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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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継承

 
前書き
やっと出せた気分です。


ある意味次に繋がる回 

 
【マザーベース】
~~Side of ディアーチェ~~

「たった一年でここまで大きくなるとは、我ながら感慨深いものだ」

今日の分の経理や会計、配属などの仕事を一通り終えた我は、マウクランに構築したマザーベースを様子見がてら散歩している。ちなみに今我がいるのは洋上の方で、最初は打ち棄てられたオンボロプラント一つから始まった。やがて我らの活躍や評判を聞いた人が集まり、洋上だけでなく陸地にも色々な施設を作っていき、いつしか都市と言える程の規模まで大きくなっていた。

「このままいけば、いっそ国になれるかもしれぬな。……うむ、我らの国か……実に良い響きだ」

「王様~! 皆を連れてきたよ~!」

「おっと、もうそんな時間か……承知した、レヴィ。すぐ向かおう」

ぶんぶん手を振るレヴィに少し落ち着くように釘を刺してから、我は客人の下へ移動する。そこで代表としてやって来ていたゼスト・グランガイツと、彼の率いる部下へ挨拶と握手をした。

さて……我らが業務を始めてからレヴィは早速ミッドチルダ地上本部に雇われて活動をしており、我らの中では書類関係は苦手でも人懐っこい性格の彼女に地上の局員は好印象を抱き、継続的に契約を結んでくれている。そのおかげで他の部下も徐々に雇ってくれて安定した収入が入るため、マザーベースの維持に役立っている。そういう意味ではレヴィは対外的な顔役にも向いているのかもしれない。まぁ、目を離す事に今でも多少不安はあるが……臣下を信じずに王を名乗れまい。

それはそれとして彼女を経由して先日、地上本部から管理局との合同訓練の依頼が来たのだ。本局からだったら断っていたが、地上なら一応信用できる。報酬の額も悪くなく、部下が多くの経験を積めるし、更に腕が良ければわざわざ仲介せずとも向こうから仕事をもらえる。お互いにメリットがあるので、我らもこうして承諾したのだ。

「して、ディアーチェ殿……」

「呼び捨てで構わぬ。今は対等な立場であるからな、ゼスト」

「わかった、ではディアーチェ。今回の合同訓練は事前に確認の連絡はしたが、アウターヘブン社で行われている訓練を俺達管理局が体験するという形で正しいか?」

「うむ、それで合ってるぞ。開始は今から15分後、部下達にも連絡しておいてくれ」

「了解だ」

それで部下に知らせようと横に顔を向けた我とゼストは、もうとっくに交流を始めている部下達の姿を目の当たりにした。中心ではレヴィとユーリがクイントに揉みくちゃに可愛がられながらも、自然と彼女達の笑顔で双方の和が担われていた。

ちなみにメガーヌがいない理由だが、実はまだ産休の最中なのだ。退院した後に彼女らと一度会う機会があったので見せてもらったが、子供の名前はルーテシアといい、親に似て可愛らしい赤子であった。

それはともかくとして……価値観の違いや過去のいさかいで仲違いが起きるかもしれぬと想定していたが、どうやら杞憂で済みそうだ。

「そのようですね」

「おお、戻ったかシュテル」

「はい。ただいま戻りました、我が王。今回の任務はちょうど現地にいたマキナのおかげで無事に成功し、手に入れたデータは現在解析を進めています」

「そうか。それでマキナは、またどこかへ出向いておるのか?」

「はい。例えば……」

フゥ~ッ。

「むみゃぁあああっ!?」

いきなり耳元に息を吹きかけられ、背筋がゾゾォ~っとなってたまらず変な声を出してしまった。くたぁっとへにゃっている我の前で、シュテルとマキナが示し合わせたようにニヤリと笑っていた。

「王の後ろとかですね」

「た、たわけ! やっと帰ってきた矢先にこのような真似をするでないわ!」

「ごめんごめん、シュテルに乗せられて何となく面白そうだと思っちゃってさ」

「えっへん」

「そこで胸を張るなシュテル! まったく貴様らは……だが元気そうで何よりだ、マキナ。……おかえり」

「ただいま、王様。……やっぱり王様は優しいね」

「だからって頭を撫でるな。我は一応おまえの上司だぞ?」

「でも身長は私達初期メンバーの中でも小さい方だよね? 皆もちゃんと成長してるのに」

ぐ……地味に気にしてる事を! しかし燦然たる事実だから何も言い返せん……。プログラム体である我らが成長するのは確かに妙かもしれぬが、それは教主殿から与えられた月の力が大きく影響している。何というか……本来“モノ”とも言える我らを“ヒト”らしくしてくれているのだ。
その結果、我らはオリジナルと同様に身体が成長しているのだが……我の場合は子鴉を基にしたのが悪かったのか、シュテルやレヴィと比べて身長の伸びが悪い。ちなみにオリジナルと比べると我らの方が身長が僅かに低い代わりに全体的に身が引き締まってしなやかで、凹凸のメリハリが出来ているらしい。恐らく普段からCQCの訓練を行っているからだろう。前にアリスがそのような事を言っておった。

ただ……身長の点だけ見れば、ユーリの方がむしろ深刻かもしれぬな。この一年で伸びたのはたったの2ミリ……当然、身長も一番低いままだ。本人は牛乳を飲むなどをして頑張っているが……効果のほどは推して知るべしだ。

それにしても改めて目の前にして思うが、マキナはちょっと成長し過ぎではないか? ウェアウルフ社に匿われていた頃からその兆候はあったが、シャロンを探す旅でしばらく見なかった内に彼女はいわゆるワガママボディとも言える身体になっていた。まぁ実際の年齢はともかく肉体年齢だけ見れば年長者だから、一番成長しているのは当然かもしれん。

う、羨ましいなんて思ってないぞ!? 威厳のある大人っぽくて良いなぁ、とか思ってないのだからな!? コラそこ、変に勘ぐるでないわ!

「お~い、姉御~。アタシの紹介はまだなのか~?」

「あ、ごめんアギト。つい忘れてた」

「ついで忘れないでくれよ……寂しくなるじゃないか、マジで……」

「いやホント悪かったって、後で埋め合わせはするから機嫌治して」

「……はぁ、わかったよ。でも今度は埋め合わせをする事を忘れるんじゃないか?」

「あり得なくもない」

「オイ! 認めちゃ駄目じゃん!?」

「マキナ……さっきからぎゃあぎゃあ喚いてるこの赤チビは何だ?」

「赤チビじゃねぇ! アタシには烈火の剣精アギトってちゃんとした名前があるんだ!」

「王、この子が報告にあった件の融合騎……私達の新しい仲間です」

「ああ、そういう事だったのか。すまないアギト、遅ればせながら我らもそなたを歓迎しよう。しかし融合騎か……少し面白い因果だが、小鴉も融合騎を迎え入れたらしい」

「ほう、八神が融合騎をねぇ……」

「その融合騎はリインフォース・ネロが元々持っていたユニゾン機能を復活させたタイプなので、いわゆる後継機という事になります」

「ふ~ん。という事はリインフォース・ネロはお払い箱?」

「あやつはあやつで素の戦闘力が高いから、ヴォルケンリッター共々そちらの方面で活躍すると聞いた」

「なんだ、ニート侍になる訳じゃないんだ」

「いくら何でもそれは失礼ですよ、マキナ。ニート侍はシグナムの方でしょう」

「あ、そっか。同じ炎熱変換持ちでもシュテルの方がやっぱり真面目で頼りになるや」

「ドヤァ」

「どっちも失礼千万だ、馬鹿者。今はあやつらも真面目に働いとるわ」

余談だがこの時、リインフォース・ネロとシグナムがくしゃみをしていた。詳しい理由は知らん。というか今更だが何故、我があやつらのフォローをせねばならんのだ……。

「まだ数日しか一緒じゃないけど、姉御ってこういうキャラだったっけか……?」

「アギトはまだ知るまいが、マキナは小鴉どもとは少々複雑な関係でな……あやつらの話題になると遠慮が無い発言が多くなるのだ」

「複雑な関係? なんだそれ?」

「詳しく知りたいなら後で本人から聞くと良い。……で、すまないが我らは管理局地上本部と合同訓練を行う予定があるから、皆の顔合わせや自己紹介は後ほど行わせてもらう。故にマキナ、そろそろ離してくれぬか?」

「管理局と合同訓練? へぇ……」

一瞬だけマキナの目が鋭くなったが、すぐに元の綺麗な琥珀色が映る暖かい目に戻った。確かに彼女は管理局を嫌ってるからな……心情的にあまり関わりたくないのだろう。それ自体はしょうがないと思うし、変に突っついたら余計にこじれる可能性もある。

となると合同訓練の間、マキナには別の場所で休んでもらった方が良いか。彼女も長旅で疲れてるだろうし、帰って来て早々訓練に参加させる必要も無い。

「さて、我らは陸地で訓練を行うから、マキナはアギトと洋上プラントの方で適当に休んでいたらどうだ?」

「別に休むほど疲れてはいないけど、お言葉に甘えさせてもらうよ。先にレヴィとユーリにも挨拶しておくけど、後はしばらくぶりのマザーベースだから好きにさせてもらうね。じゃ、頑張って」

そうやって軽く手を振りながら、マキナはアギトを連れてレヴィとユーリの所へ歩いて行った。彼女の抱擁から解放された我もシュテルを伴って、足早に訓練場へと向かう。少し話し過ぎたのでギリギリの到着にはなったが、合同訓練は問題なく開始できた。

マザーベースで行われている訓練は魔法無しで相手を制圧するためのものが中心で、特にCQCは身体が覚えるまで反復練習を徹底的に行っている。ここで早速PMCと管理局員の違いが顕著に表れ始めた。

知っての通り地上本部の局員達は魔力ランクが低い者ばかりだから、少ない魔力を無駄なく使えるようにコントロールや身体能力、仲間内の連携を鍛える訓練を主にしている。しかし管理局である以上、魔法を使う事を前提としているため、魔法無しの戦闘技術は実の所あまり洗練されていないのだ。

そこで今回の合同訓練を通して、彼らには魔力量に左右されずに生き残るための戦闘訓練のやり方を覚えてもらい、本局の高ランク魔導師に負けない実力を手に入れる事で生存率の向上を狙っている。一方でこちらも現在のSOPの性能を確かめる、という意図もあるにはあるが……そっちはあくまで様子見程度だ。

ただ……CQCは管理世界の概念ではやはり異色であり、内容もやり慣れていない事で局員の体力の消耗は我らPMCより激しい。よって午前中だけでバテる局員が多数現れたのだ。だが始める前に我らから訓練内容の意義を説明したため、意味はちゃんと理解してくれているようだ。

「あ~なんつーえげつない訓練だよ。こんなハードなの毎日やってるのか、PMCって。俺マジ尊敬するわ……」

休憩中、くたびれてる部下達の様子を見てゼスト達は微笑ましい視線を送っているが、その中で我らは彼らの下に大量のスポーツドリンクが入ったクーラーボックスを運んで渡していった。

「お? ありがとうございます。でもここの責任者が自ら雑用をやってていいのですか?」

「訓練中は普段通りの口調で構わぬ。それと、王が皆の手本になるように行動するのは当然であろう、ティーダ・ランスター」

「そういうものなのか……? あと俺の事知ってたんだ」

「無論だ。おまえは教主殿の知人だからな」

「教主……サバタの事か。そういえば一年前のあの時、君達とは話してないけど会ってはいたな。しかし君みたいな子が王様か……」

「意外か?」

「いやそうじゃなくてさ……王様ってもっとこう、豪華な椅子にふんぞり返って部下にああしろこうしろって命令するイメージがあったんだけど、君達を見てると全然違うと思ってね」

「どこぞの悪徳上司と一緒にされては困る。マザーベースに住む者は全て我の国民であり、王である我は国民を守る責任がある。手柄を立てれば褒美を与え、仲間を助ければ皆で称え、責任を果たせば宴を開く。ここはそういう場所なのだ」

「なんか結構いい環境だなぁ、管理局より待遇良いんじゃないか?」

「我自身はそのつもりでいるし、要望があれば内容次第で改善する気構えでいる」

「おおっ! 本局の上層部に王様の爪の垢でも飲ませてやりたいぜ」

そうやって称賛してくるティーダだが、そもそもここでは糧食などの事に常に気を付けていないと士気に影響が出る上、万全の状態で任務に挑ませてやらないと帰ってこれない可能性も出る。作戦で言うならいわゆる“いのちをだいじに”という指針だ。

さて、休憩時間も終わったのですぐに訓練を再開した。午後は我らが訓練用に建設した模倣軍事基地で行う。そこで守備側は警備に当たり、攻撃側は少人数に分かれて潜入する。基地最深部にあるスイッチを押したら攻撃側の勝利で、攻撃側が全員押せずに発見、制圧されたら守備側の勝利となる。
設定上は“武装蜂起したテロリストが占拠した施設にある核ミサイルの発射を食い止めるために最深部のコントロール装置を破壊する”というものなので、攻撃側は少数での突破力や迅速な行動力が試される。もちろん基地内にはトラップが仕掛けられてるし、魔法で強行突破なんて真似をしたらすぐに見つかってゲームオーバーになるようにしてある。要は目立つ行動をせず見つからないように潜り込んで最深部にたどり着けば良いのだ。

「ざっと見てみたけど、こういう特殊作戦は力だけでやろうとしたら、かえって取り返しのつかない結果を招くから興味深い訓練内容だと思うわ」

「少数、あるいは単独での隠密工作活動は、管理局では執務官以外あまり意識してないからな。正面から戦わずにやり過ごして対処するというのは、部下達にも良い経験となるだろう」

クイントとゼストの言うとおり、管理局のやり方は基本的に正面突破が多いように感じる。でもそれは多くの局員が見える所でそう活動してるからで、ラジエルのような特殊部隊は見えない所で活動するから、対外的にそう感じているだけだと思う。

まぁそれはともかく、管理局員の方はあまりやったことが無い訓練内容に期待半分不安半分といった様子で少々緊張しており、一方でPMCの方はというと……。

「いいかお前ら! 今日は王様達が見てくださっている!! これまでの訓練の成果を存分に発揮しろ!!! わかったかぁッ!!!」

『イエッサァーッッ!!!!!』

「声が小さいッッ!! もっと全身から吐き出せ!!!」

『イエッサァーッッッッ!!!!!!!』

「よろしい! なお本日の合同訓練において一番の成績を残した者には、この『着替え中にいきなり撮影されて赤面する王様』の秘蔵写真を贈呈する!!」

『うぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!』

おい、ちょっと待て部下ども。どこで手に入れた、その写真。

「なお、写真の提供はユーリ嬢からだ!! 彼女に感謝するように!!!」

『ユーリ!! ユーリ!! ユーリ!!』

う、うむ……なるほど。とりあえずユーリには後でお説教だな……。

一応、士気や団結力の向上のため、などというまともな理由だったら温情は与えるが……もしそれなら今後はせめて許可だけでも聞いてからにするように言い聞かせておこう。方法が何であれ、部下達のやる気が湧くのはむしろありがたい事ではあるが、親しき仲にも礼儀あり、マナーやプライバシーがある事をおろそかにしてはいけない。

話を戻すが、我らアウターヘブン社は守備側、管理局は攻撃側を担当する事になっている。それで早速初めた訳だが、ここで面白かったのは、攻撃側の一番手の部隊が開始直後一分以内に見つかっている点だ。
彼らは物陰に隠れてさえいれば多分見つからないと思い込んでいたので、移動する際に中腰やホフクをしなかった。その結果、足音や服が擦れる音が施設内に響き、守備側は攻撃側の位置を簡単に把握できたのだ。

そこからは見つかった事でゴリ押しでどうにかしようとする攻撃側に対し、守備側は冷静に数と実技、ペイント弾で抑え込む。それであっという間に一番手の部隊は全員制圧され、守備側が勝利数を一つ稼いだ。この結果に対し、これから参加する攻撃側の部隊は失格した彼らの行動から反省するべき点を見出し、今度は自分達も挑んでいく。でもそう簡単にはうまくいかず、時にはデバイスがぶつかる音だけで包囲され、時にはトラップで詰み、時には待ち伏せで捕まっていった。しかし危機を脱した者も中にはおり、そういった者は他の者がたどり着けなかった場所まで進むことが出来て、映像を通してそれを見た時は管理局員たちが「おぉ~!」と歓声を上げていた。

一方で守備側も警備シフトを変更したりして、同じ対策が通じないように工夫を凝らしている。おかげでそこに人はいないと思っていた攻撃側をうまく出し抜いて、確保に成功していた。そうやって「今度は負けない」と意気込む攻撃側に守備側も受けて立ち、お互いに良い刺激を与え合いながら訓練は進んでいき……、

「む……結局攻撃側が全滅してしまったな。あの様子では訓練中は何があっても手を抜かないと思ってはいたが、少しでも加減させてやるべきだったか?」

「局員は潜入自体不慣れだから致し方あるまい。しかし俺も新鮮な気持ちで楽しめた。久しぶりに充実した訓練で、皆も喜んでいる」

「そう言ってくれると、こちらも用意した甲斐がある」

「今後はこういった趣向の訓練も視野に入れていこうと思う。少数での潜入が出来るようになれば、違法研究所に大勢で突撃して奥にたどり着いた時には実験体や被害者が手遅れになってしまう事を防げるようになるし、人質を取られてこう着状態になった場合の対処法も増える。今まで管理局に無かった新しい方向性をこの訓練から学べた。また合同訓練を行ってくれるなら、今度は攻守を逆にしてみるのも面白いだろう」

「同感だ。それで助けられた新しい仲間もいるしな。それに魔導師は主にバリアジャケットで防御力を補っている故、纏う前に不意打ちされるとめっぽう弱い。だからこそ隠れ潜む相手にとことん気をつけなくてはならないのだ」

「ああ。実際、こういうステルスミッションは警戒心の強い人間か、戦況を把握できる人間の方が上手らしい」

徐に頬を吊り上げたゼストは、休憩所で疲れ切って倒れている一人の局員を見る。今回の訓練で最も奥まで潜入できたのは……実はティーダ・ランスターだったのだ。他の者が最深部まであと半分という所で脱落しているのに対し、戦況の認識力が特に卓越している彼は本当に最深部に通じる扉の一歩手前までたどり着けていた。彼が本格的にCQCを身に付けていたら、本当にスイッチを押して勝利していたかもしれない。正直に言って、地上本部の局員の中では一番敵対したくない相手だ。

ちなみにクイントは最初はちゃんとステルスしてたものの、途中で我慢できなくなって敵陣に突撃し、見事に返り討ちにされていた。ゼストは体躯が大柄なので隠れる場所があまり無く、常に漂う武人の気配のせいで隠れててもバレるという始末。要するに潜入任務に全く向いていないタイプだった。

「ゼスト、差し出がましいが不意打ちには気を付けるのだぞ。例えば後ろからいきなりナイフが飛んでくるとか、爆発物に気付かず巻き込まれる可能性を常に意識しておいてくれ」

「それは今回の訓練で身に染みて理解した。重々注意しておこう」

「あらら、これでうちの隊長から更に隙が無くなったわ。この調子じゃ、いつか次元世界最強の称号も得られるんじゃないかしら……?」

戦々恐々としているクイントはともかく、確かにゼストはあのファーヴニルの腕の薙ぎ払いを力づくで押し返した事があるから、今でも十分化け物じみた強さを持っているだろう。ただ……言わせてもらえるならマザーベース最強はユーリだし、生きていれば教主殿がその上を行っているから、次元世界最強を名乗るにはまだまだ早いと思う。

「……あれ? なんかいい匂いがしない?」

「訓練終了後は親睦会も兼ねてバーベキューパーティを行うと事前に伝えたではないか。マザーベースの方で糧食班が準備を進めているから、その匂いがここまで漂ってきたのだろう」

「何をしてるの皆! 早くご飯を食べに行きましょう!!」

『飯だ、よっしゃぁああああああっっ!!』

「節度を守れる範囲なら酒も許す。皆も存分に楽しめ」

『王様マジさいこぉおおおおおおっっ!!』

管理局員とPMCの者達の喜びの咆哮がマウクラン中に響き渡り、さっきまで倒れてた連中も怒涛の勢いでマザーベースへ走っていった。何気にその中にレヴィの姿もあった。こういう光景を見ると、人間の原動力に美味い食事は欠かせないとつくづく実感する。

「では、我らも戻ろうぞ」

「フッ……わかった。部下達も腹を空かせて待っているからな」

というわけで我とゼストも、頼れる仲間たちの下へと向かうのだった……。






「姉御! これなんて食べ物なんだ!? すっげー美味いぞ!」

「それは焼きそばって言う、一般的な家庭料理の一つだよ」

「じゃあこれは!?」

「シイタケのバターソテー。シンプルな味付けと香ばしい匂いが食欲をそそるよ」

「じゃあじゃあこれは!? あれとかそれとか……ああもう何でもいいや! ちょっと取りに行ってくる!」

親睦会の中を適当に食べ歩いていると、我は色んな料理を堪能しているアギトと局員が大勢いるのに会場に来ていたマキナを見つけた。アギトはまだわかるが、マキナがここに混ざっていた事には、我でも結構驚いた。

「あ、王様」

「おいマキナ、気分とか大丈夫なのか?」

「一応平気と言っておいた方が、王様も安心する?」

「質問に質問で返すな。で、どうなのだ?」

「まぁ……かろうじて大丈夫って感じ」

「そうか。一度根付いた苦手意識は、そう簡単に拭い去れるものでもないからな」

「克服はしようと思ってるけど、対人経験がほとんどないから難しいね」

深くため息をつくマキナに、我はおのずと彼女の背中をさする。子供のまま大人にされたような精神、大人なのに子供の感覚が残る身体。11年の歳月を実験体として過ごしてきた事で、実質5年しか対人経験を積んでいない影響はこういう所で色濃く現出してしまう。再会時のちょっかいはマキナの素とも言える子供の部分だからこそ、我らはそこを大事に見守っていきたい。彼女は精神的にも、まだ不安定な部分が多いのだから……。

なお、マザーベースにも救出されたクローンや実験体だった者がいるが、彼らも普通の人間なら自然と経験しているはずの事を経験していないため、感覚の誤差が現れる事が多い。なのでユーリがマザーベース内の精神カウセリングを行っているのだが、こういう問題はやはりどうしても時間をかけていくしかない。違法研究などで生み出される存在がいる限り、管理局の方でもこの問題が無くなる事は無いだろう。




「はぐはぐ♪ 焼き鳥うめ~! ……んむ?」

「……ふむ? ベルカの融合騎?」

一方で焼き鳥を大量に頬張っていたアギトと酒瓶を手にどこかで座って飲もうかと散策していたゼストがばったり出会い、すぐに意気投合したのだが……それは別の話。


【預かりもの】
~~Side of すずか~~

「うん、こんな感じかな」

“ムーンライト”のメンテナンスを終えて、私は服の袖で汗を拭った。実は一年前、サバタさんから分解さえしないのであれば、解析したり使っても構わないと言われているので、敷地内でならほんのちょっとだけ乗ってもいる。と言ってもあくまで調子を確かめるための試運転に抑えてるから、お姉ちゃんやノエル、ファリンは見守るだけに留めてくれている。もし本格的に乗るとしたら16歳になって免許を取ってからにするつもりだけど……よく考えてみればサバタさんは思いっきり無視してたね。

ともあれ、このバイクはあれからずっと私が預かったままで、本来の持ち主がいなくなってからずっと寂しげな雰囲気を漂わせていた。だけど今は少し安らかになっている。それはこの家に暗黒剣が安置されているおかげだろう。

なぜあるのかというと、私は一年前、はやてちゃんそっくりの顔立ちをしていたディアーチェちゃんに、サバタさんの暗黒剣を譲ってもらうようお願いしたのだ。ただ、彼女達にとっても暗黒剣はサバタさんとの思い出が刻まれてるすごく大切な物だから、当然ながら最初は首を縦に振ってくれなかった。
ならばと交換条件として、私がムーンライトを解析したデータを基にお姉ちゃんが構築した“次元移動システム”を提供すると伝えた。次元世界に君臨する管理局ですら持っていない技術を出された事で、彼女達もしばらく悩んでいたんだけど、その時はまだ居たマキナちゃんがこう言ったんだ。

『王様達が暗黒剣を手放したくない気持ちはよくわかる。サバタ様の形見の品とも言える剣だもの。でもさ、サバタ様と共にずっと戦い通しだったんだから、この剣もそろそろ静かな場所で眠らせてあげた方が良いと思うんだ。これ以上、戦いに巻き込まれない内に……ね』

彼女の言葉に、私は深く同意した。暗黒剣はサバタさんの形見であり、同時にカーミラさんの贈り物でもある。ヴァナルガンドの力を宿しているとはいえ、あの二人の想いが深く宿っている剣……正直に言って、どこの誰とも知らない人達や管理局の手が届きそうな場所にあると、やはりどうしても不安になる。別に彼女達が信頼できない訳じゃないし、この感情はただの独占欲だったのかもしれないけど、誰にも奪われないように守れる場所に置いておきたかった。
という事でマキナちゃんの意見を聞いてしばらく悩んだディアーチェちゃんは、他の子達の意見も聞いてから結論を決めた。その結果、暗黒剣はムーンライト同様に月村家が保有し、ディアーチェちゃん達のいる組織は単独次元移動システムを搭載した乗り物をいくつも開発した。お互いに満足のいく取引となった訳だ。

「でも太陽銃のレプリカまでもらえたのは予想外だったかな……」

アメリカのDARPAで開発された、太陽銃ナイト。太陽仔が用いる、闇を浄化するための銃……の模倣品。仕組みは太陽結晶の欠片を動力核にする事で、天に掲げると太陽チャージが出来るように作られている。
開発出来ただけで十分凄いと思うけどディアーチェちゃん曰く、これは太陽光をエネルギーとしたスタン弾しか撃てず、エナジーを込めると色が白から黄色に変化してソル属性が発現する性質はあるけど、まだまだ弱すぎてアンデッドには効果が無いみたい。そしてこのレプリカは予備という事もあって、オリジナルより性能ははるかに低く、今のままでは引き金を引いても小さい弾しか出ないが、人間相手の自衛なら十分らしい。

実はディアーチェちゃん達は最初にこれを渡すために私達と接触したのであって、ファーヴニルとの決戦前、サバタさんから太陽銃ができたら私に渡すように言っていたらしい。彼の意図を察するに「護身用の武器として持っていろ」という事だろう。最後まで気遣ってくれた彼の想いを受け、私は彼に届くように感謝の祈りを贈った。

……でもさ、いっそこれ改造しちゃってもいいよね? というか白状するけど、もう改造しろって私の亡霊(ゴースト)がずっとささやいてるよ。あと、ついでにバリエーションを増やしても良いと思うんだ。例えば敵に追尾してくれるミサイルとか、二丁拳銃でサブマシンガンみたいに連射とか、火炎放射みたくスプレッドを放つとか、暗黒銃のように放射状にグレネードを撃ち込むとかね。
無いなら自分で作ればいい。工学系を希望していると根底にそういう理念があるから、エネルギー関連の方はDARPAに任せるとして、私は今言った太陽銃のバリエーションを増やす開発をしていこうと思う。

最近は出番が無いせいで忘れられてるかもしれないけど、私も月下美人だからエナジーは使えるんだよ? つまりこの太陽銃がまともに使えるようになれば、私だってなのはちゃん達に負けない戦力にはなれる。まぁ、だからと言って……自ら進んで戦いたいわけじゃない。正直、ヴァナルガンドの件で戦いに巻き込まれるのはもうこりごりだと思ってるもの。

「すずか、またバイクのメンテナンスでもやってたの? あんたも好きねぇ」

いつの間にか遊びに来ていたアリサちゃんが、庭のバイクの傍で休憩していた私に声をかけてきた。

「性分なのかな? 機械をいじるのって結構楽しいんだ、アリサちゃん。それにこのバイクは預かりものだから、ちゃんと整備してあげないと……」

「整備され過ぎて、もう発光してるんじゃないかってぐらい綺麗になってると思うんだけど……それは別にいいか。にしても最近、ホント物騒になってきたわよね……」

「テレビやニュースでもやってたけど、軍隊の民営化、戦争経済の活性化、PMCの需要拡大、石油やバイオ燃料などの高騰化……なんだか世界中が危険な方向に進んでる気がする。戦争してない日本でも、燃料高騰化は盛大にあおりを受けてるもんね。最近ガソリン代がとんでもない額に跳ね上がってるし……実際、今の日本の自動車平均利用率が例年より15パーセント以上も低くなってるんだから、皆車を使うのを自粛してるのかな」

「そう考えると、ムーンライトに搭載してある太陽エンジンは本当に便利よね。太陽光さえあれば動き続けられるエンジンだから、ガソリンの補給も必要ないし」

「……アリサちゃん、この超高性能エンジンを便利の一言で済ましちゃ失礼だよ。いい? 太陽光を浴びれば半永久的に大きな動力が得られるってことは、明らかにどこの人達も喉から手が出る程欲しく思って当然なんだよ。開発者の一人として言わせてもらえるなら、これはオーバーテクノロジーそのもの。だけど夜の一族の事もそうだけど、存在を公に知られてしまったら、これを求めて大きな争乱が起きてしまう。そうならないために、私が見えない所に隠しておく必要があるんだ」

事実、月村家はノエルやファリンを生み出した自動人形技術もあるし、夜の一族の事も公に知られる訳にはいかない。もっと狙われている自覚を持っておかないと、皆に迷惑をかけてしまう事になる。もしまた誘拐でもされてしまったら、あの時のようにサバタさんが助けに来てくれるはずもない。彼はもう……いないのだから。

「わかってるわよ、それぐらい。だから忠告に来たんじゃない」

「忠告?」

「そうよ。早めに暗黒剣とムーンライトを厳重な場所にしまっておきなさい。エレンさんから聞いたんだけど最近、奇妙な連中が次元世界全体で目撃されているみたい。彼女曰く、アンデッドが散発的に発生しているのにイモータルの姿が無いのは何かおかしいって……」

「つまり近い内に、また何かが起こるってこと? ラタトスクやファーヴニルの時みたいに?」

「確証は無いけど……可能性はあるわね。それで今の内に暗黒剣とムーンライトを誰にも奪われない様にしておけって事。……そう、それこそ知り合いに見せる事すら止めておいた方が良いかもしれない」

「どうして?」

「ラタトスクには“人形写し”という他人に化ける能力があったらしいわ。アイツはもう浄化されたけど、他のイモータルが同じような技を使えないとは限らない。知り合いに化けて奪いに来る可能性だって無いとは言い切れないのよ」

「そ、そうなんだ……。ありがとう、アリサちゃん。ちょっと名残惜しいけど、ムーンライトもしまっておくよ」

そういう事でアリサちゃんにはリビングで待っててもらい、私はムーンライトを月村家の地下に移した。私達の財産も入っている金庫の中、ここなら誰かに奪われる心配はまず無い。過信は禁物だけど……ほころびが生じない様に私が気を付けていればいい。

厳重にロックをかけて戻って来た私は、アリサちゃんと二人だけのお茶会を始める。以前ならここにもう一人いたんだけど……彼女は私達の手の届かない場所で今も飛んでいるのだろう。

「そうね。なのはも最近全然帰ってこないし……管理局の仕事が忙しいのはわかるけど、また天井に頭突っ込みたいのかしら?」

「あはは……あれは驚いたよね。まさか椅子にロケットが仕掛けられていたなんて……」

「下手人が誰なのか、未だに判明していないのが腹立つけどね」

でもあれ以降フェイトちゃん達は少し懲りたのか、授業にはある程度まともに出席している。問題はなのはちゃんだ。フェイトちゃん達と同じ日に出席しているものの、過剰に仕事しているせいで疲れ切っているのか、会う度に眠そうにしているし、授業中はたまに机に突っ伏して本当に寝ちゃってる事もある。「そこまで疲れてるなら休んだら?」と訊いたものの、いつも「大丈夫だから心配しないで」と返されるだけだった。

それでアリシアちゃんになのはちゃんの様子を聞いたところ、どうも向こうでも休んでる姿は全然見ないみたい。どんな任務にも自ら出ていくし、事件があればどんな時でもすぐに向かうし、深夜の皆が寝ている時間帯でも働いてるそうな。リンディさんが働き過ぎだと注意した時、身体に宿る暗黒物質の影響なのか夜の方が働きやすいと言われたらしい。とりあえずその日は何とか帰したようだけど……根本的な解決には至らなかったようだ。

「ところで……すずか。前にプレシアさんに頼んで、なのはの勤務記録をちょろまかして見せてもらったんだけどさ……」

「アリサちゃん、それある意味職権乱用じゃないの?」

「そんなのは時と場合によるのよ。それより記録の方だけど、一目見た瞬間ふざけんなって思ったわ。なのはの奴、管理局に入ってから有給休暇を一度も取ってなかったの。それだけじゃない……休日出勤なんてザラ、むしろまともな休日なんて一日たりとも存在していなかった。SOPナノマシンを注入してからもそれは変わらず、むしろ更に酷くなっていった。学校も仕事の合間を縫ってどうにか来てる程度で、終わったらすぐに仕事に戻るといった始末。ブラック企業も真っ青なオーバーワークよ……!」

「そんな……いくら何でも働き過ぎだよね!? まだ小学生なのに、どうしてそこまで……!?」

「私もそう思ったし、プレシアさんも『いくら人手不足といっても、これはやり過ぎよ……!』と憤って管理局に文句を言いに行ったけど、上層部からの返答は酷いものだったわ。『なのはは期待の新星エターナルエースだから現場に出れば部隊の士気が上がる』とか、『彼女の存在が必要な場面が大量にある』とか、『本人が希望しているから止めたくない』とかとかとか……! あ~思い出しただけでイライラしてきた! 子供が無茶してるんなら大人が止めなさいよ! というか大の大人が小学生に頼ってんじゃないわよ、全く!」

「アリサちゃんの様子から察するに、やっぱり解決のメドは立っていないんだね……」

「そう。ただ管理局の面子とか意見とか、そういうのは強引な方法を取ればまだ何とかなるの。問題はすずかも知ってるように、なのはの一度決めたら絶対に曲げないあの頑固な意地と、そして……」

「自分の存在意義の喪失に対する過剰な恐怖、だね。なのはちゃん……自分が頑張らないといけないって……役に立ってないと皆に見てもらえなくなるって、まだ思い込んでるの?」

「そうみたい。……はぁ……こんな時、サバタならどうするのかしらね……」

「ん~私達が頼んだのになのはちゃんが言う事聞かなかったら、多分頭ぶん殴って気絶させてデバイス没収するんじゃない? それで高町家とか適当な場所に放り込んで、しばらく経ったら返すからそれまで休んでろ~みたいな感じで」

「うわぁ……すずかも大人しそうに見えて結構物騒な事言うわねぇ。でも冷静に見れば確かに効果的なのよね……もういっそ本当にやってみる? もちろん穏便な方法で、フェイト達にも協力してもらってさ」

あ、あれ? アリサちゃん、案外乗り気?

サバタさんならやりそうだなぁと思った事を適当に口走っただけなのに、名案扱いされてる気がする。でもなのはちゃんに休んでほしいっていう気持ちはわかるんだよね……高町家も娘が心配なのに問題の勤務記録を見せたら、温厚なあの人達でも流石に激怒すると思う。アリサちゃんは次になのはちゃんが帰って来た時に、この作戦を実行に移すのだろう。ま、乗りかかった船だから、私も真剣に参加しようかな。









だけど……私達はすぐ、それが遅すぎたというのを思い知る事になる……。


【ジャメヴ・ミッション?】
~~Side of キリエ~~

新暦67年2月14日。

エルザ艦載機のヘリ内で王様から通信。

『いいか、聞いてくれ。第3管理世界ヴァイゼンにある管理局基地で異常事態が発生、調査の依頼があった。他の基地の管理局員によると、第125観測指定世界から帰還した探査船が現地沿岸部に墜落してから数十分後、施設からの一切の連絡が途絶え……その24時間後、突如通信が回復したらしい。しかもその時の報告は、異常なしの一言だけだったそうだ。程なく墜落機は水没、だが乗っていた“何者か”は現地に上陸したらしい。本局の見解は、我々が送り込んだ諜報員の意見とも一致した。どうやら基地は、この正体不明の侵略者に乗っ取られたようだ。人間を襲い、人間にすり替わる知性体……そう、つまりは“スナッチャー”だ。そこで改めて依頼された任務は……そのスナッチャー達の殲滅だ。わかっている、シュテル。いくらそなたが強いと言っても、そんな奴らが相手では……。そこで切り札を派遣することにした。次元世界とも世紀末世界とも異なる……そう“別の世界”から……遥か彼方から来た……中身は機械で出来ている可憐な戦士達だ。敵に奪われる(スナッチ)肉体ではない……。報酬には教主殿が手に入れた太陽結晶を要求している。システムU-Dことユーリを渡す訳にはいかぬのでな。代用品という事で承諾してもらった』

そう、本当なら私はシステムU-Dをエルトリアのために持ち帰るつもりだった。だけどこっちに来て、システムU-Dが人格を持ち、ましてや一組織の重役という立場まで得ているとなれば、流石に断念せざるを得ない。オーパーツで時間を渡るのはまだ大丈夫だけど、渡った先で何かを持ち帰るのは時空の歪みを発生させて未来に帰れなくなる危険を招くし、その何かの存在が大きければ大きい程、危険もそれに応じて肥大化する。

簡単に言えば、帰れなきゃ元も子も無いのよ。だから代わりの物を探した所、太陽結晶という膨大な生命力がこもった物質があれば、ユーリが来る場合と比べて効率は下がるもののエルトリアの死蝕が浄化できると判明したので、報酬として要求したの。

……最初に力づくでユーリを手に入れようと襲って見事にコテンパンにされて捕まったのに、なんかウイルスを気合いで克服していた姉のアミティエ・フローリアンが何度も何度も頭下げてくれたおかげで保釈してもらい、挙句の果てにこの任務をこなせば報酬として太陽結晶を渡してくれるという温情まで与えてくれた王様には、ホント頭が上がらない。

まあそんな訳で私とアミタが送られたんだけど、念のためにシュテルは私達の監視という役目も担っている……。ここまでしてくれたのに約束を反故にする気はないから、別に気にしてないけどね。

さて……基地上空でホバリングするヘリから飛び降りた私とアミタは、ゆっくり地面に着地して返してもらったヴァリアント・ザッパーを構えた。

『いいか。この基地の中で、スナッチャーは管理局員になりすましている。もう既に生存者はいないかもしれないが……第3管理世界管理局基地、収容施設内を占領したスナッチャーを全て排除してくれ。これは全人類の危機なのだ。頼んだぞ、ギアーズ!』

通信切断。巻き込まれない内に戦域からヘリが離れていき、私は早く任務を済ませて太陽結晶をもらおうと意気込む。そんな私にアミタが声をかけてきた。

「焦りは禁物ですよ、キリエ。せっかくの機会なんですから……」

「わざわざ言わなくても、あの牢獄で頭は十分に冷やされてるわよ……。うぅ、思い出しただけで寒気が走る……」

「あのキリエが怯える程だなんて、一体何をされたんですか!?」

「…………くすぐり」

「はい?」

「足の裏とかわきの下とか首筋とか、とにかく敏感な所を執拗にくすぐられたのよ……」

「び、敏感……!?」

笑い過ぎて息が出来ないのにそれでもくすぐり続けられて、一旦わざと止めて呼吸を整えようとした所を狙ってまたくすぐられて……。拷問ってああいうのを表すのね、身を以って実感したわ……。

「ま、ままままま、まさかハレンチな事にはなってませんよね!? 愛する妹が大人の階段昇ってないか、お姉ちゃん心配でたまりません!」

「ちょっ、アミタ!? いきなり何てこと口走ってんの!?」

「あぁ、どうしてあの時の私はキリエを止められなかったんですか!? そのせいでキリエが……キリエがぁぁあああああ!!!!???」

「だ、大丈夫だから! 変な事はされてないから、そんな大声出さないでよ!?」

頭抱えて叫ぶアミタをなだめようとしていると、唐突に別の方から声が聞こえてきた。

「敵だ! 誰か来てくれ!!」

「ほらアミタが大声出すから見つかったじゃない! もうちゃっちゃと片付け――――」

「ほあたぁあああああああ!!!!!!」


「な、なんだこいつ―――――ぐばぁっ!!?」

あ、あ~らら……ど~しましょ。

まず、ありのまま今起こった事を話すわ。敵に見つかって応援を呼ばれたら、なんかアレな妄想して頭から蒸気が出たアミタが爆走して、やって来た敵を片っ端から体当たりで吹っ飛ばして、私が何もしてない内に全部の敵を無力化していた。スナッチャーの識別とか、隠密行動とか、そんなのは断じてやってない。単純かつ豪快、そして台無しな結果に終わってしまった……。

「ま、放っておけば勝手に帰ってくるでしょ。私が後始末やっとけば、任務はもう終わるんだしね~」

という事で色んな苦労とか戦いとかを想定していたのに、こんな簡単に終わってしまった事で拍子抜けした気持ちのまま、私はスナッチャーだけをザッパーで斬っていく。絶命したスナッチャーは緑色の炎を上げて消滅していくんだけど……血液とか白いし、なんか気持ち悪い顔してるから正直見たくないのよね……。

やがて全てのスナッチャーを始末した事で、王様から通信が入る。

『流石だな、ギアーズ。スナッチャーの殲滅、及び生存者の無力化を確認。奴らの調査は後回しだ、まずは離脱しよう。回収のため、ヘリを向かわせる。ヘリ発着場で待機してくれ』

ヘリ発着場ならアミタが向かった方角にあったはず。追い掛けるついでに、そのまま帰れそうね。……なんて思ってると、また王様から通信が入った。

『ヘリ発着場に増援!? どこに隠れていた……ヘリは一時上空に退避させる。ギアーズ、奴らを殲滅するのだ! 脅威対象をヘリから照らす。そいつの排除を優先してくれ!』

ヘリ発着場って……アミタ、まさか囲まれてたりしないわよね?

そう考えたら自分でも驚くほどの焦燥感を抱いた私は、基地内を駆け抜けてヘリ発着場に急ぐ。視界の向こうでは、大量のスナッチャー相手にアミタが必死に光弾を放っているのが見える。一人であの数を相手にするのは、アミタでも無理だ。

「お姉ちゃん!!」

「キリエ!?」

思わずそう呼んでしまった私はそのまま敵陣に殴り込み、鮮やかに蹴散らしていく。銃撃と斬撃を交互に組み合わせて、演舞でも踊るかのようにスナッチャーを次々と倒し、奴らがアミタに張った包囲網を崩壊させる。それに鼓舞されたアミタも反撃を開始……一度分かれた私達フローリアン姉妹が再び背中を預け合った事で、その力は倍化して一気に敵の数が減っていき、いつしか増援も全て倒しきる事が出来ていた。

『反応なし、殲滅を確認!』

「ハラショー。キリエ、アミタ、お疲れさまでした」

想定以上に激しかった戦いを乗り切り、疲れて座り込んだ私とアミタにヘリから降りてきたシュテルがねぎらいの声をかけてくる。互いの背中を支えに休んでいる私とアミタの姿を見て、何を思ったのかシュテルが微笑を浮かべた。

「どうやらさり気なく姉妹の仲も元通りになったようですね」

「はい! アイ・アム・お姉ちゃんですから、愛する妹との喧嘩なんて絶対に長続きさせません!」

「はぁ~……お姉ちゃんはホントどこでも元気ねぇ~。傍にいると暑っ苦しくてしょうがないわ~」

「そこが彼女の魅力ですよ。それより任務完了なので、要望通り太陽結晶をお渡ししましょう」

という事でシュテルはDARPAから返してもらった太陽結晶を、私に手渡してくれた。黄色い光を放つ結晶を眺めていると、磨き上げられた表面に鏡みたく私とアミタの顔が映る。この温かい光を宿した結晶には、使い方次第で世界を再生できる力が込められている。本当ならユーリ達に来てもらいたかったけど……考えてみればこれが最も穏便な解決なんだろう。

そもそもエルトリアの死蝕は、本来は私達だけでどうにかしなければならない問題だった。それを他の世界、他の時代で生きている者を無理矢理連れて来て、自分達の世界のために戦ってくれだなんて、あまりに虫が良すぎる。盗人猛々しい、とはきっとこういう事よね。だから私達に問題を解決できるアイテムを渡してくれるだけでも、十分彼女達は力を貸してくれている事になる。これ以上を求めるのは無礼千万、失礼極まりないわ。……実際に襲撃かました私が言える事じゃないかもだけどね。

「これが太陽の光……命の輝き……」

「これだけ大きな太陽結晶なら、予想より早く解決できるかもしれませんね。皆さん、本当にありがとうございます!」

「お礼を言うのはこちらですよ。あなた達のおかげで全人類の危機は去りました。……ニダヴェリールの魂とも言うべきそれが、エルトリアの未来を培う礎となってくれるのなら、マキナやシャロン、アクーナの人達も浮かばれるでしょう」

「ニダヴェリール……?」

「様々な思惑と運命に翻弄され、滅んでしまった世界です。最後にその太陽結晶を教主に託し、ニダヴェリールはこの世から消滅してしまいました」

「そうだったのね……。だったらこれを託された以上、責任を以って私達もエルトリアを再生してみせるわ!」

そう決意した私は、もう二度と過ちを犯さないとも誓った。この太陽結晶をもらうという事はエルトリアの人達だけじゃなく、ニダヴェリールの人達の想いも背負う事を意味する。彼らの魂を……裏切ってはならない。直接の邂逅は無くとも、心を受け継ぐ事は出来るのよ。

マザーベースへ帰還し、王様達に謝罪と感謝の言葉を伝えてから、私とお姉ちゃんはエルトリアへと帰った。ここからは私達が頑張らなければならない。グランツ博士が夢見たエルトリア……命が芽吹く世界へ蘇らせるために!

 
 

 
後書き
CQCの訓練:MGSPW序盤のチュートリアルをイメージ。豪雨は降っていませんが、やってる事は同じです。びりびり。
潜入訓練に使った基地:MG2ザンジバーランドをイメージ。多くの管理局員たちは潜入よりもランボープレイを結構やっていました。
すずか預かりのバイクと剣:今だから言える話。実は初期案だと八神家ではなく月村家が拠点だったんです。バイクや剣を彼女が預かっているのは、その名残のような感じです。
太陽銃ナイト:ボクタイDS版のタイプ。すずかが考えた他のバリエーションは順に、ウィッチ、ニンジャ、ドラグナー、ボマー、どれもDS版の太陽銃の種類です。ちなみにMGS4でスネークが持っているのはサニーが手に入れたものなので、オリジナルとは少し違うタイプだと思っています。
フローリアン姉妹:ここまで時間がかかったのは正直、彼女達をどう出すか悩んでいたのが原因です。マテ娘と比べて設定上、圧倒的に使いにくいキャラなので、結局この形になりました。


やっとの事ですが、これにてエピソード1は完結。次からエピソード2を始めます。ストーリー自体はかなりダークな話になると思いますが、なにとぞよろしくお願いします。
 
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