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Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
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#27 謝罪と自己紹介



 敵兵士の全員をタルタロスへ投獄完了したのを確認し、タルタロスの昇降口を完全に閉めた。
 非常停止を施してあるから、タルタロスの全体の電源は落ちている。故に、一度閉じれば もう暫くは開く事はない。そして 手動で開くのも不可能だ。この扉の厚さは、外部からの攻撃に備えて強固 船内にある隔壁とは比べ物にならないから。
 だから、暫くは時間が稼げる。

「……これで暫くは全ての昇降口が開きません」

 ジェイドは、全員が入った事を確認すると、そう言った。

「ってことは 暫くは安全ってことだね」
「ええ。大丈夫です。此処から離れる位は余裕、ですね」

 アルは、その話を聞くと、足早にティアの方へ向かった。

「ルーク、そこ、退いてっ!」

 アルは、ルークを押しのける様にすると、ティアの身体に治癒術を施した。両手に癒しの光が集中し、ティアの身体を包み込んだ。

「大丈夫なのですか? ……ティアは!」

 イオンも心配そうにアルに訊いた。

「……うん、大丈夫だよ。 腕を少し斬られただけみたいだ。流石ティアさんだね。多分、斬られる直前に、少し躱せたんじゃないかな? 見た目程、傷も酷くなかった。……ショックで気絶をしてるけど 直ぐに治って、目を覚ますと思うよ。……イオンは大丈夫? 怪我、して無い?」

 ティアを治療しながら、イオンの方を向いた。自分の事はちゃんと言わない。無理をする様に思えていたから。

「僕は……大丈夫ですが………」

 イオンは、アルの言葉を訊いて、表情が暗くなっていた。身体の部分は本当になんとも無さそうだけれど、その表情から何かがある、とは判った。

「……どうかしましたか? イオン様?」

 ジェイドが一歩近づいて、イオンに聞くと……イオンはゆっくりと口を開いた。

「………追っ手を振り切ろうと逃げ込んだ森で、……アニスとはぐれてしまったのです。 それで、アニスも親書も行方が……… 無事でいてくれると言いのですが………」

 イオンは心配そうに言っていた。 そう言えば、アニスの姿が見えない事に疑問を感じていたが、それは解決出来た。……悪い方向に。

「彼女も優れた人形士(パペッター)です。……信じましょう。そして アニスとはもしもの時の合流地点を決めてあります。そこへ向かいながら体勢を整えなおしましょう」

 ジェイドがそう言い終えた後、今まで黙って訊いていた、助けに来てくれた彼が口を開いた。

「そちらさんの乗組員たちは? まだ船の中にいるんじゃないのか?」
「…………いえ、生き残りは期待できないと考えるのが妥当でしょう。1人でも証人を残してはローレライ教団とマルクト帝国の間で紛争になりますから……」

 ジェイドの言葉を訊いて、皆が口を噤んだ。特に、アルは表情を暗くさせた。
 死を、間近で見たのだから。助ける事が出来なかったから。あの船の人たちには、お世話になったから。

「………行きましょう 僕たちがここで捕まってしまったらもっとたくさんの人が、戦争で亡くなるのですから」

 イオンがそう静かに口を開いたと同時に、皆それに納得し、足早に この場を後にした。

 タルタロスの昇降口を封鎖し、多少は時間が稼げているのだが、早めに離れた方がいいのは間違いない為、一行は更に速度を上げて、移動をしていた。

 そのせいだろうか。

「はぁ……はぁ……はぁ………」

 ハイペースに合わせる事が難しらしく、イオンは息切れをして、膝をついていた。

「ある程度は離れましたし、とりあえず、野営地で一休みしましょう。これ以上イオン様に負担をかけるわけにはいきませんし、そしてティアの怪我も気になります」

 先頭を歩いていたジェイドの提案で、この開けた場所で、一行は暫く休憩する事にしていた。

「ふう………とりあえず追手は無いみたいだね」

 アルは、後方を確認して、気配が全くない事を確認すると、とりあえず安心をしていた。

「ふう…… すみません、皆さん……」

 イオンは、自分のせいで、と謝っていた。

「あんまり無茶できないし。何より、ティアさんが怪我をしてるからね。イオンが謝ることは無いって思うよ」

 アルが、イオンの側まで来て話した。

「あ……、 ありがとうございます」
「いいや。さ、ティアさんの治療を再開しようかな」

 アルは、今度はティアの側まで行き、治癒術を再開した。包帯に滲んでいた血液を取り替える。もう、血は完全に止まっていた様だ。アルは安心をしたが、一先ず治癒術を使い続けた。

「へぇ……、あんたは第七音素譜術士(センブンスフォニマー)だったのか」

 横で見ていた男がそう呟いた。

「あ、ははは…… そう みたいだね。うん。でも ちょっと事情があるんだけど」

 アルは、苦笑しながら治療を続ける。

「へ? それってどういう?」
「まあ もう何回もいろんな人に話してるし、別に内緒にしてるって訳でもないよ、また 改めてちゃんと説明する。それより、オレとしては、君はいったい何者なのか、って方が気になるよ? ルークの方を見て、《坊ちゃん》って言ってたけど……」

 アルがそう聞くと、彼はにこりと笑った。

「そういや自己紹介がまだだったな、今直ぐにしてもいいんだが…… とりあえず詳しい事は彼女が目を覚ましてからにしよう。ん、オレの名前はガイだ。よろしくな」

 そう言い終えるとガイは全体を見渡した。

「よろしくお願いします」
「ガイ……、 来てくれたんだな………」

 ルークは、少し表情を暗くしながらもガイの事には、これまでに無い程に喜んでいる様だった。

「(色々あったから。……自分も人の事、言えないし、仕方ないといったら仕方ないけど。……とりあえず 知人が来てくれたことは好ましいかな。ルークも凄く信頼しているみたいだし)」

 ガイの事と、ルークの表情を見て そうアルは思った。

 その時だ。

「う………ん………」

 話をしている間に、ティアが目を覚ました様だ。重たそうな瞼をゆっくりと開いた。

「ティアさん! 良かったですの!! 目を覚ましたですのっっ!」

 ミュウがティアが目を覚ました事に気づいて飛びついた。
 突然の事で、少し驚いていたティアだったが、ゆっくりとミュウの頭を撫でる。

「ミュウ……、あ、れ? 私は………」

 ティアはまだ少し朦朧としていたのだが、次第に意識がハッキリしていっているようだ。自分に何があったのかも全て。

「いやぁ よかったですね。 治癒術が使用できるアルがいてくれて助かりましたよ」

 ジェイドは、アルの肩を叩いて笑いながらそう言う。でも、アルは素直に喜べない。

「なーんか 素直にそういわれると何か裏があるんじゃないかって思っちゃうんだけど? ジェイドに言われると……」

 ジェイドの顔を、じーっと見るアル。

「おかしいですね? 思ったことをそのままいっただけなんですが……?」

 ジェイドはサラっと躱した。その辺もいつも通りだ。

「ありがとう……アル。もう大丈夫よ。私は、自分で治癒も出来るし。ずっと、掛け続けてくれたんでしょ?」
「え……? あ、あはは。うん。でも 本当によかったよ」
「……ありがとう」

 そう言うとティア自身も怪我した箇所に手を当て、治癒術を使っていた。もう 殆ど治りかけていた為、少しの治癒術でもう完治した。

「あ……、あの………」

 ルークは、ティアに話しかけた。

「あっ! あなたは大丈夫なの?」

 ティアが逆にルークの事を思い出し、身を案じるように聞いた。

「えっ?」

 ルークは、ティアの言葉は予想外だった様で、少し戸惑っていた。

「私は……あなたが民間人だってことを知っていたのに理解できていなかったみたいだわ……、 ごめんなさい」

 逆に、ルークを庇って怪我をしたティアが謝っていた。

「………なんで怪我したお前が謝るんだよ!?」

 ルークがそう訊いた。批難されると思っていたのに。怒られると思っていたのに。

「私は軍人だもの民間人を守るのは義務。 ……その為に負傷したのなら それは私が非力だったってことだから」

 ティアは、傷があった場所を抑えながら、そう言った。するとジェイドは。

「いやー お2人とも仲が良くて羨ましいですねー」

 笑いながら、そう言った。本当に良い笑顔で。

 その言葉を訊いた途端に、2人は顔を真っ赤にさせた。

「んな! 俺たちは別に!」
「そんなんじゃありません!」

 真っ赤にさせたと同時にだった。その姿が面白くて、面白くて。

「ははは! 息もピッタリだね」

 だから、アルもつられて笑った。

「も、もうっ アルっ!」

 ティアが怒ると同時に、今度はミュウが、笑いだした

「ティアさんもご主人様もお顔真っ赤ですの!」

 そう言うともちろんルークは黙っていない。相手がミュウだったら 尚更だった。

「うっせぇーー! ブタザル!!!」

 笑顔で笑っていたミュウだったのだが、一気に落ち込んだのは言うまでも無いだろう。

「ははは! とりあえず ウチの坊ちゃんも元気になって、良かったよ。んじゃあ 改めて自己紹介だ」
「あーもー!! ガイまで!! 何言うんだよ!!」

 ルークはまだご立腹だった。 いや、或いは照れ隠しだろう。

「おいおいルーク…… 自分で自己紹介するって言ったのに、早速名前をばらしてるんじゃねぇって……」

 ガイも苦笑していた。

 もう、暗かった雰囲気は何処にもなかった。



 
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