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ガンダムビルドファイターズトライ ~高みを目指す流星群~

作者:月神
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プロローグ

 ガンプラ。
 これがガンダムのプラモデルの略称というのが分からない人間は、今の日本――いや世界においてそうはいないだろう。
 何故ならば、現代は《プラフスキー粒子》という存在のおかげでガンプラを自由自在に動かせて戦える時代だからだ。
 この戦いは《ガンプラバトル》と称され、世界規模の大会が開かれている。また日本でも《全日本ガンプラバトル選手権》と呼ばれる国内でも最大規模で行われる大会も毎年のように開催されている。
 俺――ナグモ・キョウスケも幼い頃から様々なガンダムを見て育ち、ガンプラを作って過ごしてきた。ガンプラバトルを始めたのは小学校に上がるのと同時だった。

「……このへんまでは普通なんだろうな」

 ただ俺のように、いくらガンプラバトルへの熱があっても、腕を磨くために中学に上がる前にヨーロッパへ行く者は少ないだろう。
 正直に言ってしまえば、俺は運が良かったと言える。
 これは俺の予想になってしまうが、俺がヨーロッパへ行くことが出来たのは、第一に親がガンダムやガンプラに関することが好きであること。また親が昔から海外で仕事をすることが多かったため、頼れる人間が多く居たことが挙げられる。
 というか……そうでもなければ、中学生にもなっていない子供に海外暮らしを簡単には許してくれないだろう。

「まあヨーロッパに行ったことについては後悔は何もしていないが……」

 ヨーロッパでの生活は楽しいものだったし、生涯においてライバルとも言える存在に出会うことも出来た。自信を持って親友とも呼べる。日本に帰るときは見送りにも来てくれたし、その時に今度は自分が日本に行くと言ってくれた。そのうち再会する日も訪れるだろう。

「……それまでに問題になりそうなのは学校生活だな」

 明日はこれから3年間通うことになる《流星学園》に入学式。時差ボケといった問題はどうにか改善出来ているが、3年ほど日本から離れていただけに友人はゼロに等しい。人が少ない地域に住んでいたならば違っただろうが……。

「……まあどうにかなるだろう」

 ヨーロッパでも友人を作ることは出来たんだ。なら日本で友人が作れないはずがない。ガンダムやガンプラバトルに興味のある人間は多いのだし、共通の話題があれば会話は出来る。無口な方だと言われはするが、別にコミュ障だと言われたことはないのだから。

「明日の準備は終わってるし……適当に外をぶらつくか」

 最近は日本語の復習やら生活習慣の改善で家に居ることが多かったし。ガンプラバトルもやってなかったからやりたくて仕方がない。
 だがしかし、流星学園に入ったらガンプラ部に入ろうと考えている。愛機を持ち歩いて何かあったら……と思うとあれこれ考えてしまう。
 ……愛機で戦うのが1番ではあるけど、ガンプラバトルをするだけなら店で買って作ったのでもいいしな。最近新しいガンプラ買ってないし、ガンプラを見て回るって意味でも今日は愛機は置いとくか。
 そう考えた俺は、財布やケータイといった最低限のものだけ持って家を出る。親は仕事で海外に行ってしまっているので戸締りは忘れない。

「……3年か」

 長いようで短く、短いようで長い時間だ。
 そのように思えるのは3年前の街並みと今目に映っている街並みに多少なりとも変化があるからだろう。例えば今向かっている街一番の商店街。そこには3年前にはなかったデパートが立っている。しかもそのデパートはファイターやビルダーのためにガンプラ売り場や制作場所、ガンプラバトルに力を入れてくれている。
 ちなみにファイターというのはガンプラバトルを行う人間のことであり、ビルダーというのはガンプラを作る人間のことだ。基本的にファイターは自分でガンプラを作るのでビルダーも兼ねていると言える。

「予想通り繁盛しているな」

 ガンダム区画とも言えそうなフロアには小学生から年配の方まで様々な年代の姿が確認できる。どのMSがカッコいいだの、このガンプラにこれを組み合わせたら……などと言っている姿はヨーロッパで見てきた光景と変わらない。

「さてと……」

 まずはガンプラでも見て回るか。
 このデパートは本当に品ぞろえが良い。初代やZ、ZZといいた宇宙世紀はもちろんのこと、最新作でもある鉄血のオルフェンズのガンプラも揃えている。ここにないシリーズはないと言ってもいいし、ガンプラ好きならここだけで1日潰せるだろう。
 それだけにどのシリーズから見ていくか非常に迷う。ガンダムという作品はそれぞれに魅力があるだけに目移りしやすいのだ。優柔不断なだけだと言われるかもしれないが、知識はガンプラバトルにおいて武器のひとつになる。ガンプラバトルに熱中している者なら迷うのが当然のはずだ。
 などと考えたもののやはり俺も人間だ。嫌いなシリーズはなくても好きなシリーズは存在しているし、好きなMSの傾向はある。それに昔からガンプラに関わる生活をしていたのだ。真っ先にチェックするのは最近出たガンプラになるのは仕方がないだろう。

「オルフェンズのガンプラはまだ数は少ないが……使ってくるファイターは居るだろうな」

 本格的なガンプラバトルで使うことはないだろうが、機体の特性や武装を知っておくのは必要だ。基本的に素組みで使ってくるファイターはいないとは思うが、ベースが分かっていれば対応できる部分も出てくるのだから。
 オルフェンズのガンプラを中心に見ながらリメイクされた過去の作品のガンプラを確認していく。性能面が大きく変わっているわけではないリメイクガンプラまで確認してしまうのは、ガンプラ好きの性というものだろう。さすがに衝動買いをしてしまったりはしないが。

「何かしら買ってガンプラバトルを……と思って来たものの、見ているだけで満足してきたな」

 最も愛着のあるガンプラが家にあるだけにそれ以外に手を出すのを躊躇っていたり、単純に精神的に大人になっただけかもしれない。
 まあ何にせよ、今の気持ちのまま何かを買っても後悔のような気持ちを抱く可能性が高い。ガンプラを見ている内に結構時間も経ったみたいだし、製作所やガンプラバトルを覗いて今日は帰るか。
 先に製作所へ足を運び邪魔ならない程度に観察していく。
 とはいえ、ある程度の力量を持つファイターやビルダーは人前で作ろうとはしない。製作所に居るのはガンプラ製作の初心者か指導役くらいのものだ。ガンプラに触れ始めた頃の記憶が刺激されるので初心を思い出せるし、楽しそうな表情を見れるので決して損はない。

「ねぇお兄ちゃん、ここはどうすればいいの?」
「あぁそこはね……」

 俺の目は製作所のとある一画で小学生の手伝いをしている少年に留まった。短めの黒髪に琥珀色の瞳、身長は俺よりも少し低めなので170前半といったところか。
 少年と小学生の顔は似ていないので兄妹ではない。それに彼は服装からしてここのスタッフでもないはずだ。
 まあご近所さんだとか、少年が困っていた小学生を助けようとして声を掛けた……など関係性はいくらでも考えられる。ただ教え方からしてそれなりに力量のあるファイターだろうな。このへんは直感による判断だから間違っている可能性もありはするが。

「……ん?」

 こちらの視線に気が付いたのか少年と目が合ってしまった。特別関わる理由がないし、下手に会話すると小学生に悪い。そう思った俺は軽く頭を下げるとガンプラバトルの方へ足を向けた。
 細かい作業をしているをしている製作所とは違い、ガンプラバトルを行っている一画は騒々しい雰囲気だ。いや歓声が上がって盛り上がっているだけなので活気があると言うべきか。
 今対戦しているカードは……片方はリック・ディアスをベースにした機体か。脚部やブースターを見る限り、機動性の強化はされているだろう。武装は見た限りバズーカやミサイルといった実弾系メイン……。

「実弾系は誘導性とかを持たせやすいが……今回の相手には分が悪そうだな」

 リック・ディアスの相手はセラヴィーガンダムをベースに改良を施された機体だ。全体的なカラーリングは水色と薄い紫。そのためかどことなく冷たさを感じる。
 実際にあのセラヴィーと対戦しているわけでも間近で見ているわけではないので正確性には欠けるだろうが、両手に持っているGNバズーカⅡは威力よりも連射性を高めているように思える。GNキャノンも存在しているが、その形状や追加されている武装を見る限り、パックパックは通常のセラフィムガンダムではないようだ。
 ――両肩と両足には改良されているGNフィールド発生装置があるみたいだし、装甲も部分部分補強されている。セラヴィーをより重火力・重装甲化した機体だな。
 機動性の低さは目に見て分かるので懐に入られたら終わりだろうが、リック・ディアスの弾幕は高出力兵器で一掃される。
 またセラヴィーの動きを見る限り、操る人物の腕前も相当なものだ。残り時間を見た限り、まだバトルが始まって間もない。状況を見る限り確実にリック・ディアスが追い込まれているので、近いうちにセラヴィーが勝利を収めるだろう。
 俺の予想は間違っていなかったようで、次の瞬間にはセラヴィーの攻撃がリック・ディアスの脚部を掠めた。一瞬行動が止まったところに追撃が行われ、直撃したリックディアスは大破する。
 このように言うと誤解があるかもしれないが、ガンプラバトルにはダメージレベルというものが存在している。これは従来通りのダメージが入るA、ある程度ダメージを抑えたB、完全にノーダメージのCがあり、大会でもない限りはCに設定されていることが多い。故にあのリック・ディアスは実際には壊れてはいない。

「いったいどんな奴が作ったんだか……」

 セラヴィーの製作者に興味を持った俺は人混みの合間を縫って進む。身長が180センチほどあるため、視界が塞がるということはほぼない。
 ……へぇ、人を見た目で判断するなとは聞くけどまさにそのとおりだな。
 今俺の瞳に映っている人物は、逞しい筋肉に身を包んだ巨漢ではない。あの元よりも格段に重量感の真下セラヴィーガンダムの使い手……それは華奢な印象さえ受ける同年代の少女だ。真面目そうといえば聞こえはいいが、感情に乏しい顔立ちをしている。
 まあ人なんて外見だけで判断できるものじゃないしな。それに人の数だけそれぞれの考えがあり、その分だけそれを具現化したガンプラもある。またガンプラバトルがしたいって熱が再発してきてるけど、それは今後のために取っておこう。彼女のような強敵がこの街にも居るのなら……

「愛機で戦ってこそ意味がある」

 
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