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下着は何

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5部分:第五章


第五章

「その風でひらってなって後ろから丸見えだったんだよ」
「おいおい、いい車掌さんだよなその通過列車の車掌さん」
「神様だったんじゃねえの?マジで」
「ああ、俺の視力が元に戻ったよ」
 また随分と彼等にとって都合のいい神様である。
「一気にな。おかげでな」
「すげえよな。その幸運ってよ」
「御前もついてるよな」
「俺もそう思うぜ」
 誇らしげに胸を張って言った言葉だ。
「おかげでよ。いいもの見せてもらったぜ」
「あいつスタイルもいいしな」
「じゃあお尻のラインなんかも」
「ばっちりだったぜ」
 そこまでなのだった。彼が見たのは。
「いや、本当によかったぜ」
「そうか。ストライブはあいつかよ」
「けれど水玉はいないのかよ」
「いるぜ」
 しかしここでまた一人名乗り出てきた。見た人間がだ。
「おっ、いたか」
「それ誰だ?」
「あいつな」
 その彼が満面の笑顔で指差したのは女の子達の中で一番背の高いショートヘアの女の子である。顔ははっきりとした顔立ちであり実によく日に焼けた顔をしている。
「中森な」
「へえ、あんな顔して可愛いのが趣味なのか」
「このミスマッチさがいいよな」
「そうだな」
 そしてまた勝手な話をするのだった。
「白地に水色の水玉だったぜ」
「おいおい、それって余計にいいな」
「水玉はやっぱりその色だよ」
 男組は実に楽しく話すのだった。
「で、何時見えたんだよ」
「何時なんだよ」
 そしてまたこんな話になるのだった。
「階段か?電車か?」
「何処なんだよ」
「ああ、着替えてる時だけれどな」
「着替え?」
「あいつの部活の時かよ」
「そうさ。あいつホッケー部だよ」
 中森のその部活の時のことであるらしい。
「着替えてる時に窓が開いててそこを通り掛かってな」
「御前もついてるなあ」
「何か皆ついてね?」
「なあ」
 それぞれ自分達の幸福を噛み締め合う。
「皆見られてよ」
「そうだよな、本当にな」
「運がいいよな」
 そんな話をしていた。だがそれはしっかりと聞かれていた。そう、聞いていたのは他でもないその下着を見られてしまった女の子達であった。
「聞こえてるわよ」
「しかもしっかりとね」
「ねえ」
 じっと男組を見ているが当の彼等は全く気付いていないのだった。それで相変わらずあれやこれやと話をしているのであった。
「それで黒はいねえのかよ」
「いねえな」
「ちっ、それはねえのかよ」
「流石に黒はないわよ」
「ねえ」
 皆で顔を見合わせて話すのだった。
「それだけはね。絶対にね」
「ちょっと刺激的過ぎるからね」
「あとガーターとかもね」
 話は随分と込み入ったものになっていた。
「黒ってねえ。かなりあれだからね」
「彼氏にも見せられないわよね」
「あれはね」
 皆黒の下着に対してはかなり遠慮しているのがはっきりとわかる。
「だからね。それはないのに」
「何妄想してんだか」
 こう言い合って醒めた目で彼等を見ているのだった。そうしてそのうえで彼女達の間で話をしていく。
「それにしても結構私達も隙あるのね」
「ええ、それはね」
「確かに」
 男組の言葉はしっかりと聞いていた。
「これはいつも用心しておかないとね」
「全くね、もっとも」
 しかしここで話が変わった。
「それはあっちもだけれどね」
「私達だって見てるんだから」
 くすくすと楽しそうに笑っての言葉だった。
「体育の時間ジャージずり下げてるとね」
「そっから見えるわよ、トランクス」
「あと着替えの時も暑いからって窓開けてるから」
 隙があるのは男組も同じであった。
「今時縦縞のトランクスは古いでしょ」
「それじゃあ彼氏にもてないわよ」
 男組のうちの一人を見て楽しそうに笑いながらの言葉だった。
「あといい加減破れそうなトランクスは捨てなさいっての」
「ねえ」
 女の子は女の子でそんな話をしていた。そして男組は男組で。
「ブラだって透けてるしな」
「っていうかブラウスから丸見えだしな」
「なあ」
 こんな調子であった。こうした有様を見て人は何と言うか。どっちもどっち、五十歩百歩、そんな言葉しか出ないのではないだろうか。結局男も女も同じであった。


下着は何   完


                   2009・6・2
 
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