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この異世界に統一神話を ─神話マニアが異世界に飛んだ結果─

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05

 相同伝承。

 それは、神話や伝説どうしに存在する、似たような伝承の事だ。

 規模が大きい、つまり殆どの神話で共通するものでは、人類を滅ぼし尽くす大洪水の話だとか、冥界に妻を救いにいく英雄の話だとか、太陽神、あるいは豊穣神が死んだり引きこもニートになったりで冬や日蝕が訪れるとか。

 小さい、つまりいくつかの神話で共通するだけのものなら、湖から聖剣を抜いた常勝の王の物語や、転生する世界の物語だろうか。

 そんな中で。

 俺は、地球の神話と異世界の神話に、その相同伝承を見つけてしまった。

「……その"ケラウネイオス"は、ガルシェ神話の主神だろう?」
「……!」

 図星(ビンゴ)か。
 俺が告げると、シェラは大きく目を見開いた。
「彼は空を支配する神だ。おそらくは海と冥界を支配する兄弟がいて、正妻は愛と結婚を司る、自らの姉だろうな」
「……どうして、わかったの?」

 シェラが俺に問う。この世界の神話など何一つ知らないはずの俺が、真実を口にしたのが不思議なのだろう。

 だが、最初の質問が正解だった時点で、俺の考えがほぼ正しいのは証明された。

「多分、父親が王位簒奪を防ぐために子供たちを食った時、母に助けられて一人だけ難を逃れたんだろう?」
「うん……ガルシェ神話だと、そうなってる」

 ほら、正しい。

「細部までは俺もわからん。奴には多分、無数の愛人がいるだろうし、そのメンバーは俺が想像しているのとは違うと思う。当然歴史が違うわけだし、象徴しているものも変わるだろうからな」
「……!」

 再び驚くシェラ。ここまで来れば、あとは真実を告げるだけ。

雷霆(ケラウノス)の存在。ガルシェの主神、そして『石榑に救われた神』と来れば、もう結果は見えている」

 俺は、己の得た『成果』を、シェラに披露した。

「──"ケラウネイオス"は、【ゼウス】の共通神格だ」

 ──解析完了。"ケラウネイオス"は、統一神話に組み込まれた。

「凄い……それが、『統一神話』の考え方?」
「ああ。一つ似たような所があれば、他に似たような所がないか探す。家族構成まで似通ったら、殆どの共通と言っても良いだろう。
 まぁ俺も、まさか共通どころか、殆ど同一だとは思わなかったが……」

 ガルシェ神話は、ほぼギリシア神話と同一の神話なのだろう。何度も言うが、勿論細部は異なるだろう。だが、ガルシェが西洋の島国であることを考えれば、立地的にもギリシアと一致する。

 そして──きっと、こんな風に、世界中の神話が、地球の神話と似ているのだ。これは凄いことだ。神の存在が証明されていて、なおかつ勢力や大陸の形が違っても、人々は住んでいるところに応じて同じような歴史をたどり、同じような神話を産み出す。それが証明されるかも知れないのだ。

 間違いなく、統一神話的に大発見だ。

「シェラ」
「……何?」

 俺は押し黙ったまま難しい顔をしていたシェラに、一つの問いを出した。

探索者(シーカー)、って言うのは、誰でもなれるものなのか?」
「一応。でも、バヴ=イルの研究機関のメンバーがいる探索者ギルドで資格を取らないといけないし、現代なら発掘魔法も使えなくちゃいけないなら、魔法の素質も必要。普通は学校に通ってそれらをクリアするけど、通ってなくても大丈夫」

 帰ってきたのは、思いの外複雑な探索者になる方法。まぁ、専用の学校に通うとか、そういう必要がないだけマシ、か。

「そうか……俺に魔法の素質があるかは調べられるか?」
「多少は……コウガ、もしかして……」
「ああ」

 シェラが聞き返す。彼女が思っている通りであろうことを、俺は今、考えていた。

探索者(シーカー)になろうと思う。この世界の神話の事をもっと知りたい。俺の統一神話を完成に近づけたい」

 それは願いだ。
 この世界の神話を詳しく調べて行けば、件の『始まりの神話』を発見して、シェラを手伝うことも可能だし、なにより統一神話の拡張に役立つ。
 そのためには、自ら神話研究に携われる役職を手に入れたい。

「……分かった。見てあげる」
「サンキュー」

 頷いてくれたシェラに感謝の言葉を送る。というか通じるんだな、これ。本当になんで言葉が通じるんだろうか。異世界転移の影響か?

「これからあなたに使うのは、魔力を吸い取ることで、魔力の量を調べる魔法。あなたの世界には魔法がなかったっていうから、魔力があるかどうかは分からない。もし無くても、気を落とさないで」
「ああ。君のせいにもしないよ」

 そのときはそのときだ。別の方法を考える。

「魔導の真理は、常に深淵への口を開ける。飲み込まれぬため、用心せよ──『ブラック・ジン』」

 ぼう、と、シェラの右手に、暗闇が集まった。すげぇ、これが魔法か。

 彼女はその手を俺の胸に当てる。同時に、物凄い勢いで何かが吸収されていく感覚。痛い……!

「ぐあっ……!」
「──!?」

 俺が呻き声を漏らすのと、シェラが驚愕に後ずさるのは、ほぼ同時だった。

「……驚かないで聞いてね」
「お、おう……」

 未だ痛覚冷めやらぬ俺に向かって、シェラは告げた。

「コウガ、あなたの体は、全部魔力で出来てる」
「……は?」

 それはあれか。さっきの痛みは、体を構成する物質そのものを奪われていた痛みって事か? こわっ……。

「コウガが魔法を使うには、自分を構成してる魔力と、体内を流れている魔力を、分ける方法を身に付けなくちゃいけないかも」
「なるほどな……」

 ふぅむ……少し厄介な手順が増えたか……?

 少なくとも俺の知る限り、地球に実際に魔法だとか魔術だとかが存在したという証拠はない。魔力なる物質の存在も聞いたことがないため、こちらの世界に転移してきたことによって、俺の体が魔力に置き換えられたらという事なのだろうか。

「……『簡易治癒(デミヒール)』で完全回復したのはこのせい……?」

 何事かを呟くシェラ。何だ何だ?

 まぁ、何にせよ。

「適正は?」
「充分、だと思う」

 そりゃよかった。発掘魔法が使えなかったら探索者に成れないらしいしな。

 とにかくこれで、俺は探索者になるための最初の試練を突破したと言って良いだろう。このままあと二つ追加とかいう事が起こらないことを願う。

「……?」

 そんな事を考えていると、シェラが首をかしげた。

「うん? どうした?」
「ううん……コウガの魔力が、凄い速度で回復していくから……」
「変なことなのか?」
「うん。普通、体内魔力(オド)は少しずつしか回復してかないから……」

 ほーう。それもやっぱり、俺の体が魔力の塊だから、か。

「何にせよ、コウガは早く魔力の分割が出来るようにならないと。そうしないと、『魔法妨害(ディスタヴ)』系の技術で殺されちゃう、かも」
「マジかよ」

 その魔法妨害、とやらがなんなのかは良く分からないが、察するに魔法を打ち消したり魔力を掻き乱したりするモノなのだろう。

 つまりは今現在、俺自身が一つの魔法の様なものなのだろう。早急に対策しなければな。

「なぁ、その魔力の分割、っていうのはどうやってやるんだ?」
「うーん……普通は魔力を感じとる所から始めるんだけど……コウガは体自体が魔力だし……」

 悩み始めてしまうシェラ。きっと思考に入ると暫く戻ってこない、俺に似たタイプの人間なのだろう。なんというか、仲間を見つけたみたいで微笑ましい。今日は良いことが重なるな!

「魔法は、イメージを基盤として発動するの」
「ほう」

 唐突に魔法談義が始まったが、面白そうなので普通に聞く。というかこの話が魔力分割に繋がるんだろう。

「詠唱をするのは、そのイメージを固めるため。イメージで作った『体外魔術回路』に、自分の『体内魔術回路』に満たされた体内魔力(オド)を流して、魔法を発動させる」

 ふむふむ。

 つまりは、イメージ力次第で無詠唱も可能、という事か……いや、そう簡単には行かないんだろうな。

「これを応用して、自分の体と、その中にある魔力を分割するイメージを強く持って。あなたの体は魔力そのものだから、魔力そのものは直ぐに感じ取れるはず」
「分かった」

 頷いた俺は床に座ると、簡易式の座禅を組んだ。シェラはその様子が珍しいのか、首をかしげる。

「……?」
「あぁ、これは座禅、って言うんだ。東方の風習で聞いたことないか?」
「ザゼン……言われてみれば、あるような無いような……」

 この世界にもインド神話、ひいてはバラモン系宗教があれば、発達してるかもしれないな、禅宗。や、座禅の風習は禅宗だけに限った事じゃないが。

 とにかく、これは気持ちを鎮めるのには非常に役に立つ。

 俺は自分の体と、その内側を走る魔力に『壁』を作るべく、精神を統一していった。 
 

 
後書き
 日間ランキング7位ありがとうございます!

 変なところがあったらご指摘お願いします。

 定期更新はここまでです。とりあえず一章分までは投稿していこうと思っています。

 次回もよろしくお願いします! 
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