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RSリベリオン・セイヴァ―

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リベリオン・セイヴァ―外伝SHADOW 一話

 
前書き
少し時間がかかってしまいました……
 

 
まったくと思っていいほど、リベリオンズ日本支部の技術研究リーダーの魁人は諦めの悪い性質であった。
零と同じ技術を応用したRSの開発に専念し続けているも、同等かそれ以上の物は作れずに終わった。
それでも魁人は、RSに仮登録システムを搭載して諦めず研究と可動試験を続けた。
性能に関してはそれに近いRSの開発には成功している。ただ、それを使いこなせる人間が居ないのだ。次々に抜擢された優秀な装着者らは性能全てを物にすることができないまま次々と落胆していく。そんな中、魁人は机に頬杖をついては頭を抱えて唸り続けていた。
今、彼が開発したいものは零のように無敵の加速システムを搭載した量産型RSである。しかし、先ほども言ったように完璧とは言えず、満足のいける開発は困難を極めた。
――あと少し……装着者を選ばない対応システムができればな?
……しかし、後にある可動試験で突如トラブルが起きた。彼が作ったそのRSが装着者と共に暴走を起こしたのである。幸い、怪我人はでずに済むことができたが、上層部はそのRSを欠如品として解体処分を命じてきた。
だが、魁人からしてはせっかく作られてきた物を無に帰すことは自分の流儀に反し、どうしてもそれはできなかった。よって、本体のコアシステムを永久シャットダウンにしてこのRS「飛影」をただの刃物にし、あるエリアのガラクタ置場へ放置した。しばらくすれば、ジャンク屋が拾って大切にしてくれるだろう……

メガロポリスで最も治安の悪化が絶えない危険区域「エリア14」。
そこは、中流や上流庶民らの住む世界とは違う別世界である。ある者は「地獄」と呼び、またある者は「楽園」と呼んだ……
そう、このエリア14や他の危険区域はISによる女尊男卑の風習は一切なく、むしろ強烈な男尊女卑によって支配されている。そして、欲望と金だけが巣食う混沌とした居住地でもあるのだ。
この地区に……今まで足を踏み入れて無事に戻ってきた「女性」は一人もいない。この街には、迷い込んだら最後、女性を性奴隷として狩る恐ろしい人売ハンターや野盗達の餌食となってしまうからだ。
また、あるときは調査のために一機のISとその操縦者がエリア14へ派遣されたのだが、潜入から数分後に彼女との連絡が途絶えたのである。後日、一機のISの残骸が無惨に転がっていた……
今や、政府は裏政府によって賄賂の口止めとしてエリア14への調査を一切打ち消され、現在この区域には極道組織と野盗達によって支配されている……

あるショッピングモールへの道中にて

――れやれ……まさか、比奈までついてくるとはな?
箒は、目の前を仲良く歩く一夏と比奈を見た。
せっかく一夏が買い物に誘ってくれたのは嬉しいのに、まさかあの比奈もついてくるとは思っても見なかった。やはり、一夏は自分と比奈が仲良しになってもらいたいという思いから比奈も誘ったのだろう。
「久しぶりに三人揃ったんだし。どっか面白いとことか行ってみるか?」
一夏が何気に提案を出す。
「そうだね? どこがいい……かな? 箒ちゃん」
後ろからやけに険しい表情をして歩く箒に、比奈は苦笑いで問う。
「別に、私はどこでも構わんが?」
と、不愛想に答えた。
「おいおい? せっかく昔の顔馴染みが揃ったことなんだし、楽しもうぜ? 箒」
「わかっておる! ただ……」
自分の感違いだとは分かっている。しかし、やはり本当は一夏と二人きりがよかった……
その後、一夏達は喫茶店へ出向いてお茶を飲んでいた。飲みながら、今からどこへ行こうかを話し合っているのだが……
「すっごーい! これが、パフェって言うんだね?」
初めて食べるフルーツパフェに興味津々の比奈に一夏は目がいき、箒はそんな二人が何かと妙にイチャついているように見えて、面白くない。
「っ……」
ムスっとアイスココアを飲む箒は、パフェを堪能する比奈に苛立っていた。しかし、比奈は都会での知識は皆無な田舎娘、彼女の目に移る珍しい物はまだまだたくさんあるにちがいない。
「……で、一夏? これからどこへ行こうというのだ?」
頬杖をついて比奈と楽しそうに喋る一夏に箒が問う。
「ん? ああ……そうだな、どこがいい?」
「わからないから聞いているのではないか?」
と、やや怖い顔で言い返す箒に、一夏は少しヒヤッとした。先ほどから比奈と話していて、彼女のことを見ていなかった事に気付く。
「ご、ごめん! で……どこがいいかな? 比奈は?」
「私は、一夏ちゃんと箒ちゃんに任せるよ?」
「そうか……映画とかどう?」
適当に一夏が案を出す。映画と聞いて、比奈はまた興味を持った。
「映画って、あの大きなスクリーンで見るやつだよね!?」
「ああ、箒は? 映画以外になにかある?」
「私は……では、時にそこでいい」
別に行きたいと思う場所はないため、彼女も同意した。
「さて……じゃあ、決まったことだし。お茶飲み終わったら行くか?」
三人はお茶を済ませたあと、ショッピングモールから西側にあるメガロポリス一の映画館へ向かった。
「うわ~……すごいね? ここが映画館か……」
キョロキョロと辺りを見回しす比奈。
「はぐれるなよ? 比奈」
「一夏、この映画はどうだ?」
ちょと、箒は最近気になっていた映画を見つけた。一様比奈や一夏も賛成してこの映画を一緒に観賞することになった……が、
「くぅ……」
苦虫を噛みしめる顔で、箒は隣に座る一夏と比奈を睨んだ。彼女は二人から端側の席におり、その隣には比奈、一夏の順に座っている。
――何故、比奈なんぞがこんなに良い思いを!?
一夏と比奈は、互いに寄り添い合って座っている。こんな光景を、これ以上箒は見たくはなかった。
「……すまない、少し席をはずす」
そう言い残すと、箒は静かに館内を出た。
彼女は、外へ出てぶらぶらと街中をブラブラと歩いていた。上映時間が終わるまで外で散歩をしていようと思った。
――……一夏は、私のことに全然気付いてくれない!
自分だって、一夏のことが好きだ。しかし、一夏はやはり比奈のほうに目がいっている。確かに昔から箒は嫌われるような愛情表現を何度もしてきた。それに関しては認めざるを得ない。
しかし……
――やっぱり、私も一夏のことが好きなんだ……!
散歩を続けていくうちに、気が付くと彼女はある土手道を歩いていた。そこはショッピングモールから最も離れた場所で、隣の風景からは金網のフェンスと鉄板の壁が二重になって広がっていた。その先の世界は、自分がいる場所とは違う別世界だということを知った。
――エリア14……
彼女は、心の中で呟いた。
エリア14。そこは、日本の中で唯一治安の酷い危険区域である。その区域に住む人間と言ったら悪党しか思い浮かばず。ヤクザか野盗などといった連中が支配している場所だ。
「……」
嫌な目でその二重の囲いの塀を見ながら彼女は土手を歩き続けた。
土手を出ると、次に行きついたのはある裏路地である。そこには、その辺にうろついているチンピラのゴロツキ共がうようよしているから長居しないうちに早いところ出ようと思った……が。
「!?」
ふと、彼女の首元にかけていたガラス玉のペンダントが転がり落ちてしまった。
「しまった……!」
彼女から逃げるように転がるペンダントを追いかけるが、そんなペンダントが逃げ込んだ場所が、彼女からしてとんでもない場所であった。
「こ、これは……!?」
塀にあいた穴はエリア14へ通じる場所だった。そこへ、ペンダントが転がってしまったのだ。
――どうしよう……
ペンダントのことは諦めたほうが思った方がいいが……あのペンダントには彼女に取って特別な思い入れがあるものだった。
――母様がくれた大切なお守りなのに……
母が彼女に別れを告げる時に渡したお守りのペンダントだ。それは、一番大切な物である。
――少しぐらいなら!
彼女は、四つん這いになって穴を潜って、女性に取って禁断の地獄へと足を踏み入れてしまった。
見つけたらすぐにこの場から立ち去れば問題ない。そう思いながらも焦りと共にエリア14の片隅の草むらを手探りで探していた。
しかし、彼女の周囲が途端に暗くなった。いや、巨大な影が彼女を覆ったのだ。
「!?」
背後から漂う恐ろしい気配に箒は振り向いた。
「おやおや……こんな物騒なところに何とも可愛いお嬢ちゃんが居るじゃねぇかぁ?」
そこには、全身傷だらけの大男たちが箒を見下ろしていた。
「こーんなところに居ちゃ危ねぇぞ~? 何てったって、ここには怖い怖~い野盗のおじさん達が居るんだからなぁ?」
と、ゲラゲラと笑いだした、彼らは腰から薙刀を取り出した。
「ケッケッケ……どうするよ? この小娘の手足をぶった切って四肢切断にでもするか?」
隣にいる男が涎を垂らしながら笑いだす。
「おう……それもいいが、闇市へ売っぱらうのも悪かねぇ。なんせ、こいつぁ上玉だぜ?」
「な、何者だ!?」
身構える箒に、男の一人が答える。
「見ての通り野盗さ? この街に迷い込んできた(カモ)共を拉致って性奴隷にするか臓器だけにして闇市へ売り飛ばすかで生計を立ててんのさ?」
「っ……!」
箒は、すぐに赤椿を展開しようと念じた。しかし、
――赤椿が!?
「言い忘れたが……エリア14にはISを無効化させる特殊電磁波が撒かれている。どんな機体だろうが、展開できなきゃソイツは単なるテツクズだ」
と、男の太い腕が彼女の細長い片腕を掴み上げた。
「は、離せ!?」
「ほう……見れば見るほど可愛い嬢ちゃんじゃねぇか? コイツは高く売れるぜ……闇市への臓器提供はやめだ! 性奴隷市場へ高く売りつけに行くぞ!」
「くそ……離せ! こんな事、ただで済むと思っているのか!?」
暴れる箒に、男たちは何のためらいもなく彼女を連れていこうとする。
「ま、臓器だけにされなかっただけでもラッキーだと思いな?」
と、中心の男が笑んで箒から視線を変えて闇市の方角へ向かおうとしたが……
「あ! ガイラの旦那じゃないっスか?」
男たちの背後から若い青年の声が聞こえた。
「何だ……玄坊か?」
ガイラという中央の男はニヤついた顔で青年へと振り返った。
「お! めっちゃ可愛い! 上物っすね? どこで手に入れたんですか!?」
調子のいい口調で青年は尋ねる。
「その変でコソコソしてたから捕まえたまでよ? それもIS操縦者だぜ? たぶんIS学園の生徒だ!」
「マジっすか!? いいなぁ~?」
「っ……!」
青年はマジマジと箒を宥めるも、彼女はそんな彼から目を逸らす。
「おっと? やらねぇぞ?」
と、ガイラは断固お断りするが、そんな彼らに対して青年は両手で抱えるやや大きめな箱を見せた。
「実はこっちも良いモンをゲットしたんですよ?」
「ほぉ~?」
興味深そうにガイラ達は青年の箱を宥めた。青年が、その箱をパカッとあける。
「こ、こいつは……!?」
男たちは一斉に目を丸くさせる。
「どっスか?」
青年が手にしている箱の中身、それは売ると高額なメカのチップパーツの山と、それ以外にも葉巻の入った小箱も少なからず入っている。
「おぉ……! こ、こいつぁ!?」
「タバコ類は金持ちのオッサンから巻き上げたんすよ? チップは夜逃げした電気屋の店に置いてあったもので……」
おそらく、これらを全て売ったら、女を売るよりも高く儲かる。それに、自分たちが大好きな葉巻も久しぶりに銜えることができる。ガイラ達はゴクリと唾を飲み込んだ。
「に、偽物じゃ……?」
「じゃあ、一本吸ってみます?」
青年は、葉巻の入った箱から一本をライターと共に取り出した。
「お! うめぇ……本物だ!?」
その味はまさしく葉巻だった。
「な、なぁ? 玄坊、俺にも一本……」
ガイラを羨ましがって彼の仲間らが青年の元へ寄ってくる。青年も、彼らに本物だと信じてもらうために一本ずつ渡した。
「本当だ……こいつは高級物の葉巻だぁ!」
「それと、このチップも見てみます?」
次に青年はチップの一枚を彼らへ渡す。従来の偽物なら基盤の番号が無かったり手触りなどですぐわかるものらしい。ましてや、ガイラ達もこれまでより多くの偽物や本物を目にしてきたため、今青年が手にしているこのチップの正体を見極めるのなんて造作もないことだった。
「……すげぇ! こいつは本物だ!? コイツも……コッチもだ!」
次々とチップを手に取っては鑑定するガイラは、この大量の本物を目に度肝を抜かした。
本物はおそらく、一枚5万以上の値打ちが付く。それをこんなに山ほどなら……
果てには手が震えだす男も出て、ますます青年の持つ箱が欲しくなってきた。チップパーツも全部売れば当分金に困ることはなさそうだ。ガイラは、こう口に出す。
「玄坊? そいつを……俺たちに譲っちゃもらえねぇか? 頼む! タダでとは言わねぇ?」
「そうだ! 何なら……俺の有り金をやろう!?」
「それと、凄く美人な奴隷女も紹介するぜ?」
他の仲間も全員彼に同意であった。すると、青年はニタっと箒の方を笑んでこう言う。
「じゃあ……あの可愛い娘ちゃんと交換ってのはどうっすか?」
「この小娘とか?」
「いいっていうなら、このチップもオマケにつけちゃいますよ?」
「おお! 玄坊、オメェ話がわかるじゃねぇか? よし決めた。ほら、この嬢ちゃんはお前さんの好きにしな?」
と、ガイラは箒の首元へ犬のように鎖の付いた首輪を付けると、それを青年へ手渡した。
「じゃあな? 葉巻とチップ、ありがとよ?」
「さて、と……」
ガイラ達が行ってしまうと、青年はニヤリと暴れる箒へ振り向いた。
「離せ! 外道!!」
途端に箒は激しく暴れ出す。
「わ、わかったから? 大人しくしろ!?」
「うるさい! 離せ!?」
「逃がしてやるから大人しくしろってんだ!?」
脅すつもりはないが、彼は腰のホルダーからコンバットナイフを取り出した。
「!?」
無論、竹刀も何もない今の箒は無防備なか弱い少女だった。そんな彼女が目の前で鋭い刃を見せられれば……少しは口を閉じた。
すると、青年はその手に持つナイフで彼女の首輪を切ったのだ。
「な、なぜ……?」
「助けてやるって言っただろ? アンタ、どっから来た?」
「そこの……穴からだ?」
彼女は自分が入ってきた塀に空いた穴へ指をさした。
「ほう? これはまた見事に空いたものだ? 鉄板以外にもコンクリートで固めてあるところが一カ所だけあるとは聞いていたが……」
青年は先にその穴を潜り抜けると、無事を確認したのか後に続くよう箒に言った。
「待て、私はまだ探し物が残っている!」
「そんなもんは放っておけ? グズグズしてっとまた誰か来るぞ?」
「うぅ……」
こうしている間にも、また誰かの声が近づいてくる。止むを得ず箒は青年の後に続いて穴を潜った。
「……ここから来たのか?」
元居た裏路地までたどり着くと、青年は聞いてきた。
「ああ、そうだ……」
「そうか、多分今日中にここも鉄板でふさがれちまうだろうな?」
エリア14は、外部の人間が立ち入ることは決して許されない。ましてや、外の人間達にとっても自らの安全を考えた上で穴を塞ぐことに賛成するだろう。
「そんな……私は、まだ大切な物が!」
「残念だが、諦めろ? あのまま長居していたら人生終わっちまうぞ? 男なら見つかったら摘み出されるぐらいで済むが、女だったら……」
「しかし……!」
彼女は、このエリア14の本当の恐ろしさを知らないから諦めの悪い態度を続けている。
そんな彼女に、青年はこう言う。
「言っとくが、ここはメガロポリスとは違った別世界の日本だぜ?」
「……?」
青年は、真顔でこのエリア14こと別名「闇界(やみかい)」について詳しく話しだした。
「……ここは、IS社会とは大きくかけ離れた無縁の世界さ? 外では女尊男やらと女共が騒いでいるが、それとは違ってここじゃ逆の男尊女卑ってのが支配している。外の世界から迷い込んできたIS社会の女共は容赦なく拉致られて奴隷にされる。彼女らがどんなに女尊男卑を唱えようとも、こっちたぁ知ったことじゃない。それに……この闇界じゃ、ISに変わるおっかない兵器やバケモン共がウジャウジャとうろつき回っているのさ? ISの大群が掛ってきても瞬殺で終わり」
「そんな馬鹿な話があるわけないだろ?」
箒としては信じることができない。今まで最強と信じてきたISよりも上位につく存在など知る由もないのだから。
「……篠ノ之束を知ってっか?」
――姉さまを?
箒は、姉の名前を聞いて目が驚く。
「今から三年前……かな? そんとき奴が、束が差し向けたISの大群がこのエリア14を襲いに来た」
「なに……?」
「……だが、全滅させたらしい。此処のお上が」
「そんな戯言、信じきれるものか?」
「先ほども言ったように、ここにはISに変わる殺人兵器や化け物らが住み着いてる世界だ。それ以前にも束によるハッキングテロがあったけど、それも呆気なく失敗したとさ?」
そんな、迷信のような青年の話に箒は唖然とした。
――信じられない。姉さまに限って、そのようなこと……
「まぁ、信じるも信じないもアンタ次第だが、本当にこれ以上は二度とエリア14に入るんじゃないぞ? わかったな?」
「……」
そこまで言われても、箒はやはり心残りがある。そこまでしてもあのお守りが大切な物なのだろう。
「……ちなみに、その大切な物ってのは何だ?」
「は……?」
「もし見つけたら、届けておいてやる。特徴は?」
そんな、些細な青年の気遣いに箒は期待していないも一様教えた。
「青い、ガラス玉のペンダントだ。大きさは、ビー玉程のサイズだ……」

その後、箒は一夏達に心配されながらも見つけられて一件落着である。
しかし、一方の青年はと言うと……
「あーあー……良い事したとはいえ、あんまり感謝されなかったし、いい気分になれねーなぁ~?」
ランニングとトランクスだけになった青年は、自室の小屋で寝転がっていた。彼の自宅は、玄関には石の釜土、居間には囲炉裏と、まるで田舎の家を思わせる室内であった。
苦労してかき集めたチップと葉巻。しかし、目の前で危ない目に会っている人が居ると、やはり反射的に行動に出てしまうのが時に悪い癖となった。
「おーい! 玄弖? 居るか?」
誰かが、彼の自宅の戸を叩いた。その声からして、青年こと八文字玄弖(はちもんじくろて)は戸を叩く主の名を口にする。
「おお、大剛か? 入れよ」
すると、戸を開けて入ってきたのは大柄の太った青年だった。彼が玄弖のジャンク屋仲間の一人、克真大剛である。鈍感で大食漢だが、気の優しい奴だ。
「さっき、ガイラの旦那達から聞いたぜ? 女の子とお宝を取り換えっ子したって?」
もう噂は広まっていたらしい。
「ああ……まぁな?」
「本当に、お前はお人好しだよな? ISの女の子を助けるなんてさ? ま、俺はお前のそういう優しいところが好きだけどな?」
「けど……あんま感謝されなかったよな~? 今度からはもっと可愛げのある娘にすっかな?」
「まぁまぁ? ガイラの旦那らにも家族が居るんだからさ? あのチビ達に腹一杯食わせてやれたんだから良い事したと思うぜ?」
「そうかな?」
ガイラ達は、あのような野盗の仕事をしているわりにはアジトで大勢の捨てられた幼い少年たちを育てている。
このご時世、女尊男卑の風習がエスカレートするにつれて孤児になる男児が多くなっている。おそらく傲慢すぎる女達による仕業だろう。女性達が子供まで性差別するなんて世も末だな?
「それで? 俺がやって例のお宝は売ったら儲かったって?」
「ああ! あの金額はスゲェよ? しばらくは満足の行く食い物をチビ達に食わせてやれるってガイラの旦那達が大喜びしてたぜ? さっき、俺に玄弖に礼を伝えてくれって言ってたぞ?」
「はは……そうか? なら、損した気分じゃねぇや?」
「ってなわけで! ガラクタ置場へ行くぞ? 昨日、新しいゴミの山が出来たんだ!」
「おう! 今行く……」
玄弖は、足元に放り投げていた私服に着替えると大剛が待つ玄関前に出た。そこには、大剛が載ってきたサイドカーのバイクがあり、玄弖はそのサイドカーに座らせてもらう。
「先に弾のやつが来てるさ? 何か良いモンがあったら先に拾って取っといてくれるらしいぜ?」
「そりゃ助かるな?」
サイドカーは道場の悪い路上を走って、激しく揺れながら東側にあるゴミ捨て場へ向かった。
ゴミ捨て場は、主に玄弖達しか出向かない場所だ。来るといったら時々老人たちが暇つぶしに来るだけだ。
「おーい! こっちだ二人も」
新しくできたガラクタ山の天辺で大きく手を振っている青年は五反田弾。元は外の世界の人間で食堂の息子だったらしいがいろいろあって、今ではこのエリア14を新天地として暮らしている。一様、飯屋の息子ゆえに料理の腕は良く、いい食材を彼に渡せば大層な御馳走に変えてくれる。
「弾! 何かあったか?」
大剛が大声で問うと、弾はガラクタ山を滑るように降りて二人の元へ来た。
「おう! 何だか黒いアタッシュケースが埋まってんだけど、冷蔵庫の下敷きにされていて上手く掘りだせないんだ。二人とも手伝ってくれ?」
「よしきた!」
大剛は持前のパワーで玄弖と共に山へ登ると三人がかりで退かし始めた。
「ふぅ~……重かったな?」
額の汗をぬぐいながら玄弖は黒いアタッシュケースを拾い上げた。
「何が入ってんだ?」
弾が聞く。
「ロックは……掛ってないな? 中身は……」
玄弖はケースを開けた。すると、そこには何やらナイフ? いや……それに近い刃物の短剣が収納されていた。
「何だ? コレ?」
黒い金属製の素材で作られた角錐状の刃物である。それを見て、真っ先に口に出したのは大剛だった。
「……クナイ?」
「クナイ?」
大剛を見た玄弖は誰よりも先にそのクナイを手に持ってしまった。刹那。
「!?」
突然、玄弖の手に触れられたクナイは、光を発した。そしてクナイは浮かび上がるとその先を玄弖の胸元へ向けて……
「ぐぅ!?」
彼の胸にクナイが突き刺さったのだ!
「玄弖!?」
弾が叫ぶが、それと同時に玄弖の胸に突き刺さったはずのクナイはそのまま彼の胸の中へ飲み込まれていったのだ。いや、溶け込んで行った……
「こ、これは……!?」
大剛は目を丸くして見ていた。
「……あれ?」
キョトンとする玄弖。彼は胸を擦るも彼の胸元は何ともない。
「……なんだ?」
周囲の二人もキョトンとしていた。
「何だったんだろ?」
首を傾げて玄弖は問う。
「と、とりあえず医者に行くぞ!?」
彼のみに何か起こればたまったものじゃないと大剛と弾は無理にでも玄弖を近場の医者の元へ連れていった。

半壊した建物にて
「ほうほう……?」
白髪だらけの渦巻き眼鏡をかけた胡散臭そうな老人医師の診察を受けていた。
「爺さん? 何かわかったか?」
弾が問う。
「なるほどのう……?」
「爺さん! 玄弖は重大なのか!?」
と、大剛がさらに問い詰める。
「これは……」
暗い表情をする医師は、最後にこう告げる。
「わからん!!」
「はぁ!?」
「いや……別にどこも以上は見当たらんよ? どこにでもいる健全な青年の体つきじゃ? 何にも異常は見当たらない健康な体じゃよ?」
「……けど、確かにクナイが俺の胸に」
「幻覚でも見たんじゃろ? あのゴミ捨て場に変な薬でも落ちてたとか?」
「薬なんて知らないけど……」
「とりあえず、熱もないし体も異常は見当たらん。健康そのものじゃ」
「そう……じゃ、いっか?」
玄弖は、そう割り切った。
「世話になったな? 爺さん」
と、三人が診察室をあとにしようとしたが、
「待たんか? 診察料を置いて行け?」
「はぁ?」
「診てやったんじゃから当たり前じゃろ?」
――この爺……ぼったくりやがって!
仕方なく、玄弖はしぶしぶと有り金を爺さんの机に置いて出て行った。
「くそっ! あの闇医者……適当なこと言いやがって!」
「けど……クナイが突き刺さって沈んだって言えば、誰もが幻覚を見たかって思うさ?」
大剛はそう言う。
「そうだな? 現に俺たち二人が証言だって言われてもなんの説得にもならないしな? どのみち、わからずじまいってことさ?」
弾も、大剛と同じようにクナイに関しては誰もが信じがたい光景だったと言う。
「けど……本当に幻覚だったって言えるのか?」
「「……」」
玄弖のその一言に二人は何も返せなあった。
「とりあえず、しばらく様子を見るしかないか……?」
玄弖自身も、今のところ身体にどこも異常は感じていない。
「ま、さっきの事は忘れて、玄弖は先に家へ帰ってろよ? 俺たちはゴミ山へ戻るから」
大剛はそう玄弖の様子を心配する。
「別に……どこも大丈夫だと思うけどな?」
「でも、またさっきみたいなことが起こったら……」
弾も不安になる。
「じゃあ……先に帰ってるぜ?」
「ああ、取り分は残しておくから安心しな?」
玄弖は、二人と別れて一人自宅への道を歩いた。やや疲労が溜まっているのか、足を引きずりながら彼はようやく家につくと、そのまま居間へ体を投げ出して深い眠りについてしまった。
「……」
寝息をたて、玄弖は夢の中へ足を踏み入れる。

「あれ……?」
目の前には蒼空が広がっていた。自分は今、鳥のように空を飛んでいる。
――ここは、どこだ?
わかるはずがない。しかし、怖くもなく不安もない。ただ、目の前の風を受けながら爽快に空中を滑空している。
「す、すげぇ……!」
まるで、俺は風そのものだ。どこへでも行ける、本当の自由になれる。窮屈な生活から抜け出せることができるんだ! 今の彼には、これを現実だと受け止めている。
しかし、背に翼も生えていなければ、飛行できる機械を背負っているわけでもない。生身のまま自由に空を飛んでいるのだ。だが、今の玄弖にはそんな常識など考えてはいなかった。
「早く……もっと、早くだ!」
風が止むことなくそのままどこまでも飛んで行く……
しかし、そんな無我夢中の彼の耳元にある何者かの声がささやき始めた。
『玄弖……』
「!?」
何者かの声に玄弖は気付くと、彼は飛び続けることをやめてその場で止まった。上空で浮上しながら、その謎の声に耳を傾ける。
「誰だ……?」
『……玄弖』
その声に、玄弖は耳を傾けた。
「誰なんだ?」
『玄弖、我が主よ……』
「アンタは何者なんだ? 出てきてくれ?」
『俺に姿形はない。この空間そのものだ……適合者、八文字玄弖よ?』
「適合者? いったいどういうことなんだ!?」
玄弖は、やや焦った口調で問う。
『主となる者は、武器である俺を扱える唯一の人間だ……俺は、お前から強い適性を感じた。あの、忘れ去られた物達の墓場で、触れられた瞬間にお前しかいないと定めた』
「もしかして、お前……」
玄弖は、目を丸くさせる。もしや……この声の正体は!?
「……あの時のクナイか!?」
『気付いてくれたか? 俺は、あのケースの中に収められていた『RS(リベリオン・セイヴァ―』だ……』
「り、リベリオン・セイヴァ―? それは……何だ?」
『リベリオン・セイヴァー……それは、無限の成層圏を打ち破る神の剣。我々は、その刃となり、主と共に地と、空を駆ける』
――無限の成層圏? それって何だ?
玄弖は、クナイが言う「無限の成層圏」が気になる。おそらく、彼らと敵対する勢力のことを言っているのだろう……
『八文字玄弖よ、これより其方を我が『飛影』の主として登録する。共に、無限の成層圏を滅するために……』
「お、おい? いきなり何を言いだすんだ!?」
『頼む、もはやお前以外代わりの人間は居ないのだ……』
「だからって! どうして俺が!?」
『兎に角も、俺はお前を適合者として登録した。己が身を守るとき、必ず助けとなる力になる! それだけは、信じてくれ……?』
と、声は次第に薄れていく。
「ま、まて……!?」

「!?」
気が付くと、真夜中になっていた。外から聞こえる虫の鳴き声に俺はゆっくりと起き上がった。
「……夢、だったのか?」
そう、夢であった。しかし、夢とは思えないほど実感のある体験である。
――あのクナイ、「飛影」とか言ったな?
何やら特殊な武器だったようで、彼にはよくわからない。玄弖は、先ほどの夢が頭から離れず、再び寝ようとしても寝付けることができなかった。
「あの夢……」
玄弖は、そのまま玄関を出て自宅を出た。夜道を散歩しようと思ったのだ。この時間帯なら周辺のゴロツキは皆寝ている頃だ。
そもそも、ガイラ達のような地元の連中は、近所の人間をむやみに襲うような連中ではない。ああ見えて、ご近所付き合いは大切にする奴らだから、よくわからない……
「……そういや、あの娘の大切な物ってあそこだよな?」
玄弖は、今日会ったあの美少女のことを思いだした。よほど大切な物だから、諦めろと行ったときは大変落ち込んでいたようだ。
「……ま、暇つぶしに行くか?」
懐中電灯を片手に、玄弖は例のあの開いた場所へ向かう。しかし、穴は今日中に鉄板で塞がれていた。
真夜中の草むらに懐中電灯を照らしながら、玄弖は手探りで探し始める。
――確か、青いガラス玉のペンダントだったな?
彼女から聞いた言葉を頼りに、俺は草むらを手でかき回した。それほど広くない草むらだから懐中電灯を使えばとても探しやすく、そして何か固い冷ややかな物が指先に当たる。
「……?」
――……丸い玉?
指先に当たったものを掴んで拾い上げると、それは間違いなく青いガラス玉であった。
「よかった! 見つかったぞ?」
――あ……!
しかし、誤算が生じた。俺はふとあの落とし主の少女とのやり取りを思いだした。
「……名前、聞いてなかった!」
だが、ガイラ達からいうに「IS学園」の生徒らしい。なら、IS学園へ行けばいいんじゃないか?
行くら通してくれなくても、一様門番の人に落し物を預ければいいだけのことだ。
そう、軽い気持ちで玄弖は明日の備えた。
翌日、玄弖は支度をしてエリア14を出ていこうとした。大抵、ここで暮らしている住民は外部との行き来は自由であった。
そして、俺にとっては初めての外の世界である。生まれも育ちもこのエリア14だったからこれまで一度も外の世界へ飛び出したことなどない。
「……よし! そんじゃあ、行くとするか?」
身支度を整え、俺はペンダントを首にかけ、自宅を出ようとした……が、
「よう、玄弖?」
「弾?」
そこには、ちょうど彼の元へ訪ねに来たのか、弾が現れた。
「どうした?」
「今朝、大剛から聞いたぜ? 外へ行くだって?」
「あ、ああ……そうだけど?」
「……なら、一つだけ忠告しておく」
「ん?」
すると、弾は真顔で俺にこう言う。
「……外の世界は平和だが、差別はある。女に絡まれたらすぐにコッチに帰ってこい? 何かと面倒になる前にな?」
と、それだけ言い残すと彼は行ってしまった。しかし、弾の言っていることは本当かもしれない。彼は元、外の世界の住人だ。同じ男性としてあの女尊男の世界で生きてきた人間だ。
――アイツ、過去に何があったんだろう?
どうして、弾がこの世界にやってきたのかは不明だ。よほどのことがない限り、こんなろくでもない世界に来るはずがない。
しかし、俺はそれよりも落し物の方に気が散り、はやく外の世界、メガロポリスへ行くため家から飛び出していった。
IS学園のある場所はメガロポリスから離れた隣のエリア20に位置するとある人工島にあるらしい。
玄弖は、分厚い鉄板の塀を伝いながらある巨大な扉までたどり着いた。そこには数人の警備員がおり、彼らに許可書を見せた。一様、手続きなども済ませなくてはならないため少し時間がかかる。
玄弖は、門番前でしばらくたち続けていると、彼の背後から一人の老人の声が聞こえた。
「もし……そこの若人や?」
「……?」
振り返ると、そこには一人の老人が杖を突きながら俺に声をかけてきた。
「なんスか……?」
「『外』へ行かれるのですか?」
「ええ、まぁ……」
「ほうほう? 『池袋』か、『新宿』へ?」
「は……?」
何だそれはと、俺は首を傾げた。
「貴方達が、エリアと呼んでいる場所の旧名じゃよ?」
「そうなの?」
玄弖は聞いたこともない言葉に興味深い目をした。
「して……そちらは、どこへ行くんじゃ?」
「エリア20です……」
「エリア20……おうおう、神奈川かのぉ?」
「カナガワ?」
「若いの……ここも、かつては『浅草』という立派な名前がありましてな? ほれ……あそこに巨大な門の跡があるでしょ?」
老人は、俺の後ろへ指を向ける。振り向くと、そこには半壊した瓦屋根の……赤い? 門のような物体が崩れかけていた。時折見るものだが、今まで無関心だったからアレがいったい何なのか知る由もなかった。
「アレは、嘗てこの浅草のシンボルでしてな? 寺の山門なんじゃ……あそこに巨大な提灯をぶら下げていたんじゃが……白騎士事件の際、ここにもミサイルの流れ弾が『雷門』に直撃しましてな?」
「……」
俺は黙って老人の話を聞いた。
「……浅草の下町には、そりゃあ情深い人間が沢山すんでおりましての?」
老人の話を聞くにつれて、エリア14の意外な一面に触れて行く。
エリア14、そこは今まで悪党が多く居座るロクでもない街かと思っていたが、昔はとても有名な地域だったのだ。しかし、IS社会の到来でこの有様とは何とも嘆かわしい。
「おーい! 手続きが終わったぞ?」
門番が、上の管制塔から叫んできた。玄弖は手を上げて返事をすると、老人に別れを告げた。
「それじゃあ、行って来ます」
「道中、御気を付けて……」
そして、玄弖は開かれた扉から漏れる光へと向かった。



 
 

 
後書き
IS学園って、神奈川の江ノ島がモデルなんですね? 最近になって初めて知りました。

予告

エリア14で育った玄弖は、世間知らずなため外の世界で大暴れを起こしてしまう。
外の常識を知らない彼は、それでもどうにかIS学園の門前へ奇跡的に辿り着くことができた。
だが……不審者と見なされて落とし門を預けてもらうどころか追われる身となり!?

次回
「人生初の女子高」
 
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