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ガンダムビルドファイターズトライ ~高みを目指す流星群~

作者:月神
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03 「高みを目指す者」

 何でこんなことになってるのかしら……。
 今日は記念すべき高校生活初日なのにも関わらず、あたしはそのように若干困惑気味だ。困惑している理由はバトルフィールドの前でミズシマ先輩を待っている人物にある。
 ナグモくんって見た感じ同年代よりも落ち着いてる……だから意外と好戦的というか、ケンカを売ったり買ったりするタイプだったとは予想外だったわ。
 まあ正直に言ってしまえば、あたしも先輩に対してあまり良い印象は持っていない。最初はなかなか良い男だと思ったりもしたけど、話してるうちにナルシストっぽくて女好きみたいな印象に変わっちゃったし。

「ヒョウドウさん、ナグモくんが負けちゃったらどうする? 大会に出るにはあと1人必要よ」
「そのときは部員を集めるだけです。集まらないようなら個人的に出場できる大会を探します」

 顔色ひとつ変えることなく言われたその言葉は正論過ぎて何も言えなくなってしまう。
 というか……ヒョウドウさんみたいなタイプってあたし苦手なのよね。何ていうかあたしと正反対な感じがするというか、何を考えてるか分かりにくいし。ナグモくんも似たような部分はあるんだけど、まだ彼の方が表情豊かで話しやすいわ。

「ねぇナグモくん……本当に先輩とやるつもり?」
「ああ」

 負けたら先輩が卒業するまで馬車馬のように扱き使われるかもしれないのに、ナグモくんの返事は実に淡々としている。
 負けた場合に自分がどうなるか分かっていないはずはないわよね……さっき先輩と話してるときは表情に出てたし、ヒョウドウさんみたいに感情が顔に出ない方じゃないはず。表に出さないようには出来る気はするけど……。
 そもそもの話、あたしやヒョウドウさんへのしつこい勧誘にケリを付けるためにこんなことになってしまったとも言えないわけではない。故にあまりどうこう言える立場ではないだろうし、そんなことを言うくらいなら応援の言葉を掛けるべきだ。

「覚悟は決まってるみたいだし、もう何も言わないわ。全力で勝ちに行きなさい」
「やるだけのことはやるさ」

 あまり気合が感じられない返事だ。
 まあナグモくんは素人ってわけじゃなさそうだし、バトルが刻一刻と迫ってきてるのに気負ってる素振りもないし、テンパってボロ負けみたいな一方的な展開にはならない気がする。リラックス出来ているとも言えるし、とやかく言うことはない。
 となると、あたしにあとできそうなことは……。
 先輩の実力は未知数。だけどコンテストでの入賞をメインに活動しているなら、ファイターよりもビルダー寄りのはず。
 それにナグモくんとのバトルを間近で見ることも出来るわ。ナグモくんと似たような条件で勝負を挑めば受けてくれそうだし、もしもの場合は可能な限りあたしがどうにかしないとね。この学校で足りない部員を集めるよりも簡単な気もするし。

「……にしても」

 あの先生、面倒事に巻き込まれるのが嫌なのかここの鍵を開けたら即行で職員室に戻ったわね。
 まあガンプラバトル部の顧問ってわけでもないみたいだし、バトルシステムとかは綺麗に保たれてたからいいんだけど。正直に言えば、下手に介入されてバトルがなしになるのはそれはそれで困るし。
 ひどいと思う人はいるかもしれないけど、あたしはガンプラファイター。経緯はどうあれ、ガンプラバトルが行われるなら多少なりとも興味を持つのは当然でしょ。
 そんなことを思っていると、閉まっていたドアが開いた。室内に入ってきたのはガンプラが入っているであろうケースを持ったミズシマ先輩。それに加えて、プラモデル部と思われる男子2人だ。

「どうやら逃げなかったようだね。その勇気だけは評価するよ」
「別に逃げる理由はないし、そもそも俺はファイターだ。バトルから逃げちゃファイターとは呼べない……ところでそっちの2人は?」
「うちの部員だよ。証人が多いほど勝負の結果で揉めたりしないだろうからね」

 先輩はあたしやヒョウドウさんが口を挟むとでも思っているのだろうか。
 確かにあたしは勝負が終わってから介入しようかと考えてはいる。けど不正でもない限り勝負の結果にどうこう言うつもりはない。
 ナグモくんは勝負事の結果はきちんと受け入れそうな気がするし、先輩が負けた場合の方が揉め事になる可能性が高そうだわ。先輩ってプライド高そうだし、あのふたりがちゃんとした証人なら面倒事にならなくて済むんだけどどうなることやら……。

「さて、無駄話はこれまでにして……さっそく始めようか!」

 そう言ってミズシマ先輩は手に持っていたケースを開けてガンプラを取り出す。まず目の入ったのは黄金色の輝き。Zガンダムに登場する百式をベースに改良しているようだ。
 全体的に装甲を鋭利な感じにしてるわね……赤いマントとか巨大な実体剣、それに盾を装備してるあたり騎士をイメージして改良したのかも。地区大会で結果を残してるって言うだけにそこそこの技術はあるみたいね。

「ふっ……どうだい? 美しく気高いだろう、僕の百式ナイトカスタムは!」

 確かに美しさや気高さがないとは言わない。……ただ、よくもまああそこまでナルシストらしさを出せるものだ。持ち主のせいで何かしらのフィルターが掛かっている可能性は否定できないけど。とにかくずっと見ていたいとは思わない。

「さあ、君も自分のガンプラを出すといい」
「言われなくても隠したりするつもりはないさ」

 そう言ってナグモくんは慣れた手つきでケースを開く。ケースの中からガンプラが取り出された直後、気が付けばあたしは言葉を漏らした。

「……嘘でしょ」

 ナグモくんが取り出したガンプラ……それは先輩の百式のように改良された機体ではない。
 クロスボーンガンダムX1フルクロス。クロスボーン作品に登場するクロスボーンガンダムX1にマント型増加装甲ユニット《フルクロス》を装備した最終決戦仕様機だ。
 フルクロスを見た限り武装はムラマサ・ブラスターやピーコック・スマッシャーといった基本的なものだけ……しかし、それでもはっきりと言える。このガンプラはトップクラスのビルダーでなければ作れないものだと。
 ――何なのあの作り込み……パッと見ただけで戦慄が走るなんて。もしも本当にあの機体をナグモくんが自身の手で作り上げたのなら、ビルダーとして先輩が霞むほどの力量を持っている。
 そして、先ほど先輩に向かって放った地区大会レベルの目標では低いといった言葉。それから察するに彼の目標は遥か高みにしかない。プラモデル部ではなくガンプラバトル部に入ろうとしていたことからして、ファイターとしても高い力量を持っている気がする。いったいどれほどの腕前なのだろうか……。

「やっぱり彼は……」
「え……ヒョウドウさん、あなた彼のついて何か知ってるの?」
「すみませんが話はあとにしてください。今は目の前のことに集中したいので」

 少しモヤモヤする部分もありはするが、確かにナグモくんが何者なのかということより、これから彼がどのような戦いをするのかの方が気になる。

「だ、誰に作ってもらったのかは知らないが……バトルを始めようじゃないか」
「ああ」

 ふたりはバトルシステムに己のGPベースとガンプラをセットする。ほぼ同時にバトルフィールドにプラフスキー粒子が高濃度で散布され始め、フィールド内は宇宙へと姿を変えた。
 ミズシマ先輩はフルクロスの出来栄えにバトルに不安を覚え始めたのか表情が硬い。一方ナグモくんは光球状の操縦桿を握り締め、精神統一のために閉じていたであろう目を静かに開けた。そこには先ほどまでなかった強い光が宿っており、全身からは強者の雰囲気が発せられているように思えた。

「ナグモ・キョウスケ……クロスボーンX1フルクロス、出る!」
「百式ナイトカスタム、出陣する!」

 互いの機体が戦場へと排出されバトルが開始される。
 フィールドは宇宙。コロニーがある場合もあるが、今回は純粋な宇宙空間のみだ。相手を倒すには宇宙を駆け回るしかない。
 先輩の百式は武装からして近接戦向けだわ。作り込みの差もありはするでしょうけど、元々ナグモくんの使うフルクロスは高重力対応型、それ故に高い推進力を持っている。射撃武装の面でも機動性でもナグモくんが有利……彼はどう戦うのかしら。

「いったいどこから……なっ、真正面からだと!?」

 モニターに映るフルクロスは先輩の言葉どおり、凄まじい勢いで接近していく。ビルダーとしての能力は高いがファイターとしては未熟なのか、それともあえてその行動を取っているかで解釈が変わってくる状況だ。

「馬鹿にしているのか知らないが、いくら速かろうとそれでは良い的だよ!」

 百式ナイトカスタムは機関銃を構えてフルクロスに向けて連射する。おそらく騎士的な雰囲気に合わせて実弾兵器にしたのだろうが、今回ばかりは運が良い。何故ならフルクロスにはIフィールドが搭載されているため、よほどのビーム兵器でもない限り無力化されてしまうからだ。

「そういうセリフは当ててからにしてもらおうか」

 フルクロスは最小限の動きで迫り来る銃弾を回避し、ほぼスピードを落とすことなく接近を続ける。
 クロスレンジに入るのと同時に、右手に持たれたムラマサ・ブラスターが百式ナイトカスタムに向かって振るわれる。その一撃は百式ナイトカスタムには届きはしなかったが、手に持っていた機関銃を切り裂いた。

「この機体の本領は近接……!」
「――遅い」

 百式ナイトカスタムが背中にある大剣を抜こうとするが、それよりも早くフルクロスがムラマサ・ブラスターを持ち替えてビームを放つ。
 先輩はどうにか盾で防ぐことに成功するが、フルクロスは全国レベルの作り込みが行われているだけに機体だけでなく武器の性能も高く、百式ナイトカスタムの盾を左腕ごと吹き飛ばした。
 ――……圧倒的過ぎる。ナグモくんのフルクロスはおそらく全国大会でも通用するほど高性能。加えて彼にはその高い性能をきちんと扱える腕がある。先輩が勝つ可能性なんてゼロに等しい。見ているだけのあたしでも恐怖に似た感情を覚えるんだから、きっと先輩はあのフルクロスが魔王のように見えてるでしょうね。

「これで終わりだ」

 ムラマサ・ブラスターの銃口が再度百式ナイトカスタムに向けられる。盾でも防ぎようがなかったのだから先輩が生き残るには回避するしか方法がない。しかし、ふたりの技術の差を考えるとこの攻撃で終わる可能性が大だ。
 戦いというよりは蹂躙って感じのバトルだったわね……えっ!?
 不意に戦場に走った光。それはフルクロスが放ったビームではない。
 百式ナイトカスタムにはビーム兵器は搭載されていたとしてもサーベルだけのはず。ビームが飛来した方向からしても百式ナイトカスタムではない。

「何なの今の攻撃。いったいどこから……っ!?」

 モニターに姿を現したのは銀色に塗られた2体のサザビー。追加武装などは見当たらないが、そんなことはどうだっていいことだ。
 意識を先輩側へ向けてみると、そこにはプラモデル部の男子達の姿があった。予想通り2体のサザビーはあのふたりのものらしい。

「ちょっとあんた達、何をやってんのよ。バトルに介入するなんて卑怯じゃない!」
「卑怯? それは人聞きの悪い」
「そうですよ。部長はあなた方にこう言ったはずです。もしも彼が勝ったら勧誘はやめる。ただし《こちら》が勝った場合はうちに入部してもらう、とね」

 確かにそのとおりだ。
 なんて納得できるわけがない。あちらの言い分はふざけている。無意識の内に強く歯を噛み締めてしまうほどに。

「馬鹿言ってんじゃないわよ、あんたらにプライドってもんはないの!」
「戦いというものは時として非情なものなのです」
「あなたもファイターならば理解できるでしょう」
「ふざけんな!」

 あんたらの言うような非情さなんてあたしは理解できない。大体あんた達のやっていることは非情とかじゃなくて単なる反則じゃない。こんな不公平な勝負の勝敗でナグモも今後が左右されるなんて馬鹿げてる。
 そう思ったあたしは自分のケースに手を掛ける。あちらが先に介入したのだからこちらが介入しても文句は言えないはずだ。

「コウガミさん、何をするつもりですか?」
「は? 何って見れば分かるでしょ。というか、何であんたはそんなにぼぅーとしてるわけ。あれを見て何も思わないの?」
「いえ、あなたと同じように姑息だとか卑怯だとは思います。ですが……だからといって彼が負けるとも思えません」
「確かにナグモの腕やガンプラの性能が高いのは分かる。でも3体なのよ、いくら何でも厳しいわ。それはあんただって分かるでしょ。何でそんなに落ち着いてられんのよ!」
「それは……彼が現ヨーロッパチャンピオンの最大の好敵手だからです」

 突拍子もない言葉にあたしの思考は鈍る。だがそれも仕方がないはずだ。唐突にヨーロッパチャンピオンなんて言葉が出てくれば誰だって様々な感情が芽生えるだろうから。

「コウガミ、心配してくれるのはありがたいがそこで見ててくれ。これくらいの逆境を打ち破れないようじゃ全国大会優勝なんて出来やしない」
「全国優勝だと? 笑わせるな」
「そうです。うちのような学校がそんなこと出来るはずがないでしょう」
「君は夢を見過ぎですね」

 百式ナイトカスタムは大剣を担ぐようにして構え、サザビー達は百式ナイトカスタムを守れる位置に移動しながらビームを次々と放つ。それをフルクロスは後退しながら全弾回避。Iフィールドで防ぐことも出来ただろうが、そうしなかったのは彼なりにリスクを考えた結果だろう。

「出来るはずがないだの、夢の見過ぎだの……そんな考えだからお前達はその程度のガンプラしか作れないんだ」
「ほざくな! お前達、奴は僕が切り捨てる。援護しろ!」
「分かりました。おい行くぞ!」
「おお、行けファンネル!」

 サザビー達のバックパックから6機ずつファンネルが射出される。このファンネルもこれといって改良点は見られないが、それでもこの手の武装は様々な角度から一斉射撃を行えるため、ファイターにとって厄介な武器のひとつだ。
 ファンネルから発射させるのはおそらくビームでしょうけど、Iフィールドで防ぐとその場から動けなくなる可能性が高い。そこに近接武器で追撃させるといくらフルクロスと言えど……。

「その程度じゃ俺のフルクロスは落とせやしない!」

 フルクロスは左手に持っていたピーコック・スマッシャーを構える。直後、高出力のビームが複数一斉に発射され、一瞬にして全てのファンネルを消し去る。またサザビーの立ち位置が悪かったこともあって、同時に光の奔流に飲み込まれた。

「なっ……よくも同士を。この仇……!」
「仲間への気遣いも時として命取りだ」

 自分から離れた瞬間を逃すはずもなく、フルクロスは残っていたサザビーへムラマサ・ブラスターを構えて射撃。それは的確に胴体を捉え、サザビーは次の瞬間には宇宙に漂うデブリへと姿を変えていた。
 気が付けば、戦場に残っているのは粒子残量を除けば無傷のフルクロスと手負いの百式だけ。状況はわずかな時間で逆転され、これからの展開は見らずとも予想が付く。

「残るはあんただけだな」
「く、来るな……来るなぁぁぁぁッ!」

 先輩は叫ぶそうに懇願するが、ナグモに手を緩める理由はない。逃げようとする百式にムラマサ・ブラスターを連射し、頭や足を吹き飛ばす。一撃で決められるだろうにそれをしないあたり性質が悪い。
 まあこのバトルのダメージレベルはCに設定させているため、バトル中であれば粉々に砕いても終了すれば元の形で戻ってくるし、ここまでの経緯を考えれば無理もない話だが。

「これで終わりだ!」

 フルクロスは一瞬にして百式に詰め寄り、ムラマサ・ブラスターを最上段で構える。ムラマサ・ブラスターからビームで形成された刃が無数に出現し、一気に振り下ろされたそれは圧倒的な切れ味を持って百式を両断する。爆発が起こる同時にシステムがバトルの終了を告げた。
 ヨーロッパチャンピオンの好敵手……普通なら疑問しか抱かない言葉だけど、あの化け物じみた性能のフルクロスとそれを難なく扱える腕を見せられると嘘だとも言えなくなる。ナグモ・キョウスケ……とんでもない男と出会ったものだわ。
 
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