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白夜

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第五章

「描いていけばね」
「この世にある幻想ですか、そういえば」
「君が感じた白夜もだね」
「そうなりますね、普通は夜は日が落ちます」
「それがだね」
「はい、白夜はずっと光があります」
 太陽が落ちない、それ故の白夜だ。緯度の関係でそうなるのだ。
「それが不思議で」
「描いた、だからね」
「これからもですか」
「そうしたものを描いていけばいいよ」
「わかりました」
 アルノルトは確かな声でだ、先生に答えた。
「そうしていきます」
「じゃあ美術部でもね」
「頑張らせてもらいます」
 アルノルトは微笑んでだった、先生に頷いてだった。
 美術部でも活動をはじめた、そして白夜等この世にある幻想を描いていった。そうして次から次に描いていってだった。
 気付けば多くの絵を描いていた、思ったものを。
 そしてだ、また一枚描き終えてから先生に言った。
「何か生きがいを感じます」
「生きがいを?」
「はい、この世の中にある幻想を観て」
「それを描くことがだね」
「楽しいし、それに」
「そこにだね」
「生きがいもです」 
 それもというのだ。
「感じます、これからも描いていきたいです」
「何か芸術家になってきたね」
「いや、芸術家とかじゃなくて」
「違うかな」
「楽しくてそれで止められなくて」
 それが、というのだ。
「生きがいに感じてるんです」
「それが芸術家だよ」
 先生はその彼に笑って言うのだった。
「楽しんで生きがいを感じることがね」
「それがなんですね」
「そうだよ、君が芸術家になったんだよ」
「ううん、僕はあまり」
 首を傾げさせてだった、彼は言ったのだった。
「そうは思っていないです」
「そうなんだね」
「ただ楽しんでいきます、芸術とかじゃないです」
 それが本当に芸術家だとだ、先生は心の中で思ったがそこはあえて言わなかった。そしてアルノルトを暖かい目で見つつこう言ったのだった。
「じゃあ次も。これからもね」
「描いていきます」 
 アルノルトも応えてだ、そしてだった。
 彼はそれからも描いていった、彼が見たこの世にある幻想を。白夜をはじめとしてそれは全て彼の生きがいになっていた。


白夜   完


                       2015・8・22 
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