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龍が如く‐未来想う者たち‐

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秋山 駿
第二章 交わる想い
  第三話 協力関係

遥がひと通り話し終えると、思い出したせいか目には再び涙を浮かべていた。
黙って聞いていた秋山と麻田は、互いに顔を見合わせる。
想定よりも重い事態に言葉が出て来ずにいると、握り拳を震わせていた麻田が突然秋山に向き直った。


「4代目、俺も捜します」
「本当か?」
「こんな話を聞いて、はいさようならなんて無粋な真似出来ませんよ」
「それはありがたいけど、組長さんは下手すれば4代目の命を……」
「あの人は、絶対そんな真似しません。暴力で全てを解決しようとする喜瀬さんは、組長とは全然違うお人なので」


麻田自身は真面目で信用に値するが、まだ見ぬ足立に関しては信用どころか下手すれば敵として対峙するだろう。
どうするべきかと方針に悩んでいると、ひとつ思い出したかの様に麻田が提案を持ちかけた。


「俺の事を信用してもらう為に、いや組長の信用の為に会っていただきたい方がいます」
「俺に?」


話を詳しく聞くと、どうやらアメリカに行っていた足立の幼馴染である通称アリスと呼ばれる女性が、つい最近日本に戻ってきたという。
本来なら足立と共に外食の予定があったらしいが、足立側の事情で店に行けず待たせてしまっているらしい。
始めは知った事ではないと何となく聞き流していたが、とある言葉に耳を疑った。


「彼女は、昔の4代目を知っています」


最初は聞き間違いかと再度聞き直すも、返ってくる答えは同じだった。
桐生の事を知っているのであれば、少しでも探す手掛かりが欲しい。
それが足立の信用を得る為の策になるとは到底思えないが、八方塞がりな今を打開できるかもしれないのだ。
ひとつ深呼吸をしてから、わかったと声をあげた。


「良かった、そう言っていただけて」
「けど、組長さんの信用をこれで得られるとは到底思えないけどね」
「組長が何を考えているか、それを知ってもらうだけでも十分です。後の判断は、全て貴方に」
「悪いけど、遥ちゃんを頼んでもいいかな?」
「分かりました。彼女は、【バンタム】というバーに居ます。道中、喜瀬組にはお気をつけて」


遥を託し、秋山は足早に事務所を出た。
ここに遥を置いて行くことは正直怖かったが、連れ出して喜瀬組に見つかった事を考えれば今はここが1番安全なように思える。
かと言っていつまでも置いていく訳にはいかないので、急足でバンタムの方角へと向かった。


バンタムは、ミレニアムタワーの近くにある小さなバー。
足立の事務所があるピンク通りから比較的近い場所にあり、ものの数分で店前に辿り着いた。
昔から数多くの事件に巻き込まれる事が多かった為か、人通りが多い場所にあるにも関わらず入って行く人は少ない。

店の扉を開けると、客は1人しか居なかった。
黒スーツの、髪を後ろに結った女。
すぐにその女の隣に座り、秋山は注文もせず女に問いかけた。


「アリスってのは、貴方ですか?」


女のお酒を呑んでいた手が止まり、俯いていた顔を上げる。
アリスという名とはかけ離れた、その顔は日本人だった。
一切笑わず、ただ秋山を睨む。


「誰?」
「俺は秋山。この街で店やってる、ただの金貸しですよ。麻田さんから、この場所を聞きました」
「そう、東城会の人間じゃないのね」


一瞬だが、女の顔に笑みがこぼれる。
だが同時に、少し寂しげな表情も見せた。


「アリスというのは」
「わかったかもしれないけど、もちろん偽名。海外に住んでるから、こっちの名前の方がよく使うわ」
「なるほど。本名は、明かせないと?」
「いえ、東城会の人間じゃないのなら大丈夫」


そう言った女は、改めて秋山に向き直る。
ポケットから名刺を取り出し、机の上に見えるように置かれた。
何やらカタカナで沢山肩書きが書かれていたが、真ん中の名前に視線を落とす。


狭山(さやま)さんですか」
「そう、狭山(さやま)(かおる)。今は、休暇でここに来ているの。よろしく、秋山さん」


そうして2人は、固い握手を交わした。 
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