チビで悪いか！

第五章

「小さい娘が好きなのよ」
「小柄な女の子がね」
「それが私ってことなの」
「そういうこと」
　それをあらためて咲菜に言うのだった。
「だから。いつもあんたの側にいたのよ」
「からかいながらね」
「そうだったの」
　それを聞くと驚いた顔でそのまま固まってしまっている。唖然として言葉を出すのも一苦労といった顔になってしまっていた。
「あいつ、私のことを」
「わかったら。いいわね」
「あんたがやることは」
　くどいように咲菜に皆で告げる。
「さっさと動きなさい」
「折角なんだし」
「折角なの」
　咲菜はそう言われて視線を上にやった。そのうえで考える顔になった。
「何か。意外過ぎて」
「意外も何もあいつはあんたにベタ惚れなんだし」
「それともタイプじゃないの？」
「それは別に」
　その言葉には首を横に振る。実は菊次郎みたいな顔はそれ程嫌いではない。性格が鬱陶しいと思っていたがそれでも真相を知れば次第にそれが可愛く思えてきてもいた。
「じゃあいいじゃない」
「わかった！？それじゃあやることは」
「ええ、わかったわ」
　あらためて皆に対して頷いた。
「じゃあ今日。下校の時にね」
「そうよ」
「いい！？間違っても」
　皆で念を押してきた。
「御免なさいとかお断りよなんて言葉はなしよ」
「そんなこと言ったら私達が許さないからね」
「何で私が言われるのよ」
　そのことに理不尽だとも思った。しかし皆はまだ言うのだった。
「今まで全然気付かなかったからでしょ」
「向こうはあんたにぞっこんなのに」
「それならそうと言えばよかったのに、あいつも」
「いや、言ってるし」
「その前に態度でわかるわよ」
　皆の突っ込みは実に容赦がない。
「全く」
「さあ、決めたらわかるわよね」
「ええ」
　話は繰り返されているが咲菜は頷くのだった。
「こっちから言うわ。それでいいわね」
「そういうこと」
「じゃあ頑張りなさいよ」
　それで話は一先終わった。それで下校時間。相手は向こうからやって来た。
「相変わらず小さいな、おい」
「今度からそれを言わなかったらいいわ」
　頭をポンポンと叩く彼に対してまずは彼の方を振り向かずに述べた。
「！？どういうこと？」
「だから。いいって言ってるのよ」
　やはり彼の方を振り向かずに言う。
「わかったから。ここまで言えばわかるでしょ？」
「いいんだ」
　菊次郎は咲菜のその言葉を聞いて動きを止めた。その表情は今の彼からはわからないが声はきょとんとしたものになっていた。
「嘘じゃないよね」
「嘘なんか言わないわよ。少なくともこうした場合はね」
「・・・・・・うん」
　彼は咲菜のその言葉を受けて声で頷いた。
「わかったよ」
「全く。何で私なのよ」
　ふう、と溜息をついてから正面を見たまま言うのだった。
「小さい娘が好きって。変わってるっていうか」
「悪い？」
　普段の菊次郎に幾分かだけ戻った言葉になっていた。
「好みなんだしさ。それは」
「いいわ。それでもね」
　それを受けたうえでまた言う咲菜だった。
「それでも？」
「さっきも言ったけれど小さいだの頭を叩くだの。そういったことはなしよ」
「わかったよ。それじゃあ」
「それでいいわ。それでも何かねえ」
　咲菜はあらためて思うのだった。相変わらず前を見たまま。
「お決まりみたいな意外みたいな。終わってみると変な結末ね」
　実は結末ではなくはじまりなのだが今の彼女はそう思うのだった。前に輝いている夕日が静かに二人を照らし淡い光で祝福していた。


チビで悪いか！　　　完



　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００８・２・１６