| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

―明日香―

 吹雪さん主催のイベント。いつの間にか開催が決まっていたソレに呼ばれ、俺はオベリスク・ブルー寮のパーティー会場に続く廊下に立っていた。会場からはかなりの数の声が聞こえて、随分と賑わっているらしい。吹雪さんが何を考えているのかは分からないが、とにかくあの人はエンターテイナーだと実感する。

『会場にお集まりしてくださった紳士淑女の皆様。今日は急なお誘いすまないね』

 廊下に設えられたテレビ画面から、パーティー会場の映像が映る。そこでは、ワイヤーで吊された吹雪さんが空中を飛翔しており――先程ダークネスの力を使ってデュエルし、倒れていた筈なのだが――そこからマイクで会場にいる生徒に呼びかけていた。

『この指の先には何が見える……?』

『天!』

『んんんんんッ上院!』

 吹雪さんのいつものやり取りに、ついつい顔を綻ばしてしまう。それとともに、あの異世界から帰ってきたのだと――改めて、強く強く実感する。

『エンジョイン! 天上院! アカデミアのブリザード・プリンスの登場さ。親しみを込めてフブキングでも構わない!』

 観客席から黄色い歓声と『フブキング! フブキング!』などという、妙に語呂がいいコールが響く。それも吹雪さんが手を上げるとさっと止まり、さらに吹雪さんは演説を続けていく。

『でも、誰にだって別れはくる……僕たちはもう卒業だ。いや、僕は留年してるんだけどね?』

 ダークネスと三幻魔の計画に巻き込まれた吹雪さんは、確かに自分たちと同じ学年になっている。かなり悲壮感漂う境遇ではあるのだが、全くそれを感じさせないのは、吹雪さん故か。……辛いのは、自分だけではないということか。

『だからみんなと思い出を作りたい。題して卒業タッグデュエル大会の開始を、ここに宣言する!』

 卒業タッグデュエル大会――卒業生は卒業生、在校生は在校生の男女ペアでのデュエル大会だと、観客席中から響き渡る歓声に負けじと、吹雪さんはパフォーマンスも交えて説明していく。

『という訳で、まずはエキシビションマッチといこう。僕が選んだ二人のデュエリストによる、ね』

 ということだから、頼むよ――という吹雪さんの声が、テレビの下に置かれていたイヤホンから流れた。ご丁寧にマイクまで置いてあり、エキシビションマッチに出る準備は万端だ。諦めてデュエルディスクの準備をし、パーティー会場へと歩いていく。

『そう、彼はいつでも不死鳥の如く蘇ってきた。その名はかのデッキとともにあり。黒崎遊矢vs――』

 妙なあだ名がつけられていることに笑いながら、俺はパーティー会場にいくつか設置されていた、とあるデュエル場へと足を踏み入れる。保健室で寝たきりだった自分が現れたことに、観客席からかなりのざわめきが走る。これでわざわざ挨拶回りをする手間が省けた、とまで考える余裕が出て来たとともに。目の前のエキシビションマッチの対戦相手を臨むと、そこには。

『――我が愛すべき妹。このアカデミア最高のクイーン! 天上院明日香!』

 ――流れるような金色の髪に女子生徒用のオベリスク・ブルーの制服、兄のすることに困ったように笑う、まさしく天上院明日香そのものの姿がそこにはいた。異世界で自分が殺したかと思われた彼女が、健在なままでそこにはいて。

「あ、明日……」

 言葉に出来ない驚愕が明日香の表情を包み込んでいた――恐らく、自分も全く同じ表情をしていることだろう。デュエル場で固まる二人に、吹雪さんの声がかけられる。

『二人は一年の時からしのぎを削ってきた。積もる話はあるだろうけれど……デュエルをすれば全てが分かる。美しいライバル同士だ』

 それは観客に自分たちを紹介しているように見せかけた、吹雪さんからのメッセージ。話すことは、謝ることは、けなされることは――泣き合うことは、後はいくらでも出来る。まずはデュエルで心を通い合わせてみろ、と。

「明日香……」

 今言うべきことは、謝罪の言葉ではなく。再会を喜び合う言葉ではなく。

「いくぞ!」

「……ええ!」

 明日香と揃ってデュエルディスクを展開すると、お互いにデュエルの準備を完了させる。この場を用意してくれた吹雪さんに感謝しながら、喜怒哀楽もわかだまりも感情も何もかも全て、このデュエルにぶつけるべく。

『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000

「俺の先攻!」

 デュエルディスクに先攻が表示されたのはこちらから、少し不満そうな明日香をよそに、俺は五枚のカードを手札とする。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 まず召喚されるは、機械戦士が誇るアタッカー。このアカデミアに入学し、明日香と最初にデュエルした時からその勇姿は変わっていない。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 《マックス・ウォリアー》にリバースカードが二枚、その布陣から明日香のターンへと移る。

「私は《サイバー・チュチュ》を召喚!」

 威勢よく引かれたカードを手札の中に加え、召喚された《サイバー・チュチュ》。明日香が使うバレリーナのような戦士族ことサイバー・ガールの一員であり、その効果は条件付きではあるが相手プレイヤーへの直接攻撃。

「バトル! 《サイバー・チュチュ》はこのカードより攻撃力が高いモンスターしかいない時、ダイレクトアタック出来るわ! 《サイバー・チュチュ》でダイレクトアタック、ヌーベル・ポワント!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」

 《マックス・ウォリアー》を踊るようにすり抜け、こちらに直接回し蹴りを仕掛けてくる《サイバー・チュチュ》を、カードの束が壁のようになって防いでいく。戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする、という防御札である《ガード・ブロック》により、《サイバー・チュチュ》の攻撃は無効にされた。

「……防がれるわよね。でもまだよ。速攻魔法《プリマの光》を発動!」

 明日香のフィールドに戻っていった《サイバー・チュチュ》に、上空からスポットライトが当てられていく。その光を浴びていくごとに、《サイバー・チュチュ》の姿は成長していき……未熟さを残していた少女の姿は、熟成された大人の姿に変化していた。

「《サイバー・チュチュ》をリリースすることで、デッキから《サイバー・プリマ》を特殊召喚する!」

 《プリマの光》は明日香が今言い放った通り、《サイバー・チュチュ》を《サイバー・プリマ》に進化させるカード。重要なのは、それが速攻魔法だということ――明日香のバトルフェイズはまだ終わっていないことだ。

「《サイバー・プリマ》で《マックス・ウォリアー》に攻撃! 終幕のレヴェランス!」

「くっ……!」

遊矢LP4000→3500

 バトルフェイズ中に特殊召喚された上級モンスター、《サイバー・プリマ》の攻撃に《マックス・ウォリアー》は耐えられない。最初の攻防は、残念ながら明日香が制したと言っていいだろう。

「私もカードを二枚伏せて、ターンを終了するわ」

「俺のターン、ドロー! ……速攻魔法《手札断殺》を発動!」

 引いたカードをそのままデュエルディスクにセットし、お互いに二枚の手札を墓地に送り、二枚のカードをドローする。……そして二枚のカードの効果が発動する。

「俺は墓地に送られた《リミッター・ブレイク》と《リジェネ・ウォリアー》の効果を発動! 現れろ、《スピード・ウォリアー》! 《リジェネ・ウォリアー》!」

 カードの効果で墓地に送られた際、特殊召喚される機械戦士《リジェネ・ウォリアー》、マイフェイバリットカードをあらゆる場所から特殊召喚する罠《リミッター・ブレイク》により《スピード・ウォリアー》が、それぞれ俺のフィールドに特殊召喚される。どちらも《サイバー・プリマ》に適うステータスではなく、守備表示の特殊召喚であるが、それがまた新たな機械戦士の狼煙となる。

「守備表示モンスターが二体の時、このモンスターは特殊召喚出来る! 来い、《バックアップ・ウォリアー》!」

 自分のフィールドに守備表示モンスターが二体のみ――という特異な召喚条件を持った、《バックアップ・ウォリアー》が特殊召喚される。その銃口は、《サイバー・プリマ》をしっかりと捉えていた。

「さらに通常魔法《アームズ・ホール》を発動。このターンの通常召喚を封じることで、装備魔法を手札に加える。俺はデッキから《団結の力》を加え、《バックアップ・ウォリアー》に装備!」

「ッ……」

 明日香の息を呑む音が聞こえる。まだしていない通常召喚を封じて発動された魔法《アームズ・ホール》により、《バックアップ・ウォリアー》に装備魔法《団結の力》が装備される。フィールドにいるのは三体のモンスター……よって《バックアップ・ウォリアー》の攻撃力は、容易く4500ポイントにまで到達する。

「バトル! 《バックアップ・ウォリアー》で《サイバー・プリマ》に攻撃! サポート・アタック!」

「きゃっ!」

明日香LP4000→1800

 《団結の力》を得た《バックアップ・ウォリアー》の攻撃は、明日香に大打撃を与えそのライフを半分とする。しかしてもうこのターンで出来ることはなく、エンドフェイズの宣言をしようとすると。

「やってくれたわね……リバースカード、《奇跡の残照》を発動! 戦闘で破壊されたモンスターを特殊召喚する。蘇りなさい、《サイバー・プリマ》!」

「《奇跡の残照》……」

 ……いつだったか、明日香の《サイバー・ブレイダー》とトレードした罠カード。俺も明日香も複数枚持っていたカードだったので、特にトレードして困ることがなかったが……それでも、お互いにとって大切なカードだ。

「……ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 感傷に浸っている場合ではない……今はデュエルの時間だ。ターンを明日香へと明け渡すと、まず明日香はもう一枚のリバースカードを見せた。

「リバースカード《融合準備》。墓地から融合カード、デッキから素材モンスターを融合し、融合召喚!」

 こちらの《手札断殺》を利用して墓地に送っていたのであろう、墓地の《融合》とデッキの素材モンスターを手札に加え、明日香のフィールドに時空の穴が広がっていく。明日香が使う融合モンスターと言えば、もちろん。

「融合召喚! 《サイバー・ブレイダー》!」

 明日香の融合のエースカードにして、今最も警戒していたモンスター――サイバー・ブレイダー。氷上を滑るかの如く、パーティー会場に設えられたデュエル場を疾走する。

「《サイバー・ブレイダー》第三の効果。相手のカード効果を全て無効にする。パ・ド・カトル!」

 相手フィールドにモンスターが三体以上、という条件はあるものの。《スキルドレイン》系統など目でもない、こちらのカード効果を全て封殺するという恐るべき効果。もちろん《団結の力》の効果も無効となり、《バックアップ・ウォリアー》の攻撃力は元の2100にまで戻る。

「さらに《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚し、効果発動。デッキから《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」

 まだ明日香は通常召喚をしていない。《機械天使の儀式》――明日香が使うサイバー・エンジェルたちのサポートカードである、かの《プチテンシ》が機械化したモンスターが召喚され、効果により《機械天使の儀式》が手札に加えられる。まさか儀式まで来るかと思えば、明日香の更なる行動は俺の予想を越えていた。

「さらに魔法カード《死者蘇生》を発動。墓地から《フルール・シンクロン》を蘇生し、バトルフェイズに入るわ」

 墓地に送られていたらしい《フルール・シンクロン》を特殊召喚し、これで明日香のフィールドにはモンスターが四体。俺のフィールドのモンスターの数を越え、そのどれもが攻撃表示を取っている。

「いくわよ! 《サイバー・プリマ》で《バックアップ・ウォリアー》に攻撃! 終幕のレヴェランス!」

「バックアップ・ウォリアー……!」

遊矢LP3500→3300

 《サイバー・ブレイダー》第三の効果によって、《団結の力》が無効にされてしまった今、《バックアップ・ウォリアー》の攻撃力は元の2100。2300と僅かながら勝る《サイバー・プリマ》に敗れ、《団結の力》ごと破壊されてしまい、俺のフィールドのモンスターは二体。

「第二の効果、パ・ド・ドロワ。《サイバー・ブレイダー》の攻撃力が倍になるけど……今は意味がないわね。《サイバー・プチ・エンジェル》で《スピード・ウォリアー》を攻撃!」

 俺のフィールドのモンスターが二体になったことにより、《サイバー・ブレイダー》の効果が変化し、その攻撃力を倍にする……が。俺のフィールドに残った二体は、いずれも守備表示であったのは不幸中の幸いか。しかし低い守備力が災いして、あっさりと《スピード・ウォリアー》も破壊されてしまう。

「さらに《フルール・シンクロン》で《リジェネ・ウォリアー》に攻撃……これでがら空きね。《サイバー・ブレイダー》で遊矢にダイレクトアタック、グリッサード・スラッシュ!」

「ぐあっ!」

遊矢LP3300→1200

 残っていた《リジェネ・ウォリアー》の守備力は0と、チューナーモンスターである《フルール・シンクロン》にも劣り。明日香のエースカードである《サイバー・ブレイダー》の攻撃が、さらに俺に叩き込まれる。

「メインフェイズ2! 私はレベル2の《サイバー・プチ・エンジェル》に、同じくレベル2の《フルール・シンクロン》をチューニング!」

「レベル4……?」

 てっきりレベル6の《サイバー・プリマ》とチューニングし、《フルール・シンクロン》をチューナーとして指定した、かのシンクロモンスターが現れるとばかり思っていたが、その予想に反してレベル4のシンクロモンスターだという。俺の疑問をよそに、二体のモンスターが光に包まれていく。

「華よ開け虹よ咲かせ、天使が舞い降りる道となれ! シンクロ召喚、《虹光の宣告者》!」

 現れたのは虹色の光を灯す天使。宣告者――確か手札から捨てることで相手を妨害する、という効果を持ったカテゴリーだと記憶していたが。シンクロモンスターとなっている《虹光の宣告者》が、まさかそんな効果なわけはなく。

「カードを一枚伏せて、私はターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドは明日香の猛攻を受け、残るはリバースカード一枚という惨状であり、ライフポイントは1200。対する明日香のフィールドには、《サイバー・プリマ》に《サイバー・ブレイダー》、さらに《虹光の宣告者》。リバースカードは今まさに伏せられた一枚と、ライフポイントは1800。

「《貪欲な壺》を発動し、二枚ドロー」

 勝負はややこちらが不利だがほぼ互角。その不利も、先の明日香のターンの猛攻のためだ。不利をひっくり返すべく、俺は汎用ドローカード《貪欲な壺》で二枚のカードをドローする。

「俺のフィールドにモンスターがいない時、《レベル・ウォリアー》はレベル4となって特殊召喚出来る!」

 明日香に一掃されたフィールドを利用して、自身の効果により《レベル・ウォリアー》がレベルを4として特殊召喚される。明日香がシンクロ召喚を用いてくるのならば、応えないわけにはいかないだろう。

「さらに《音響戦士ベーシス》を召喚し、効果を発動!」

 チューナーモンスターを司る新たな機械戦士、その中でもレベルの操作能力を持つ《音響戦士ベーシス》。自身の効果により、今の俺の手札の枚数分、そのレベルを上げ――る前に。《音響戦士ベーシス》の身体を、光が貫いていた。

「《虹光の宣告者》の効果。相手がカードの効果を発動した時、このモンスターをリリースすることで、その効果を無効にする!」

「このタイミングでくるか……」

 自分の知る他の宣告者の例からして、こちらの行動を阻害する系統のカードだとは思っていたが、まさかこのタイミングとは。効果を発動しようとした《音響戦士ベーシス》は、リリースの道連れのように《虹光の宣告者》に破壊された。

「まだよ。《虹光の宣告者》が墓地に送られた時、儀式魔法か儀式モンスターを手札に加えられる。私は《サイバー・エンジェル-韋駄天》を手札に」

 さらに儀式モンスターか儀式魔法のサーチ効果まで付随していたらしく、デッキから儀式モンスターである《サイバー・エンジェル-韋駄天》が手札に加えられた。先のターンで《サイバー・プチ・エンジェル》によって手札に加えられた、儀式魔法《機械天使の儀式》も合わせることで、これで次なる明日香のターンに儀式召喚がほぼ確定する。

「……だが、こっちもまだだ。伏せてあった《リミット・リバース》を発動! 墓地から《音響戦士ベーシス》を特殊召喚し、もう一度効果を発動する!」

 最初のターンに伏せていた罠カード《リミット・リバース》が姿を現し、先程破壊された《音響戦士ベーシス》が再度フィールドに現れる。そしてまたもその効果を発動するが、今度は妨害されることはなく。

「やっぱり、やるわね……」

「……。《音響戦士ベーシス》は手札の数だけレベルを上げる。よってレベル3とし、二体のモンスターでチューニング!」

 俺の手札は二枚。よって《音響戦士ベーシス》の効果により、二つレベルが変更されて3。同じくレベルが変動した《レベル・ウォリアー》とともに、本来ならありえないチューニングを果たしていく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 変動していった合計レベルは7。よってシンクロ召喚されるは、もちろんこのラッキーカード。黄色の装甲を装備した機械竜が、雄叫びを上げながらシンクロ召喚され、その雄叫びは効果の発動に繋がっていく。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……右のカードにしておくわ」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の叫びに呼応するように、俺のデッキから一枚のカードが明日香によって選ばれ、手札に加わるとともに……《パワー・ツール・ドラゴン》に装備される。

「俺は《パワー・ツール・ドラゴン》に《ダブルツールD&C》を装備し、バトル!」

 明日香に選ばれたカードは《パワー・ツール・ドラゴン》専用の装備魔法《ダブルツールD&C》だったが、明日香のフィールドにいるモンスター……《サイバー・プリマ》と《サイバー・ブレイダー》、どちらを攻撃するか。明日香の手札には《サイバー・エンジェル-韋駄天》と《機械天使の儀式》があり、レベル6の《サイバー・プリマ》を生かしておいては、次なるターンで必ず儀式召喚される。

 対する《サイバー・ブレイダー》は、明日香の融合におけるエースカード。今はこちらのモンスターが一体のため、戦闘破壊耐性が付与されている……が、今の局面ならば《ダブルツールD&C》の効果で突破は可能だ。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で……《サイバー・ブレイダー》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 俺が選んだのは、融合のエースモンスターこと《サイバー・ブレイダー》。厄介なモンスターである以上、早めに片付けておくに越したことはない。

「《サイバー・ブレイダー》の効果! 相手モンスターが一体の時、戦闘では破壊されない……けどね」

「ああ。《ダブルツールD&C》は、戦闘する相手モンスターの攻撃を無効にする!」

 《サイバー・ブレイダー》第一の効果、パ・ド・ドゥによって戦闘破壊耐性を得てはいたが、《ダブルツールD&C》の前では意味をなさない。《パワー・ツール・ドラゴン》の右手に装備されたドリルが輝き、《サイバー・ブレイダー》を一撃で破壊する。

「でも戦闘ダメージは防がせてもらうわ。伏せてあった《ガード・ブロック》を発動し、カードを一枚ドロー」

 《サイバー・ブレイダー》の戦闘破壊には成功するものの、明日香への戦闘ダメージはカードの束によって防がれてしまう。これで明日香のフィールドに残るのは、上級モンスターである《サイバー・プリマ》のみ。

「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 手札に残っていたカードを全て伏せ、これで俺の手札は0。破壊耐性を持つ《パワー・ツール・ドラゴン》と併せて、あからさまに守備の布陣を敷いていき、明日香の攻勢への防御を試みる。

「私は《機械天使の儀式》を発動! フィールドの《サイバー・プリマ》をリリースし、《サイバー・エンジェル-韋駄天》を儀式召喚!」

 二枚のサーチカードの効果によって手札に加えられていた、《サイバー・エンジェル-韋駄天》が儀式魔法によって呼びだされる。その効果は三種の機械天使の中でも、一際強力なものと言っても過言ではない。

「《サイバー・エンジェル-韋駄天》が特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを手札に加える。私が回収するのは《死者蘇生》!」

 その効果ならば、制限カードだろうと使い回すことが出来る、ということを証明するかのように。回収した《死者蘇生》がすぐさま発動され、またもや《フルール・シンクロン》が墓地から特殊召喚され……チューナーと非チューナーが揃う。

「私はレベル6の《サイバー・エンジェル-韋駄天》に、レベル2の《フルール・シンクロン》をチューニング!」

 今度こそ《虹光の宣告者》ではない。《フルール・シンクロン》というチューナーモンスターの真髄、その本来の力と能力がまさしく開花する。

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! 煌めけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

 開花する花とともにシンクロ召喚されるは、剣を振るう白百合の騎士。自分のターンでの相手の魔法・罠カードを一度だけ無効化する効果を持つ、明日香が持つレベル8のシンクロモンスター。

「さらに《高等儀式術》を発動!」

「なに!?」

 手札や墓地の状況から、《サイバー・エンジェル-韋駄天》の効果からの《フルール・ド・シュヴァリエ》のシンクロ召喚までは読めていた。こちらのリバースカードが実質封じられるとはいえ、それならば《パワー・ツール・ドラゴン》の破壊耐性で耐えきれる……だが、《高等儀式術》まで手札に隠していたとなると。

「私はデッキの《ブレード・スケーター》二体をリリースし、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》――降臨する最強のサイバー・エンジェル。先にフィールドに現れていた《フルール・ド・シュヴァリエ》と並び立ち、何本もの腕とそれぞれの刃を持って、こちらを威圧するかのように接近する。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果発動! このカードが特殊召喚した時、相手はモンスター一体を選んで破壊する!」

 俺のフィールドにモンスターは《パワー・ツール・ドラゴン》一体のみ、よって選ぶも何もなく《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は破壊対象を《パワー・ツール・ドラゴン》に決定し、その刃で四方八方から切り刻んでいく。しかしそれは《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕に装備されたカッターが巨大化し、何とか無事に防がれたものの。

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果。装備カードを身代わりにして破壊を免れる! イクイップ・アーマード!」

「でもこれで装備カードはもうないわ。バトルよ!」

 明日香の言う通り、これでもう破壊を免れる効果は使えそうにない。そして伏せられた二枚のリバースカードも、《フルール・ド・シュヴァリエ》に封じられている――

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で、《パワー・ツール・ドラゴン》に攻撃!」

 先程の効果破壊と同じく、再び四方八方からの刃が《パワー・ツール・ドラゴン》を襲う。もはや盾とする装備カードもない――が、盾となってくれる仲間ならば存在する。

「墓地から《タスケナイト》の効果を発動!」

「《タスケナイト》……!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の身代わりとなって、墓地から一瞬だけ蘇った《タスケナイト》が代わりに攻撃を受ける。《手札断殺》で墓地に送ったカードは、《リミッター・ブレイク》に《リジェネ・ウォリアー》だと明日香の思考の外にあったようだが、《アームズ・ホール》の効果で墓地に送られていた。

「《タスケナイト》は手札0枚の時、墓地から特殊召喚してバトルフェイズを終了する!」

 俺の手札は全てリバースカードとして伏せてあり、墓地の《タスケナイト》の効果の発動条件を満たしていた。その効果によって、何とか明日香のモンスター二体の攻撃を耐え凌ぐ。

「私は……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》が健在のまま、さらに《タスケナイト》とリバースカードが二枚に、ライフポイントは1200。明日香のフィールドには《フルール・ド・シュヴァリエ》に《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》、どちらも攻撃力は2700の最上級モンスターであり、ライフポイントは1800。ドローしたカードを一目確認すると、そのままデュエルディスクにセットしていく。

「魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊し二枚ドローする!」

 ブラフとしてセットされていた《緊急同調》を破壊し、カードを二枚ドローする。さらに《パワー・ツール・ドラゴン》が咆哮を響かせ、装備魔法をデッキから呼び込む効果を発動する。

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果発動! パワー・サーチ!」

「……右のカード」

 先のターンと同じように、明日香の選んだカードが手札に加えられ、俺の手に揃った三枚の手札を見比べる。明日香のフィールドにいる二体のモンスターを、どのようにして打倒するか。

「さらに魔法カード《死者転生》を発動! 手札を一枚墓地に送ることで、墓地からモンスターを一体手札に加える。俺は《音響戦士ベーシス》手札に加え、そのまま召喚!」

 都合三度目となるチューナーモンスター《音響戦士ベーシス》の召喚の後、その効果を発動していく。手札の数だけレベルが上がる効果――こちらの今の手札は、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果で手札に加えていた、まだ発動していない装備魔法カードが一枚。

「レベル4の《タスケナイト》に、レベル2となった《音響戦士ベーシス》でチューニング!」

 合計レベルは6。光とともにフィールドに降り立ったシンクロモンスターが、その拳で大地をも砕いてみせる。

「「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

 巨大な右腕を持った機械戦士こと《マイティ・ウォリアー》が、明日香のサイバー・エンジェルたちに対抗するかの如く現れ、最後に残った装備魔法をデュエルディスクにセットする。

「装備魔法《災いの装備品》を発動! 《フルール・ド・シュヴァリエ》に装備し、装備モンスターはこちらのモンスターの数×600ポイント、攻撃力がダウンする!」

「くっ……!」

 相手モンスターを対象にしたとしても、装備魔法は発動することが出来る。それを応用した、相手モンスターにこそ装備するカードの一種、《災いの装備品》が《フルール・ド・シュヴァリエ》に装備される。その効果はモンスターの数×600ポイントのダウン――よって、その攻撃力は1200ポイントダウンし、1500ポイントと成り下がる。

「バトル! 《マイティ・ウォリアー》で、《フルール・ド・シュヴァリエ》に攻撃! マイティ・ナックル!」

「っ!」

明日香LP1800→1000

 明日香が気づいたのはダメージよりも、《マイティ・ウォリアー》が相手モンスターを戦闘破壊したということ。《フルール・ド・シュヴァリエ》の戦闘破壊に反応し、《マイティ・ウォリアー》の効果が発動する。

「《マイティ・ウォリアー》の効果を発動! 戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力の半分を、相手に与える!」

 《フルール・ド・シュヴァリエ》の元々の攻撃力は2700。《災いの装備品》を装備させられるより以前の数値で計算するため、《マイティ・ウォリアー》の効果は十全に発揮される。そしてそのバーンダメージは、明日香のライフポイントを超えている……!

「終わりだ明日香! ロケット・ナックル!」

 《フルール・ド・シュヴァリエ》の攻撃力の半分のバーンダメージを込めた、一撃必殺の《マイティ・ウォリアー》の拳。ロケットパンチのように右腕が明日香に飛んでいき、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》をすり抜けて直接攻撃を仕掛けていく。

「まだ、まだよ! 私は手札から《ハネワタ》の効果を発動!」

 ――しかして、その拳が明日香に届くことはなく。手札から飛びだしたあるモンスターに、あっけなく弾き飛ばされてしまう。

「《ハネワタ》は手札から捨てることで、効果ダメージを無効に出来る」

 アレが明日香の最後の手札に残されたカード。手札誘発のバーンダメージ対策、という効果を持ったチューナーモンスターに、《マイティ・ウォリアー》の攻撃は防がれてしまう。

「だが《災いの装備品》の効果発動! このカードが墓地に送られた時、相手モンスターに装備し直すことが出来る! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に再装備!」

 《災いの装備品》という名前は伊達ではなく。《フルール・ド・シュヴァリエ》が破壊されたところで、更なる装備先を求めて次は《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》へと取り憑いた。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

明日香LP1000→200

 明日香のフィールドの二体のモンスターの破壊には成功したものの、本来狙っていたトドメを刺すことは出来ずに。明日香の残りライフポイントは僅か200だが、俺にもう手も手札もない。

「俺は……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 ……思えばこのデュエルは、最初からずっとそうだった。俺が攻めれば明日香が防ぎ、明日香が攻めれば俺が防ぎ。明日香が攻撃の布石にチューナーモンスターを蘇生させれば、俺も同じことを狙っていた。

 ――そして今。俺が崖っぷちの状況で逆転のドローをし、明日香が《貪欲な壺》を発動した。ならばそのドローは……逆転の一手に違いあるまい。

「私は《儀式の準備》を発動! デッキから儀式モンスター《サイバー・エンジェル-弁天-》を、墓地から儀式魔法《高等儀式術》を手札に加え、そのまま発動!」

 アカデミアのクイーンの名は伊達ではなく。しっかりと逆転に繋がる手を引き当て、再び儀式召喚がフィールドで執り行われていく。デッキから直接、レベル2の通常モンスターたる三枚の《神聖なる球体》が墓地に送られていき、レベル6の儀式モンスターが降臨する。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-弁天-》!」

 韋駄天、荼吉尼に続いた最後の機械天使こと、明日香の儀式のエースモンスター《サイバー・エンジェル-弁天-》が儀式召喚される。その効果やステータスは他二種に及ばないものの、それらにはない爆発力がかのモンスターには存在する。

「このターンで終わりにするわ。装備魔法《リチュアル・ウェポン》を、《サイバー・エンジェル-弁天-》に装備!」

 レベル6以下の儀式モンスターの攻撃力を、なんと1500ポイントの攻撃力アップさせる、という驚異的な装備魔法。よって《サイバー・エンジェル-弁天-》の攻撃力は、《パワー・ツール・ドラゴン》も《マイティ・ウォリアー》も軽々越えた、3300という数値へと跳ね上がる。最後のターンだと宣告する明日香に負けじと、迎え撃つべくこちらも応じ。

「来い、明日香!」

「バトル! 《サイバー・エンジェル-弁天-》で、《パワー・ツール・ドラゴン》を攻撃! エンジェリック・ターン!」

 《サイバー・エンジェル-弁天-》が振るう二対の鉄扇。それは容易く《パワー・ツール・ドラゴン》の装甲を貫通していき、一刀両断に斬って捨てる。

「ぐうっ……!」

遊矢LP1200→200

 奇しくも、残ったライフポイントは明日香と同じ数値。《パワー・ツール・ドラゴン》が破壊されたと同時に、それに反応するかのようにリバースカードが瞬いた。

「リバースカード、オープン! 《クロス・ライン・カウンター》!」

 遂に発動されたリバースカードの効力により、破壊された《パワー・ツール・ドラゴン》の力が、《マイティ・ウォリアー》へと集まっていく。こちらの狙いはこの罠カードによるカウンター――その効果は、受けた戦闘ダメージの倍の数値をこちらのモンスターに加え、相手モンスターと強制的にバトルさせるという効果。

 《パワー・ツール・ドラゴン》が受けた1000ポイントのダメージは、その倍の数値となって《マイティ・ウォリアー》の力となっていき、《サイバー・エンジェル-弁天-》を追い詰める。その攻撃力は4300、《マイティ・ウォリアー》のバーン効果を狙わずとも、明日香のライフポイントを削り切れる。

「《クロス・ライン・カウンター》の効果! 《マイティ・ウォリアー》で《サイバー・エンジェル-弁天-》に攻撃! マイティ・カウンター!」

「だけど、こっちも《サイバー・エンジェル-弁天-》の効果発動! 相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターの守備力分のダメージを相手に与える!」

 しかして追い詰められた《サイバー・エンジェル-弁天-》も、俺を狙って鉄扇を振り抜く。《パワー・ツール・ドラゴン》の守備力分、2500ポイントのバーンダメージを与えんと、鉄扇を振り抜いた衝撃がカマイタチとなって放たれ。

 どちらの攻撃も止まることはなく――

「ぐああっ……!」

「きゃぁぁあっ!」

遊矢LP200→0

明日香LP200→0

 ――お互いの想いを込めた一撃は、同時にお互いを貫いた。


『決着は……引き分け! 《クロス・ライン・カウンター》の特殊な効果処理が決め手となった、二人のデュエリストに盛大な拍手を!』

 最初にその真実にたどり着いたのは、ずっと俺たちを見舞ってくれていた吹雪さん。観客席の方々からの盛大な拍手とともに、サムズアップした吹雪さんに退場を促される。

 そして明日香とともにパーティー会場から離れていき、その拍手と熱気が遠くなっていく。生徒は皆あのパーティー会場に行っているので、この冷たい廊下には人の気配すらしない。

「――明日香!」

 どこまでも吹雪さんに感謝しながら、先に歩いていた明日香に呼びかける。振り向いた彼女の瞳には……涙が浮かんでいて。そんな光景を目の当たりにしてしまい、何を言うべきか浮かばず……口から勝手に、真に伝えたかったことが零れ落ちた。

「生きていてくれて……ありがとう……」
 
 

 
後書き
遊矢「メンタルリセットォォォォォ」

えー、約 二年ぶり のメインヒロインのDEBANでした
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧