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幻に潜む英雄譚

作者:ぷる之介
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一話

 突然だが、俺は一度死んだらしい。
いきなりこいつは何を言っているんだ? と思うかもしれないが、目の前にいるご老人こと『神様』がそう言っているのだからそうだと俺は思う。というか思ってくれないと今の不思議体験を説明できない。

『……いろいろと話してるとこ悪いんじゃが、もうそろそろ切り上げてくれないか?
かれこれ数時間もお主のことを待っとるんじゃが……頭の整理はついたかの?』

「はい。もう大丈夫です。時間かけて申し訳ございません神様」

『いやいや、こちらこそワシの都合で生き変えさせるんじゃし、おあいこじゃよ』

「いやいや、おあいこではないと思いますよさすがに?
俺はあなたの勝手な都合で殺されさらには転生までさせられるんですよ? 残りの人生を捨て、家族や友人を残して、俺の(ハート)は悲しみで濡れ濡れの泣きまくりですよ。おあいこにしたかったらもっと何か色々としてくださいよ」

『(こいつうっざいのぉ。他の者たちとは大違いじゃわい)』

「はい、めんどくさいと思わないでくださいよ神様。これは全て正論なんですから『分かったからいい加減話を進めさせてくれ!』……手短にしてくださいよ。俺としても息苦しいから、さっさとここから出ていきたいんですよ」

『お主が長引かせたんじゃろうが!!!』

 禿げ頭をタコのように赤くしながらローブのポケットの中に手を突っ込み、何処に入れてたんだよと言いたいぐらいの大きなくじ引きの箱を取り出した。

「何だよこれ?」

『とうとう素が出よったな……。
この中には特典が書かれた紙が入っておる。なにぶん少し戦闘が多い世界やからの、お主らが苦労しないようにするための、ワシからの餞別じゃよ』

「ふ~ん……。
そういえば転生先ってどこなの? やっぱアニメの世界とか?」

『落第騎士の英雄譚とかいう世界じゃ。どんな世界かは知らんが、ネットで検索したらそこそこ有名らしいからの』

「あ~、あれね」

 落第騎士の英雄譚――いちおう俺のお気に入りのラノベなんだけど、ぶっちゃけあれって才能とかないとやっていけない世界なんだよな。正直俺みたいなオタクには厳しい世界だし、できれば強い特典が欲しいな。

『もう分かったじゃろ。ほれ、さっさと引かんか。ついでに一枚だけだぞ?』

「そこまで信用ないのかよ」

『当たり前じゃ。お主なんぞ見ただけで性格悪いと分かるわい』

「それは心外だな……っと。ほらよ」

 俺は箱から一枚だけ紙を取り出し、神にそれを渡した。
すると中身を見た神は、少し驚いた顔をした。

『ふんふん……。ほぉ、これはまた珍妙な能力じゃの』

「まじ!? けっこう強いの!?」

『まぁ強いっちゃあ強いが、物理的な能力じゃないぞ』

「……それってつまり、炎とか氷とか出せないの?」

『雷および水、速度強化や毒系でもないぞ。どちらかと言うと干渉系じゃの、これは』

 それを聞いた瞬間、俺の中で何かが崩れた。
落第騎士の世界は、簡単に言えば強さがものを言う。超電磁抜刀術の雷切、総てを両断する風の剣帝、魔力を食いちぎる七星剣王、全身を鋼鉄化する鋼鉄の荒熊(パンツァー・グリズリー)、圧倒的な火力の紅蓮の皇女、そして無冠の剣王(アナザー・ワン)――どいつもこいつも化け物じみて、羨ましくて、妬ましくて、俺もこうなりたいと思っている人物たちだ。

 そしてその中の大半が、物理攻撃がトップクラスの実力を持っている。
干渉系の能力何て、俺にとってはただの騙し技で、羨ましくとも何とも思わない。

「はぁ……。はずれクジ引いたなこりゃあ」

『なにを馬鹿なことを言っておるんじゃお主は』

 すると神は心底呆れた顔をしながら、俺にそう呟いた。
お前の考えは全て間違っているといわんばかりに。

『そんなに羨ましいなら、お主も努力したらいいじゃろ。お主が憧れている者たちのように』

「そんなに簡単にできるなら苦労しねーよ。さっきも言ったように、全員が化け物じみてるんだよ。俺が努力したところで、到底最後までやりとおせる自信はねーよ」

『そんなのまだ分からんじゃろ。化け物じみている奴は、それそうおうの努力をしてきたってことじゃ。簡単に言えば、努力したら努力した分だけ強くなれる世界っちゅーことじゃろ? ならお前にも望みがある。いっぱい努力して、強くなればいいんじゃ』

『どーせ生まれ変わるんじゃ。今度は精一杯、努力すればいいじゃろ。違うか?』

 俺の目をジッと見ながら、神はそう言い切った。
……なるほど、腐っても神は神ってか。信憑性がありすぎだよ。

「……ちっ。神様にそう言われちゃあ、仕方ないよな。
どうせ前世ではアニメを羨ましがるオタクだったし、そろそろ本気をだすか」

『そうしとくのが一番じゃろ。二度目の人生まで棒に振るつもりはないじゃろ?』

「当たり前だよ――俺が、あの世界で『天』に立ってやる。比翼だって超えてやる」

『(流石にそれはまだ早い気はするが、まぁヤル気になってくれたんなら万々歳じゃ。これでさっさと転生してくれれば、ワシの仕事も終わりじゃ)じゃあ、生き変えさせるぞい』

「おう、よろしく頼む」

 そうして俺は、神の口車にまんまとひっかかったと知らないまま『落第騎士の英雄譚』の世界へと転生した。






























 
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