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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第6話 外出

高レベルの能力者になりたいって思わない?
能力が高いことに越した事ないし、進学とかもその方が断然有利ですけど
やっぱさ、普通の学生生活送るなら外の世界でもできるし、超能力者に憧れて学園都市に来たって人けっこういるでしょ
あたしもさ自分の能力って何だろう
あたしにはどんな力が秘められてるんだろうって
ここに来る前日はドキドキして寝れなかったよ
それが最初の身体検査で「あなたには全く才能ありません」だもん
正直ヘコンだぜ
私も能力の強さは大した事ありませんけど
ここに来なければ皆さんと出会う事もなかったわけですから

それだけでも学園都市に来た意味はあると思うんです

やった!!
やっと手に入れた!
これであたしも能力者になれる!
佐天は自前の音楽プレイヤーを手に持つと歓喜のあまり玄関を飛び越えて外へと向かった。
例年に比べれば暑い日なのだろうが、この時はいい天気としか印象にない。
「御坂さんみたいにならないかもしれないけど……あたしだけの能力が」
メールで初春を呼び出してある、早く今の収穫を伝えたい!
佐天は今にも破裂しそうな心臓を少し抑えながら、形容できない高揚感に包まれていた。

サソリは、回復の兆候が見えたので点滴は外されて、わずかばかりの自由を満喫していた。
病室で外出に関する規約や順守事項を説明されて正直面倒くさそうに頭をボリボリと掻いて聞いた。サソリは、説明の際に貰った紙の資料に目を通している。
「えっと、外出する際は最寄りのナースステーションで許諾を得てくださいか……ただし、最初の一回目は身元保証人のサインが要りますので連れてきてください」
うわー、最大の難関がここに出てきたか。
なんだよ、身元保証人ってオレだけじゃダメなのかよ。
身元保証人か。
普通に考えるならば家族や肉親となるだろう。
サソリの耳には傀儡人形にした両親の軋む音が想起された。
写真の両親よりも人形になった両親と触れ合った経験の方が多いから思い出される確率は人形の方が高い。
サソリは外出に関する書類を丸めて足元にあるゴミ箱へと投げ捨てた。
これが実験している大蛇丸の手口ならばあくどい。
まあ、書類を提出しなくても出て行くしな。
わざわざ相手の言う通りに動く必要はない。
腕組をして先日行った影分身での記憶を元に作戦を立てていく。
「まずは大蛇丸の居場所だな。たいていは中心か」
布団の上で指を動かして都市の外形を描く。そして描いた円の中心にポンと指を立てる。
そんな思案している中で病室の引き戸が開く音がして、顔を向けた。
来たのは御坂と白井だ。
「よっ!」
サソリに御坂がフランクに挨拶を交わす。
「おっ、点滴外れたんだね」
「やっとだ。邪魔だった」
「容体はどうですの?」
「悪くない」
サソリは眠そうな眼で身体を伸ばしてポキポキと鳴らす。
当たり障りのない会話をする。
「ああ、そうだ。お前らさ大蛇丸っていう奴知ってるか?」
サソリは一応、御坂達に訊いてみた。
「おろちまる……?」
御坂がパイプイスに逆に座り、背もたれ部分に前のめりで体重を掛けて座った。
そして、白井と互いに目線を合わせる。
「知らないですわよ」
「絶対絡んでいると思うんだが」
サソリが予想通りと言わんばかり首を後方へと向けた。
「待って、まずおろちまるって人?」
「そうだが。それ以外に何がある」
「いや、ペットかなって」
「何でそうなるんだよ」
「知り合いですの?」
「まあ、知り合いだな。居たらオレに伝えてくれ」
「えっと特徴言ってくれる?」
「ああ」

おろちまるさんの特徴
女口調
長い黒髪
蛇みてえな奴
長い舌

「なかなか濃ゆい方ですわね」
特徴を書きだしてみたが、なんかこれだけで物語が書けそうな素晴らしく特徴的な外見も持っている人でした。
そこで御坂が白井を連れて、サソリには内緒話をするように相談した。
「サソリとどういう関係かしらね」
「そうですわね……この特徴から類推すると女性ですから彼女?」
彼女!?
「うん、やっぱりそうなるわよね。サソリが虐待されていた時に助けてくれた恩人みたいな」
御坂と白井は特徴からサソリの元カノ(と思われる)「おろちまる」という女性を想像する。

長い黒髪に着物を羽織った可憐な少女だ。
目元は鋭く長い舌を出したり入れたりしている。
歳はサソリより年下くらいで背もサソリよりは小さい。
大丈夫サソリ君?
ああ、もうこんな暴力だけの世界なんてやだ。
よく耐えているわよ。必ず私が助けてあげるからね
ああ、すまん
そして、重なり合うくちび……
キャーキャーキャー!!

もうそんな仲なの?
あたしたちよりも年下なのに?(見た目は)
「最近の若い子は早熟といいますからねお姉様!」
「それにしたって早すぎるわよ」
サソリを真っ赤な顔で睨み付けると
「お、おおおおおお姉さんはそ、そそそそそんな関係みとめないからね」
「何の話だ?」

ところで
「なんでお前らここに来たんだ?」
サソリは軽く柔軟体操をしながら御坂達に訊いた。
「えっと、前に話したレベルアッパーの話。使ったと疑わしい人が倒れたみたいなの」
「ほう、やはりか」
やはり……?
「術にはそれ相応のリスクがあるもんだ。短期間で能力が上がるなら意識不明くらの事は起きるだろうし」
腕を頭に回して両足をブラブラさせる。
「アンタ知ってたの?」
「知っているというか……まあ大体予想通りだな」
サソリは頭をふらつかせながら眼を閉じる。
「そいつはどうなった?」
「えっと……意識だけがなくて原因不明かな」
運ばれてきた患者には目立った外傷はなく、検査をしても突き当たるモノがなくお手上げ状態に近かった。
そしてそれは、この一週間に入ってから増加している。
症状が回復した者はいない。
ウイルスや細菌による伝染病も検査線上に浮かんだが、肝心のウイルスおよび細菌は発見されず二次感染も起きていない。
そこで病院では意識不明の原因が脳にあると考えて、外部の大脳生理学専門チームに依頼し調査してもらうとのこと。
御坂達は医師から受けた説明をサソリに話した。
「ただの意識不明か」
「そうなのよね。なんか心当たりある?」
「一つだけな」
とサソリが言ったところで病室の引き戸が開けられて、白衣姿の女性がサソリの目の前に現れた。
「お待たせしました。院長から招聘を受けました『木山春生(きやまはるみ)』です」
ボサボサに少し伸ばした髪に隈が縁取っている目元をしたクール系の女性だ。
「私は木山春生。大脳生理学を研究している。専攻はAIM拡散力場、能力者が無自覚に周囲に放出している力の事だが……」
「風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子です」
「御坂美琴です」
一応、名乗られたので自己紹介をする。
「……」
サソリは無言のままその場を動かずに動向を伺っている。
会話には加わらない。
「あの……それで何かわかったでしょうか?」
病院の医師がなんとも不安そうに尋ねた。
「今の所は何とも言えません。採取したデータを持ち帰って研究所で精査するつもりです」
「データならこちらから送る事もできましたのに、ご足労かけて申し訳ありません」
「いや、学生達の健康状態が気になりましたので」
説得力のある言葉使いに白井と御坂は安心した態度を見せる。
そこで白井は気になっている事象を思い切って訊いてみた。
「あの、お尋ねしたい事がありまして」
そこで「幻想御手(レベルアッパー)」について質問を飛ばす。
「ネット上で広まっている噂なのですけど」
「それはどういうシステムなんだ?」
「それはまだ……」
「形状は?どうやって使う?」
「わかりませんの」
やれやれと言った感じで木山は顔を歪ませた。
「それでは何とも言えないな」
「そうなのですけど……実は植物状態の学生の中に……」
「続きは場所を変えて聞かせてもらおう。ここは暑い」
昨夜、謎の停電により冷暖房が使えなくなっている。
ジワっとる熱に汗を流しながら木山は提案した。
サソリは木山の話しぶりから一つだけ確信したことがあった。
あの女が言った言葉の中に「嘘」があるということだった。
ふと腕組みをして思案するように首を傾げると
「そうだサソリもついて来る?」
と御坂がニコニコしながらゴミ箱に捨てたはずの外出規約を持ってサソリに広げて見せた。
「うぇ」

最寄りのナースステーションで外出許可書の書類に手に取ると御坂は身元保証人ということでサインを書いた。
常盤台ということで一発オーケーだったことに関してサソリの首を傾げるばかりだった。
「やっぱ、お前の身分がおかしい気がしてならねえ」
「そうかしら、まあいちいち説明しなくて済んでいるから楽よね」
ひとまず、これで申請すればいつでも外出ができるようになりました。
ナースが差し出した用紙に外出した時間と自分の名前を書いていく。
「それでは、手続きが完了しましたので、外出していいですよ。帰ってきましたら受付に自分の名前とカードをかざしてくれれば入ることができます。遅くても夕方の5時には部屋に戻っているようにしてください」
と事務的な説明をし、サソリにカードを手渡した。
「なんだこれ?」
「外出の際のICチップ入りの身分証明書ですよ。次から円滑に手続きが進められるようになります」
「あ、あいしー?」
「当病院に入院している証となりますので、無くさないように注意してください」
良くわからん仕組みだな。
手続きを終えるがサソリは何かにつけて渡されたカードを眺めていく。
折り曲げたり、割ろうとしたりするがさすがに御坂に止められた。
そして木山と病院のロビーで合流すると、一行は自動ドアを経て真夏の学園都市の中へと繰り出した。
聳えたつビルとコンクリートのジャングルが容赦なく日光の熱線を封じ込めて歩き回っている人々に攻撃をしかける「ヒートアイランド効果」が起きている現場である。
「あ、暑い……」
サソリの服装はここに初めてきた組織で着用していた外套を身に着けていたが、黒を基調とした服に太陽の光を集光しており、自動ドアを抜けて10秒ほどでサソリをノックアウトさせた。
病院の脇にある日陰に入っては、一時休戦とばかりに腰を下ろして陽炎が浮かぶ道路を睨み付けている。
サソリの予想外の行動に御坂達も同様に日陰に入る。
「大丈夫?」
「ちっ……殺す気か」
「そんな服を着ているからですわよ」
「これしかねえからな」
う……また触れてはいけないところを触れた気が!?
「大変だったわね」
「もうそれはいい」
とばっさりと手をブラブラさせて御坂の慈愛モードを打ち砕く。
「ところでこの子供は誰なのだろうか?」
木山は汗をダラダラと垂らす赤髪の少年を白衣のポケットに手を突っ込んだ状態で見下ろしていた。

場所を変えて、近所の喫茶店。
「この少年は誰だ」
「……」暑さで虚ろな目をし、斜め前を見上げている。
「えっとサソリって言う子なの訳あってさっきの病院に入院しているのよ」
「サソリ……!?」
聞き覚えがあり気な感じで木山は赤い髪の少年を見据えた。
「そうか……そうか」
と頬杖をついて頷いていく。
「何か知ってますの?」
「いや、これが巷で有名なキラキラネームというものなのかと思ってね」
………………
えっ!?
木山はサービスでやってきた水を口に含んだ。
「えっと……その感じは初めてというか……キラキラネームって英語読みを無理やり日本語にするようなことではなかったでしたっけ?」
「じゃ、サソリの英語読みでスコーピオン君が正しいキラキラネームということになるな」
サソリ→スコーピオン→すこうぴおん
むりやり漢字を当てはめると
須甲比音くん
ってなればいいんだな。
「よかったわね、とりあえずキラキラネームじゃないわよ」
背中をバンバンと叩く御坂。
「ちっ」ブスッとサソリも頬杖をついて外を見る。
「でも何かへましたら須甲比音くんと呼びましょうかね」
店員が喫茶店でだしているメニューを持ってやってきたので各自で注文をすることに。
「ドリンクバーを人数分っと、サソリは何か頼みたいものある?」
メニューの覗いてみるがどれもあまりサソリの興味を引くものはない。
「特にないな」
「遠慮しなくていいのよ。この3ポンドステーキ(約1.3kg)とかどう?」
と写真で出されたのは鉄板からはみ出るくらいに焼かれた肉の塊だ。
申し訳程度に下に玉ねぎが顔をのぞかせている。
「こんな食えねえよ」
見たくもない感じで目を背けた。
「では、ドリンクバーを人数分とまた追加注文をすればいいわね」
店員さんを呼んでドリンクバーを注文した

ドリンクバーのシステムについて軽く説明する。
「あそこでコップをもらえば飲み放題……怪しいな」
「まあ習うより慣れろってことで」
「自分で使っていれば納得するでしょうね。いってきなさいですわ」
半ば蹴りだされるように座席を追い出された。
「いてて」
仕組みが複雑だな。サソリはフラフラとした足取りで説明を受けた個所へと移動していった。
「変わった子だな」
木山がサソリを見送りながら視線を真っすぐに戻した。
「同じ学生かね?」
「いえ、私たちにも身元が分からないのですわ。ある日突然血だらけで道に倒れていまして」
「結構ひどい傷だらけだったから……その虐待を受けていたんじゃないかと」
「そうか、確かに普通の子供というものではないな」
木山はかつての自分の過去から子供たちの顔を思い浮かべた。
「虐待の可能性があるなら、大々的に呼びかけることは勧めないな。虐待していた親が来るかもしれない」
「そうですよね。今度捕まった時のことを考えると」
「少し様子を見てみますわ。それに今解決すべきは謎の原因不明の意識不明者についてです」

サソリはドリンクサーバーと睨めっこをしながら奇妙奇天烈な装置を注意深く観察していた。
「これか、これを押すと飲み物が出てくるのか」
と緑色に描かれたポップ体のボタンを押してみると
「おお!」
緑色の液体と多少透明な液体が混合されてコップ置き場の下へと落ちていく。
「なるほど、この色と飲み物の色が連動しているのか」
サソリはコップを置いて赤い字体のドリンクのボタンを押した。
すると、
「うへ?」
赤色の想像から程遠い、ドス黒い炭酸水に思わずボタンから手を放して距離を取った。そして恐る恐る手を伸ばして3分の1程にまで注がれた黒い液体を覗き込んだ。
「これは飲んで大丈夫なのか……?」
ポコポコと泡が出たり、消滅したりと毒物に近いような感覚を覚える。
そうか、やはり飲み放題というのはこれが狙いか。
飲み放題というエサをぶら下げて、一気にこの黒い液体で死に至らしめる。
サソリは黒い炭酸水をサーバーの隣へと置いて、客を案内している店員を眺めた。
あの笑顔の裏にはこんな計画を認めていたとはな……敵ながらやるな。
サソリの視線に気が付いて、笑顔で「ごゆっくり」と言ってくる。
どこでゆっくりさせるんだか……
そこへ、小学生くらいの子供がやってきて、サソリと同じ黒い飲み物を押していた。
「お前、この飲み物はうまいのか?」
「うん、おいしいよ」
「ちょっと飲んでみてくれ」
「うん」
とその場で黒い飲み物をストローでチューとおいしそうに飲んでいく。
サソリは、少年の飲んでいく挙動に注意して観察を始める。
そして、少年が一息ついたところで少年の脈拍を取っていき、飲み物の影響をうかがう。
「即効性であれば、数分で症状が現れるな、遅効性であれば二、三時間の間を空けて効きだすから……設備が充実していれば詳細にわかるが……」
少年はサソリの行動に疑問を生じた。
「お兄ちゃん何してるの?」
「ん、お前が飲んだものが有害か無害かを判定する。少し待て」
「ゆうがいって?」
「身体に悪い影響がないかどうかだ。最悪死に至るかもしれん」
「死ぬの。僕死んじゃうの?」
「さあな、これから判断する……っておい!」
そこには、今にも泣き出しそうに顔を歪めた少年がいた。
「死んじゃう……死んじゃう」
「待て!まだ決まったわけじゃないから、おい乱すな」
「えっく、えっぐ!わああああああああああーん」
店内に響きわたる、子供の泣き声!
ぽろぽろと大粒の涙を流して、泣き始める子供に何をしたらよいかわからずにサソリは固まった。
「何してんの!アンタは!?」
御坂が子供の泣き声にすっ飛んできて、チョップでサソリの頭に思い切り捻じ込む!
「痛ってなあ!!人の体をなんだと思ってんだよ!」
チョップの余韻でヒリヒリする頭に両腕を翳して、うずくまるサソリに御坂が仁王立ちで説教を始めていく。子供は御坂と来た白井が慰めている。
「大丈夫ですわよ飲んで、あそこにいる頭のおかしい人なんか気にしないで良いですからねえ」
よしよしと頭を撫でると、泣き止んで元気に席へと少年は戻って行った。
「何でまた子供泣かしていたのよ」
「いや、この飲み物が毒か否かの判断をだな」
「だからって子供を使うことないでしょ」
「子供の方が代謝が活発なんだよ、実験材料には持ってこいだ」
コイツ……!
御坂はグーに拳を固めてサソリの頭に拳骨を入れた。
「何が実験よ!こんなバカげた騒ぎ起こしておいて!それにね、それは安全な飲み物だから大丈夫よ」
「……安全かどうかはオレが判断する、原材料を言え!」
サソリは痛みで生じた涙を隠すように黒い炭酸水を指さす。
………………
「それは……知ってはいけない謎よ」
「は?」
「そうですわね。知っているのは世界で二人だけという噂もあるほどですし」
白井が腕組みをしてフムフムと頷いて加えた。
「なおさら危ねえだろ!何で平気で飲んでんだよ」

ドリンクバーへと行ってしまった三人を横目で眺めながら木山は一人ボーっとした様子で座っていた。
「見てて飽きないな」
 
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