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赤い帽子

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3部分:第三章


第三章

 その本を開いてあるページを開いた。そこにはかなり古い手書きの文字で色々と書かれていた。時折その読みにくさに顔を顰めながらも読み解いていく。
「やはりこれか」
 読みながらふと呟いた。
「これならばやはり」
 何かがわかったようであった。彼はその日はそのままずっと部屋にこもったままであった。そうしてその翌日。またしても事件が起こったのであった。
 今度の事件もまた街中であった。今度は深夜の路上で浮浪者が殺された。背中から例の斧でざっくりとやられてしまっていた。やはり即死であった。
「これで十一人か」10 
 早朝まだ人も車もない事件現場に捜査スタッフの殆どが集まっていた。その中には署長もいる。彼は被害者が血の海の中にうつ伏せに倒れているのを見て忌々しげに呟いた。
「しかも昨日の今日でだ」
「そうですね」
 そこにいた白衣の男は平然とした様子で署長の言葉に応えた。
「やはり起きました」
「やはりか」
「はい」
 やはりそのままの態度での返事だった。
「しかも事故現場も予想通りでした」
「事故現場もか」
「ここは過去交通事故が起こっていますね」
「う、うむ」
 副署長は男の言葉に驚いた顔をして答えた。
「その通りだ。しかしそれをどうして」
「調べさせて頂きました」
 ここでも味気ない返答であった。
「犠牲者が出てその血で真っ赤に染まったと」
「その通りだ。そこまで知っているのか」
「過去の十件の殺人事件についても調べました」
 男はそれについても言及してきた。
「そこでは全て過去に事故や事件があり人が死んだ場所でした」
「そうだったのか」
 署長はそれを聞いて目を顰めさせた。これには気付いていなかったのだ。
「まさかとは思っていたが」
「そういえばそうでした」
 副署長も白衣の男の言葉にようやく気付いたといった感じであった。彼はこの署にいてかなり長い為元々そうした知識も持っていたのである。だが今回の事件のことばかり頭にありそのことを忘れてしまっていたのだ。白衣の男がそれを思い出せたのである。
「確かに。それ等全ての事故や事件では」
「犠牲者が血塗れになって死んでいます」
 男はこう述べた。
「そして今回の連続殺人事件でも」
「同じように血の海の中で人が死んでいるな」
 署長もそこまで聞いて言う。
「では犯人はそれをなぞっているというのか」
「いえ、そうではないでしょう」
 だが男は署長のその言葉を否定した。
「むしろ誘われているのです」
「誘われている!?」
「そうです、血に」
 そしてこう言うのだった。
「それで事件を起こしているのです。犠牲者はこの場合は誰でもいいのです」
「そうだったのか」
「そうです。そして」
 男はまた言う。
「次でおそらく事件は解決するでしょう」
「次でか」
「殺害現場が特定されますので」
 男は冷徹な声でまた述べた。
「次で終わりです」
「ではどうするのだ?」
「お任せ下さい」
 昨日と同じ言葉であった。
「私に」
「そうか。ではまた考えがあるのだな」
「その通りです。今夜に全ては終わります」
 こうまで言うのであった。
「私が終わらせますので」
「わかった。それではだ」
 ここで署長は言う。
「それも任せたい。いいな」
「署長」
 副署長は今の署長の言葉に眉を顰めさせて問う。
「宜しいのですか、それで」
「事件の解決をか」
「はい、彼は医者です」
 そういう触れ込みである。これは副署長だけでなく署長も知っていた。だからこそ副署長は彼にそれを確かめるように問うたのである。
「それで事件の解決までとは」
「ですが。私はできます」
 しかし目の前でそう言われても彼の自信は変わらないのだった。
「必ずや」
「できなかったらどうするのかね?」
 副署長は怪訝な顔で彼に問う。
「相手は間違いなく凶悪な殺人鬼だ。それの相手なぞ」
「既にその為の用意もしておりますので」
 それでも彼は返事を変えない。
「何の心配もいりません」
「君が殺される危険もあるのにか」
「確かにそれはあります」
 これについては彼も認めるところであった。だがそれでもその口調はいつもと変わりはしない。あくまで淡々として感情に乏しいものであった。
「ですがその危険もまた」
「君のその備えで何もないのだね?」
「その通りです。ですから」
「わかった。そこまで言うのならいい」
 副署長もこれで根負けした。遂に彼の言葉を認めたのである。
「君に任せよう。それでいいな」
「それで御願いします」
「署長、私から言うことはもうありません」
 ここまで述べたうえで署長にも告げるのだった。
 
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