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アーチャー”が”憑依

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十五話

「ここ、か」

目の前には無数の鳥居が鎮座し、山の上へと続いている。一見、高名な神社か何かの入り口に見えなくもないここだが、その実態は日本を二分する魔法組織の片割れ。関西呪術協会総本山への入り口なのだ。
木乃香を狙いとした襲撃があったと学園長に報告した所、早々に親書を届け関西側にも対処、協力を要請せよとの指示を受けたため朝からネギはここを訪れたのだ。

「さて、何も無ければいいが」

相手とて関西呪術協会まで出張ってきてはさすがに手が出せなくなるだろうし、ここから総本山までの僅かな道中に仕掛けてくる可能性は十分にありうる。総本山の目の前で事を起こすのは不味い様に思えるかもしれないが、任務達成の直前はどうしても気が緩んでしまう。その事を考えれば、多少のリスクを背負ってでも、と考えてもおかしくは無い。



「どうぞこちらへ」

「はい」

結果から言えば、妨害はなかった。ネギは広い一室に案内され関西の長を待っている。

「お待たせしました。私が関西呪術協会の長、近衛詠春と申します」

「関東魔法協会のネギ・スプリングフィールドです。この度は関東のために時間を割いて頂き、ありがとうございます」

「いえ、此方とて両者の関係改善は望むところですので。それにしても、良く似ている」

懐かしむ様な笑顔を見せる詠春。彼は行方知れずになって久しいナギ・スプリングフィールドの仲間なのだ。故郷の者達に瓜二つと評されたネギに、友の姿を見るのも無理はあるまい。

「此方が、学園長より託された親書になります」

「確かに、受け取りました」

少しの時間を置いて、ネギは懐から取り出した親書を手渡した。一応外面は正式な文書である親書を目の前で読んだりはしないのか、詠春はそれを懐へとしまう。

「それで、御息女を狙った襲撃者に関してなのですが……」

「ええ、聞いています」

先に学園の方に連絡を受けていたのか、詠春の顔に驚愕の色は無い。あるのは愛しい娘が裏の世界に巻き込まれようとしていることに対しての苦渋のみだ。

「しかし、本当なのですか? エヴァンジェリンクラスの強者が居ると言うのは」

「間違いなく」

そして、この一点が問題だった。エヴァンジェリンクラスの強者。即ち世界最強レベルの者ということだ。詠春はネギがエヴァンジェリンに師事を仰いでいると言うことにも驚いたが、それほどの実力者が日本に居るという事態に更に驚いていた。

「不味いですね……現在、此方の実力者は各地に出回っていますし、そのレベルの相手に対することが出来るのは現状は私一人です。それに、その私も現役を退いて長い。戦ったとしても、勝率は低いでしょう」

「……分かりました。白髪の少年については此方で何とかします。いざとなれば、何とか出来るあてもありますので」

何とかすると言った当たりで詠春は驚愕したが、ネギの言うあてとやらが嘘ではないと察したのだろう。特に反対する事は無かった。

「それでですが、此方の総本山を近衛木乃香防衛の拠点として使わせていただきたい」

「その申し出を受けましょう」

さすが、というべきかこの総本山に張り巡らされている結界はかなり強固なものだ。度々言っているが、相手には最強クラスの者がいるため安全、というわけではないが一般人が多くおり派手に動けない旅館などよりはよっぽどましだろう。

「では、学園長に頼んで近衛を此方に滞在させる理由づけを……」

携帯を取り出そうとポケットに手を伸ばした所で先に携帯が振動した。ネギは詠春とアイコンタクトをして携帯に出る許可を得ると携帯を開いて画面を見た。

「刹那からです。何かあったのかもしれません」

画面に表示されたのは桜咲刹那の文字。もしや何かがあったのかとネギは急いで通話ボタンを押し、次いで詠春にも聞こえる様にスピーカーボタンを押した。

『ネギ先生!』

「刹那、落ち着いて状況を説明しろ」

携帯を通して聞こえてくる声にはあまり余裕がない。ネギは落ち着くように一声かけて、状況を説明するように促す。

「襲撃です。方法は投擲による攻撃! 投擲物は棒手裏剣!」

「厄介ですね」

そう、詠春の言うとおり厄介だ。刹那たちは班で行動していたはずなので少なくとも襲撃開始時は周囲に人がいたはずだ。そして、周りに人がいる故に刹那は投擲物の回避を封じられている。

「人気のない場所には、いけんだろうな」

選択は二つ。人気のない場所に移動して相手を誘うか、逆に今以上に人が密集する場所に移動し、相手の攻撃を封じつつ身を隠すかだ。前者は修学旅行で観光をしていただろうから早々人気のない場所になど行けるわけがないだろう。後者は、さすがに一般人に被害を与えることはないだろうという希望的観測が入るが有効ではあるだろう。

『ひとまずシネマ村に向かおうと思いますが』

刹那もネギと同じ考えに至ったのだろう。案の是非を問うてくる。ネギはそれにすぐに返事をすることなく、詠春を見やった。この案はある意味一般人を盾にするということだ。そんな案を、この地をこれまで守ってきた組織に許可を得ずに行うのは不味いだろう。

「ひとまず、その案でいきましょう。刹那君、このかをお願いします」

『この声は長! おられたのですか!?』

「刹那、私も至急シネマ村へ向かう。それまで、頼んだぞ」

『はい!』

刹那の強い返事を最後に、電話は切られた。

「それでは、私は現場へ向かいます。近衛を保護したのち、此方へ戻ります」

「分かりました。娘を、お願いします」

「分かっています。私は教師ですから、生徒は守ります。全力で」

頭を下げる詠春を背に、ネギはシネマ村へと向かう。






「まっとったでぇ! 勝負や!」

「…………」

本山を出てすぐ。行きにも通った鳥居が数多整列する通路で、ネギは敵の罠に落ちた。エミヤであった頃の世界の異常に対する敏感さは此方の世界の結界等にも有効だったらしく早々に気付いたのはよかったが、この結界は性質が悪かった。
無限ループ。一言で表すならこれだ。前に行っても後ろに行っても横に行っても同じ場所に戻ってきてしまう。これほどの結界ならば起点が存在するだろうと探しに行こうとした刹那、現れたのがこの少年だ。
黒い髪に学ランを着たネギと同年代の少年。しかし、顔の横には存在するはずの耳が無く。代わりに頭に犬のような獣耳が鎮座している。

「ハーフ、だな。一体、何の用だ?」

「勝負やゆうたやろ!」

「断る。理由が無い」

この少年が件の一味であろうことは容易く想像できた。あえて会話をしているのは少しでも情報を集めようとしているからだ。だが……

「お前にはなくても、俺にはあるんや!」

「無防備に突っ込むか。愚かだな」

「ごっ……!?」

ネギとて急いでいる。情報が聞き出せないのならば、早々に気絶させるだけだ。フェイントも何もいれずに正面から瞬動で突っ込んで来た少年の腹部にカウンターで拳を叩きこみ、意識を奪う。

「気絶したな。獣化をされては面倒だからな」

あいにくと裏の者を縛っておけるような物を持っていないため、仕方なくネギは少年を道端に転ばせておく。そして、結界の起点を探し、早々にその場を去った。





「くっ!」

飛来する三つの影。刹那はその軌道を正確に見極めつかみ取る。つかみ取ったのは鋭く研がれた棒手裏剣。気や魔力で強化せずとも人体に容易く突き刺さるだろう業物だ。

「せ、せっちゃん。どうしたん?」

「い、いえ。とにかく、付いてきて下さい!」

突然腕を掴み走り出した幼馴染に木乃香は必死に付き従っていた。図書館探検部として基礎体力はそれなりにあるものの、剣道部どころか裏の世界でも現役まっただ中の刹那の走りに付いて行くのは辛い。ただ、辛いにも関わらずその顔に笑みが浮かんでいるのは麻帆良に来てからというもの素気なかった刹那が昔の様に手を繋いでくれていると言う現状が、どうしようもなく嬉しいからだろう。

「ちょ、ちょっと~。どこいくのよ!」

「と、突然マラソンだなんて……」

後ろの方で必死に追いすがる班員が何かを言っているが今の刹那にそこまで気を割く余裕はなかった。今も、木乃香向けて放たれた棒手裏剣をキャッチしている。

「見えた!」

一時身を隠すために向かっていた目的地、シネマ村の外壁が見えてきた。刹那はもう待てないとばかりに木乃香を抱き上げ……飛んだ。

「は?」

「え?」

「嘘?」

目の前で起こったことに、3-Aの皆は思わず足を止めた。なんせ、クラスメイトが人一人抱えて宙を舞ったのだ。その本人は武道四天王と言われる面子の一人とはいえ、さすがに驚いていた。

「てゆーか、金払えです」

ただ一人、クラスメイトに突っ込みを入れる者もいたが。





「さて、刹那たちはどこだ?」

シネマ村の一角にある大きな城。その屋根の上で、ネギは周囲を見渡していた。最大速度で飛んできたものの、本山で連絡を受けてからそれなりの時間が経ってしまっている。早く見つけなければ。そう思った所で、大きな人混みが目に付いた。場所が場所だけに撮影でもしているのかとネギは興味なさげに軽く視線をやったのだが、その中心にいる者たちを確認し、目を見開いた。

「やってくれる!」

人混みの中心にいたのは刹那と木乃香。そして、敵だった。想像するに、一般客に撮影と想わせることで逃げ道をふさいだのだろう。中々に、頭が回る。だが、放っておくと言う選択肢は無い。

「さて、い「かせないよ」

屋上より身を投げ出そうとした瞬間、突如ネギの後ろで発生した魔力。そして現れる気配。ネギは屋上から飛ぶ事を中断し、顔めがけて放たれた鋭い蹴りを身を低くすることでかわした。数本の髪がはらはらと舞落ちることから、今の蹴りの鋭さがうかがえる。

「またお前か」

すぐさま飛びのき、蹴りを放った相手と顔を突き合わせてみれば修学旅行最初の夜に対峙した”最強クラス”の少年が、そこにいた。

「邪魔はさせないよ」

「…………」

肩越しにチラリと眼下を見てみれば、刹那が戦いを始めていた。一般人には被害は出ていない……と思ったが、何故か3-Aの生徒何人かが式紙に押さえつけられていた。とりあえず、実害はなさそうだったためネギは見なかったことにした。

「安心していい。一般人に傷は付けない」

「そうか。出来ればその親切心を私にも働かせて欲しいものだ」

「裏の者は話が別さ」

両者の体を魔力が包む。発言した魔力の量は同等。発揮される能力が等しいなら、後は技量と心が勝負を決める。

「じゃあ、行くよ」

ゆらり、と動きだした相手に合わせる様にネギは構えをとり、放たれた拳を迎え撃った。 
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