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天敵

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第二章

「本当に前そういうのは駄目だからな」
「家事全般は」
「それで優花はっていうのかよ」
「あの娘は何でも出来るからな」
「お金のこともしっかりしてるしね」
「御前金使いも荒いからな」
「あればある分だけ使うでしょ」
 これまた実に男子高校生らしい。
「それじゃあな」
「あの娘には適わないわよ」
「だから御前等が兄妹でもな」
「駄目兄貴としっかり者の妹よ」
 そうした関係だというのだ。82
「御前等はな」
「そうしたものよ」
「何で自分の息子より姪の方を褒めるんだよ」
「だから事実を言ってるだけだ」
「それだけよ」
 あくまでこう言う両親だった、だが。
 岳はそんな状況が不満で仕方なかった、それでだ。
 学校に行く時もだ、いつも一緒にさせられる優花に言うのだった。
「親父もお袋も御前ばかり褒めるんだよ」
「あら、そうなの」
「何で御前ばかり褒めるんだよ」
「だってね」 
 優花はその彼に笑って言う。
「お兄ちゃん駄目だから」
「はっきり言ってくれるな」
「じゃあお兄ちゃんお裁縫出来る?」
「針が指に刺さって痛いな」
「不器用ね。じゃあお洗濯は?」
「洗濯機の使い方なんて知らないよ」
 これが返事だった。
「掃除機の使い方もな」
「あんなの誰だって知ってるでしょ」
「知らないよ、家具の使い方なんてな」
「電気製品でしょ、お料理もよね」
 優花は自分から言った。
「インスタントラーメンも」
「カップヌードルは作られるからいいだろ」
「あれはお湯を入れるだけじゃない」
 ポットのそれをだ。
「それで出来るってね」
「言わないっていうんだな」
「全く、家事全然駄目でね」
 それにというのだ。
「他のこともいい加減だから」
「それでって言うんだな」
「そう、お兄ちゃんいつも言われるのよ」
「言うのは九割五分御前だよ」
 この割合だというのだ。
「御前が言ってるのはな」
「あら、そうだったの」
「そうだよ」
 こう返すのだった。
「御前ばかり言うんだよ」
「ふうん、そうだったの」
「そうだよ、何で俺にそこまで言うんだよ」
「言いたいからよ」
 実にあっさりした返事だった。
「言うのよ」
「とんでもない返事だな」
「だってそのままだからよ」
「そこは何か言い繕うだろ」
「私そういうこと嫌いだから」
 またあっさりと言う優花だった。
「だから言わないの」
「そうなんだな」
「そうよ、それでお兄ちゃんはね」
 優花はすかさずだ、岳に言った。
「もっとしっかりしないと駄目よ」
「それまた言うんだな」
「何度でも言うわよ」
「それも御前のやり方なんだな」
「そういうことよ」
 こう岳に言いつつだ、優花は彼と共に登校した。岳にとって優花はいつも一緒にいるのではなく勝手に傍にいる母親以上に口煩い存在だった。
 その優花を鬱陶しく思いつつ学業とスポーツに励んでいた彼だったが部活のテニスをしている時にだ、不意に。 
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