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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  122 茅場 晶彦

SIDE 《Kirito》

「ここは一体…」

――「ここはある意味〝世界の終焉〟とも呼べる場所だよ。……ゲームクリアおめでとう、キリト君」

俺の投げ遣りの問い掛けに答えたのは先ほど(たお)したはずの人物だったが──その様相は違っていた。……見馴れていた白衣。〝先ほど(たお)したはずの人物同様〟の抑揚の無い声音──それらによって、〝はじまりの日〟に(いだ)いた激情が掘り起こされる。

「茅場 晶彦…っ!」

「ふむ、大分嫌われてしまったようだね。……やはり〝それ〟が〝人間(ひと)〟として、正しい感情なのだろう」

「……っ!!」

その取って付けた様な声音の言葉にまた、俺の心が掻き毟られる。〝人〟と云う箇所が若干違うイントネーションだったが──心が粟立っている現状では、そんな些細な違いに気付けるはずが無かった。

「……さて、歓談もそろそろにして──君に会いに来たのは勿論の事ながら理由もある。……祝言以外の内容を伝えに来たからなのだよ」

〝祝言以外の内容?〟──と頭を捻る暇も無く、茅場は手を振りメニューらしきものを呼び出し、それと同時に〝ポリゴン体が集まってくる〟──プレイヤーが転移してくる時と同じ様な現象が起きた。

「パパ──いえ、キリトさん。……ゲームクリアおめでとうございます」

「ユイっ!」

俺はわき目も振らず、ユイに駆け寄り〝もう離すもんか〟と云わんばかりにユイを抱き締める。……そうだ──そうだったのだ、このゲームがクリアされたと云う事はユイとももう会えなくなる可能性もあったのだ。

……すると(おの)ずと疑念も涌く。

「茅場、ユイに何をした? ──いやそれよりも〝キリトさん〟って一体…」

「キリトさん──私、〝ここ〟に喚ばれる途中に全部思い出しました」

俺の勝手なイメージなのだが、〝茅場 晶彦=無駄を好まない男〟である。それが疑問だった。……そして疑問が疑問呼び、茅場へユイの〝俺への二人称〟が変わっている事を問い詰めるが、その疑問に答えたのは胸元で所在無さげにしているユイだった。

「私、パパとママ──キリトさんとアスナさんに嘘を吐いていました。〝嘘吐き〟と(なじ)られても仕方ありません」

たん、と苦悶の表情を浮かべつつ軽やかなステップで俺から距離を置いて、ユイは更にそう言葉を続ける。……そんなユイの所作からは、前まで──リズに預ける前までにユイから感じる事が出来ていた〝たどたどしさ〟が感じられなかった。

「……改めて自己紹介します、私は〝M(メンタル)H(ヘルス)C(カウンセリング)P(プログラム)試作1号〟──《Yui》…。……それが私に与えられたコードネームです。……私はプログラムです」

「ユイ…? 一体何を…」

ユイが何を言ったのかが理解出来なくて──それこそ違う誰かと会話している様な気分にすらなる。……そんな俺を見かねたのか、意外にも空気と云うものが読めていたらしい人物──茅場 晶彦が注釈を付ける様に口を開く。

「……〝嘘を吐いていた〟となると、少々語弊があるな。《Yui》の詳細は私の口から語らせてもらおう。……キリト君が落ち着いた頃合いを見計らってね」

………。

……。

…。

約1分。俺の粟立っていた心が漸く小波(さざなみ)の様に治まった頃に、改めて茅場が口を開く。

「……まず、君達も経験してきた様に、VRMMORPGと云うのはステータス的な補正はあれど──〝その身で〟戦闘行為を行わなければならないと云うのは知っているだろう」

「そんなこと〝(いや)と云いたいほどに〟知っている…」

「さてそんな君に敢えて聞こう。〝皆が皆、〝命懸けの状況〟で──君たちトッププレイヤーの様に闘えるだろうか?〟」

「……っ…!」

盲点だった。……他のRPGに()ける〝スライム相当〟の雑魚Mobである《フレンジーボア》──巨大なイノシシでさえ、〝ステータス補正の無い現実で出遭ってしまったら〟と、今軽くシミュレートしたら──〝出遭ったその時点でお手上げ〟だった。

そうなると、〝普通の人〟なら【はじまりの街】で立ち止まっていた人達のみたいに、怖がってしかるべきなのだろう。……がしかし、俺には──俺達には帰りたい家があったから頑張れてしまった。

……それこそ──比喩表現無しの、[命懸け]な状況でも剣を(ふる)う事が出来てしまったのだ。

(っ! じゃあ…)

そして、〝M(メンタル)H(ヘルス)C(カウンセリング)P(プログラム)試作1号〟と云う、《Yui》──ユイの正式名称を思い出した時〝それ〟が意味する事にも気付いてしまった。

「……〝MHCP試作1号〟──ユイは云うところの〝心理カウンセラー役〟だったのか?」

「その通り。キリト君の様に勘の良い人間は好意に(あたい)するよ」

「……私はどうなるのでしょうか?」

茅場の賛辞を熨斗(のし)を付けてそのまま返そうとした時、ずっと──茅場の指示に従っていたのか、口を(つぐ)んでいたユイが口を開いた。……このまま行けば〝ユイはどうなるのか〟──なんて、そんな事はよく考えなくても判る。

(……絶対〝良くない事〟になる)

ユイ──【SAO】のプログラムである《Yui》は、このデスゲームと一緒に削除される可能性が非常に高い。

……しかし当然のことながら、〝未熟〟としか言い様がない俺やアスナの事を〝パパ〟や〝ママ〟などと、〝親〟にしてくれた──この愛くるしい〝愛娘〟を削除(ころ)させる訳にはいかない。

「茅場──」

「〝《Yui》の処遇〟──か、〝とある人間への報酬〟の件がなかったらそんな事は忘れていただろうね。〝MHCP試作1号〟──君にはプレイヤーネーム《Kirito》──ひいては〝升田 和人〟の、無期限の観測を命ず」

「「……えっ?」」

いざ茅場と〝ユイについて〟の交渉をしようとした時、茅場から予想の埒外(らちがい)の言葉飛んでき来たので、思わずユイ顔を見合わせる。……ユイは鳩が豆鉄砲を食らった様な表情を浮かべている。

……ユイと同じ言葉が口から漏れているあたり、俺もまた同じ様な表情を浮かべているだろう。

「それじゃあ…っ」

「それは、またキリトさんやアスナさんと…っ」

〝《Kirito》の無期限の観測〟。……その言葉の意味を脳内でゆっくり噛み砕き漸く理解する。改めてユイと抱き締め合う。その勢いたるや、もう磁石の様だっただろう。……〝《Kirito》の無期限の観測〟…。それは俺にとって──否、俺とアスナからしたら正しく福音だった。

……しかし、良い雰囲気かところに水を差すような気分になってしまうが、〝何故茅場 晶彦がそんな奇特な事をするのか〟が気になった。

「一体どうして…」

「それについては私の口からはノーコメントだ。……どうしても気になると云うのなら、これが私からの(ささ)やかなプレゼントだと思ってくれ」

茅場は更に、ユイの処遇について語る。
「《Yui》については、カウンセリングのプログラムを抜削し──君が〝この世界〟から、脱出したと同時に君のナーヴギアのローカルメモリ内に圧縮して入れて──ああこの際だ、〝【SAO】のサーバー内〟ではアイテムオブジェクト化される様にもしておこう。……〝現実世界(あちら)〟での《Yui》の解凍や展開は〝和人君〟の手腕次第だよ」

「必ずユイを解放してみせる」

「……良い返事だ」

何故かしみじみとした笑みを浮かべるそんな茅場に、〝いくつかの〟気になっていた事──または気になってしまったを、どうしても聞いてみたくなった。

「……幾つか訊いていいか?」

「時間的観点からして、1つくらいならまぁ良いだろう」

「……どうしてあんたはこんな事を──【ソードアート・オンライン】をデスゲームなんかにしてしまったんだ」

他にも〝ユイについて誰から頼まれたのか〟とか、〝茅場 晶彦〟には色々と訊きたい事があったが最肝要のそんな質問をしてみた。……【ソードアート・オンライン】が〝普通のゲーム〟として世に出されていたら〝初のVRMMORPG〟として、不朽の傑作になっていたのは間違いないだろう。

……なのに──どうして〝こんなことをしてしまったのか〟を本人から聞きたくなった。

「……〝あれ〟を見たまえ」

「〝あれ〟は…」

茅場やユイの登場で気付かなかったが──茅場の指を指す方向を見たら、その(おおぞら)に崩れ往く巨大な建造物を見た。……この位置でも見える事から、〝実物〟もっと巨大なのだろう。

……もちろん、〝それが実在するのなら〟──の話なのだが、俺にはそれが実在していた様に思えた。……だって〝そこ〟に、俺達10000人のプレイヤーは2年の月日に(わた)り囚われていたのだから…。

「……【浮遊城・アインクラッド】…」

「そう。〝黄昏に浮かぶ天空の城〟──私達のまだ知らない場所にそんな城があると考えれば、中々浪漫のある(はなし)だろう? 私はずっとこんな風景に憧れていたのだよ。……だから私は〝幻想〟にではなく〝現実〟の世界に〝その城〟を求めた。……デスゲームだったのは──」

「〝現実〟を〝現実〟足らしめるためか…」

茅場の言葉尻を奪い、そう加える。すると茅場〝我が意を得たり〟と云わんばかりに頷く。

「む、そろそろ時間のようだ」

茅場はそんな感じであっさりと消えていった。残されたのは俺とユイの2人(?)だけだった。気が付けばメニューのカウントも動いていた。……もう時間はあまり残されていない。

「キリトさ──む゛っ」

「誰が〝キ・リ・ト・さ・ん〟だって? ……〝パパ〟──とはもう呼んでくれないのか…?」

また〝キリトさん〟──などと他人行儀に呼んでくる〝愛娘(ユイ)〟の頬っぺたをぐにぃ、と伸ばしてやる。……〝む゛ーむ゛ー〟と呻く〝愛娘(ユイ)〟のその様を見て愛おしく思えてしまう自分は、もう既に相当の親バカなのかもしれない。

(……げに恐ろしきは遺伝か…)

俺の両親も、早熟だった真人兄ぃに手間を掛けられなかった分、その皺寄せが俺とスグに来ていた。……そして、俺にもそこら辺の遺伝子もちゃんと継げていた様で──なんだか嬉しく思える。

「……また〝パパ〟──と、呼んでいいのですか…?」

「もちろん、良いに決まってる!」

「……っ! ありがとうございます! パパ!」

どこかおずおずとしたユイにそう言い切ってやる。するとユイは喜色満面の笑みを浮かべて──涙を流しながら抱き締めてきた。……その時、〝時間〟が来たのを理解した。

(俺も時間か…)

「私──待ってますから!」

「ああ、必ずだ!」

ユイのそんな言葉に返答しながら、心地好い虚脱感に身を委ね──〝この世界から脱却出来る〟と云う事実を、ただただ噛み締めていた。

SIDE END 
 

 
後書き
これにてアインクラッド編は終了です。 
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