| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

どっちが本当!?

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2部分:第二章


第二章

「一発でな」
「えぐいなあ」
「やっぱり怖いよ」
「置久保よ」
 彼等は華の話をしながら裕二郎にも声をかけてきた。
「けれど御前なら勝てるんじゃないのか?」
「柔道で優勝してるんだろ?確か」
「それはそうだけれど」
 裕二郎はここではじめて頷くのだった。それまで黙って聞いていただけだったがここでやっと口を開いて応えたのである。
「けれどさ」
「あの剣幕には勝てねえか」
「御前力はあるけれど気は優しいからな」
「気は優しくて力持ちってな」
 それが彼だった。彼は気の優しい性格で知られているのである。
「御前とは相性が悪いよな」
「今回も押し切られたし」
「俺はいいけれどさ」
 彼はまずはこう皆に述べた。
「けれど。いつもあんなのなのかな」
「萩原か?」
「いつもあんなのかってか」
「どうなのかな。その辺りは」
 こう皆に尋ねるのだった。
「確か彼女寮だったよね」
「ああ、女子寮な」
「よその県から来てるからな」
 この学校は全国から生徒が集まる学校である。だから他の県から来る生徒の為に寮もあるのである。その寮にいるというのである。
「だから寮だけれどよ」
「そういや。どんなんなんだろうな」
「やっぱりかなり怖いのかな」
 裕二郎は首を捻りながら述べた。
「寮でも後輩の娘達に」
「そうに決まってるだろ」
「絶対にそうだろ」
 男連中はこう確信していた。華がクラスでいつも見せるその剣幕を見ているからこその確信であった。これも無理のないことだった。
「後輩にとってもおっかない先輩だと思うぜ」
「ありゃあな」
「女子寮のことはよく知らないけれど」
 裕二郎は首を捻り続けながらまた言った。
「あれじゃあね。本当にね」
「怖がられてるだろうな」
「マジでな」
 こんな話をする彼等だった。裕二郎も確信していた。しかしそんなある日のこと。彼が学校の食堂で昼食を食べているとすぐ傍からこんな話が聞こえてきたのだった。
「萩原先輩がね」
「そうよね」
 華のことを話している、裕二郎にはすぐにわかった。彼はうどんを啜りながらその話に耳をそばだてた。
「いつもね。丁寧に教えてくるし」
「穏やかにね」
「穏やか!?」
 裕二郎は今の彼女達の言葉を聞いて思わずうどんをすする口を止めてしまった。
「彼女が穏やかって!?」
「優しいしね」
「絶対に怒らないしね」
「いや、それ絶対に嘘だよ」
 彼は思わず言ってしまった。話をするその彼女達に顔を向けて全否定した。うどんをすするのも途中で顔を向けてかなり大変なことになっていたがそれには構わなかった。
「萩原さんがそんなことって」
「あれ、柔道部の置久保先輩ですか?」
「ひょっとして」
 彼は学校でも有名人だった。身体が大きくて目立つだけではないがそれ以上に柔道の全国大会で優勝している為それで有名になっているのだ。
「いや、僕は」
「確か萩原先輩と同じクラスですよね」
「いいですね」
「いいって」
 彼は彼女達の今の言葉にも目が点になってしまった。
「いいんだ。一緒のクラスで」
「だってあんなに優しい人ですよ」
「私達先輩にとても感謝してるんですよ」
 彼女達は実に晴れやかな笑顔でこう語るのだった。
「親切に教えてくれますし」
「何があっても怒らないで丁寧ですし」
「親切で怒らなくて丁寧って」
 とりあえずそれは彼はおろかクラスの皆が否定する項目であった。
「そうなんだ」
「よく気が利く人ですし」
「ああいう人になりたいですね」
「あの、君達って」
 戸惑ったまま彼女達にまた問う彼だった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧