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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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27話 パンドラボックス 2.15

 
前書き
皆さまの協力の下、ブラッシュアップされていきます。
今後もご面倒宜しくお願い致します。

当人は毎日朝から深夜近くまで会社都合で働く上で、
頭がパッパラパーに近い具合です(笑)
ホテル業界は厳しいです。。。

ストレス解消で日々書いております。
面白くなるように頑張ります。 

 
* インダストリアル1 メガラニカ内 聖櫃 2.15

辺りは漆黒といってよい程の闇の中に、サイアムの眠る冷凍睡眠装置付きのベッドだけが煌々としていた。その傍にその光の余波で照らされるフロンタルがそこに居た。

サイアム・ビストはフロンタルと会合していた。
サイアムの他には誰もいない。1対1の会話だった。

サイアムはフロンタルを見て、呟いた。

「・・・ラプラス憲章を、最後の一文を世に試す時が来たのか・・・」

サイアムの言葉にフロンタルが首を振った。

「もう一息だ。しかしまだ足りない。この箱を見れば分かる。最早、お互いに時間が足りないようだ」

「どういう意味だ」

フロンタルは自身が器になっているこの体と存在とのギャップに限界を感じていた。
元は常人の体。自身はあらゆる悪意、憎悪の集合体。様々な薬物で騙してきた体が悲鳴を上げ始めていた。

「精神は肉体を凌駕するというが・・・限界はあるみたいだ。あと一戦大きな悲劇が有れば良いのだが」

「悲劇か・・・。シロッコという者がそれを担うだろう」

「シロッコか。奴ならばこの箱を満たすことができるだろうが・・・」

フロンタルは周囲に黒いオーラを纏い、同じくオーラを纏っている箱に手をかざした。
すると、箱が宙に浮いた。

「サイアムよ。この箱はここでの役目を終える。後は人類が滅びゆく様を見ているが良い」

サイアムはフロンタルが焦っていることに気が付いた。
その彼に一言呼びかけた。

「その不完全なままで世界は滅ぼせるのかね?」

フロンタルは振り返り、出口を目指した。片手でマジックの様に浮かばせている箱と共に。

「やってみるさ」

そう一言だけ言い残して、サイアムの所から去った。
サイアムはインターホンでガエルを呼びつけた。すると、ガエルがサイアムの傍にやって来た。

「お呼びでしょうか?」

ガエルがサイアムの傍によると、サイアムは彼にラプラス憲章の原本たる石碑を見せた。
ガエルもその憲章は有名なものなので知っていた。ただ最後の一文を覗いては・・・

「こ・・・これは一体・・・」

「これがビスト財団の呪いだ。これをカーディアスと共に、ダカールの連邦議会に直接持ち込んでもらいたい」

「これは今いさかいが起きていることを全てを連邦政府が肯定するという事実・・・。一気に全てが終わり、そして始まりますな」

ガエルは興奮していた。しかしサイアムは険しい顔をしていた。

「それを本当に世界中の者が一丸となって従えるかどうかに人類の未来が掛かっている。もしダメならば人類はあっという間にフロンタルの下で滅ぶだろう」

ガエルはそして結構な大きさの憲章記念碑をどのように運搬するか、ふと疑問に思った。
それを察したかのようにサイアムがこう伝えた。

「まずはそのルートの確保に努めなければならない。しかも極秘でな。親族に知られないように連邦政府高官と接触してもらいたい。カーディアス、マーサ共に、フロンタルの存在を知っては各々動いておる。出し抜こうとしてな。マーサは無関心過ぎるが、カーディアスはダイレクト過ぎる。それでは私の欲を満たせないし、人類に成長も望めない。目星はつけておる」

ガエルは雲上人の思考というものは理解しがたく、そしてきっと暇つぶしの様な些事にしか過ぎないだろうと思った。サイアムにその目星に付いて伺った。

「して、その高官は?」

「ジョン・バウアーだ。彼の組織したロンド・ベルというものは、対フロンタル用と睨んでいる。彼とのパイプを秘密裏に繋いでもらう。そのために会わねばならぬ人物がコレだ」

サイアムの目の前のモニターにある男が映し出された。その男にガエルは黙って頷いた。

「カイ・シデン。ジャーナリストという仮初を着た千の腕を持つ交渉人(ネゴシエーター)

「・・・わかりました。まず彼と連絡を取るために地球へ向かいます」

「頼む。人類の未来はガエル、君の手に掛かっている」

そう言うと、サイアムは「話し過ぎた」と一言の後、スーッと寝てしまった。
ガエルはサイアムに託された希望を実現するべく動き始めた。

ガエルは現当主のカーディアスにも知られてはならないという所が悩みどころだった。

「カーディアス様にも知られてはならないところが、難点だな。仮にも私の主人。さて、どうしたものだか・・・」


* 地球 イスタンブール周辺 2.17 10:15


シナプス隊はイスタンブール郊外で周辺を監督するティターンズ基地を攻略していた。
この辺は紀元より、地下都市等優れた防空壕がおよそ数キロに渡って張り巡らされていた。

ラー・アイムの艦橋でシナプスが仁王立ちしながら戦況を見ていた。
色々な情報がシモンより矢継ぎ早にシナプスへ飛んできていた。

「カミーユ大尉が一人先頭に突出し過ぎています。キース、コウ両中尉も両翼にて、他のジムⅢ隊より前に出過ぎています」

「スコット少尉!」

シナプスの大声が若いオペレーターを呼ぶ。

「はい!」

「両翼のジム隊に連携以上にコウとキースに喰らいつくように進軍しろと伝えろ。本艦も中央のカミーユに追いつくよう進軍する」

「ぜっ・・・前線を上げるのですか?」

「そうだ。生憎サッカーとは違ってオフサイドなど無いからな。カミーユの快進撃が奴らの戦意を奪っておる。好機だ」

「了解です」

シナプスはヨーロッパからの攻略戦より自身の戦力値を計算していた。カミーユ、コウ、キースの3人でティターンズの1個大隊に相当する戦力だと。状況に応じてはそれ以上発揮することができると踏んでいた。

今まで攻略してきた基地のティターンズの戦力保有は大体50~100機。中には旧式のモビルスーツも居た。出方を見れば、大体の戦力が分かった。それで攻略の可否を決めていた。

無論、シロッコの様な不確定要素がいつ現れるかは分からない。その時はすぐにでも撤収する心積もりでもいた。

30分後、カミーユからラー・アイムへ通信がもたらされた。
それをスコットが受け取っていた。

「前線のカミーユより入電です。敵基地通信施設完全破壊。敵が全て遊軍と化したそうです」

通信網が破壊された部隊は個々が孤立する。つまり、帰る場所を失った迷子と敵はなってしまっていた。こうなると敵の戦意というものが失われるに等しかった。

シナプスの戦い方は大体このようなものだった。なるべく敵味方問わず犠牲を最小に抑える戦い方。
シナプスはそれを聞くや否や、敵へ降伏勧告を勧める。

「ティターンズの諸君。貴官らの基地は既に破壊された。司令部も機能していない。通信を取れば分かることだ。貴官らは帰る家、守る家を失ったのだ。願わくば、戦闘を中止し投降されたし。選抜された貴官らならこの話を理解できるだろう。以上だ」

シナプスはオープンチャンネルで周辺へ今の話を放送した。
いつもながら、多くのティターンズが武装を解除し投降してきた。
その情報をシナプスが聞くと安堵した。

「やれやれ・・・これで、15箇所目の基地制圧だ。全く、地球規模で制圧していくだけでも時間が浪費する」

シナプスは艦長席に戻り、一息ついた。その様子にパザロフ少佐がコーヒーを入れてきて、シナプスに手渡していた。

「しかし、これで大方のヨーロッパ全域がエゥーゴの手に戻りました。あとはアジアです。そこさえ制圧すれば、ジャブローやダカールの連中もエゥーゴ、カラバを認めざる得ないでしょう」

「そうだな。お偉方の損得勘定は勢力図によって決まるからな。宇宙は未だ、ソロモン、ルナツー、ラプラスステーションとティターンズが健在だ。あちらはブライト君とシャアさんが何とかしてくれるだろう」

そう言うとシナプスはコーヒーに口を付けた。
ほろ苦い味だ。今の状況、心境にそっくりだった。

間もなく、シモンより友軍の信号をキャッチし、こちらへ向かってきているという連絡があった。
シナプスは不思議と思い、どの友軍かと尋ねた。

「ネェル・アーガマです。ヘンケン中佐が通信を求めております」

「わかった。こちらに回してくれ」

すると、ラー・アイムのメインモニターに大きくヘンケンの顔が映し出された。

「准将。戦い直後で失礼する」

「いいさ。何だいヘンケン君」

「ここより先の制圧は私らが請け負う。君たちにはブレックス大将の護衛を頼みたい」

「護衛ですと?大将直々の指名ですか?」

「そうです。カミーユ君の力も買ってのことでもあります」

「ニュータイプの出番か・・・。して護衛先は?」

「連邦政府首都ダカール」

「なっ!」

シナプスはエゥーゴ代表が連邦首都へと今の時期に向かうという行為が自殺行為に等しいと思った。
理由は聞くまでもなかった。近々連邦臨時議会の招集があると噂されていたからだ。

「今ですか・・・」

「そうです。今なんです。ミリタリーバランスがエゥーゴに傾きつつある状況でのティターンズ側の明らかな嫌がらせです」

ブレックスも連邦政府に議席を置くものとして、出席を拒むことはできなかった。
暗殺からは連邦政府も安全保障の観点より決して起こしてはいけない不始末だが、ティターンズにはそのような破廉恥すらものともしないだろう。彼らは誤射と称してワイアットを消したのだから。

シナプスはため息を付き、もう一つ出席する議員に付いて伺った。

「ガルマ議員は?」

「彼も出席するが、こちらはある護衛を伴ってくるそうだから問題ないと先方から伝達が来ている」

「そうですか・・・」

「我々はニューヤークよりこちらへ来ている。バニング隊を始めとするジェガン部隊がこの先のアジア制圧に乗り出す。将軍達はまずトリントン基地へブレックス大将を迎えに行ってもらいたい」

「了解した。貴官らの健闘を祈る」

「はっ!」

ヘンケンは敬礼をして、通信を切った。
通信の終わりの方でカミーユたちはブリッジへ上がって来ていた。

「艦長。完全にワナですね」

カミーユが当然の事を言ってきた。シナプスはただ頷く。
コウ、キース共にティターンズを罵っていた。

「仕方がない。我々は軍属で、ブレックス大将は政府に席を置いている。昔は軍属が議席など認められなかったが、法改正で軍籍置いたままで席を置ける。議員になれるが、議員である以上市民の視線を気にしなければならなくなったから、大将も出席を拒めない」

出席を断る事、それは軍への叛意であり、連邦との決別、世界を敵に回すことでもあった。
軍籍を置きながらの政界に転ずるハンデ。それが軍人議員の暴走抑制に繋がっている。

「本会議場で事は起こさないだろう。我々がダカールへ無事に護衛すれば良い」

シナプスらラー・アイムは一路オーストラリアのトリントン基地へ向かうことになった。


* サイド3宙域 2.18 未明


ジオンの防衛隊が1機の未確認機に翻弄されていた。
シャリア・ブルもカスタマイズ機のヤクト・ドーガを戦線に投入していたが、捕捉できない。

「なんて機動性能・・・というより、何だあの忌まわしい闘気!」

シャリアはファンネルを使いながらも、その所属不明機を追撃していた。
既に、50機程の首都防衛のギラ・ドーガが失われていた。

普通はそれ程の撃墜が有れば、並の機体はガス欠になる。しかし、その機体は自身の推進機能や兵器をあまり使わず、撃墜していた。

その報告を聞いていたギレンは即座に司令部を遷した。ズム・シテイのある傍にある人工惑星艦に搭乗し、指揮を取っていた。

この球体はゼウスと呼ばれ、周囲をガンダリウム合金とサイコフレーム機構の傑作で先までの戦いで蓄財した資金を来たるべき将来の為に作り上げた代物だった。

極め付けは百人をも数えるニュータイプ、強化人間の砲撃手による数千と呼ばれる遠隔操作ビットと球体全てを囲うサイコ・フィールド。これで1個艦隊を造作なく沈めることができる。

そのような戦力を持ちながらも連邦と冷戦状態にあったのもフロンタル襲来のためでもあった。

「ついに、牙を向いてきたか終末の災厄よ」

ギレンはあらゆる情報網から、その未確認機の正体を看破していた。
そのためにギレンはフラナガン機関を総帥統括で研究を進めてきていた。

このゼウスには、ニュータイプが多く搭乗していた。
サイコミュ対策の仕掛けも万全だった。

この宙域より、少し離れたところにドゴス・ギア級の大型戦艦ゼネラル・レビルが鎮座していた。
この艦の所有者は連邦ではなかった。言わば私設部隊。その責任者はマーサ・ビスト・カーバインだった。

マーサはその艦橋で先方で戦っている未確認機の戦況を眺めていた。
彼女の傍の艦長席にはマ・クベが自前の磁器を磨きながら座っていた。

「戦況は圧倒的のようね」

「・・・そうですな。私の投資したギレンを倒す手段であるから問題ないはずだ」

アナハイムの試作機最高傑作であるMSN-06Sシナンジュを駆るフロンタルは現行のモビルスーツなど児戯に等しかった。何と言っても、シナンジュに内蔵されている<パンドラボックス>と呼ばれるサイコフレームの結晶。これに含まれている測定不能な無尽蔵エネルギーがシナンジュの力を更に引き出していた。

マ・クベはキシリアがギレンに粛正されたことにより、自身の敬愛する、目標とするものを失い自棄になっていた。3年前の空売りにより得た巨額な資金をマーサの野望に費やした。

「私らビストの上を往くに、ギレン如きでは超えられない。ビストの意思は世界の意思よ。今までの悲劇も、世界が痛みを知り、ビストの力を改めて知らしめるため。マ・クベ、貴方がキシリアを失った事は世界の意思で必然だった。そして貴方はギレンに復讐する権利が与えられた。これは私、ビストが保証するわ」

マーサはそうマ・クベに伝えると、当時精神的に均整が取りきれていない彼はマーサに素直に従うことにした。

その2人の間隙にフロンタルが入り込んでいた。元より、キシリアにフロンタルを紹介したのはマーサだった。マーサとの繋がりをフロンタルは保ったままだった。

フロンタル自身は多くは語らなかった。マーサの意思に付いて行くことで自分の目的が達せるからだった。そしてその思惑をマーサは知らない。マーサはフロンタルを侮っていた。ただの意思の持たない人形だと思っていた。

フロンタルはこの世界のオーパーツだった。それを持つマーサは世界の優位性は自分にある、そう考えていた。

マ・クベは傍のデスクに磁器を置くと、ため息を付いた。

「はあ・・・儚いものだ。1夜にして、1勢力がこの世から消えてしまう。今までの私の想いがこんなにあっさりとしたものとは」

マ・クベの後ろでマーサは鼻を鳴らした。

「フン、貴方達は状況に応じた合理性を常に求めて動いていたみたいだけど。私は結論を求めていたの。動くときは今よ。無為に頭を使い過ぎなのよ、庶民共は」

「確かにそうかもしれん。結論、ジオンの意思や連邦の意思、ひいては世界の意思を無視し、すべてビスト財団に帰属させる。昔も、今も、そしてこれからもビストが牽引していく。バランスを壊す革命家など必要ないわけだ」

「無い頭で考え過ぎなことを気付かせないと。ジオンもティターンズ、エゥーゴも要らない。連邦の様な傀儡が適当に世界を統治するに限るわ」

「戦争以前に戻すのか・・・」

「そうよ。ここまでかき回されるとは思いもよらなかったわ。これは単にビストの威光がいつの間にか軽んじられていた。兄のせいでもあるわ。いつの世も世界の均衡を保つ者はときの支配者、今はビストなの。それがビストに生まれた私の宿命」

マーサはギレンが居るであろう球体戦艦を見つめていた。

「ギレンは私の期待通り、あの球体を作り上げたわ。私の手引きとも知らずに・・・」

「ギレンを・・・出し抜いたのか・・・」

マ・クベはマーサの力に恐れた。ギレンを騙すなど並の芸当ではできない。
マーサはクスっと笑った。

「ええ。私はただ夫より、ギレンの欲するものを渡しただけ。それは私も欲しかったモノ。なら人に作らせた方が楽でしょ」

「・・・ッフッフッフ、大した支配者だ」

「ありがと」

マ・クベはマーサの戦略を褒めた。
マーサの意思は至って単純だった。世界は平穏で静かに限るということだ。そこにはニュータイプ等特殊なものは無用の長物と思っていた。マーサとマ・クベが話しをしている間にギレンとの戦いに決着間近となっていた。

シャリアのオールレンジ攻撃にフロンタルはシナンジュのサイコ・フィールドで全てはねのけていた。
その業はシャリアを驚愕させた。

「・・・な・・・避けていない。当たらない。バカな!」

シャリアはヤクト・ドーガのビームサーベルでシナンジュへ近接戦闘を仕掛けた。
その攻撃をシナンジュはサーベルでなく手のみで受け止めていた。

「あ・・・ああ・・・」

シャリアはうろたえていた。今まで出会ったことの無い、絶対に勝てない相手と戦うことの恐怖。
その想いをフロンタルは感じ取っていた。

「フフフ・・・わかるぞ、その感情。私はその手の感情が好物でな。有り難く頂戴しよう」

フロンタルは自身のフィールド場の斥力でシャリアのヤクト・ドーガを吹き飛ばした。

「うわあ~っ」

シャリアはその得体の知れない力とその衝撃に力の限り叫んだ。それが彼の恐怖を和らげる唯一の方法だった。

「ふむ・・・。お礼にいいモノをプレゼントしよう」

フロンタルはシナンジュに組み込まれているパンドラシステムの力を開放した。
すると、ギレンでも理解できるほどの悪寒がサイド3宙域を支配した。

ギレンの座乗するゼウスは全ての計器に異常が出ていた。

「機関出力半減!」

「ニュータイプ達の精神波が全くありません!全て気絶した模様」

「サイコ・フィールド磁場が消滅!」

フロンタルの発したフィールドがゼウスの機能をダウンさせていた。
ギレンは遠くにいる原因に取りあえずコンタクトを取ることにした。

フロンタルがその通信をキャッチしたが、ミノフスキー濃度が高すぎて通信できなかった。

「仕方ない。少し近づくか」

そう言って、フロンタルはシナンジュのスラスター出力を上げて、数刻後ゼウスの目の前に辿り着いていた。一瞬とも言える間で辿り着いたシナンジュを見て、ギレンは深くため息を付いた。そして再びフロンタルと通信を繋いだ。今度はフロンタルの顔が映った。

「やはり、貴様だったか・・・」

「ほう、動揺がないとはさすが指導者、統治者と言うべきかな」

フロンタルの言った通り、ギレンには一切の動揺は無かった。全ては計算されたことだった。
自分の出来うることは全てしたギレンは、それを上回るフロンタルを相手にするとなると最早降参だった。

「私はそれ程理解は悪くない。この事態は窮地と言うものだ。知っていれば動揺する必要もない」

「そうか。では、その球体も有り難く頂戴しよう」

「・・・成程。アナハイムが噛んでいた訳だな。まあそれも予測していたがな。仕掛けで遠隔で無力化されるかと思っていたが、もっとダイレクトだった。ただそれだけだ」

「諦めが良いなギレン総帥。しかし、卿は何故意識が保てているのかな?」

ギレンはフロンタルから言われてから周囲の様子に気が付いた。
艦橋にいる全ての士官が皆意識が無く、倒れていた。ギレンは少し笑った。

「フッ・・・何故かな。フロンタルよ、貴様なら分かるか?」

フロンタルはしばし考え、ある結論に至った。

「・・・ギレン閣下。貴方には感情がない。そして、生きる意思が欠けている。常在戦場。兵士としては一級品の精神構造だ。つまり死人だな」

ギレンは高らかに笑った。

「ハッハッハッハ、成程。それ程、生に執着ある方ではないからな。ただ野望の為に世捨て人なだけだ」

「・・・それが人を超えたと言う話だ。人は孤独を嫌う。しかし貴方はそれを受け入れて生きている。それは世間一般としては生きていない」

「フロンタルよ。貴様からそんな真面目な講釈を受けるとは思わなんだ。それでは一流の悪役にはなれんぞ」

ギレンの挑発にフロンタルは微笑を浮かべていた。

「生憎、私は情緒不安定なんですよ。様々な想いが私に集結している為にね」

「ほう。貴様が世界の総意と言う訳か。しかしかなり負の要因が強そうだ」

「中々良い回答を言ってくれるじゃないかギレンよ。さて、そろそろお開きとしよう」

シナンジュの機体が緑白に輝き始めた。
その姿にモニター越しでもギレンにはこれから起こる事が理解できた。
恐らく自分はこの世から消えることになるだろうと。

その時、シナンジュの右腕が爆発が起きた。
その衝撃で青白い光が霧散した。

「なっ!」

フロンタルは驚愕した。その爆発した原因を感じ取り、後ろを振り返った。
すると、先ほどのフロンタルと同様に緑白に輝いているヤクト・ドーガが居た。

フロンタルは無言でそのヤクト・ドーガを見ていた。
ギレンも表情を変えず、シャリアの乗るヤクト・ドーガを見ていた。

シャリアはフロンタルに吹き飛ばされてから、圧倒的な力の差に絶望を抱いていた。
このままではギレン総帥が想い描く理想、そしてそれに付いてきている数億の支持者が一瞬にして滅ぶ。

シャリアは慟哭の中でもがき、精神均衡が崩壊した。
彼の眼には何の情報も入らない。そんな最中、彼は体の内から暖かさを感じた。

究極の危機から人は希望、救いを求める。シャリアは只今、生命の究極の危機に追い込まれていた。
一層の事、死んでしまえば良いのにと感じていたが、死ぬことすら許されなく、唯瀕死が永遠と続く状態。そんな状況を打破したいと考えるのは本能だった。

究極の危機で反射的にすがる究極の救い、希望。それがシャリアのニュータイプ能力を覚醒させていた。

シャリアには意識はない。唯、感じる究極の危機の要因であるフロンタルを排除する、それを無我の境地で体の赴くまま動いていた。

そんな様子をフロンタルは感じ取り、不敵に笑った。

「フッフッフッフ・・・ここに来て、私の敵と出くわすとは」

フロンタルは笑みを一瞬で消し、片腕を失ったシナンジュをヤクト・ドーガと対峙させた。
フロンタルは残った手にビームサーベルを持たせて、ヤクト・ドーガに斬りかかっていった。

ヤクト・ドーガはシナンジュの機動性能に反応出来ず、その場で真っ二つに斬られ四散した。
しかしフロンタルの驚愕は更に続いた。

「なんと!」

ヤクト・ドーガの撃墜は確認できたが、その機体のファンネルが尚動き、執拗にシナンジュへ攻撃を仕掛けてきた。どのファンネルにも緑白の光が纏っていた。

「残留思念か」

フロンタルはシャリアが消えても、シャリアの意思がファンネルに強く残っており、それによりファンネルが動いていると感じ取っていた。フロンタルはそのファンネルを1個ずつ丁寧に撃墜していった。
最後の1つを撃墜したとき、シナンジュの機体は部分的に破損していた。ファンネルの攻撃がシナンジュへ確かなダメージを与えていた。

「ええい。ここまでやられるとは・・・。やはり侮れんな、人の感情は!」

フロンタルは忌々しく呟いていた。自身もサイコフレームとそれを汲む水である人の想いに無限の可能性を感じ取っていた。そのためのパンドラボックスを開発し、それを直接的にフィードバックできるパンドラシステムをシナンジュに組み込んでいた。

ギレンはその一部始終の光景を見て、腕を組んで考えていた。

「・・・成程な。ニュータイプの研究はフラナガン機関を通して聞いていたが、<奇跡>というものが起きた時に、あのようにフロンタルの様な化け物を駆逐できるほどの力が働くのか・・・。考えようによってはフロンタル自身は大したものではない」

そうギレンも呟くとその声はフロンタルにも届いていた。フロンタルはギレンの発言を肯定した。

「その通りだ総帥。私自身の優れた部分は技量のみ。それ以外は何も持ち合わせていない。私自身人の協力なくして何も成す事はできないのだよ。ただ、貴方とは違う点は私は絶望しているということだ。その意思が積年のものであって、それは私個人のものではないということで覆すことはできない私という器の絶対なのだ」

ギレンはフロンタルの話を聞いて、眼を閉じて瞑想した。その瞑想中にギレンがフロンタルに伝えた。

「・・・そうか。君のような犠牲者を誰かが止めてくれることを願うよ」

「私もそう期待している。さて終わりにしようか」

するとシナンジュが再び緑白に輝き始めた。その光はズム・シテイとゼウス全体に波及した。
ギレンはゼウスの艦長席に静かに腰を下ろし、その光に誘われ目を閉じた。

「(私の意思は・・・野望はここで終わるが、残ったものはあのシャリアの様に足掻いてもらいたいものだ)」

フロンタルの発した光により、浸食された地域の生命体は活動を自ら放棄した。
その結果を肌で感じたフロンタルはその行為を終了した。
彼の体からは物凄い発汗があった。

「ふう~。多くの者に呼びかけて説得するには心が折れる。こんな厭戦状態だからこそ可能にした状況だった」

フロンタルは後方に控えるゼネラル・レビルに作戦終了を伝えた。

「ミズ・カーバイン。作戦は終了した。付きましてはあの球体を摂取をお願いしたい」

マーサはフロンタルの報告を聞き、上機嫌だった。

「よくやったわフロンタル。帰投してゆっくり休息を取って頂戴。今後も作戦は続くわ」

「了解した」

フロンタルとの通信はそこで終わった。マーサは艦橋でゼウスを見つめ、含み笑いを始めていた。
一方のフロンタルも自身の持つ携帯端末である数値の上昇を確認して笑みを浮かべていた。

「(フッ、この戦いでサイド3の絶望を、感情をパンドラボックスに蓄積されたか。今の力ではまだあの程度。ゼウスを用いれば、その波及範囲の拡大もさることながら、吸収もし易くなるに違いない。世界の願いの成就は近い)」

フロンタルはそう言いながらも、自身の生み出したシステムの利用条件の難しさを深刻に捉えていた。力の上限はもっと上のはずなのだが、今のところはこの程度しかできない。そのトリガーを見つけなければとフロンタルは試行錯誤していた。


* 地球 ニューヤーク カイ・シデン事務所 2.26


カイは各地から取り寄せたり、送られたりしてくる資料を片づけては自身の連載している手記の作成に追われていた。

傍にデスクを構えているミハルもそのアシストに四苦八苦していた。

「カイ~!もう少し少なくならないかしら?これじゃあ原稿も落としそうになるし、エゥーゴやカラバの活動支援も滞るよ」

「っつたく。分かってるよ!だからこうも必死なんじゃないか!」

そんな激戦の中、ベルトーチカから通信が入って来た。
それに気付いたカイは傍にあるモニター型通信機をオンにして、目は原稿を入力するパソコンに向かっていた。

「何の用だ」

「何の用だって、あるからに決まっているでしょ?締め切りに追われているのは分かるけど、ビックニュースを貴方宛てに届けに来たのよ」

カイは無関心だった。しかしベルトーチカの次の一言でカイの手が止まった。

「ガエル・チャンが貴方に会いたがっているよ」

「・・・」

カイは深呼吸して、ベルトーチカにこう伝えた。

「2時間後、話を聞いていいか?」

「いいわ」

「それまでにこいつらに目処を付ける」

「わかったわ。それじゃ」

ベルトーチカの通信が切れると、カイは各雑誌社へ数本原稿の遅れの連絡を入れた。代わりにストックで用意した番外の原稿で手打ちにするように伝えた。

「よし!ミハル。これで荷が楽になったぞ」

「・・・最初からできるならそれをしてよ!」

「アレは非常手段なんだよ。ガエルが会いたがっているらしいからな」

「ガエル!ビストの秘書。世界のフィクサーが何故貴方に?」

「知るか。取りあえずビッグなネタなのは間違いないだろう」

そう言って、カイとミハルは仕事に没頭していった。 
 

 
後書き
* マーサは革命家という不純物の排除に奔走しております。
  凡人が世界を統治し、それをビストが世話をする構造を良しとするためです。

  ガルマの展望とギレンの展望は異なるため、ギレンの計算ならば世界は変えられると思っている   が、ガルマはそれでは宇宙に住むものたちが死んでしまうと考えています。 
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