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Deathberry and Deathgame

作者:目の熊
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Chapter 5. 『あんたを倒して俺は帰る』
  Episode 28. Duel in the Three Quarters

 
前書き
お読みいただきありがとうございます。

第五章、開始です。

そして久々に一護視点に戻ります。

宜しくお願い致します。 

 
 七十五層主住区「コリニア」。

 歴史の教科書で見たような古代ローマの神殿風の建物が並ぶ、白亜の巨石と広い水路で形作られた街。その中心部にある巨大コロシアムの客席から、俺は闘技場の中央を見る。半径五十メートルはありそうな円形の大地、その中央で、二人のプレイヤーが交錯した。

「ぬんっ!」

 突進し、重い気合と共に十字盾(・・・)の先端で突きを放ったのは、血盟騎士団長のヒースクリフだ。真紅を鎧を纏っていても、その動きに鈍重さはない。水平に構えられた盾が鋭く突き込まれる。

「くおっ!!」

 攻撃の矛先を向けられた対戦相手、『黒の剣士』キリトは咄嗟にガード。白と黒、二振り(・・・)の剣を交差させて、盾を受ける。甲高い金属音と共にキリトが弾き飛ばされ数メートル後退する。

 が、ふっ飛び中に一回転し、キリトは即座に体勢を立て直した。さらに追撃してくるヒースクリフの連撃を両手の剣をフル活用してギリギリで防ぎ切り、お返しとばかりに単発獣攻撃《ヴォーパル・ストライク》を放つ。

「う……らぁ!!」

 ジェットエンジンめいたサウンドと共に強烈な突き技が放たれ、ヒースクリフの盾に突き立つ。キリトは構うことなく撃ち抜き、今度はヒースクリフがふっ飛ばされた。ガードはされたものの多少は攻撃が貫通したらしく、軽やかに着地した真紅の騎士のHPはごくわずかに減少していた。

 向かい合い、二人は少し言葉を交わしたみたいだったが、すぐに戦闘を再開。正面切ってキリトが斬りかかり、ヒースクリフはそれを次々に盾で受け、弾き、隙を見ては長剣によるカウンターを返す。騎士の剣と盾、剣士の双剣がめまぐるしく振るわれ、七色のエフェクトをまき散らしながらガンガン衝突している。

 そんな光景を見ながら、俺は手元のポップコーンもどきを一口頬張った。

「……あのバカ、なんで正面からしか斬りかからねーんだ? どーせ真っ向から攻撃しても防がれんだから、横に回り込むとか後ろ取るとかすりゃいいのに」
「あいつは熱くなると振る舞いが力任せになる。昔っからそうだ。なまじ実力とスキルがあるせいで、戦闘中に策を練るよりも剣技で突破したがる。強力なスキルを手に入れ急激に強くなるってのも、手放しには喜べんことなのかもな」

 俺の左で黒ビール……もとい黒エールをぐびぐび飲みながら、エギルが答えた。そのさらに左にはクラインが陣取り、酒を片手にやかましく声援を飛ばしている。煩いのはヤツだけじゃない、四方八方から轟く歓声が俺の耳朶をぶっ叩く。耳栓でも持って来りゃ良かったな、と少し後悔していると、

「一護、はい」

 視界の右端から、細長い棒のようなものがニュッと出てきた。

 見ると、山ほどのジャンクフードを抱えたリーナが、こっちにチュロスを差し出していた。金に頓着することなく買い込んだ食糧の山を膝の上に乗っけて、自分はケバブらしきナニカを片手に持って齧っている。

 礼を言って受け取り、一口頬張る。チョコレートソースのほろ苦い風味が口いっぱいに広がり、チュロスのサクサクとした香ばしい生地と溶け合って濃厚な甘味をもたらした。

「チョコ味のチュロスなんて売ってたのかよ。俺も自分で買えば良かった」
「ん。コロシアムの西側の露店で売ってた。一本五十コル」
「……オメー、ここ東サイドだぞ? 食いモン買うために逆サイドまで遠征してきたのかよ」
「いいでしょ別に。それより、味はどう? くどいスイーツは嫌いだって昔言ってたから、甘すぎないビターチョコを買ったんだけど」
「ああ、すげー美味い。つか、俺がビター派ってこと覚えてたのか。言ったの確か、かなり前だろーが」
「当然。ついでに、貴方が辛党でスパイス好きなのも覚えてる。魚よりはお肉好き。飲み物はコーヒーより紅茶派。砂糖ミルクはなし」
「……俺、覚えられちまうくらいワンパターンだっけか? あんま意識したことねえんだけど」
「ううん。私が勝手に覚えただけ。はい、アイスティー」
「お、おう。さんきゅ」

 どっかからか取り出してきたLサイズのアイスティーを受け取り、一口飲む。爽やかな茶葉の風味で口の中に残る甘さを押し流しながら、俺は正面で激突するキリトたちに視線を戻した。武器がかち合うたびに火花が散り、激しい金属音を響かせる。

 その上には巨大なウィンドウが表示され、今熾烈な戦闘を繰り広げる二名の紹介が完結に記されていた。


「生きる伝説『神聖剣』ヒースクリフ
       vs 黒の剣士『二刀流』キリト」
 


 ◆



 七十四層が突破され、ここ七十五層が開放されたのはつい昨日のことだった。
 いつも通り、迷宮区の奥底でモンスターハウスを探してうろうろしていた俺たちは、クラインからのメッセージでそれを知った。

 事の発端は、迷宮区を探索中にキリトとアスナが偶然ボス部屋を発見したことらしい。つい最近、護衛付きになって嫌になっちゃうとか何とか愚痴ってた血盟騎士団副団長と、PoHによってギルドを潰されたトラウマで再びソロに戻ってたはずの真っ黒剣士が組んでたって聞いたときは、正直ちょっと驚いた。

 このデコボココンビ、ボス攻略会議で顔を付きあわせるたびにギャイギャイと言い争うそうな仲だったはずだ。だが、ごくたまにアスナと食事に行くリーナが言うには、つい半年くらい前からやけに仲良くなったようだ。というか、アスナが急激に丸くなったって感じらしい。さらに六十一層の空中歩行の練習なんかもちゃっかり二人で組んで練習してたとか。
 だから、もうアレはデキてんじゃねえかってのが俺とリーナの現在の推測だ。まあ、ぶっちゃけどーでもいいから、好き勝手にやってくれりゃいいんだけどよ。

 ……で、そのカップル(仮)の二人が見つけたボス部屋に、『アインクラッド解放隊』改め『アインクラッド解放軍』の小部隊が無謀にも突撃してったらしい。
 連中は二十五層のフロアボスだった頭が二個付いた巨人にボコられてから低層フロアに引き籠りっぱなしになっていた。以来前線には出てこなくなってたんだが、なんかギルド内部でゴタついた結果で送り込まれた部隊らしかった。千人もいりゃ、揉め事なんざしょっちゅうなんだろうが。幹部には、あのクソ忌々しいトゲ頭(キバオウ)がいやがるしな。

 んで、そんな引き籠りから抜けたばっかでボス戦経験が乏しい奴らが、しかも十二人ぼっちで勝てるわけもなく、戦線はあっさり崩壊。駆けつけたキリト、アスナ、あとなんか合流したクラインたちによって軍の生き残りは救出され、さらにその場の勢いでキリトがボスを斬っちまったそうだ。しかも、ほぼ独力で。
 いくら軍の連中によってある程度ダメージが入ってたとはいえ、ボスってのは援護無しで短時間討伐なんてできる代物じゃねえ。相性とか敵のタイプにもよるけど、それでも単騎特攻でカタが付くなんて聞いたことがない。フィールドボスじゃあるまいし。

 それを成功させたのが、奴の持つエクストラスキル――いや、習得者が一人しかいない『ユニークスキル』の一つ、『二刀流』だった。

 この世界は、一つ片手武器を装備しちまうと盾以外の武具を装備することはできなくなる。俺の新生斬月のように、右手に刀、左手に短刀なんてスタイルを再現することはできても、その性能が攻撃に反映されることもねえし、システムからイレギュラー判定食らってソードスキルが使えなくなるデメリットがある。
 だが、キリトの持つ『二刀流』スキルは、片手剣に限って二振り装備でき、さらにそれに応じた二十連撃にも迫る専用スキルまで習得できるそうだ。しかも、使うにあたってリスクは一切ないっぽい。一番最初に判明した攻防自在のユニークスキル『神聖剣』も、見た限りじゃリスクはなさそうだった。

 俺の『縮地』なんか二分ちょいしか持たねえし、一歩ミスったらコケるし、しかもソードスキルと同時に使えねえしで散々だってのに……ズリい奴らだ。
 けどまあ、半年経っても俺以外に習得者がいねえってことは、『縮地(コレ)』も立派なユニークスキルなんだろう。せっかくの俺オンリーのスキルだし、何より条件付きでもやっと瞬歩に近い高速移動ができるようになったんだ。月牙と似た斬撃も撃てるようになったことだし、文句ばっか言ってたらバチが当たっちまいそうだ。

 まあ、俺のスキルはさて置いて、だ。そんなワケで、キリトがボスをぶっ倒して七十五層(ここ)は開放された……が、その後になにやら一悶着あったらしい。
 聞いた話じゃ、アスナが一時ギルドを抜けてキリトとパーティーを組みたいと申請したところ、ヒースクリフが提示した条件がキリトとのデュエルだったらしい。最前線に籠ってばっかの俺が言えたことじゃねえけど、戦闘マニアなキリトはその場の勢いでその条件を飲み、観衆ひしめくこのコロシアムでデュエルすることになったそうだ。

 女の取り合いでタイマンのケンカとかいつの時代の人間だオメーら、と言ってやりたくなるが、せっかくの見世物なんで、俺はリーナやエギル、クラインと連れだって見物にいくことになった。いつもなら速攻で迷宮区目指して突撃してるトコだけど、たまにはいいだろう。残り四分の一になったこの鉄の城を踏破する前の、ちょっとした息抜きってところだ。

 そんな今日、最前線は七十五層。日付は、秋も深まる十月二十日。

 俺たちがこの世界に閉じ込められて、二年が経過しようとしていた。



 ◆



「……で、結局アイツはどうなったの?」

 ユニークスキル持ち二人のデュエルの観戦を終えた俺は、四十八層『リンダース』の武器屋『リズベット武具店』を訪れていた。

 丸椅子に腰かけたこの店のオーナー、リズことリズベットと向き合った俺は、手にしたカップのお茶を啜りながら素っ気なく答える。

「キリトの負けだ。大技を防がれて、硬直かけられたトコを突きでやられてた」
「ありゃ、流石のキリトも最強の男には勝てなかったか」
「まあ、競ってはいたし、最後も惜しいトコまではいったんだけどよ。トドメってときにヒースクリフの奴が超反応で盾振って弾いて、そのまま――」
「ザックリ、ってワケか。なーんかカッコつかない負け方ね」
「本人に言ってやれよ、それ。いい薬になりそうだ」

 言い捨てた俺を見て、リズは容赦ないわねー、と言って苦笑した。今頃、奴はアスナに付き添われて控室でくたばってるだろう。キリトが負けた場合にどうなるかは聞いてなかったが、まあ碌な事にはならねえ気がする。条件を丸飲みにした手前が悪いんだし、自業自得だな。

「……っと、そうだ。忘れないうちに、これ、渡しとくね」

 そう言ってリズは作業台から一振りの刀を取ってきて、俺に寄越した。つい最近まで振っていたドロップ品の『壊天』とは真逆の、真っ黒く反りの緩い刀身が新品の輝きを放っている。

「銘は『鎖坐切(さざきり)』ね。一応調べたけど、武器名鑑には載ってない刀よ。どうぞ、試してみて」

 首肯を返し、俺はシステムウィンドウを操作して『鎖坐切』を装備する。今初めて握ったはずの刀なのに、吸いつくように手に馴染む。重厚な輝きを纏う刀を二度、三度と振ってから、俺はその黒々とした外観を見つめる。

 刃渡りは七十センチちょっと。刃と同色の鍔は卍を模した形状になっていて、その下に続く漆黒の柄の先端には、二十センチ程の鎖がぶら下がっている。ジャラジャラと音を立てるそれを見やりながら、俺はあの騒がしい「死神」を思い出していた。

 リズから受け取ったこの刀は、夏ごろに攻略したホラーエリア、六十六層の首なし騎士型ボスからドロップしたインゴットから生成したモンだ。しかも、ただインゴット単品から作ったんじゃなく、あのマツリから受け取った下緒を素材アイテムにして融かし込んでおいた。
 クリティカル率の上昇幅が他のドロップ品を下回るようになってからは、こいつはずっとストレージに死蔵しっぱなしになっていた。しかし、件のボスを討伐する際、「死神の持ち物なんだし特攻つくんじゃね?」と思いつきで装備したところ、効果はテキメン。五割増しでブーストかかってんじゃねえかってくらいの高火力を叩き出すことができた。

 けど、その代償か、かなり耐久値が減少していて、あと数度ダメージを受ければ確実に壊れちまうような有様になっちまった。このまま装備してれば近い将来確実にぶっ壊しちまうし、かと言って永遠に閉まっておくのももったいねえ。
 散々悩んだ末、こうして武器作成時の追加オプションの素材として組み込んだってワケだ。リズ曰く、武器の色や形状みたいな性能に影響しない部分にしか作用しないらしいが、それで十分だと言いきって、生成時に追加してもらった。

 ――で、やっぱりこうなった。

 こうなると予想していなかった、と言えば嘘になる。
 俺の記憶から生成されたっぽいアイツのアイテムは、言うなれば俺の「記憶」を「形」にしたモンだ。それを外観に反映させるシステムに突っ込めば、俺の記憶を基にした意匠になる可能性は極めてデカい。そんで、俺の記憶の中から「刀」のイメージを抽出したとすれば、この外見で出てくる確率は低くはないはずだ。

 手の内にある天鎖斬月(・・・・)に酷似した刀を見つめながら、俺は自身の仮説を締めくくった。その黒い刀身を閃かせ、リズから受け取った黒塗りの鞘に納めて緋色のチェーンで背中に吊る。普段抜き身で持っていたコイツが鞘に納まっている光景は何となく違和感を覚えるが、そこにイチャモンつけてもしょうがない。

 ふと、窓硝子に映り込んだ自分の姿が目に映った。
 つい最近新調した黒い襟なしのコートに、首や小手には最低限の装甲。流石にボトムスは袴に草履じゃなく、ゆったりしたズボンにブーツを履いてはいるが、シルエットはどう見ても卍解のそれだった。手に天鎖……もとい『鎖坐切』を持てばさらに近くなる。

「へぇー、変わった外見の刀だからどうかなって思ってたけど、案外しっくりくるじゃない。似合ってるわよ」
「そりゃどーも。ほれ、金払うぜ」
「あ、はいはい。毎度ありっと」

 リズの世辞に適当に返しながら、代金の十万コルを支払う。滅茶苦茶に高いが、オーダメイドだから仕方がない。っつーか、この刀が手に入るなら、むしろ安いくらいだ。

「……にしても、なんでアンタの装備って毎回毎回脳筋使用なワケ? せっかく多芸な刀振ってるんだし、もうちょっとタクティカルなスタイルも目指してみたら?」
「うっせ。俺にはそーゆー小細工は向いてねえんだよ。真正面から斬りかかってぶちのめす方性に合ってんだ」
「変わんないわね、その辺。十九層で会ったころからずっとじゃない。馬鹿正直なのもいいけどさ、計算した上手い立ち回りってのも必要だとあたしは思うわけよ。じゃないと、リーナに苦労かけすぎて愛想尽かされるよ?」
「オメーに言われなくても分かってるっての。大体、キリトにフラれた奴に、愛想尽かされる云々言われたくねーよボケ」
「むか!! 失恋した乙女にそーゆーこと言う!? このデリカシーなし男!!」

 鼻で笑うようにして言った俺の言葉にリズは怒り、金床に放置してあったハンマーを取り上げた。そのまま俺に向かって投げつけようと振りかぶり――

「――なにしてるの?」

 突如響いた冷たい声に、ピタリと硬直した。

 買い食いから戻ったらしいリーナが、ホットドックの袋を片手にリズを睨みつけていた。冷え冷えとした視線にさらされたリズは、投擲三秒前の体勢のまま、首だけをぎこちなく動かしてリーナの方を向いた。

「こ、こんにちはリーナ。お元気そうでなにより……」
「うん、私は元気。とても元気。元気が有り余りすぎて、ハンマーを振りかざす女の子をうっかり斬ってしまいそうなくらいに元気」

 そりゃ元気じゃなくて狂気じゃねえか、とかいうツッコミはナシだ。今下手に喋ったら、確実に巻き込まれる。

 絶対零度の空気で短剣の柄に手をかける(リーナ)の姿に、ひぃっ、とリズはすくみ上り、ハンマーを元あった場所に半ば放り捨てるようにして戻した。
 最悪の場合、俺は標的になっても力で抑え込めるが、レベル七十にも達してないコイツはそうはいかない。営業スマイルで誤魔化すようにしちゃいるが、明らかにビビリまくってる。

 前にリズがリーナに対して悪戯を仕込んだことがあった。なんでンなことになっちまったかは忘れたが、完全にブチ切れたリーナによって地獄の「オハナシ」が執行され、リズにとってはトラウマ化してるらしい。

 以後、事あるごとにリーナはリズを警戒していて、なにか通常と異なる動きをすれば即座に鬼気が宿った目で睨むようになっちまった。傍から見ててもマジでこえー。

 放置しててもいいんだが、ここでドタバタされたら確実に営業妨害だ。とっととズラかることにする。

「おいリーナ、その辺で止めとけ。リズが死にかけだ」
「…………むぅ」
「っつーワケで、俺らもう帰るわ。じゃあな、リズ」
「え、あ、はい! ご利用ありがとうございました!!」

 自衛のためか、営業モード全開らしいリズの直角のお辞儀を受けながら、俺はリーナの手を引っ掴んで店の外へと出る。一応大人しくはなったが、まだ面が不機嫌なままだ。
 夏に入る少し前からか、リーナの感情がこんな風にちょっとしたことでも表情に現れるようになってきた。喜怒哀楽を仄かに含んだって程度だが、基本無表情なコイツにとっては多分大きな変化だろう。

 あと、さっきのコロシアムの時みたいに、俺の考えや嗜好、行動を予知レベルで把握してくるようになった。買いに行こうとしてた調味料がいつの間にか買い足されてたり、なんか疲れたから少し休憩でもって考えた直後にはハーブティー淹れてきて「休む?」と訊いてくる。

 最初こそ「ついにガチでエスパーになりやがったのかコイツ」とびっくりしたが、思考を読まれるのはぶっちゃけ慣れきってたから、すぐにどうでもよくなった。とはいえ、改めて考えてみるとやっぱコイツすげえわ、とは思う。

 俺と同じ時期に新調した薄いベージュのケープを纏う相方を後ろ目に見て、心の中で感心――ああ、そういやリーナの手首をがっちり掴みっぱなしだった。

「……ぁっ」

 パッと放してやると、リーナは可聴域ギリギリのごく小さな声をもらした。

「なんだよ」
「ん。別に、なにも」

 俺の問いかけに、リーナは小さく頭を振って答えた。ととっ、と小走りで俺の横に並び、元の無表情をこっちに向けてくる。

「さっき、リズと何か揉めてたの?」
「あ? いや、別に。ちょっとキリトのことでからかっただけだ」
「……それだけ?」

 隠しても無駄、とでも言いたげな目でリーナは俺を見てくる。だから、なんも隠してねえっつの。

「ああ、そんだけだ」
「……ん、分かった」

 お詫びに、とリーナは袋からホットドッグを二つ取り出し、一方を俺に渡してきた。濃い味付けのそれをかじりながら、転移門の広場を目指して商店街を進んでいく。

「さっき、ディアベルからメッセージが来てた。決勝トーナメントで来賓席確保しといたから、必ず来いってよ」
「ご飯は?」
「祝勝パーティーやるとさ。ケイタが勝ち上がるように祈っとけ」
「ん、分かった。じゃあ、今から行って三時間稽古付けてくる」
「……いいけどよ、やり過ぎんなよな」
「冗談。今の彼なら心配ない、必ず勝てる」
「ま、あんだけ訓練すりゃ、イヤでも上達すんだろ」
「うん……だから今日はずっと、一護といることにする」

 そう言うとリーナは翡翠の瞳で俺を見上げ、淡く、けれどはっきりと微笑む。

「今日はって、ここ二年弱の九割がたはオメーと一緒にいただろ。しかも一日中」
「……確かに、おはようからおやすみまで全部一緒……いや、お風呂だけは絶対に別行動だった」
「そりゃそーだろ、当たり前だ」
「一緒に入りたい?」
「全力で遠慮しとくわ」
「……意気地無し」
「うるせーよ」

 秋風が吹き抜ける商店街を、俺たちはそうして駄弁りながら、ゆっくりと歩いていった。 
 

 
後書き
感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

最終章は七十五層編です。
章題的にだいたいの流れがわかってしまうという……。

一護、天鎖斬月モドキを獲得です。これで見た目はほぼ九割がた卍解時のそれです。
リーナさんもスタイルチェンジしました。

次話はディアベルと黒猫団メンバーが出てきます。
第四章で出番がない間、裏で彼らがなにをしていたのか、ディアベルさんの奮闘記などを中心に書いていきます。

次回の更新は来週火曜日の午前十時を予定しております。 
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