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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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モルフォバタフライ

 
前書き
いわゆる説明回です。ごちゃごちゃしてる事情がわかります。 

 
『こちらモルフォ、ランディングゾーンに到着!』

あれから約一時間後、追手が来ない事でエナジーの補給の必要が無くなったジャンゴ達は、病院の犠牲者達を弔うように降ってきた雨に濡れながら、少し開けた場所に予め女性が呼んだヘリのすぐ傍でバイクを停止。女性はデバイスに、ジャンゴはバッグにそれぞれ格納する。

「さ、乗った乗った」

「一応乗る前に訊いとくけど、どこに連れていくつもり?」

「アウターヘブン社所属の次元航行艦エルザ。そこなら落ち着けるし、何より……」

女性はなのはをチラッと見る。すると、

「……くしゅん!」

「この格好の高町をほっといたら風邪ひきそうだしね」

ジャンゴもその言葉には納得した。なのはは薄着で着脱しやすい病人服しか身に着けておらず、更に雨に濡れてビショビショだった。このままだと確かに風邪をひきかねない。そう思ったジャンゴはなのはを抱えて素直にヘリに乗る。それを確認した女性もすぐに乗り、ヘリは上昇を開始……エルザへと向かう。

「ふぅ、これでようやく休める」

「ちょっと狭いけど、適当にくつろいでくれ」

そう言って体を伸ばす女性とその膝の上に座るアギトの敵意が一切感じられない気楽な姿に、ジャンゴ、なのは、おてんこはひとまず彼女達に対する警戒心は解いた。だが正体とか色々わからないことだらけのため、不安などは抱いたままであった。

「えっと、助けてくれてありがとう。それで君達は……」

「ん? あぁ、そうだね。じゃあとりあえず自己紹介から始めよっか。あ、高町はとりあえずこのシーツでも着てな、機内とはいえ寒いでしょ?」

「あ、ありがとう……くしゅん!」

「おてんこさま……ちょっとさ……」

「うむ……仕方ない、今回だけだぞ」

そんな訳で体温を逃がさないようになのはは保温シーツに身をくるみ、見かねたおてんこは湯たんぽ代わりとして彼女に抱えられて温めていた。そんな風に一応話し合いの場が整った事でジャンゴ達は改めて自己紹介し、そして次に女性たちの自己紹介が行われる。

「アタシはアギトってんだ、姉御のユニゾンデバイスやってる。よろしくな」

「ユニゾンデバイス……? てっきり妖精かと思ってたよ」

「その間違いを指摘すんのはもう面倒だっつーの」

「気を悪くしたならごめん。こっちの世界の事は僕達、まだよくわかっていないから……」

「それぐらい知ってるよ、最初からね」

「? それで……君は?」

「マキナ・ソレノイド。改めてよろしく、ジャンゴさん」

「ん? マキナ・ソレノイド……? ああそうか、君がシャロンの言っていた……」

ガタッ、と足音を立ててマキナは突然身を乗り出す。

「ッ!? え、え? ちょっと待て……! ジャンゴさん、なんでシャロンを知ってる!?」

「そりゃあ、2年前からサン・ミゲルで一緒に住んでるし……」

「じゃあ……シャロンは世紀末世界に居るって事!? 2年前のあの時からずっと!?」

「そ、そうだけど……この服も彼女に作ってもらったものだし、街の皆とも打ち解けてるし、結構元気にしてるよ?」

「そっか……そう、なんだ……! 良かった……! シャロンが生きてる! ちゃんと生きてて、くれたんだ……!」

突然の態度が変わった事に戸惑うジャンゴに対し、マキナはまるで長年の目的を果たしたかのように涙をこぼす程の純粋な嬉しさを見せていた。それはそうだろう、彼女は2年前からシャロンの生存を信じてずっと次元世界の各地を探し回っていたのだから。ただ、世紀末世界という次元世界とは異なる世界にいるせいですぐに会いに行けないのがネックではあるが、少なくとも死んでないとわかっただけで、マキナは十分喜んでいた。

「友の生存を喜ぶ気持ちはわかるが……マキナ、私達も情報が欲しい。話を進めてくれないだろうか?」

「おてんこさま、こんな時ぐらい少し待ってあげようよ……」

「し、しかしだな……イモータルが活動していると分かった以上、あまり悠長にしている場合ではないんだが……」

「いや……もう大丈夫だ。本気で喜ぶのは再会した時のためにとっとくよ。……さて、まずジャンゴさん達は質問や疑問などが多々あるだろうけど、先に私があの場に来た理由を伝えとく」

「確かにいいタイミングで来てくれたからね。それで、マキナはどうしてあの場に居たの?」

「私の下にある人物から依頼が来たんだ。内容はあの地下病院から要救助者の脱出、及び安全地帯までの護衛。詳しい内容は合流してから教えてもらう予定だったんだけど、いざ向かってみればアンデッドがいるわ、ヴァランシアがいるわ、“裏”の連中がいるわ、ジャンゴさん達がいるわでもうごっちゃごちゃ。で、念のため病院内の生命反応も調べたけど連中以外一切反応が無くて、あれじゃあ依頼人はもう炎の中だなって事で作戦変更、とりあえずジャンゴさん達を安全な場所まで誘導する事にしたわけ。オーケー?」

マキナの説明を聞いて、なのはは自分を守ろうとして結局アンデッドにされてしまった主治医達を思い出す。彼らの最後の行動がマキナをここに連れてきてくれたのだと確信したなのはは彼らの魂に感謝の気持ちを送り、そして冥福を祈った。

「うん、まあ経緯はわかった。ところでヴァランシアとか、“裏”って何?」

「ヴァランシアはイモータルの集団名でさっきの炎の奴もその内の一体。4ヶ月前……高町が撃墜した直後に突然現れたんだ」

「私が撃墜した直後?」

「わかってる範囲で当時の状況を説明すると……髑髏に襲撃された高町達の乗るヘリが伏兵の攻撃で墜落し、アースラから救出部隊が送り込まれた。それで墜落したヘリを発見、現場に到着した彼らを突然ヴァランシアが奇襲した。その時に連中はヴァランシアと名乗ったから、そう呼んでる訳」

「また、犠牲が出たんだね……。じゃあ私はあれからどうやって助け出されたの?」

「イモータルとの遭遇でアースラクルーが焦る中、瀕死だった高町達に彼らの手が及ぼうとした瞬間、間一髪のところでラジエルが応援に駆け付けて連中を追い払った。……でも連中はあれ以降……散発的に次元世界の各地に現れて人間を吸血変異させたり、どこかへ連れ去ったりしている。当然私達も管理局も連中の拠点を捜索してるけど、どこにあるかは未だに誰も掴んでいない。目的は不明だけど、だからって焦るのは禁物だよ、太陽の使者」

「うっ……! わ、わかった……もう急かさないから怒らないでくれ……」

冷や汗をかくおてんこを見て、溜飲が下がったマキナは苦笑して話を進める。

「別に怒ってないよ。で、話はどこまで進んだっけか……あ、そうそう。まあそんな訳でアンデッド化の危機は一応去ったものの、高町達は重傷でいつ死んでもおかしくなかった。即座にアースラに搬送して緊急治療が行われたけど、高町はヘリが撃墜する前に胸に致命傷を負ってたせいで、破片からかばわれたと言っても危険な状況に変わりは無かった。それから本局の特別集中治療施設に搬送されて…………まぁ色々あって今、4ヶ月の昏睡状態から覚醒したって所かな」

「そうだったんだ……。じゃあヘリに乗ってた他の皆は?」

「それも聞いちゃう? ま、いいけど……ならはっきり言うよ。八神ヴィータ以外、乗員は全員死亡した。ヴィータは元々プログラム体という事で八神はやての所有する夜天の書からの魔力供給で体を再生できたから、全身打撲の上に大火傷を負っても何とか生き残れた。ま、身体の傷は治せても精神の傷は治せなかったようだけど」

「そんな、ヴィータちゃん……皆……」

「でも彼女達に今会いに行くのはやめた方が良い」

「どうして? 私が生きてるって伝えたら、皆も絶対喜ぶはずじゃ……?」

「うん、普通に考えたらその通り。……でも残念ながら、今伝えるのは状況が悪すぎる」

「???」

「理由はこれから伝える。少し話を戻すけど、“裏”とは簡単に言えば管理局の暗部で、内々的に非道な手段を行ったり都合が悪い事をもみ消したりと、まぁ汚い事に定評がある連中の事。管理局という次元世界を飲み込まんとするクジラの腸にいる“寄生虫”のような存在。そんな奴らがあの病院を襲撃した理由は……高町だ」

「え、私!?」

「そう、管理局の期待の星にしてエターナルエース。P・T事件やファーヴニル事変で多くの市民を守り、八神達と違って前科が無い高町は、昨今のエネルギー資源不足などで支持率が低下している現状を打破したい管理局上層部にとって、都合の良い英雄的象徴(イコン)だった。だからこそ、それが撃墜するなんてあってはならない。そのためハラオウン提督らの身内に対する特別扱いを上手く誘導して表面的な理由とし、高町が所属する部隊の戦力を他より充実させた。それにも関わらず撃墜、全滅したのは……連中にとって想定外の事態が起きたからだ」

「想定外の事態……?」

「“裏”も一枚岩じゃない、それぞれ派閥や政党みたいなものがある。でも上層部が気付かない内に“裏”の半数以上を掌握、私物化した男がいるんだ。そしてそいつは……あの髑髏を生み出し、手駒として操る指揮官でもあった。それがさっき言った“寄生虫”の正体だ」

「ッ!?」

「4ヶ月前、突如その男が独断で髑髏を用いてなのは達を襲撃した。だがそれは上層部の意思じゃなかった。だから救出が間に合わない可能性は高いが、それならせめてイモータルやどこかの犯罪者に利用されないように遺体だけは確保しようとして、ラジエルに恥を忍んでその情報を送り、彼らが応援に駆け付けた訳だ」

「結果的にアースラの皆がアンデッドにされないで済んだから、それはそれで複雑かも」

「で、ここから今会わない方が良い理由に繋がる重要な内容になるんだが…………管理局が自ら名声を持ち上げてきた事もあって、高町の撃墜はどうしても隠しようが無かった。それに全力で治療しても助かる見込みは限りなく低かった。そして撃墜から一週間後、管理局はいきなり『高町なのはは次元世界の平和のために命を捧げた』と発表した。要するに……自ら死亡を表明したんだ」

衝撃的な内容に、なのはが愕然とする。ジャンゴとおてんこが固唾を飲んで見守る中、なのはは慌てて抗議する。

「わ、私生きてるよ!? なのに死亡って、なんで!?」

「ここからは私じゃなくて王様の推測になる。管理局は恐らく自分達への非難の声を最も減らせる手段を選んだんだ。いくら才能があるとはいえ……管理外世界出身の子供に過剰な出撃任務を与え、挙句の果てに過労で撃墜させてしまう。簡単に言えば、何も知らない子供を都合よく使い潰して過労死させた。そんな事実を世間に知られたら、当然管理局の評価は地に落ちる」

「あれは自己責任のつもりだったんだけど……まあ、その理屈は分からなくもないよ……」

「しかしアースラクルーや友人達が生きている以上、その情報に蓋をする事は不可能。それならばいっそ『彼女は人々のために最後まで勇敢に戦った』と公表する事で、『高町なのはは管理局の不祥事とは一切関係なく、名誉の殉職をした』という市民達にとっても英雄的象徴(イコン)に見えるように情報操作をしたんだ。そして友人達には『最善の手を尽くしたものの、残念ながら治療の甲斐なくご臨終』だと告げる……ご丁寧に葬式まで行ってね」

「そ、そう……しき………!?」

「だから私達も正直に言って、高町は死んだと思ってた。その辺りの情報はこっちも騙されるぐらい上手く操作されてたから、きっと例の男が助言したんだろう」

「え……それって、あんな事をしておいて逮捕も左遷もされてないって事?」

「いやぁ、左遷は流石にされてるんじゃない? ただ、左遷された後も重役である事に変わりないだけで……。大体、こういう情報戦に強い輩ってラジエルのやり方を見ればわかるけど、複数の手札をあらかじめ備えているものなんだ。だからその男は上層部の世間に知られたくない情報が、自分の日記帳に書いてあるみたいな感じで掌握してるんだと思う。その男を切ったら自分の首まで道連れで飛ぶ……だから切ろうにも切れず、裁こうにも裁けない。哀しいけど、それが管理局のやり方なんだよね」

「そんな……」

「あの、ちょっといい? ずっと気になっていたんだけど……その男の名前とかはわからないの?」

「良い質問だね、ジャンゴさん。気になってる所残念だけど……私達が掴んだその男の個人情報は、性別が男であり情報戦が強く、“顔が無い”という所までなんだ」

「顔が無い? のっぺらぼうとかデュラハンとか?」

「そういうのとは違うと思う。アンデッドやイモータルの中に似た奴がいないとは断言できないけど」

でも本当にいるなら、どこかで百鬼夜行が行われているのかな? そんな素朴な疑問を抱くジャンゴであった。

「お、お化けは……苦手なの」

「いやいや高町、相手はお化けじゃないって、ちゃんと実在してるって。まぁでも……こうしてあんたの生存を確認した事で色々状況がわかってきた。多分、あの病院の人達は高町が“裏”に始末される前に秘密裏に搬送、今日まで治療しながらずっと隠してきたんだ。だけどそれがバレた事で、世間に高町が生きている事実が漏れないように“裏”は暗殺部隊を投入し……後はそっちが見てきた通りだよ」

「暗殺……!? 一度は守ろうとしてくれたのに……なんで手の平を返したの?」

「過去に公言した事を嘘にしないようにするのと、“英雄の利用価値は死んだ後にある”って事だろうね。歴史上でも執政者にとって英雄的存在は扱いに困るから、戦いが終わったら暗殺なり追放なりしてるもの。強すぎる力は自分に忠実で従順でない限り反逆とか謀反を企まれそうで、基本的に好まれないものだし」

「……謀反って……そんなつもりは……」

「ニッポンでは織田信長と明智光秀、キャメロットではアーサーとランスロット、忠誠を誓っておいて裏切った例は他にもある。何事にも絶対なんてのは無い。ただ……どうも高町の扱いを上層部の連中は決めかねている気がする。本気で消すつもりなら、あの病院に髑髏をけしかけてきたはずなのに、出してきたのはなぜか魔導師……戦力は十分でも確実性、隠密性には欠ける。ぶっちゃけ、思想が一貫してないんだ」

「つまり……どういうこと?」

「私見だけど……上層部の間で意見が二つに割れているんだろう。一方は荒波が起こる前に高町を暗殺する勢力、もう一方は再び高町を英雄的象徴(イコン)とする勢力。死んだはずの存在が復活し、英雄として奇跡を起こす。これってまさにどこかの宗教みたいでしょ? 英雄派の思惑は十中八九これだ、これがあるから暗殺派の主張を抑えられてるんだと思う」

「じゃあ私が今ヴィータちゃん達に会いに行っちゃいけない理由、それってもしかして……」

「そう、暗殺派だ。英雄派はまだしも、暗殺派は高町の生存が知られるのを防ごうと、ありとあらゆる手段を使ってくる可能性が高い。それこそ、接触した人間全てを闇に葬るぐらいに……。なにせ暗殺派には高町を撃墜した髑髏という手札がある、そしてそれの使用を抑えられるのは現状では英雄派のみ。友人達との迂闊な接触は、彼女達の命の危機を自ら招く事を意味する。だから会いに行くのはやめた方が良いんだ」

「そっか……皆を守るためなら、辛いけど仕方ないね……」

「でも対処法や抜け道が無い訳じゃない」

「え?」

「方法は二つある。まず一つは高町の故郷……地球に帰る事だ。あそこは今も管理外世界、管理局の手が及んでいる訳じゃない。だから事情を話して家族の下に戻って、二度と魔法に関わらない生活を送れば、少なくとも襲撃の危機は最小限に抑えられる。高町家の人間はサバタ様が認める程の手練れ揃いだから守りは大丈夫、それに友人達との接触も地球だけに限れば少しならできる。まあ要するに“避難案”って訳だ」

「家族に頼る事が避難案……。じゃあもう一つは?」

「かつての名声を越える事だ、それも自力でね。都合の良い仮初めの名声、見た目だけは華々しい造花の如き栄光、管理局が自分達のために着飾った欺瞞に満ちた称号……エターナルエース。それを脱ぎ去り、打ち倒すんだ」

「過去の私を……超える……」

「さしずめ“報復案”と言った所かな。なぜ名声? という疑問はあるだろうから一応説明すると……英雄派は高町の名声の強さによって発言力が決まる。英雄派の発言力が強まれば、暗殺派の意見を封殺する事ができる。そうすれば高町の自由度は徐々に高まって襲撃される可能性も減り、いずれ昔のように友人達と一緒にいられるようになる。もちろん過去の発表が嘘だった事で管理局の立場は悪化するだろうけど、その分は高町が復活させた名声がカバーしてくれる。ただ……これは常時襲撃を想定しなくてはならない、命懸けの綱渡り……一世一代のギャンブルの道だ。一度転落すれば、今度こそ全部終わる。高町だけじゃない……家族、友人、関係者全てを巻き込む壮絶な賭けだ。だから今の内に言っておく。……選ぶなら覚悟しろ、命を賭して私達の未来を取り戻したサバタ様のように。友の、仲間の、家族の命を背負って戦い続ける覚悟を抱くんだ」

「覚悟……」

「それが出来ないのなら、大人しく避難案を選ぶべきだ。高町の我が儘に、私達まで付き合う義理は無いからね。あぁ大丈夫、地球までは責任を以って送り届ける。元々アウターヘブン社は地球の企業だから、地元に帰るだけと言ってれば後はどうとでも言い分はつく。それはそれとして……もしちゃんとした覚悟を持って報復案を選ぶというならば……」

「ならば?」

そこで一旦言葉を区切ったマキナは、フッと笑みを浮かべる。まるでサバタを思い出させるような仕草を見せた彼女は、なのはの目を真っ直ぐ見つめて宣言する。

「私の力、貸してあげるよ」

「ッ!? マキナちゃん……!!」

「金さえ払えば」

「感動が一気に台無しだよ!」

「だってこっちにも生活かかってるし、金稼がないと食っていけないもの。まあ出世払いって事でしばらくは見逃してあげるけどさ、いつか返してもらうからそのつもりで」

何だかんだで協力してくれる事を明言した彼女に、なのはは戸惑いながらも喜びの表情を浮かべた。シャロン経由で事情を知るジャンゴとおてんこは、マキナがこの宣言をするという事がどういう意味なのか、少なからず察していた。

管理世界や管理局の思惑で故郷、友人、仲間、時間、崇拝した男を失ったマキナは、当然ながらそれなりに大きな報復心を持っている。管理局の人間と一緒にいる事すら嫌うまでに、その怒りは大きなものだった。……にも関わらず今、協力すると言った。それは彼女が、報復心と共存できるようになった事を意味する。シャロンの生存を知ったからか、それともなのはの境遇に自分を重ねて憐れんだからか、はたまた時間の流れが怒りを抑えたのか、それは本人にしかわからない。

ただ一つ、断言できるのは……マキナ・ソレノイドは味方である、という事だった。

「ま、決めるのは後で良い。リハビリで身体能力を取り戻し、義手を特別製にして使い慣れてからでも遅くは無い。ってか、まずそれが終わってからじゃないとどうしようもないからね。避難案も報復案も、結局高町が自由に動けるようになってから選ぶべき事だもの」

「あ、うん……確かにその通りだね。それで……特別製の義手って?」

「アウターヘブン社はその“テ”の技術者とコネがあってね。依頼して作ってもらえば、元の腕と同じ……むしろそれ以上に使いやすい腕を取り戻す事が出来る。地球に帰るにしろ、次元世界で戦い続けるにしろ、自由に動かせるのが片腕だけだと色々不便でしょ?」

「うん、そうだね」

「それと……ジャンゴさん、一ついい?」

「何かな?」

「私の目的はシャロンとの再会、そのためには世紀末世界に行く必要がある。そしてジャンゴさんも、いつか世紀末世界に帰らないといけないはず?」

「うん、世紀末世界には僕達の帰りを待ってくれている人がいる。だから帰るとしたらヴァランシアを浄化してからになると思うけど、確かにその通りだよ。それで?」

「世紀末世界へ行くのは、ジャンゴさんの傍にいる方が可能性は高い。だから私はジャンゴさんに全面的に協力する。そしてジャンゴさんには……私をシャロンの所まで連れていって欲しい。そういう協力関係を結んでおきたいんだ」

「なんだ、それならこっちも願ったりだよ。今の次元世界の情勢とか、まだ来たばかりの僕達にはわからないから、マキナが教えてくれるならありがたいもの」

「じゃあ契約成立だね。よろしく頼むよ、太陽の戦士」

「こちらこそ契約した以上、約束は果たすから任せて」

合意を示すべく握手するマキナとジャンゴ。そして彼らの乗るヘリは、そのまま次元航行艦エルザへと着艦したのだった……。

 
 

 
後書き
モルフォ:MGSVGZで使うヘリのコード。
ヴァランシア:漫画版ボクらの太陽のヴァンパイア集団の名前。


要するに今のなのはさんはMGSVTPPの英雄度を上げていくみたいな感じで頑張れ、でも下手すると友達ごと死ぬぞってこと。一度持ち上げられてきた彼女が底辺まで落とされ、再び這い上がっていく、そんな話です。 
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