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男は今日も迷宮へと潜る

作者:幸福市民
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第一話 

────

フィリピンのとあるスラム街。空に浮かぶ太陽は、今日も立ち並ぶ倉庫群を焼いている。
焼かれている倉庫たちの一つの倉庫の前に、一台の軽トラが停まっていた。
その軽トラが停まっている倉庫の小さな扉の横には、『郷田商店』と書かれた小さな看板が掲げられている。
倉庫の中はダンボールや木箱が山積みになっており、窓からの光がさえぎられていて薄暗い。その薄暗いなか、ぽっかりと空いたワンルームほどのスペースに置いてあるソファに、一人の男が腰掛けていた。
安っぽいアロハとジーパン。体毛をすべてそり落とした頭部。気だるさを隠しきれていない強面。
男、郷田 柾冨(ごうだ まさとみ)はシケモクを咥えながら、延々とつまらないギャグを繰り返すテレビと向き合っていた。

──ジリリリリリリン・・・・・・ジリリリリリリン・・・・・・

ソファの横にある古めかしい黒電話が鳴る。ヤスは渋い顔をしながら受話器を取った。

「はいはい、郷田商店です」

『やあ、マサ。調子はどうだい?』

「ああ、ハシムさんですかい。今日はどんな用件で?」

相手が常連だったためか、マサの顔は少し緩む。

『いやぁちょっと入用でね。とにかく破壊力のあるコンパクトな物・・・・・・時限式とかに出来るとなお良いのだけど。何か無いかい?』

客の問いにマサの顔がまた渋くなる。常連のテロリスト、ハシムのご要望どおりの()()は売るほうにもリスクが付きまとう。あまりにも目立ちすぎるのだ。

「あー・・・・・・そうですねぇ。無くはないんですけどもねぇ」

『本当かい!?言い値で買うよ!』

「ただねぇ・・・・・・ある国の試作兵器なんですわ。後処理をしっかりしないと足が付いてしまうんでねぇ・・・・・・」

『ハハハ!そんなことを心配してるのかい?任せたまえ!そこらへんは全勢力をかけてでもどうにかするさ!君とも長い付き合いでありたいからね!』

「はぁ、そいつはこちらとしてもありがたいですわ。それじゃあ準備しときますんで、夕方ぐらいに取りに来てください」

『承知した!良い一日を!』

ぶつりと通話が途切れる。マサは受話器をそっと元に戻した。

「──はぁぁぁ。やだやだ、キナ臭いったらありゃしない」

大きく溜息。マサは現在の生活に不満を持っていた。
金銭的に困っているというのもあるが、マサの年齢は30と半分。一般的な日本人男性ならばそこそこの企業でそれなりの役職に就き、家庭を持っていてもおかしくない頃である。
若気の至りとでも言うべきか、気がついたら様々な組織から追われる身になっていた。そのせいで今もこんな胡散臭い商売しかできないのである。
どうせ生きるのなら喫茶店でも営みながらのんびりと暮らしたい。というのが彼の本心で、テロリストやマフィア相手に非合法に入手した大量破壊兵器やら何やらを売りさばき生計を立てるというのは、非常に望ましくない生活だった。
マサは安定と平穏を望んでいたのである。

「愚痴ってもしゃあないしなぁ。準備すっかぁ・・・・・・」

どっこいしょ、とマサは重い腰を上げる。
木箱とダンボールが作り出した迷路の中を、のっそりと掻き分けながら、目的のものを探し始めた。

────

「んー・・・・・・どこに置いたっけなぁっと」

ごそごそがちゃんとダンボールを動かしながら目的のものを探して早数十分。目当てのものは一向に見つからず、空いたダンボールの口からは弾倉や手榴弾が顔を覗かせていた。

「ぼちぼち整理すっかねぇ。でもめんどいなぁ・・・・・・っとあったあった」

ダンボールの山の中に一つのジュラルミンケースが鎮座していた。持ち運べる程度の大きさで、取っ手の横には電子キーが付いており、カードキーと併せて簡単には開かないようになっていた。
ヤスは手早くパスコードを打ち込みカードキーを通す。すると、気の抜けるような音を立てながらケースはゆっくりと開いた。

「試作小型重力弾・・・・・・こんなおぞましいもん良く作ろうと思ったもんだ」

ケースの中には長さ30cmほどの黒い楕円の円柱が一本納められていた。横には四角い電子機器が一緒に納められており、それに付いているダイオードが緑色に点滅している。
この小型の爆弾は、マサがあるところから逃げ出すときついでにと盗み出したものだ。しかしその特性上持て余していたので丁度処分するにはいい機会だ。
正常な動作を行うか、マサは付属のマニュアルを見ながら確認する。

「異常なしと。・・・・・・これでやっと気が楽になるってもんだよ」

「それにこれを売りゃあちっとは生活もましになるだろうしなぁ・・・・・・」

マサの生活は苦しい。酒もタバコも節約してどうにか飯が食える状況だ。

「ったく。あいつらめ・・・・・・こっちが下手に出てりゃ付け上がるからこまったもんだなぁ──っと」

「ん?」

愚痴りながらケースを閉じようとしたとき、しゃがみ込むマサは異変を感じた。
微妙な振動。何事かと顔を上げた次の瞬間、大きな縦揺れがマサを襲う。
滅多に起こらない地震。運悪くもマサが危険物をいじっているときに限ってそれが起きてしまったのだった。
崩れてくるダンボールの山、それは下にいたマサと破壊兵器を押しつぶす。
埋もれる瞬間、轟音とともにヤスの耳に電子音が一回聞こえる。その音が破壊兵器が起動した音だとマサが悟ったとき──
辺りは黒い閃光に飲み込まれた。

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後書き
初の小説投稿です。
拙い面があると思いますが出来る限り頑張ります。
意見、感想等は随時募集中ですので気兼ねなくどうぞ。 
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