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RSリベリオン・セイヴァ―

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第二十話「銀の福音」

 
前書き
これ含めてあと二、三話ぐらいあります。 

 
早朝、あるハワイ沖付近の島にて……

地図にも書かれていない軍の極秘施設なんて幾つも存在するが。この基地だけは今までの施設と比べてかなり極秘であった。
『こちら司令部、これより試作ISシルバリオ・ゴスペルの試験飛行を行う。操縦者は、準備が出来次第、こちらへ知らせよ』
全身純白に身を包んだISから司令部より無線が響いた。
「こちらナターシャ大尉、機体状況は良好、いつでも離陸できます」
機体の中で、操縦者の女がそう返答する。
『了解、こちらの指示が出るまで待機せよ』
司令部より返答が返った。
「さぁ……ようやく貴方と飛べるわね? この機会をずっと待っていたのよ?」
彼女はそう自機のISへ語りかけた。この女性、ナターシャ・ファイルスはISを扱う女性陣の中でも数少ない正統派な人格であり、女尊男卑という風習に興味を示さず、ただ一人の軍人となってISを操縦することだけを全うしているのみ。
『こちら管制塔、許可が下りた。これより発進せよ』
「了解……ナターシャ・ファイルス、シルバリオ・ゴスペル発信します!」
ISとしては珍しい素顔までもが装甲で覆われたその機体、シルバリオ・ゴスペルこと「銀の福音」は発進体制のためカタパルトから滑走し、上空へと舞い合った。
「未だ機体に異常は見当たりません……」
『了解、そのまま飛行ルートを維持せよ』
銀の福音は、まさに異常はなく外見と似合わなず軽やかに、優雅に空を飛び回る。
「良い子ね……そのまま一気に速度を上げるわよ?」
しかし、ナターシャが予定のコースを飛行中、ある事態が起こったのだ。
『ナターシャ大尉! そちらに所属不明の機影を確認! 十分に注意しろ!?』
「所属不明の機体?」
操縦士、ナターシャはその無線を聞き続ける。
『ナターシャ大尉、試験飛行は一次中断する。ただちに格納庫へ戻れ!』
「了解、直ちに帰投します……」
『熱源、さらに接近! もうすぐでナターシャ大尉に……いえ、来ました!』
オペレーターの声にナターシャは目前を見た。
「あれは……!?」
銀の福音の目の前に見えたものは……彼女と同じように浮上する男である。それも、大剣を担ぎ、見慣れぬ服装をした青年であった。
「クレイジーね……生身のまま空に立っているなんて。ホログラムかしら?」
「俺はヴォルフ・ラインバルト……銀の福音、『シルバリオ・ゴスペル』を破壊する」
大剣を片手に軽々と抜き、その先をナターシャへ向けた。
「その前に……貴方はホログラムなの?」
「……!」
そんな彼女の一言と同時にヴォルフは大剣「グライフ」を横へ振り回すと、一瞬で激しい強風が吹き荒れて福音の体制を崩しだした。
「くぅ……どうやら、ホログラムじゃなさそうね?」

「バカなっ!? 何故、『ベルリンの黒狼』が……!?」
司令室にて、ディスクを激しく叩き付ける女士官がヴォルフの映像を見ていた。極秘の中で生きている彼らにしては、RSの存在は薄々気付いており、また男性陣はRSに対して微かな希望も抱いていた。しかし、今ここに居る司令官は女であり、また男女平等派のナターシャとは大きく性格が正反対の女尊男卑派の人間であった。
「ベルリンとパリ支部の襲撃に向かった『アンネイムド部隊』はどうした!?」
『例のコソドロ部隊なら、僕が潰したよ……?』
と、またヴォルフとは違う別の青年の声が聞こえた。その主はヴォルフの背後から新た登場したラルフである。そう、彼の任務はベルリンとパリ支部へ潜入した敵特殊部隊の殲滅へ出向いていた。ただの部隊とは違い、ISを用いた尖鋭部隊だから、やや一般のRS装着者には厄介であるため、筆頭の彼を向かわせたのだ。
「なっ……『金色の不死鳥』だと!? あの部隊が全滅したというのか……!?」
さらに苦虫を噛みしめる女士官はこう命じる。
「ナターシャ大尉! 今すぐシルバリオ・ゴスペルの性能を用いてあの男たちを殺せ!」
そんな無茶苦茶な彼女の命令に周囲が反対する。
「し、しかし! いくら大尉でも相手が悪すぎます……」
「指令! カタパルトより無断発進のISが……」
基地のカタパルトから無断で飛び立とうとする一機のISが見えた。
「こんな時に……誰が乗っている!?」
「イーリス・コーリング中尉です!」
「あの馬鹿め……まぁいい、彼女に至急ナターシャ大尉の救援に向かうよう命じろ!?」
「了解!」
しかし、ナターシャの相棒であるイーリスは言われなくても彼女の救援へ向かった。

そのころ、ナターシャはヴォルフとラルフの筆頭と空中で激しいドッグファイトを繰り広げていた。
「くぅ……2対1じゃ流石にキツイか?」
銀の福音の放つ雨のような弾幕を二人の筆頭はトリッキーに避け続けながら距離を縮めて行く。
しかし、そんな二人へアサルトライフルの弾丸が降り注いだ。
「何だ?」
目障りな目つきでラルフはその方向へ目を向ける。
「お前らの相手はこのアタシだぁ!!」
イーリスが、ようやく救援に駆けつけたのだ。しかし、筆頭の二人にすればISが何機も増えようが変わらないことである。
「ヴォルフ君……アレ、僕の獲物にしてもいいかな?」
「好きにしろ……」
戦闘狂特有の笑みを浮かべるラルフを見て、ヴォルフは呆れた。
「あんなコソドロ部隊じゃ物足りないんだ! もうちょっと楽しませてくれよぉ!?」
ラルフのランスロットが、こちらへ向かうイーリスへ襲い掛かった。それは、獲物の小鳥へ急降下して襲い来る巨大な鷹のように……
そのとき、突如ナターシャの操縦するシルバリオ・ゴスペルに異変が起こった……!

早朝八時、俺たちは千冬公に叩き起こされて眠たい顔をして布団を畳み、歯を磨いて縁側を歩いていた。
「はぁ……眠っ」
大きなあくびをしながら俺と弥生は歩いていた。
「大丈夫ですか? 狼君」
「ああ……最近夜更かしするのが仇になったみたい」
「早寝早起きは大事ですよ?」
ご覧の通り、弥生は規則正しい生活を送っているため俺よりもピンピンしている。
「そうだな……あり?」
縁側の渡り廊下の辺で、一夏とセシリアが何やら庭に出て何かを見つめている。
「おーい、何してんだ? 二人とも」
俺たちは、一夏とセシリアの元へ歩み寄ると、俺と弥生もその何かを見た。
「ああ……コレ、何だと思うます? 狼さん」
「兎の……耳?」
そこには、兎の耳が草のように地面に埋もれている。どういうことだ? それも、その隣には立て看板に「抜いてね♪」と書かれている……これって、なに?
しかし、俺たちは結局抜かずにそのまま放置することに決めた。
「放っておこうぜ? どうせまた厄介なことに巻き込まれそうだし、こんなくだらない悪戯につき合う余裕は俺たちにはないんだしさ?」 
「そうッスね? 行くぞ、セシリア」
「はい……抜いたほうが良かったのでは……?」
しかし、セシリアはそう思うもどうせ大したことはないと思って、すぐさま一夏の元へ振り向いて俺たちの後を歩いた。
最後は、チーンと寂しくウサ耳だけが取り残されていた……

朝食を終え、俺たちは海岸の岩場へ向かった。ここで、海上での模擬授業を行うのだ。
「ったく! どうしてこんな岩場まで行かなきゃならねぇんだよ……」
と、先ほどから息を荒くして太智が最後尾を歩く。
「砂浜だと、離陸した時に砂が舞うからだよ?」
と、シャルロットが教える。
「なら、あえて岩場へやった方がいいな……?」
それに清二は納得した。
「そういや、今から行くのは専用機持ちの女子たちだけだろ? どうして俺たちも加わってんだ?」
俺は、疑問に思った。今歩いているのは俺たちだけではない、俺の隣には弥生も居る。
「……なんだか、臭うな?」
と、太智は怪しい目で千冬を見た。確かに、自分たちの武器はそれぞれ刀や斧、そして槍といった近接武器の類ばかりで、剣なら剣と全てが統一されていない。攻撃力や技も異なる。それなら、専用機と評されてもおかしくはないが、今まで千冬は俺たちのRSに対して専用機という単語を言った試しがないのだ。いつも俺たちのRSを見ては、ただのISとしか口にしていない。
「……」
俺も、何やら千冬が怪しく思えた。
ある広い岩場へ出たところで、千冬公による授業が始まった。
「全員いるな? それでは、各員専用機持ちの生徒は機体を展開しろ?」
「あの、先生?」
と、凰が質問した。
「箒は、専用機を持っていませんよ?」
「……」
凰の問に箒は気まずくなる。
「ああ、それについては私が説明……」
「ちーちゃーん……!!」
崖の方から何やら別の声が割りこんできた。坂上の崖をズルズルと両足で滑りながら、途中で強く蹴りあげて飛び上がり、俺たちの前で着地して現れたのは、ウサ耳のカチューシャを付け、水色のワンピースを着た……変な女だった。
「イヤッホォ~? お久だねぇ~ちぃーちゃん!!」
「はぁ……またコイツか?」
面倒なのが来たと千冬はため息を漏らした。
「ヤッホー! イっくん? あの時、お庭でスルーするなんてひどすぎるよ~?」
「……誰?」
しかし、一夏は首を傾げた。
「ガーンッ! ……イっくん!? 束さんだよ!? ちーちゃんの大親友の束さんだよ!?」
「いや、知りません……」
「ひど~い! ひどすぎるよ!? イっく~ん!?」
「束、用があるならとっとと言え?」
痺れを切らした千冬は、とっとと要件を言うよう束へ言う。
「あ、そうそう! ところで……箒ちゃんはどこかな~?」
そういえば、この女が現れた途端に箒の姿が見当たらない……どこ行った?
しかし、次期に岩場へ隠れていた箒は束の持つダウジングによってあっけなく見つかってしまう。
「箒ちゃーん!」
「ど、どうも……」
「ひっさしぶりだねぇ~ ついでに、おっぱいも大き……」
刹那。ゴンと束の頭上に箒の拳骨が当たった。
「いい加減にしないと殴りますよ!?」
「殴ってから言った~!?」
「……で、例のアレは既にできたのか?」
と、千冬。
「うん! 出来てるよ!? この天才科学者の篠ノ之束さんにかかれば朝飯前なのだ~!」
「し、篠ノ之束!?」
その名を聞いて、女子たち全員が目を丸くした。
「あ、あのISの生みの親の!?」
「天才科学者の篠ノ之束!?」
女子たちが異様に騒いでいるが、俺にはわからない。いや……名前ぐらいは聞いたことあるか? ISの開発者で、国際的指名手配犯だということは覚えている。
「ところで、姉様?」
箒が焦った様子で束へ言った。
「うん! うん! 箒ちゃん専用のISを持ってきたよ~!?」
と、束は手に握るリモコンを押すと、俺たちの目の前に巨大な菱型の物体が飛来してきた。そこには、箒専用のISが隠されていたのだ……
「これぞ! 箒ちゃん専用の第四世代機、紅椿なのだ~!」
「だ、第四世代機!?」
またもや女子たちが目を丸くさせる。
「そんな……第三世代機が出たばかりで、第四世代機なんてまだ開発段階を始めたばかりじゃ?」
清二が驚いた。無理もない、第三世代機が発表されたのは去年か一昨年ほどのこと、しかし俺達RSの存在でIS委員会は急遽第四世代機の開発を考え始めたのだ。しかし、束がこうも早く第四世代機を各国よりも先駆けて作り上げたのはリベリオンズにとって脅威である。
「恐るべき、``天災``科学者だ……」
と、太智が呟いた。
「さー! さー! 箒んちゃん? さっそくこの紅椿に乗って? 乗って?」
「は、はい!」
笑顔になった箒は、早速この紅椿という第四世代機に乗り込んだ。
赤椿は、従来の量産型とは違って抜群の性能を発揮した。空中を第三世代機の倍の機動力で加速し、そして、束が用意した巡航ミサイルの群を赤椿が持つ二刀の刀、雨月と空裂で次々に撃ち落していく。
「ヤバい性能だな?」
「ああ、ありゃ敵に回したら厄介だぞ?」
清二と太智はひそひそと小声で赤椿へ指をさした。
「アイツ……」
しかし一夏は、空で満足げに微笑んでいる箒に対し、険しい顔を向けた。
――そんなに、「強い力」が欲しかったのかよ……?
一夏は、常に強い力を半ば嫌っている。それは、使い様によっては大勢の命を救う鍵となるも、逆に大勢の人間を傷つけ、殺め、取り返しのつかない結果にもつながる。
そして、今箒が強い力を手にして満足げに笑みを浮かべ、自分を輝かせていることについて、一夏は後者の行く末になりうると捉えている。強い力を使う時、持ち主は臆病で躊躇うぐらいが丁度いいのだ……
「この紅椿なら……一夏っ!」
「っ……!」
力を得て、輝く自分を見てくれと箒は地上を見上げる一夏へ振り向くも、目があった途端に一夏は視線を逸らしてしまった……
「一夏……?」
そんな彼の態度に、箒は胸を熱くさせた。
「ん……?」
そのとき、こちらへジャージ姿の真耶先生が胸元を揺らしながら血相をかいて走ってきた。
「大変です! 織斑先生~!!」
真耶は、タブレットを千冬に手渡す。
タブレットから表示されるホログラム式のメール文を読み上げる。そして、彼女は眉間にシワを寄せた。
「特命任務レベルA……現時刻より対策を始められたし」
そして、彼女は俺たちへ振り向く。
「テスト稼働は中止だ! お前たちにやってもらいたいことがある」
後に真耶は、千冬の隣にいた束を知って仰天した。

千冬は、一旦俺たちを集めさせると、一旦旅館へと連れ戻した。何やら緊急事態の様子で他の教員たちがドタバタしている。
気が付いたころには、旅館の一室が巨大な司令室に早変わりしており、薄暗い部屋で千冬はブリーフィングのモニターを俺たちに見せた。
「……今から二時間前、ハワイ沖で試験稼働中であったアメリカ、イスラエルが共同開発に当たった第三世代のISシルバリオ・ゴスペル、通称「福音」が突如暴走を起こした」
――福音……?
俺は、その名に聞き覚えがあった。蒼真が愚痴っていた台詞の中にその単語が入っていたからだ。
『……ったく! イスラエルとアメリカがISを共同開発だぁ? アメリカはともかく、なーんで女尊男卑に猛反対していたイスラエルが加わってんだよ?』
あのとき、蒼真の言っていた愚痴を俺は回想した。
「その後、衛星で追跡を行ったところ、ここから2キロ先の空域を通過することがわかった。時間は50分後。学園上層部と、『IS委員会』からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」
――ったく! 何で学園のお上共がこんな厄介ごとを生徒達に!?
一夏は、そんな上層部の連中の理不尽な通達に怒りを覚えた。こういうのは軍の役目だろと。
「教員は訓練機のISを使って空域を確保し、お前たち専用機持ちが本作戦の要となってこの任務に担当してもらう」
「そ、それって……!?」
俺が要と聞いて驚く。
「つまり……暴走したISを、我々だけで止めるということだ」
ラウラがわかりやすく説明した。
「はぁ!? 専用機持ち……先生、俺達は?」
一夏が質問した。
「無論、お前たちにも手伝ってもらう」
「マジかよ!?」
「一々、驚かないの!」
一夏の隣で凰が注意する。
「いや! 驚くだろ? そもそも、これ事態軍が解決するようなこったろ!?」
当たり前のことを一夏が言い返した。
そのあと、俺たちはいろいろと千冬から説明を受ける。今回の作戦に加わることについて、外部に作戦内容のことを漏らしたら裁判にかけられるとか、敵とのアプローチは一回が限界などと重要で恐ろしいことも説明してくる。
「チャンスは一回……つまり、一撃必殺の技で撃ち落とすしか方法はないわけですよね?」
と、真耶は言う。
「一撃必殺……それって、まさか!?」
一夏はさらに驚く。俺は鈍感で何が何だかよくわからないが、後程それに気付いた。
「つまりは……」
清二が俺を見る。
「狼の……」
太智も顔を向ける。
「絶対神速で、決めるしかない……!」
俺がその最後を答えた。って、まて! 俺って一番重要なポジションにつかされるわけか!?
「そ、そんな……俺!?」
「そうだ、超音速で飛行する目標に対し、光に近い速さで加速し、決定的に駆逐することのできる鎖火の絶対神速が本作戦を成功へと導く鍵となる」
いきなり、荷が重いことを言いやがる……
「ちーちゃーん!」
その声は天井から聞こえてきた。篠ノ之束である。
「またお前か……!」
「聞いて! 聞いて!? 私に超いい方法が……」
「出てけ……」
と、鬱陶しがる千冬。
「ここは! 断然、紅椿の出番だよ!?」
「なに……?」
束の言葉に、千冬の視線が箒へと移る。
彼女の話によると、紅椿は全身を展開装甲……つまりは、装着しているアーマーそのものを防御、攻撃、スラスターといった万能武器として使用することができるらしい。詳しいことは俺には分からない。とにかく、ずば抜けた凄い力を有しているとのこと。
それに対して、俺の場合は一時絶対神速が使えなくなったことを千冬が知っており、信用がやや薄いらしく、ここはとりあえず親友の束の方を第一候補として決定したのだ……
よって、俺の絶対神速は一夏達が失敗したときの次に使われる最後の切り札とのことらしい。
なら、ペアは箒と狼の組み合わせにしようと千冬が言いだすと、それに束は全否定。仕方がなく束のわがままで、一夏と箒のペアで行うことになった。
一夏達は、俺の力を過小評価していると束に文句を言っているが、俺としてみたらホッと一安心したからこれはこれで良かった……

そして、俺たちはそれぞれの位置に配置された。俺は、ホログラムファイルを開いて零の特殊攻撃を観覧した。
と、いっても、技は一つしかない。ラウラ戦のときに彼女へ攻撃を与えたバツの字の波動技。
その名も「光伐波動斬(こうばつはどうざん)」だ。
「状況は良好か……零、気分はどうだ?」
零を取り出し、俺は双方の刀を両手に握った。すると、零は返答するかのように刀身を光らせる。
「そうか……よし、脇役になっちまったが、それでも俺たちは俺なりに頑張ろうな?」
「兄貴!?」
「……?」
すると、背後から妹の舞香が現れた。しかし、関係者以外は厳禁。俺は慌てて追い返す。
「お、おい! 何で来たんだよ!?」
このことがバレたら裁判沙汰になるぞ!?
「んなのどうでもいいじゃん!? それよりも、どうしてアンタが専用機持ちの人たちと一緒に呼び出されたかを聞きたいのよ?」
「どうでもいいだろ?」
「良くないわよ!? アンタ、これからいったい何をしようとしているの!?」
「そ、そんなのお前には関係ないだろ!?」
「関係あるから聞いてるんじゃん!?」
どしてもしつこく、舞香は離れようとはしない。
「このアタシの方が、あんたよりも上手くISを操縦できるのに、どうして劣等なアンタが呼び出されたのかが聞きたいの!?」
「あのな!?」
俺もついに我慢できなくなり、怒ろうとしたが……
「舞香さん?」
「へ……?」
弥生の御札が、舞香の後頭部に張られた。そして、彼女は岩場に倒れてしまう。
「それにしても、舞香さんのしつこさは相当なものですね?」
苦笑いして弥生は俺と一緒に舞香を担ぎあげた。
「ごめん……昔っから、こういう奴だからさ?」
「苦労なさってますね? さ、早く連れていきましょ?」
「ああ……」

別の浜辺では、一夏ち箒が待機していた。彼らがこの作戦の重要なポジションである。
一夏の白夜が箒の援護を行い、そして彼女の赤椿が目標へ一撃を必殺を与えるのだ。
「一夏……この作戦が終わったら、コイツでお前と……」
手合わせを願いたいと言おうとしたが、それを一夏は断った。
「悪いが、俺は遠慮するよ?」
「ど、どうして……!」
「お前がそれを乗りこなせたらの話だ……」
「……いつも、お前はそうだ!」
しかし、箒は怒りをあらわに一夏へこう言い返す。
「そうやって! お前はいつも私から目を避けるではないか!?」
「何を言って……とりあえず、落ち着け?」
言っている意味が、一夏にはわからなかった。それは、彼が箒を異性の対称として見ていないからである。
「あの時、お前は私に黙って式神と一緒に出掛けておいて、よくそんな口を叩けるな……!」
「別にそれは関係ないだろ?」
「なら、何故あの女けを誘った!? 何故、私に……」
「あ、あのな? それは偶然いろいろとあって……」
「誤魔化すな! お前は結局、私を見てくれていないじゃないか!?」
「箒……」
何だか知らいが、彼女を怒らせてしまったようだ。しかし、内容が理不尽ゆえに自分にどんな非があるのか一夏にはわからなかった。
『織斑、篠ノ之……時間だ。それぞれの機体を展開して目標地点へ向かえ?』
千冬の通信で、二人はISとRSを展開した。
「一夏、早く私の背に乗れ?」
「いや、大丈夫だ。白夜の機動力はソイツには負けていない」
「……!」
だが、またしても箒は嫌な顔をする。しかし、一夏としては箒に負担をかけさせまいとしたのだが、それが逆に誤解を招いたようだ。
「では、行くぞ? 遅れてもそのまま置いていくからな?」
「わかった……」
しかし、白夜……嫌、RSの機動力はISよりも高く、それが第四世代機といえども後れを取らなない飛行速度を誇った。
「……見えた! 箒、あれだ?」
前方から白銀の機影が見える。あれが、例の目標「銀の福音」である。
「一夏、援護を頼む!」
「わ、わかった……!」
箒は、早々に展開装甲を行って福音を追い詰める。しかし、福音の予測のつかない動きに惑わされて攻撃が当たらない。
そして、福音は反撃に両翼から無数のレーザー弾を飛ばしてくる。それも誘導弾でありしつこく俺たちの後を追いまわしてくる。
「くそっ……!」
白夜で遅い来るレーザー弾を弾き返すと、俺はすぐさま箒の援護へ向かう。
「箒! 二手に分かれて戦うぞ!?」
「了解……!」
二人は連携をとりつつ福音へ迫る。レーザー弾の弾幕を掻い潜りながら一夏はつかさず箒の援護へこまめにつく。
「一夏! 私が奴の動きを止める!」
箒は、先に突っ込んで福音の動きを止めるため攻撃を行う。
「わかった……ん!?」
だが、後から追うはずの一夏は、その足を止める。下の海上から何かのシルエットが視界に入ったのだ。
――船……!?
ホログラムスコープで映像を拡大すると、そこには一隻の漁船らしき船が航行を続けている。
さらには国籍不明と表示されているので、密漁船と思われる。
「どうして……? この周辺の海域は姉貴がシャットダウンしたはずだろ!?」
『織斑! 篠ノ之! その海域に国籍不明の密漁船が侵入した。十分に注意して行動しろ?』
案の定、千冬から厄介な通信が来た。
しかし、今はそれどころではない。何としてもあの船を海域から脱出させねば……!
「箒! 後は頼む!?」
「い、一夏!? 何をしている!?」
「助けてくる……それまでの間、上手く引き付けてくれ!?」
「何だと……? 犯罪者など放っておけ!?」
「そんなこと出来るか!」
構わず一夏は密漁船の元へ向かった。
「一夏……!!」
箒の呼び止めにも構わず一夏はレーザー弾を弾き返しながら船へ向かおうとする。
「一夏! 奴らは犯罪者だ! そんな輩共など放っておけ!?」
「馬鹿野郎っ!!」
「!?」
箒は一夏のこれまでにない怒号に驚く。
「箒、お前のその力は何のためにある!?」
白夜の剣先を彼女に向けて、一夏は激しく問いかける。
「な、何を言って……!」
「過ぎた力に頼れば、周りも見えなくなって取り替えしのつかないことになるんだぞ!?」
「一夏……」
「私欲しかない力は万物を滅ぼす……柳韻先生が、言ってたじゃないか?」
「っ……!?」
箒はその人物の名を聞いて目を見開く。
「箒! 危ない!!」
刹那、彼女の背後から襲い来るレーザー弾を一夏が楯となって直撃を受けた。
「ぐぅ……!?」
「い、一夏!?」
シールドを一ケタに切った白夜は、状況維持に耐えきれず、そのまま一夏と共に海へと落ちて行く。
「一夏!」
箒は落下する一夏をどうにか受け止め、千冬へ連絡を取った。
「こちら箒! 一夏が負傷……!!」
『くぅ……作戦は一時中断!』
千冬の通信が箒の耳元に響いた……



 
 

 
後書き
予告

一夏達が失敗に終わり、要は俺に回ってくる。不意打ちをつかれたとは聞くが。果たして俺にできるだろうか……?

次回
「覚醒」

 
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