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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  127 【アルヴヘイム・オンライン】


SIDE 結城 乃愛

「結城さ~ん、あともう少し、あと1メートルちょっとですからね~」

「くっ──はい…っ」

手摺を支えに看護士さんが定めた位置に向おうとする。しかし衰えてしまっているボクの筋量では、相対的に体に根っ子が生えた様なもので、牛歩の様にしか進めない。……(むし)ろ牛よりもその歩みは遅いかも知れない。

(〝やらかし過ぎ〟だよ真人君…)

〝想定していたよりかは〟いくらか早くなった入院期間だが、暇潰し代わりに、内心でそうごちておいた。

〝原作〟に()ける【ソードアート・オンライン】の〝フェアリィ・ダンス編〟。

……それはテラ子安こと〝ゲ須郷〟が明日奈を──と云うよりは300人にも登る未帰還プレイヤーを【アルヴヘイム・オンライン】と云うVRMMORPGに閉じ込めて脳味噌を弄くる犯罪を〝キリトさん〟が従妹(リーファ)の手を借りながら暴く──と云うものだった。

それが〝この世界〟では──気が付いたら〝フェアリィ・ダンス編〟が終わっていた。【ALO】──とは厳密に云えば違うかもしれないが、〝電脳世界(あっち)〟で須郷に遭ったのは【SAO】がクリアされて直ぐの一回だけで、それ以降は須郷に遭うこともなく、いつの間にか〝現実世界(こっち)〟に戻されていた。

(ま、いっか)

そもそもの話、明日奈ではなくボクが【ALO】に捕まっている時点で乖離していたのだから、〝大体転生者(ボクたち)の所為〟と無理無理にだが納得しておく。

ちなみに、須郷に囚われたのが明日奈ではなく──乃愛(ボク)だったのは、〝乃愛(ボク)が須郷の婚約者だったから〟──と云うのはボクの勝手な想像である。……〝結城家(うち)〟はそれなりの〝名家〟なので、その辺りは納得出来ないこともない。

―すまない乃愛…。……私の眼は曇っていたようだ―

須郷との婚約はお父さんが決めていた事なので、ヤケに煤けたお父さんから謝られたのは記憶に新しい。……だが、ボクも転んだら只では起きたくなかったので、〝ボクの相手はボクが決める〟──とな約束を取り付けた。

……しかし、そのボクからの約束を受け入れた事で、お父さんと──〝相応しい相手と婚約させたかったらしい〟お母さんが軽く揉めたらしいが、そこら辺はあまり関知していない。

閑話休題。

よくよく考えれてみれば〝会社(レクト)〟を継げる結城(ゆうき) 浩一郎(こういちろう)──長兄が居て、〝子会社(レクトプログレス)〟に父が信頼を多大に置いている人物である須郷と、〝長女である乃愛(ボク)〟を婚約者としておくのはおかしい話ではなかったのかもしれない。

真人君曰(いわ)く、〝拉致監禁記憶操作と聞いて“アンドバリの指輪”余裕でした〟──らしいが、その事についてボクからゲ須郷に対しては、そう大して思うところは無い。

……敢えて云ったとしてもゲ須郷に一言あるだけで、その一言にしても〝出落ち乙〟くらいなものである。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 升田 真人

「……今の【ALO】ってどんな感じ?」

「〝あんな事〟があったからねぇ…。そりゃ、どの種族も、上から下がてんわやんわだったよ。……うち──〝猫妖精(ケットシー)〟なんて〝風妖精(シルフ)〟と同盟を組んで、〝いざ〝世界樹攻略〟!〟──って感じだったのに…」

乃愛のなんでも無い問い掛けに、稜ちゃんが註釈を添えながら答える。

須郷に“アンドバリの指輪”を使って、【ソードアート・オンライン】から帰還していなかったプレイヤーを解放するように命れ──もとい、〝お願い〟してから1週間。乃愛のリハビリは、他の未帰還だったプレイヤーに比べると〝順調以上〟に進んでいた。

なぜ乃愛のリハビリが他の未帰還だったプレイヤーより早いかと云うと──そこまで難しい事をしている訳でもなく、俺が〝仙術〟を用いたマッサージで乃愛と俺の気を循環させながら、乃愛の身体能力の快復を促進させているからだ。

……しかし、俺のその〝仙術マッサージ法〟は〝医科学的〟とは云い難く──こう云ってはなんだが、〝オカルトチック〟なので、その方法は事を知っているのはそう多くはない。稜ちゃん、乃愛、乃愛をお世話する数人の看護士さんだけで──それにしても、やはり方法が〝非医科学的〟なので、あまり言い広めない様にもお願いしてある。

閑話休題。

「あ、稜ちゃん、そこのりんご頂戴」

「はい、どうぞ」

(……何か疎外感が無い気がしないでもないが──まぁ、いいか)

稜ちゃんは乃愛からの頼み無碍(むげ)するわけでもなく、普通に俺がカットしたりんごを渡し、乃愛がそれをしゃくり、とかじる。乃愛、稜ちゃんが居る空間に混じっている俺からしたら、割りと見馴れた光景。

……〝意外と〟──と云ったら変なのかもしれないが、乃愛(こいびと)が居るのを知っていて俺に(はべ)る事を了承していた稜ちゃんと、俺が〝平賀 才人〟だった頃から──言い方はアレだが、〝ハーレム〟を許容していた乃愛(まどか)は、あまり仲が悪くなかったりする。

―初めまして、貴女(あなた)の名前は結城 乃愛さんですよね? 真人君からお話は予々(かねがね)聞いてます。……どうやら【SAO】内では夫婦だったとか…。……あ、自己紹介がまだでしたね。私、蒼月 稜です。……乃愛さんとは〝同じ男性(ひと)を好きになった者同士〟として、仲良くしたいと思ってます―

―丁寧な挨拶ありがとう。……蒼月 稜ちゃん、だね。初めまして、ボクは結城 乃愛。〝ボク〟って一人称はもう癖みたいなものだからスルーして良いよ。明日奈や真人君とかにいろいろ聞いてると思うけど、稜ちゃんには肩肘を張らずに居てもらえると嬉しいかな。……だって〝同じ男性(ひと)を好きになった者同士〟──だしね?―

と、そんなこんなで──数分もしないうちに軽口を言えるくらいには意気投合してしまった。……そうなると女2男1で分かれる様になり、そこはかとなく寂しくなる。

……贅沢な悩みだと云うことは理解していて──女同士で鞘当てみたいな関係にならなくて、安堵もしている。仲が悪いよりは仲が良い方が、〝善いこと〟には変わりないのだから。

「〝新生【ALO】〟のがアップデートされるのって、いつだっけ?」

「うーん、確か後1ヶ月くらい先かな。……“世界の種子(ザ・シード)”だっけ? 〝どこの誰か〟は知らないけど、あれをネットに上げてくれた人には感謝だね」

「……確かにあれ──“世界の種子(ザ・シード)”が無きゃ〝VRMMO〟ってコンテンツは全滅だったからな」

稜ちゃんの云う〝どこかの誰かさん〟──俺は、何でもないように答える。

須郷に自首させてから数日。須郷の悪行は衆目に曝されて、多大なる波紋を世間にもたらし──その波紋は、今俺が言った様に〝VRMMO〟と云うコンテンツ自体にまで及んだ。

【SAO】は云うまでもなく、【ALO】までもが犯罪の温床になっていたのだから、世間からのバッシングは、それはそれは──俺から見ても〝凄まじい〟の一言だった。もちろん【ALO】の販売元である〝レクトプログレス〟──ひいては〝レクト〟も大打撃を受けた模様である。

……そんな──〝虫の息〟と云う状況に追い込まれていた〝VRMMO〟に息を吹き返させたのが、稜ちゃんの云った“世界の種子(ザ・シード)”。……“世界の種子(ザ・シード)”を簡潔説明するのなら、〝VRMMORPGツクール〟──と云ったところか。

ある日、パソコンのメールフォルダに“世界の種子(ザ・シード)”が添付されているメールが〝匿名〟で届いていた。そしてそのメールの本文には[君にならこれ、“世界の種子(ザ・シード)”を託せる。後は頼んだよ]──と簡潔に書かれているだけだった。

その〝匿名者〟を直感的に茅場さんだと感じた俺は、直ぐに和人やアンドリューと徹底的に不具合が無いことを確認してネットに“世界の種子(ザ・シード)”をアップして、誰でも“世界の種子(ザ・シード)”をダウンロード出来るサイトを幾つかの言語で作り、文字通りの──[世界の種子]を世界(ネット)中にばら蒔いた。

すると、ダウンロード数は(たちま)ち数十万にも上り〝VRMMO〟と云うジャンルは〝あと一歩でおしまい〟と云うところで息を吹き返したのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

乃愛のリハビリがの同時期に解放された──未帰還だったプレイヤーより幾らか終わって、乃愛の快復&【SAO】クリア記念パーティーでクリアの立役者である〝キリト〟を存分に(たた)えて数時間。俺は自室でアミュスフィアを被っていた。

今日は〝新生【ALO】〟のサービス開始日となっている。……明日奈や和人、遼太郎の様に先にインする事も出来たが、どうせなら乃愛と一緒に始めたかったので、乃愛がイン出来る様になる今日まで待っていたのである。

……ちなみに、【ALO】の運営は、〝レクト〟から〝複数のベンチャー企業関係者が共同出資で建てられた新運営企業〟にほぼ無料で委譲されたと〝レクト〟の内情にも詳しい乃愛から聞いている。乃愛曰く〝レクト〟が運営していた時代が〝旧【ALO】〟で──〝新運営企業〟が〝新生【ALO】〟らしい。

閑話休題。

「〝リンク・スタート〟」

今は懐かしさすら覚える──〝電脳世界(あちら)〟と〝現実世界(こちら)〟を繋げる言葉を紡ぎ、〝電脳(あちら)〟の世界へと向かった。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


SIDE 《Teach》

【世界樹】の上に存在している【イグドラシル・シティ】──のさらに上空。そこには一人の〝猫妖精(ケットシー)〟がいた。

「〝この場所〟〝この時間〟〝青色の鳥を携えた猫妖精(ケットシー)〟ってことは、君が稜ちゃん──ジェミニア、だよな?」

「うん。確かに私はジェミニアだよ。〝この場所〟〝この時間〟〝私を知っている火妖精(サラマンダー)〟と云う事は、真人君──ティーチ君、で良いんだよね? ……って、もう〝随意飛行〟が使えてるし…」

《Geminia(ジェミニア)》──稜ちゃんは俺を見ながら、微妙な表情で言う。本来なら飛行する際にはコントローラーが必要らしいが──そのコントローラーの出し方が判らなかったので、暇そうにしていた同種族の人に声を掛けてレクチャーしてもらい、すぐに(はね)を出す事に成功させた。

コントローラーを使わない飛行──〝随意飛行〟は割りと高等技術にあたるらしいが、〝翼〟を使っていた俺からしたら割りとどうにかなったのである。

そしてちなみに、〝火妖精(サラマンダー)〟である俺と──敵対していたはずの〝ケットシー〟であるジェミニアが何の(しがらみ)も無く逢えているかと云うと、その理由は〝争う理由が無くなかった〟からだ。

元来【アルヴヘイム・オンライン】と云うゲームの最終目標(グランドクエスト)は〝【世界樹】を突破してオベイロンに謁見(えっけん)すること〟──ひいては〝光妖精(アルフ)〟に転生して〝無限の(はね)〟を手に入れることだったのだが、この度のアップデートで〝滞空制限〟が撤廃されてしまったのだ。

……ともすれば、これまでの様に〝争わなければならない理由〟も殆ど無くなった模様。

「暇そうにしていた〝ごどうはい(サラマンダー)〟に教えてもらってすっ飛んできた。……他のヤツらも、すぐに来るだろう」

「……で、ティーチ君はなんで私をここに呼んだのかな?」

この場に居るのは、俺とジェミニアだけである。現在地は【世界樹】の上に存在している【イグドラシル・シティ】──のさらに上空の〝今は〟何にも無い場所なので、ここに来る意味はあんまりない。

「とりあえずあと2分待ってくれ、それが答えになる」

「へ? ……うん…」

………。

……。

…。

「もう2分だよ」

「ああ、もうすぐ〝あれ〟がここを通るはずだ」

「〝あれ〟って?」

ジェミニアと歓談していると2分なんてあっという間に経過していた。……漸くジェミニア──〝稜ちゃんに見せたかったもの〟を見せられる事になった。

「〝あれ〟だよ」

「〝あれ〟は…? ……もしかして──」

「そう、【浮遊城・アインクラッド】」

〝稜ちゃんに見せたかったもの〟──それは【浮遊城・アインクラッド】。〝レクト〟から【ALO】を買い取った企業は、アインクラッドすらも復活させたのである。……【SAO】クリア記念パーティーも態々(わざわざ)今日に合わせたのは、その為でもあった。

「〝【SAO】生還者(サバイバー)から〟情報アドバンテージを無くすためか、新しいアインクラッドはいろいろと修正が入ってて、【SAO】みたいにはいかないだろう。……だからさ、一緒に行こうぜ──最初(いち)からさ」

「……うん!」

猛スピードで俺達を追い越してアインクラッドに向かって行く他の──キリトを含むプレイヤー達を見ながらジェミニアの手を取り、新らしく実装されたアインクラッドに向かう。

そして、そんな今の気分を諧謔(かいぎゃく)的に陳述するのなら、こんな感じだろう。

……〝俺達の攻略(たたかい)はこれからだ!〟

SIDE END 
 

 
後書き

いつかGGOへんは流すといったな? あれは嘘だ。


もうちょっとだけ続くんじゃよ。 
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