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アギトが蹴るアナザー

作者:穂波菜穂
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帝具を蹴る

 アナザーアギトは叩き伏せたコロを前方に蹴り飛ばし、その影に隠れるようにエスデス達へと全速力で走りだす。自分の動きを見づらくする作戦だ。人間、頭ではいることは分かっていても、直接見えなくては対応が僅かに遅れる。
 だが、神から貰った力で身体能力はおろか、感知機能まで強化されているアナザーアギト。しかも、透視まで出来る彼にとって目前の障害物程度、何の問題にもなりはしないのだ。

――来たか。
 エスデスはさして慌てるでもなく、おのが剣を抜き各メンバーに指示を飛ばす。
「ランは上空から牽制! ウェイブはグランシャリオの堅さを生かし、各々を庇いながらクロメと共に遊撃!」
 この合間に飛んできたコロをセリューの元へ蹴り飛ばす。コロは再び悲鳴を上げる。しかし、そんなことを気にするエスデスではない。

「セリューは今やったコロと同時に援護攻撃でヤツの気を反らせ! スタイリッシュとボルスは引き続き負傷者の救助を行え! そしてコウタロウは――ッ!」
 ほんの数瞬のうちにほぼ伝え終え、自らは進んでコロを退けた先にいるアナザーアギトに氷柱を生成し、飛ばす。それに合わせるようにランもマスティマの羽で牽制する。

「私の腹に腕を回せッ!!」
「了解しまし――えぇ!?」
 コウタロウが驚くのも無理は無い。しかし、勿論エスデスはさも当然であるかのように答える。
「その方が私は興奮するのだ」
 確かに興奮すれば脳内からアドレナリンという一種の麻薬が作られる。これがあれば、多少の痛み等感じなくだろう。まあ、エスデスはその程度でどうこうするような女ではないのだが。
 どうせ敵を叩きのめすならより興が乗った状態で、ということだろう。
 他のイェーガーズと同じく、どんな命令が来るのか。かなり緊張した面持ちで待っていたコウタロウからすればいい迷惑だが。

 渋々後ろから抱きしめる形で、抱擁するコウタロウ。この感覚が余程気に入ったらしく、ニヤリと笑うエスデス。
「チッ――!」
 直後何故か舌打ちしたアナザーアギトに氷柱と羽が襲いかかる。彼の皮膚はダイヤモンドに匹敵する程の硬度を持っているので、それらを無視して突き進む。腕で庇ったある数カ所を除いて。

「――ランッッ!」
「はい! 皆さん! 奴の目・角及び胸の一箇所を集中して狙ってください! そこだけは守らねばならないようです!!」
 このような敵の弱点や動きを見抜く為に行うのだ。牽制攻撃というのは。ダメージは別段与えられずとも、相手がそれにどう対応するかで以降の戦術が変わってくる。

 迂闊にも自身の硬さに自惚れたアナザーアギト。そのせいで、弱い部分を悟られ苦戦する羽目になる。
 彼が晒した場所。そこはそれぞれ、生存・戦闘する為に重要な機関なのだ。ダメージを負う訳にはいかないのは当然の場所。ただ、隠蔽が下手――という隠す気が更々なかった。
 それがこの転生者の致命的なミスである。

 まずは目――アギトアイズ。大抵の生物は眼球まで硬いということは殆ど無い。それが神の力を持つアナザーアギトであっても。しかも、覆う瞼がなければ尚更のことだ。
 次に角――アギトホーン。コウタロウや原作の翔一が変身する金色のアギトと同じく、視覚・聴覚・嗅覚の働きを担っている。そしてパワーが蓄積して自壊しない為に、余剰エネルギーを外に放出する放力板の役割も果たす。

 通常のアギトであれば、これは2本しか立っていない。トドメを指す際のみ、力を開放するため、6本に展開させ、必殺技を放つのだ。
 しかし、アナザーアギトは違う。常時開きっぱなしなのだ。完全にアギトの力を制御できている為に出来る芸当である。
 そのおかげで、アギトの――現在確認されている――最終強化フォームであるシャイニングフォームに匹敵する程の戦闘力を発揮させる。これが他者から見れば無謀な、イェーガーズ全メンバーがいる宮殿への襲撃を行わせたもっともたる要因だろう。

 最後に胸の――ワイズマンモノリス。このパワーコントロール器官によって、腹部のベルト――から発生するアギトの力を全身に効率よく供給・循環させ、同時に強大な力をコントロールしている。
 これが傷つけられたせいで、暴走するなんてことになれば目を当てられない惨事になるのは想像に難くない。どの程度のダメージで、駄目になるのかは彼はまだ試してない。もっとも余計なことをして望まぬ結果をもたらすことになれば、わざわざこの世界にアナザーアギトととして転生した意味がなくなるのでしないのだ。

 賊の欠点が露呈したことによって勢いづくイェーガーズ。ただ一人、転生者コウタロウだけは不安げな表情でことの成り行きを見ていた。氷の女と言われるも、確かにある腹のぬくもりを腕に感じながら。
 ここで、正面からモノリスを剣で狙うエスデス。その左からクロメが帝具の刀「八房」を中段に構え、目を。反対側の右からは脅威の防御力を誇る鎧の帝具「グランシャリオ」を纏うウェイブが攻撃をくらわせんと脇を固める。

 この加撃をたまらず避けようとしたのか、アナザーアギトは後ろに大きく宙返りながら跳躍する。
 そう、殺人的なブースト機能を持つウェイブ以外追撃できない程に。
「逃すかっ!」
「――ッ!? 深追いするな!」
 
 どんなものでも弱点や欠点はある。だが、それは突くだけの『技や力』があれば有利に建てるというだけだ。
 ウェイブは注意力を欠いていた。奴が防御に回らなければいけない程に【突けば】動きを変えるツボを見つけたせいで散漫になっていたのだ。
「フンッ!!」
「ぐふ――っ!?」
 アナザーアギトの拳がウェイブの鳩尾にめり込んでいたのだ。あのグランシャリオにめり込んでいたのだ。

「がはっ――!」
 ブーストで速度を増していた為に、より深く入ってしまっていた。そして勢いを無くしたウェイブへ回し蹴りがヒットする。
 彼はボルスとスタイリッシュがいる場所まで蹴り飛ばされた。
「きゃあ!」
「うわああ!」
 共に作業をしていた二人。他人がどうなっても全く気にも留めないスタイリッシュはすぐに横にそれた。しかし、大柄で優しいボルスはウェイブを受け止めようとした。
 だが、一旦それは成功したようにしたものの結局巻き込み、宮殿の内壁にめり込む形になってしまった。

「隊長~! 新たに二名負傷しました~!」
「治せ!!」
 スタイリッシュはわざわざ言わなくてもわかる事を一応報告しておく。案の定エスデスの返答はこんなものだが。
「馬鹿者めが……!」
 エスデスは苦言する。ウェイブは戦闘能力に関しては完成形している。だがやはり、判断力諸々が些か問題なようだ。

 グランシャリオはダメージの蓄積で既に解け、生身を晒している。ボルスも目立った外傷らしき物こそ見当たらない。
 だが壁とウェイブのサンドイッチで、呻き声を上げるほどに痛みを覚えた。
 その時アナザーアギトは口のクラッシャーを展開し、地面に浮かび上がる緑色の「アギトの紋章」の光を足先に吸収。必殺技『アサルトキック』の構えだ。
「スゥゥ……」
 という特徴的渋い声を小さく鳴らすアナザーアギト。

 イェーガーズもこの空気を肌で感じ取り、すぐ回避できるように態勢を変える。
 刹那、強襲の名の通り一瞬のモーションでエスデス目掛けキックを放つ。彼女はそれに反応し、避けようとした――だが。
(し、しまった――!)
 コウタロウに抱かせたままということを完全に忘れていた。非常にらしくない致命的なミスだ。興奮しすぎていたのが仇となったのだ。

 勿論本来の金色の戦士、仮面ライダーアギトの変身者である。コウタロウもぼぅっとエスデスに巻き付いていたわけではない。彼も抱きついたまま回避行動をとろうとしていたのだ……しかし、そんな姿勢で満足に動けるはずもなく、という事だ。
 そんな状態でも二人は経験ある戦闘者。直撃だけは避け、今キックで地面が抉られ発生した土砂埃に飲み込まれた。
「隊長ォーッ!!」
 セリューは安否が気になり、叫ぶ。

「ゴホッ……! 大丈夫かコウタロウ!」
 舞い上がった細かい砂埃が気管に入り、むせるエスデス。のんびりはしていられない。己の大事な恋人が側にいる。彼は将来、将軍級になる器がある。だがそれはあくまで、未来の話。今殺されてしまっては元も子もない。
「死ぬほど痛いぞ」
「な、何をする――! う、ぐああああぁっ!!」
 アナザーアギトはコウタロウの胸ぐらを掴み、最大高度の70mまで飛び上がる。

「コウタロウ!? ラン! 今どうなっている!? 報告するんだ!!」
「大変です! 奴がコウタロウ君を掴み、遥か上空まで跳び上がりました!」
 何だと!?とエスデスは悲痛に声を上げる。まさか、敵はコウタロウを高所から地上へ叩きつける気なのではあるまいか? エスデスの一抹どころではない不安が胸一杯に広がる。
 そして現実のものとなるのだ。

「ハァッ!!」
「ギャアアアァッ――……!!」
 コウタロウは遥か彼方。帝都郊外の方へ投げ飛ばされてしまった。
「悪め!! よくもコウタロウさんを!!」
 そんなに親交のないセリューですら、空にいる仲間を投げた賊を睨みつける。アナザーアギトの着地地点に大口を開けたコロを待機させ、落下してくるのを待つ。空中で自在に動く事はできまい。そう考えての事だった。通常の、金色のアギトならそれでよかっただろう。
 だが、彼は力を完全に制御している――同じ転生者のコウタロウ以外には金色に見えているが――まさに化け物前とした姿のアナザーアギト。

 彼の背中には天使であるロード怪人達のような翼がある。昭和ライダー達のようなソレが背中にあるのだ。
「そ、そんなぁ! 背中のマフラーで飛べるのぉ!?」
 スタイリッシュは驚きの声を上げ、宮殿の外へ離脱していくアナザーアギトを見送る。正確に言えば二対のマフラー状のソレでは飛べはしない。滑空しているのだ。
 ランのマスティマのように自由に飛行できるわけではない。だが地上から肉眼で、高度60m以上に居る生物が飛行しているか、滑空しているか等、余程目が良くないと分かるものではない。
 その後、エスデスの怒りが天を届くのでは。とも言えるような表情と声色でイェーガーズはおろか、宮殿全兵士に超緊急コウタロウ捜索命令が出されたのは言うまでもない。  
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