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殺戮を欲する少年の悲痛を謳う。

作者:Ax_Izae
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7話 天使のような死神(グリムリーパー)

 午前2時。クロノスはとあるアパートの3階の窓を眺めていた。何故かそこにカリヒが居ると知っていた。聞き込みをして、このアパートに居ることは間違えなく知っていたのだが、3階の部屋に居ることまでは把握しておらず、直感でその窓を眺めている。
 登れそうな高さだな。彼は自然に浮き出た笑みと同時に、こんなことを思っていた。
 クロノスはアメリカ軍から渡されたMP7をスーツケースから取り出した。このMP7サブマシンガンにはサプレッサーが取り付けられている。
 『おい。クロノス。こちらは終わったぞ』
 シャルラッハートは無線を飛ばし、工場の破壊の終了をクロノスに報告する。
 『戻って来いクロノス』
 クロノスはシャルラッハートに対し、吝かではない様子で答える。
 「これから獣を狩りに行く」
 そして無線のバッテリーを外し、通信機能そのものを切った。
 彼はアパートの壁から10メートルほど離れ、駆ける。そして2階のベランダの下に左手をつき、体を前後に振り子のように体を3往復させ、跳び箱のように2階のベランダに登る。彼は30秒ほど息を整え垂直に飛び、3階のベランダの足元に左手をがっちり握る。そしてさっきと同じ容量で飛び上がる。
 彼は呼吸をする前にその場の景色を確認する。
 メリラが椅子に座り、手錠でも掛けられているかのように縛られていた。
 彼は息を整えなおし、窓の鍵を確認する。すると細工がされていて、電線が伝わっていた。
 彼は窓ガラスごとそれを撃ちぬく。


 「来た!」
 僕はスコーピオンと自作のクラッカーと持って窓が割れた音がなった部屋に行く。
 リーナとアーシャも武器を持って僕に続く。
 「動くな!」
 僕は彼にスコーピオンを向ける。リーナはレミトンM870P、アーシャはスコーピオンを構え扉の後ろに隠れる。遊撃として留まってもらっている。
 「よお。カリヒ」
 クロノスはサブマシンガンを右手にもってメリラの向こう側に立っていた。そこにしかけた罠は3つ、1つめは10万ボルトを流す電流。2つ目はメリラの手錠を外すとベランダにしかけた自作の爆弾が起爆する仕組みの罠。最後は僕の腹に巻いた爆弾。これは僕がスイッチをおして起爆する。
 勿論。そんなのはクロノスにはお見通しだろう。僕のバーサーカーモードの発動条件も、此処にクロノスの敵が4人いることも…
 「さて、カリヒ。ちょっと聞きたいことがある」
 「なんだ?」
 クロノスは口だけを動かした。僕は敢えて添えている左手を外し答える。
 「お前は誰だ?」
 「僕はカリヒだ」
 その一言だけでクロノスはすべてを悟る。何を答えても変わりなかった。クロノスは声色だけですべての事を把握出来るほど優れた思考力を持っている。
 「できれば、カリヒとは敵対したくなかったな」
 「ああ。僕もだ。きっと、いい友達になれただろうね」
 上っ面だけで僕らは会話を進める。それもお互いにわかっていた。
 「さて、そっちの壁に居る2人の女で、幼いほうが以前ワシントンを狙撃したんだろう?」
 やはり視えていたか。
 「さあ。僕は命令してないからね。勝手に僕の味方がやったのだろう」
 「お前に恋情を抱いているほうは随分肝が据わっているな?」
 「さあ。僕は彼女の内面を知らないからね」
 クロノスは僕に探りを入れる。少しでも心が揺れ動いたり、少しでもクロノスの単語に耳を傾けたら、僕の体は穴だらけだ。だから適当に受け流し、身構えを止めずに答える。長い。1秒が実に長く感じる。
 「メリラ」
 「何ですか?」
 クロノスは今度はメリラに質問をする。
 「お前はどっちの味方だ?」
 返答によってはメリラは殺される。いや、返答ではなく、この際声色と言うべきだろう。
 「今の状態では、私はカリヒさんの味方です」
 「なるほど」
 クロノスは暫く黙った。今彼を撃ったら多分殺せる。でも何故か“もう1人”の右手が拒む。
 「クロノス隊長。聞いて下さい。カリヒさんは正義のために戦っているんです。今の世界はおかしいと主張しているんです!やり方は正しいとは言えません。ですが、奴隷制度はやはり間違っています!」
 「正義ってなんだよ」
 僕はつい、口に出してしまった。
 「この世界に正義なんてものが存在するか?」
 口が止まらない。何故か出てくる。“もう1人”のせいか?
 「残念ながら存在するんだよ」
 クロノスは口を開く。
 「黙れ!正義が存在するならどうして僕はここにいる!?どうして僕は人を殺す!?どうして君は人を殺す!?それは悪だけがこの世界に漂っているからだ!」
 何故か、この言葉が落ち着いた。自分で叫んで、自分で本能のままに言葉を発しただけで気分が良くなった。
 「うるさい!」
 クロノスも続けて怒鳴る。
 「俺のやってきたことはいつも正義だ!じゃないとなんのために人を殺したんだ!?俺は頼まれて、俺は誰かに必要とされて!だから殺している。カリヒ!お前はどうなんだ?」
 彼の精神を支配できた。この言葉による白兵戦は僕の勝ちだ。後はモチベーションを保った状態でクロノスの眉間を撃ちぬく。
 「君がもしも正義であるのであれば、僕は悪だ。君は必要とされて死を与えているのであれば僕は真逆だ。快楽のために人を殺している」
 一瞬、クロノスの頬が引きつったように見えた。今のところ、互いに一歩も譲っていない。僕は腹に巻いた爆弾を外し、クロノスに投げつけた。
 彼は窓から飛び降りる。爆発で窓がはじけ飛び、そこにしかけた爆弾が誘爆する。僕はすぐにメリラの手錠を外し、彼女の右手を引く。
 「上出来だ」
 1階に降りると、リーナはトラックの運転席に乗っていた。トランクには武器とアーシャが座っていた。
 「メリラ。助手席に乗れ」
 「え?あ、はい」
 後ろからの追跡を防ぐために銃を構える。
 「どこへ逃げますか?」
 「空港です」
 走行しながらリーナが答える。
 「SRAから増援が来ます。空港で待っているそうです」
 僕は武器をスーツケースに仕舞う。
 

 僕たちは、その増援とやらが来る空港の駐車場にトラックを止めた。勿論、その前にナンバープレートやトランクをブルーシートで隠すなどの手は打っている。
 「さて、新人さんを待つか」
 「カリヒさん」
 俺は駐車場付近を左右に確認し、追手や警察関係者が居ないかを見ながら言葉を呟くと、アーシャはおどおどと俺の肩を突いた。
 「車を取り敢えず買いませんか?」
 「そうだな」
 僕は彼女の意見に載った。
 「アーシャ。いい考えだけど、この中で誰も免許を持っていないの」
 「そうですね。すみません。適当に言いました」
 「いや。車は金さえあれば買える。正規のルートじゃなくてもいいんだから」
 僕は軽トラの鍵を抜き、確認する。鈴奈は無事だろうか?無事だとしても捕まっているに違いないと、僕の脳裏ではそのことでいっぱいだった。
 「増援って何人なんだ?」
 駐車場でじゃまにならないように会話をする僕達。
 「…1人です」
 「増援じゃなくて護衛だね」
 僕は期待せずに空港内に入る。怪しまれないように僕だけが行った。
 確かリーナは僕が知っている人だと言っていた。正直誰でも同じだろう。そんな事を思っていると、地味なキャリーバッグを持った女の子が僕の近くに機嫌よく歩いてきた。
 「ああ。君か」
 予想通りといえば予想通りなのだろうか?逆に、僕が知っている本部の人間と言えばこの子しか居ない。
 「久し振りだねミカエル」
 僕が声をかけると、彼女はにっこり笑った。
 「お久しぶりですカリヒさん」
 彼女の幼く見えるその表情は一体何を表しているのだろうか?
 「あのさ、クロノスっていう強敵のせいで僕たちの拠点がなくなったんだ。だからそのせいで、今はトラックで生活しているんだよ」
 「そうですか。もしかしてそのトラックって軽トラですか?」
 「ここから見える?」
 「ええ。すごく目立ってなんだあのおんぼろトラックはと飛行機の中で言われていました」
 「拙いな」
 目立ってしまったらいろいろなリスクが迫る。
 「冗談です。そんな深刻な顔をしないでください」
 「なんだよ。びっくりした」
 「はい。カリヒさんが見えたので」
 僕は冷や汗を手首で拭い、ミカエルをトラックへと案内した。
 

 クロノスは再び戦場に赴くために銃を手入れしていた。
 「やっぱり。気づいたら俺はいつも1人なんだよな」
 彼は今まで1人きりで戦うことが多かった。それは足手まといで仲間が要らないとか、他人に好かれない性格だという理由などではない。彼だけが生き残ったのだ。
 彼は強い。1人でも十分と言えるほどに。しかし、彼の心は弱い。誰かがいないと心細くて仕方がない。
 「俺とあいつは全然違うのかな?」
 彼は薄々そう感じ取っていた。
 「くそ!」
 クロノスはマシロのことを思い出し、涙する。
 カリヒが羨ましいと本気で思う。何故自分の身に降りかかるものが痛みなのか。カリヒのことを考えれば考えるほどマシロのことを思い出す。性格が似ているわけでもない。そもそもカリヒとあまり会話をしない。
 クロノスの隣には死神が居る。彼にまとわりつき、彼に接したものをすべて死へと誘う。
 「おっと。これ以上考えると次の戦闘に支障が出るな」
 彼は一度気持ちを切り替える。

 
 空港を出た僕たちは、トラックを近くの闇市に売り、その儲けたお金ででかいけどオンボロな車を買った。
 「所謂ワゴン車ってやつですね」
 アーシャは楽しそうな声を出しながら言う。
 「これらな武器を隠す場所もあるし、移動もできるし、最低限の生活もできると思ってさ」
 僕はこれの機能を言い訳のように説明する。第三部隊カラーズにいたときはボロボロが毎日だったのだが。一度、アメリカのアパートで生活をしてしまったら、少しの汚れも気になるくらいになってしまった。慣れというのは本当に恐ろしいと思う。
 「カリヒさん。全部でこれだけです」
 ミカエルは食品の資料と実物を見せる。ロシアの缶詰が大半を占めるが、水すら出ない場所であればこっちのほうが向いていたりする。
 「全部で100個あります。1人一食1個として約1週間しか持ちませんね」
 全員で4人だから一日12個減る。一週間で84個か。
 「大丈夫ですよミカエルさん」
 リーナは満面の笑みで僕らを見る。
 「実は売ったお金より、買ったお金のほうが少なかったんです」
 明細書と3枚のドルを見せる。
 「明細書を見ると黒字は400ドルですね」
 ミカエルはワゴン車に乗りながら言う。
 「今からこの3ドルでカリヒさんに園芸用の肥料を買ってきてもらいます」
 「なるほど!」
 リーナはにっこり笑い、僕は3ドルを受け取る。
 「ミカエルさん。もちろん園芸用肥料で爆発物の作り方を知っていますよね?」
 「はい。知っていますけど…」
 ちょっとおどおどしながら言う。
 「専門はナイフなので」
 

 僕は近くのホームセンターに歩いていく。近くといっても3キロも離れているので足が棒になるほど疲れる。
 「はぁ。3ドルで一袋買えるのか」
 2ドルと60セントと書かれている。一袋1キログラムもある。
 これを歩きで駐車場までもっていかなければいけないのか。僕はまずレジまでこのやたらと思い肥料を持っていく。すると、鈴奈がレジにいた。
 「いらっしゃいませ」
 彼女は小さな声でお久しぶりですと言う。
 僕は無事だったの?と囁いて聞き返す。
 「はい。こちらに住所と氏名を書いてください」
 「住所?」
 僕は小さい音で家が襲撃されたことを説明する。すると彼女は3時間後にこちらに来てくださいと言った。
 「わかった」
 僕はそう告げ、その場を後にした。
 

 「ということで、すぐにホームセンターに向かわなくてはならない」
 僕は4人の前で説明する。するとミカエルがさっそく突っかかってきた。
 「そうですか。一応その鈴奈っていう人も疑った方が良くないですか?」
 この中に元敵がいるのにと言いたくなったが、それは規律に厳しいミカエルには伏せておいている。
 「疑ったって仕方がないよ。裏切りだったら僕が手にかけるだけだから」
 僕はメリラに脅しをかけるように言う。
 「頼もしい限りです」
 ミカエルは皮肉のように言葉する。
 「だから車を出していいか?」
 「いいですよ」
 リーナは了承してドアを開け運転席に乗る。
 「出発します」
 車を走らせ、そのホームセンターの近くまで行く。
 そしてしばらく待っていると、私服で鈴奈が現れた。
 「話をつけてくるよ」
 僕は車を降り、鈴奈に近づいた。
 「どうもカリヒさん。こちらの資料にこれからの標的が書かれています」
 2枚のファイルを渡された。この中に、位置情報が書かれている。
 「全部で8枚の用紙があります。標的と言ったのは、ISです」
 「ん?ISって?」
 「イスラミックステート。イスラム教徒によるテロ組織らしいですが、詳しくはわかりません。武器や食料の調達、金銭の確保はそちらを襲撃して凌いでください。もちろん敵は武装しているでしょう。お気をつけて下さい」
 「わ、わかった」
 僕はそれを受け取り、手を振って車に戻る。
 「どんな内容の話でした?」
 ミカエルは助手席から後部座席の僕に問う。
 「食料、武器、金銭の案内だ。リスク承知の」
 僕は取りあえずミカエルに見せた。
 「安心しました。彼女がもしも敵であったらと疑っていたのですが、私がただたんに臆病なだけでした」
 「どういうことです?」
 アーシャは3列目の座席から頭を乗り出しながら聞く。
 「この内容の情報はSRAしか持っていません」
 「ああ。だからか」
 「それに、彼女のコードネームを見てください」
 僕はそこに書いてあったサインを見る。
 スパイダーロータス。アルファベットでこう書かれてあった。
 「これがなんだ?」
 「彼女こそか、SRAの情報を管理している者です。アメリカに潜入し、協力者を通じ、国内すべてを取り仕切ろうと試みています」
 ミカエルの幼い声のせいでまじめに話が聞き入らない。
 「見ていいですか?」
 リーナは1つのファイルを取り、3枚をペラペラと眺める。
 「すごい。まるでゲームの攻略本みたいに難易度や守りの薄い部分を的確に表にしている」
 リーナでも歓声を挙げさせる内容なのだ。きっとすごいに違いない。
 「それで、カリヒさん。どれから攻め入りますか?」
 リーナは僕にファイルを見せてくれる。
 僕はそれの中で難易度を見て、基地の重要性を確認する。
 「そうだな。一番危険性があるやつを先に殲滅しよう。それで僕たちの安全が左右されるからね」
 しかし、リーナは否定した。
 「武器的な問題で難しいと思います」
 「まあ、残弾と相談してね。どれくらい残ってる?」
 僕がそれを聞くとアーシャは残念そうな顔をして答えた。
 「ショットガンの弾が60発で、サブマシンガンがマガジン4つに約70発、それからライフルの弾が12個と非常に少ないです」
 この状況下からして、最も最適かつ安全に制圧できる場所はここから約6キロほど離れたアパートだ。
 「ここのアパートの104号室はどうだ?ここなら入口は1つしかないし武器の数も限られてくるだろう。まあそのせいで戦利品の量が極端に少なくなるだろうな」
 今の考えを彼女らに説明した。
 するとミカエルは賛成の意を込めて話す。
 「確かにいいかもしれませんね。これなら銃を使わずに敵を制圧できそうです。カリヒさん。閃光手榴弾ってどれくらいありますか?」
 「7つ。使い捨てカメラの中にあるマグネシウムを入れて着火するとてもシンプルなつくりだけど、十分すぎるほどにまぶしくなると思うよ?」
 僕は段ボールから閃光手榴弾もどきであるペットボトルを見せる。
 「発動する危険性も存在するから、念には念を入れておいたほうがいいね」
 僕はもう1つの段ボールから瓶を取り出した。
 「これは少量の火薬で瓶と金属の破片を爆発させる投擲型クレイモア。全方向に飛び散るから投手にもリスクが及ぶんだ。だから極力使わない方向で行こう」
 

 深夜2時を回った時間帯。最近では電力不足もかなりの問題になっているため、この州では夜11時から3時までの4時間、計画停電を行っている。その分家賃も安いと資料には記載されていた。ほとんどの人はやることがなく、すぐ就寝するだろう。
 「作戦の確認だ。僕が先にピッキングをして中に入る。もしも敵が起きていたらその場で殺す。そのあとみんなは武器とお金を押収してくれ」
 僕はざっくりと説明を加える。
 「あの、やることが泥棒みたいで正直私気が引けるんですが…」
 メリラは目を半開きにして僕の耳元でつぶやく。
 「君の場合はアメリカ軍に仇名す連中を始末すると思えばいいんじゃないか?」
 そう言って僕は扉の前に足音1つ立てずに近づく。
 そして扉に懐中電灯を翳すが、電子ロック式だった。
 「チャフグレネードなんて持ってねーよ」
 僕は面倒臭くなったのでドアを蹴破る。
 すると中から3人の武器を持った男が出てきた。情報通りと言ったら情報通りだ。ただ、中にまだ人がいる可能性もある。僕は閃光手榴弾に火を灯し、銃弾の雨が降る前に、直角に避け、背中をつけた。
 すると大きく光が刺し、銃声が一気に止んだ。
 僕は懐中電灯と手鏡で確認すると声をあげ、目を抑える3人の男が反射して見えた。
 僕はナイフを取り出し、敵に接近する。真ん中の男の首に刃先を突き立て、ナイフを捻じり、その男の後ろに回り込む。血飛沫が前方に大きく噴射した。俺はそのままドアから見て右にいる男の顎を引き上げ、90度男の体ごと旋回する。
 「動くな」
 僕はナイフを首の皮にあてて、脅しをかけた。
 「何が目的か?アメリカの犬が!」
 向かい側にいる敵が銃を構えこちらを見る。僕はナイフの刃を突きながら右手を水平に動かす。血飛沫が向かいの男の顔にかかる。そのまま僕は男を突き放し、時計回りに体を360度回転させ、伏せたような状態になり、男の左足目に回り込む。ナイフを逆手持ちに切り替え、右フックのように突き付け、首を切り落とす。
 「ふう。体力落ちてきたかな?」
 僕はその銃を奪い、中を念のために確認した。すると少量のお金と、5丁のM16、その弾600発以上が見つかった。
 迅速にそれらを車へ運び、僕の証拠となるものすべてを拭き取って帰る。


 「カリヒさん!結局作戦立てた意味がないじゃないですか!」
 リーナは車の中で僕を怒鳴る。
 「作戦が成功したのはいいですが、カリヒさんだけにリスクが生じます」
 その日の朝7時。今、車の中には僕と運転手のリーナだけ。それ以外はガソリンとブルーシートを買いに行っているらしい。
 「ごめんリーナ」
 僕は欠伸をしながら言う。
 「眠たくてしょうがないんだ。説教は後にして」
 「カリヒさんの事を思って言っているんです。今後、このような事が起きてカリヒさんが死ぬのは困ります」
 「わかった。リーナ。今度僕が無茶をしたら罰ゲームをつけよう」
 「何をするんですか?」
 僕は眠かったので適当に受け流す。
 「そうだね。その日の0時になるまでリーナが僕の体を好きにしていいっていうのはどう?」
 「わかりました。それで手を打ちます」
 「本当にそれでいいんだ?」
 僕は小声でつぶやいた。
 
  
 カリヒが就寝についている7時を回ったころ、ミカエル、アーシャ、メリラの3人は難易度が中の下あたりの廃工場に来ていた。ちなみに未明に挑んだアパートはどうやら難易度が一番低いところで、結果的にアメリカ滞在のISに警戒心を逆撫でしたようなものだった。だから彼女ら3人は武器庫である銃工場を狙ったのだ。この工場ではどうやらISが自ら電気と部品を買い、銃と弾丸を製造しているのだという。だからここを制圧してしまえばカリヒ達の安全が確保されたようなものだという。
 「私とメリラさんがアサルトライフルで突撃。アーシャさんが後方からスナイパーライフルで援護射撃。これでいいですか?」
 ミカエルは2人に軽く説明を加える。
 「因みに、私は狙撃に関しては全くの素人です。アーシャさんはそれを専攻しているようですので、立ち位置や今の説明に不満があるのであれば意見をお願いします。というか積極的に言ってください」
 と、自信満々に自信のない言動を放つミカエル。それを聞いたアーシャは少し困ったようにこういう。
 「初めに突撃はして欲しくないです」
 「どうしてですか?」
 これはミカエルの初陣同然だ。奴隷時代、カリヒも知らないが、彼女はソロの暗殺者だったのだ。殺しや近接格闘の技術と技量はあっても、団体での“戦争”を行ったことがない。
 「突撃ってどういう意味ですか?ざっくり言っていましたけど、もしかして、普段カリヒさんが行っている特攻ではありませんよね?」
 「やはり駄目でしたか」
 ミカエルは目を下げる。
 「スニーキングって言葉を知っていますか?私も詳しくは知りませんが、カリヒさん曰く隠れて隙をついて仕掛ける。だそうです」
 「それだと全員を始末できませんよ?」
 「でも、ミカエルさんの専門であるナイフを存分に使えるじゃないですか」
 それを言うと、メリラは間に入る。
 「あのさあ。普通に私とミカエルが見学として入って、中から銃を乱射っていうのは駄目なのかな?」
 「無理じゃないですか?ここの工場、正規ではありませんし」
 「そうだね、ごめん。適当に言った」
 メリラはリュックからM16とカリヒ特性の投擲クレイモアを9つ出した。
 「2人とも。装備して」
 「え?」
 「早く」
 半ば強引に支持され、ミカエルはM16を出す。
 「アーシャ。準備オッケー?」
 「は、はい」
 アーシャはスナイパーライフルを取り出す。
 「1人3つね」
 言葉通りの行動をするメリラ。
 「私も昔狙撃の経験があったから支持するわ。あそこの廃ビルあるでしょ?多分中を覗けるわ。取り敢えずそこから見える人たちを取り敢えず始末して」
 「ハイ!」
 「それからミカエル。私は裏口に行くわ。恐らくここの門と裏口から敵が出てくると思うの。で、取り敢えず人間が出てきたら撃ち殺して。もし敵が多くなって来たらここに直角に避けてね」
 「はい…」
 「で、アーシャは撃ち終わったらミカエルの援護。それでいいね?私が裏口に回ったら、アーシャは狙撃開始。スコープからじゃなくても私を目で捉えられるでしょ?」
 「はい。わかりました」
 「了解です」
 「敵が出てこなくなり次第、各自スニーキングで潜入。アーシャもね。じゃあ開始!」
 彼女たちはすぐさま移動する。
 5分後、アーシャはビルの3階の応接室と英語で書かれた場所に行き、長テーブルを敷きならべ、その上にスタンドをつけたスナイパーライフルを設置し、窓柄に銃口を向ける。
 匍匐体系になると、すべてが見渡せた。
 メリラはアーシャから見えるように裏口に回り、その場所にクレイモアを置く。スコープを通すと、こちらに手を振っている。そして彼女は裏口の石煉瓦に直角に隠れる。ミカエルも同じように壁に背をつけ隠れていた。
 「撃ちます」
 アーシャは工場の窓から見える男の耳から1センチほど上の部分に的確に貫通させる。
 「できた!」
 中にいた連中は慌てて外に流れるように出て行った。
 門から一気に10人ほどの男たちが出てきた。ミカエルはカリヒが使っていた手鏡でそれを確認する。その中で3人しか武器を持っていなかった。ミカエルは片足を軸に体を180度旋回させ銃を乱射する。悲鳴のように銃声が響き渡り、その場に死体を大量生産した。
 そしてメリラのところには順番に入り口から武器を持った男たちが出てきた。人数はわからないが、メリラは半身を出し、アサルトライフルを連射する。それでも敵は押し寄せる。弾が切れると、彼女は投擲型を投げて壁の外側に移り、背面を付けた。
 メリラが投げた瓶は爆発し、金属と瓶の破片が飛び散る。それが運悪く急所に当たった敵はまるでクレイモアのように血飛沫を散らす。運よく当たらなくても、その破片により先ほどのクレイモアは誘爆し、連中を滅多刺しする。
 そしてメリラは中に忍び込んだ。
 次から次へと敵が絶え間なくやってくるため、ミカエルはまだ銃撃戦を行っている。それにアーシャが援護し、敵が踏み入れられずにもどかしい状況が続く。敵はタイヤのついたテーブルを使い、上からの狙撃を防ぎ、ホワイトボードで前からの鉛弾を防ごうとしたのだが、貫通し、あっけなく死体を増やすだけだった。とうとう、アーシャのスナイパーライフル、カスタムゾロターンの弾が切れた。しかし彼女は動じなかった。もう1つのスナイパーライフル、L96A1と弾を持ってきていた。
 そのころ敵は肉の壁を盾にし始めた。
 ミカエルは面倒臭くなったのか、スイッチを入れたクレイモアを放物線状に投げる。すると隠れながら戦っていた敵の大半の脳天を貫き、壊滅状態へと追い込む。ミカエルは3分ほど鏡を見て確認する。敵が出てこなかったので、彼女は中に入る。
 アーシャはそれを見てライフルをスーツケースに仕舞う。そしてエアガンを改造して本物の銃のように作り替えたハンドガンをもって5分以上かけて中に入る。
 

 クロノスを含め、警察がISのアパートに行き、捜査をしていた。
 「綺麗な死体だな」
 ベテラン警察に見える男性がその死体を見てこういった。
 「なあ、クロノス。君はこれから何を思う?」
 男性はすべてを悟ったように言う。するとクロノスは敢えて見たままのことを言った。
 「蹴破れらた扉。さっきまで銃を握っていたかのように右手が硬直しているな。それからこの家から金目のあるものが消えている。恐らくこいつらはISだろう」
 ベテラン警官の男性は笑いながらこういう。
 「お前。本当は誰が何の目的でこのようなことをしたのかわかっているんだろ?」
 クロノスはそれに対し、肯定も否定もせずに言う。
 「犯人の目的は恐らく金だ。銃は今の時代アメリカで高く買い取られる。それでも説明不足ならば、自分の実力が知りたくておまけに金に困っていた。というべきだろう」
 敢えて視点をそらしで意見する。クロノスからしてみればこれをやった犯人の招待が見破られ、警察が追うという結末は望ましくないのだ。だからこういって、自分は知らないアピールをして警官にかまうなと言いたいのだ。それを見抜いた警官は彼に口を割らせるように鎌をかけているのだ。しかしクロノスは動じず瞼1つ動かさずに言葉を選ぶ。
 「すまん。電話だ」
 彼は逃げるように無線をつなぎシャルラッハート・ワシントンに連絡を取る。
 『どうしたクロノス?』
 「いや、申し訳ない。以前廃工場で交戦した敵を追っているの。警察の連中には手に負えないから引くように伝えて欲しい」
 シャルラッハートはしぶしぶ答える。
 『ああ。わかった』
 「本当すまないな」
 クロノスは依頼主であるシャラルラッハートに申し訳なく答えた。
 無線を切り、彼はバイクでその場を離脱した。
 「必ず殺す。カリヒ」
 
                        ……続く 
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