振り返ると、玉座の前にドット絵の『たま』が円い鏡を持って立っていた。
 その鏡を目にした途端――白血球王の額からいくつもの脂汗が噴き出る。
【なっ!それは!!一体どこで!?】
【ここは私の体内。捜し物などポケットの中をさぐるようなものです】
 『たま』は淡々とした口調で汗だくの王に告げた。
【『獏』は高度な擬態能力を備えていると聞きます。目に見えるモノをそのまま信じていては、『獏』には勝てません】
 『たま』は鏡を上にかざした。といってもドット絵なので手や身体は全然動いていないが。
【さぁ、どんな真実が写るのか。デスピガロかドラゴンか、それとも他の何かか。皆さんとくとご覧下さい】
 芸者が謡うような口ぶりで述べると、鏡から放たれた眩い光が一つの真実を照らし出す。
 それは、王の乳首は黒ずんでいて乳輪が物凄くデカい。
 ……ではなく、乳輪から浮き出た黒いシミがみるみるうちに広がって全身真っ黒に染まった王の姿だった。
 異常な外見だが、王はそれを当然と言うように極悪な笑みを浮かべて玉座から立ち上がる。
【中々やるではないか。この『獏』の擬態を見破るとはな!ガハハハ!!】
 どう見ても全身黒タイツに変わっただけのオッさんであるが、これこそが獏ウィルスだったのである。
 化けの皮を剥がされた偽白血球王と同じように、他の衛兵も国民もすべて全身黒タイツへ変貌し、白血球王国は『獏』の巣と化した。
 味方を求めてやってきたはずが、あっという間に銀時たちは敵に囲まれてしまったのである。
【我らは全て食らう!全てが黒に染まるまで食らい尽くす!!】
 偽白血球王の宣言と共に、何十もの獏ウィルスが銀時たちに襲いかかる。
【ツマヨウジを!皆さんツマヨウジを使ってください!!『獏』に大量の情報を送り込むんです】
 たまに言われるがまま銀時は源外から渡されたツマヨウジを腰から抜いて、飛びかかって来た獏ウィルスを突き刺した。すると獏ウィルスは身体ごと膨れ上がり、風船のように破裂してしまった。
 『獏』は情報を食らい続け成長するウィルス。
 だが逆に言えば、どんな情報も吸収してしまうスポンジのようなもの。そこに食中毒を引き起こす腐った情報(たべもの)を送れば全身を毒づけにできる。
 このツマヨウジは毒に侵された胃袋にさらに毒を送り続け、獏ウィルスを破裂(パンク)させる武器なのである。
「上等じゃねーか。食べカスはとれねーが、チンカスウィルスとれるツマヨウジってか」
 源外特製の武器を振り回しながら、銀時は迫りくる獏ウィルスたちを一掃していく。面白いくらいに獏ウィルスたちは一瞬で粉々に散っていった。
 しかし、それ以上に敵の数はどんどん増え続ける。いくら瞬殺できる武器でも、圧倒的に数が多ければ全てはさばき切れない。塊になって襲われたらひとたまりもない。
「天人、退路を開け。一旦退くぞ」
「ピザ女が指図すんじゃねぇヨ!」
 双葉に反発しながらも、神楽は出口の獏ウィルスたちを蹴散らして逃げ道を作る。新八と銀時は敵を倒しながら走った。続いて双葉も犬を片手に抱えて出口へ向かう。
 だが、敵が獲物を黙って見過ごすはずがない。
【逃がすと思うか!ここで貴様らは朽ち果てるのだ】
 鈍重そうな肥満体の偽白血球王が軽々と宙へ飛び、そのまま双葉めがけて落下する。
 しかし目の前の敵に気を取られていたために、彼女は頭上の危機に気づかなかった。
「双葉!!」
 兄の叫びでやっと見上げるがもう遅い。偽白血球王は目前に迫っていた。
――しまった……!
“ガウッ”
【うぎゃあ!】
 突然、偽白血球王は悲鳴を上げて地面に倒れた。
 双葉の腕から飛び出した犬が噛みついたからだ。弱々しく震えていた姿からは想像できないほどの疾風ぶりだった。
「シロ!?」
【違います。彼は犬ではありません。『ラーの鏡』よ、真実を照らし出せ】
 思わず目を見開く双葉の隣で、『たま』は偽白血球王に噛みつく白い犬に鏡を向ける。
【我を護りし比類なき勇者に再び剣を――】
 鏡の眩い光に包まれた犬は別の姿へと形を変えて大爆発を起こし、偽白血球王と王室の獏ウィルスたち全てを消し飛ばした。
 そして爆風が吹き荒れる煙の中から、人の姿が浮かび上がる。
 汚れなき純白のマントを羽織り、どんな敵も貫く白銀の剣を携え、輝く銀の髪をなびかせる人影。
「誰だ?」
 双葉を始め、銀時たちも怪訝そうにその姿に注目する。
【ご紹介します。彼こそが数多のウィルスを討ち滅ぼし、私の体内を護り続けてきた最強のセキリュティプログラム。正真正銘本物の――『白血球王』です】
 荒れ果てた王座に降臨するは、果たすべき使命を抱いた青年。
 だがしかし、どこか気だるさのある顔立ちとあちこち跳ね上がった銀髪。
 その姿はまさしく――

「兄者!?」「銀さんんん!?」「銀ちゃんんん!?」

 白き勇者の顔は、まさしく坂田銀時そのものだった。

=つづく=
 
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