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銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)

作者:azuraiiru
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第二十六話 ヴァンフリート4=2 (その1)

 ヴァンフリート4=2 直径2、260キロ、氷と硫黄酸化物と火山性岩石におおわれた不毛な衛星だ。重力は0.25G、離着陸時の負担は少ない。大気は微量で窒素が主成分だ。俺たちが追放命令、いや待機命令を出された場所はそんなところだった。

「エーリッヒ、上空の援護兵力はどうする」
「援護兵力は置かないほうが良いのではないですか、大佐」
「そうです。なまじ上空に少数の兵力を置けば反乱軍の注意を引きます」
「反って危険でしょう」

 ミュラーの問いかけにクーン少佐、バーリンゲン少佐、アンベルク大尉が意見を具申してくる。一理有るように見えるのだが駄目だ。こいつらの意見では敵が上空に来るまで気付かない、いや上空に来ても気付かない可能性が有る。原作では上空に援護兵力を置かなかった。これが混乱の一因になっていると俺は考えている。

「そうだね。少数の兵を置くのは反って危険だろう。五千隻を上空で待機させよう」
「五千隻ですか。少し多すぎるのではありませんか」
 クーン少佐が言ってきた。先日の勝ち戦より少しは協力的になってきたようだ。

「反乱軍は最低でもあと二個艦隊あるから五千隻でも少ないくらいだと思う。幸い此処は重力が小さいから離着陸には時間がかからない。かなり遠距離まで哨戒行動を徹底させ、敵を発見しだい全軍で上空に上がる。総司令部に連絡を送り、増援を待って反撃するのがいいだろうと思う」

 ほとんど反対するものも無く、俺の提示した案に決まった。
「では早速、援護兵力を選抜しよう」
「ナイトハルト、ミューゼル准将は下ろしてくれないか」
「ミューゼル准将?……わかった」

 降下直後、旗艦オストファーレンで将官会議が行われた。
「降下の際、小官が航路設定を行いましたが、その際、敵の通信波を傍受しました。通信波の方向を解析するとこの衛星の裏側、南半球に反乱軍の活動根拠地が有ると推測されます。」

 ラインハルトが意見を具申している。ただね、彼の場合、意見具申というより挑発しているようにしか聞こえないんだよね。これじゃ皆反発するって。それにしても、やはり補給基地は有るか。ま、当然だな。となると混戦になるのをどこまで防げるかだが……。

 ラインハルトとグリンメルスハウゼンが話し合っている。”敵がいるのか”、”可能性が有るから無人偵察隊を出そう”、そんな事をぐじゃぐじゃ言っている。……地上攻撃をどれだけ早く切り上げられるかがポイントになるな。ローゼンリッターが相手だ、一つ間違うとリューネブルクの戦死もありうる。厄介だな。

「参謀長はいかが思われますか」
 いきなりラインハルトが俺に振ってきた。何かこいつ挑発的なんだよな。自分で説得しろよ、全く。
「小官が意見を述べる前に、他の方々の意見を聞きたいのですが?」

 途端に参謀連中、分艦隊司令官が意見を言い出した。内容は次のようなものだ。
 1.軽率な偵察はこちらの存在を敵に教える事になる。
 2.総司令部からの命令は待機である。
 3.敵の兵力が弱小であれば攻撃を受けてから対処すればよい。

 はっきり言って理由になっていない。ラインハルトに対する反発からの反対意見、感情論だ。態度悪いもんね。姉のおかげで出世したと思っている人間もいるし感情論になるのもわかるよ。意見が出尽くしたようだ。意見というよりラインハルトに対する鬱憤を晴らしたという感じだ。皆、自然と俺の方を見ている。やれやれだ。

「小官はミューゼル准将の意見を支持します。もし、反乱軍が存在するとなると当然ですが彼らは機動部隊に救援を求めるでしょう。機動部隊がヴァンフリート4=2に来れば、我々は上空へ部隊を展開せざるを得ません、その際地上から攻撃を受ける事になります。最悪の場合、上空の機動部隊、地上の反乱軍、その両方から挟撃されることになります。早急に敵の存在の有無を確かめ、存在するのであれば速やかに排除するべきです」

「敵基地があったとして、攻撃中に敵機動部隊が来た場合はどうします。味方を見捨てるのですか?」
「敵基地の存在が確認された場合、まず総司令部に報告します。その上で敵基地を攻撃する。敵機動部隊が接近してきた場合には、地上に有る八千隻のうち五千隻を上空に展開し上空の五千隻と共に防衛戦を展開、地上の三千隻は敵基地の攻略終了後、攻撃部隊を回収し上空にある敵機動部隊の後方に展開し挟撃を図ります」

「しかし、艦隊戦で味方は劣勢です。耐え切れるかどうか……」
「心配要りません。ミュッケンベルガー元帥がすぐやってきます。元帥閣下は宇宙艦隊の実力を確認したいのです。我々が敵基地を攻撃すれば、救援がやってくると判断するでしょう。つまり決戦の機会が訪れると」 
「司令長官を利用するのですか!」
「利用するとは人聞きの悪い。此処に基地が有るとなれば敵艦隊が来るのは必至です。ならばこちらの手で舞台を整えて差し上げようというのです。司令官閣下、いかがでしょうか」 
「……参謀長に任せる」

「ナイトハルト、ワルキューレを使って偵察行動をさせてくれ」
「ワルキューレで、判った」
「それと対地、対空迎撃システムの設置と稼動を」
「判った」

「リューネブルク准将、ミューゼル准将、地上基地攻略のための準備を。敵兵力は2万を想定してください」
「はっ」
「敵基地が発見されたときにはそのままお二人に攻撃隊を指揮してもらいます。リューネブルク准将が主将、ミューゼル准将には副将を勤めてもらいます」
「承った」
「はっ」


■ラインハルト・フォン・ミューゼル

 将官会議が終わった後、ヴァレンシュタイン大佐が参謀長室へ誘ってきた。キルヒアイスに「先に戻っていてくれ」というとヴァレンシュタインはキルヒアイスの同行も認めた。俺は正直面白くない。リューネブルクの下で地上戦など不本意以外の何者でもない。何を考えている、ヴァレンシュタイン。

「先程の会議ですが、何故あんな事をしたのです」
「なんの話だ」
「偵察隊のことです。周りの意見を聞かず、いきなり小官の意見を求めましたが」
「参謀長の意見を求めるのは当然であろう、卿の言っている事が私にはわからない」

「閣下はご自身の意見が反対されるのがわかっていた。それゆえ小官を使って反対意見を押さえつけようとした。違いますか?」
その通りだ。あいつらに話しても無駄だからな。
「……時間の無駄だ」

「軍議なのです。時間を掛けるのは当然でしょう。小官にできた事が閣下に出来ないとは思いません」
「……」
馬鹿を相手にするのはごめんだ。
「馬鹿を相手にするのはごめんですか、だから小官に相手をさせたと、」
「!」

「その様子ではリューネブルク准将の下につけたのも不満そうですね。でも准将は地上戦の専門家ですよ」
「何故私が地上戦をしなければならないのだ、ヴァレンシュタイン」
「勝つためです。他に出来る人がいません。それだけです。」
「……」

「閣下は勝利を得る事よりも御自身が武勲を上げる事を優先していませんか?」
「な!」
「自分さえ武勲を上げれば良い、だから周囲との協調など必要としない」
「ヴァレンシュタイン大佐、少し言いすぎでしょう」
「キルヒアイス大尉。ミューゼル准将を甘やかすのは止めてください」
「甘やかす……」

「そうです。今はまだ准将という低い地位にいるから目立ちません。しかし、これから先昇進すれば権限も動かす兵力も大きくなります。責任も大きくなるのです。そういう立場の方が自身の武勲を優先させるようになったら軍はどうなります」
「ラインハルト様は、いえミューゼル准将はそのような方ではありません。」

「ラインハルト様ですか……卿は帝国の軍人である前にミューゼル准将の家臣になっていませんか。だから准将を甘やかしている」
「!」
「これから先、より上位へ登っていこうとするならば、個人の武勲ではなく軍の勝利のために行動すべきでしょう。そうでなければ誰も閣下にはついてきません。孤立し結局なにも出来ずに終わります」

「小官は閣下を天才だと思っています。ですが、天才である事と天才が組織の中でどう生き
るか、組織が天才をどう遇するかは別問題です。上手く折り合いをつけ、より高みに登って欲しいと思います」


■ジークフリード・キルヒアイス

 私とラインハルト様は参謀長室を出た後しばらく無言のまま歩いた。ヴァレンシュタイン大佐の言葉が耳にこだまする。
「ミューゼル准将を甘やかすのは止めてください」
「帝国の軍人である前にミューゼル准将の家臣になっていませんか」

否定したいが否定できない。私は何処かでラインハルト様のすることを全て正しいと思っていなかったか?。ラインハルト様に対して迎合していなかったか。ヴァレンシュタイン大佐はそれを見抜いていた……。

「キルヒアイス。俺はどうやら焦っていたらしい。周りが俺を認めないがゆえに俺も周りを無視し始めていた。周りに俺を認めさせる努力を怠っていたかもしれない……」
「ラインハルト様」

「ヴァレンシュタインの言うとおりだ。これからの俺には味方が必要だ。そうでなければより大きく羽ばたけない」
「ラインハルト様ならきっとお出来になります」
「キルヒアイス、俺を甘やかさないでくれ。俺が間違っていたら叱ってくれ」
「はい、ラインハルト様」

 ラインハルト様の顔は晴れ晴れとしていた。なにか吹っ切れたような表情だ。また一つラインハルト様は大きくなったと思う。しかし私は素直に喜べなかった。ヴァレンシュタイン大佐。彼がラインハルト様に好意的なのは判った。それでも私には恐怖感が有る。彼はラインハルト様を見透かしていた、そして私のことも。彼は本当にラインハルト様の味方なのだろうか……




 
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