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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth23エリーゼ・フォン・シュテルンベルク~Ich mag dicH~

 
前書き
Ich mag dich/イッヒ・マーク・ディッヒ/意味はあとがきで。 

 
†††Sideオーディン†††

ミナレットを無事――とは言い難いが破壊する事に成功。拉致されていたアンナも救出にも成功。そしてイリュリア騎士団の第三位、ブラッディアの末裔であるウルリケを撃破。だがその代償にシグナム達が結構なダメージを負ってしまい、連戦など出来ない状況となった。が、元より一度ヴレデンへと帰還するつもりだった。アンナを出来るだけ早くエリーゼ達のもとへ帰してあげたいからな。自力で帰還できるまでの治療を負傷していたシグナムとヴィータに施し、シュトゥラはヴレデンへ飛んでの帰還途中、

「・・・・ん? なっ・・・オーディン! アレを・・・!」

シュリエルの視線の先、天高くそびえ立つ白い塔が突如としてその威容を現していた。シグナムがその塔を見つつ「まさかアレがエテメンアンキ、なのでしょうか・・・?」と、おそらく私に対して言っているのだと思い、「間違いないだろうな」と応じる。
方角はイリュリアの王都だ。兵器エテメンアンキは王都に在ると言われていたからな。それにしても高いな。私の出身世界・魔道世界アースガルドの四大陸を支えていた塔“ユグドラシル”以上だ。もしアレを破壊するとなると、ミナレットなど比べるまでもなく難しいな。

「あれ? 今、空が光りまし――」

――カレドヴルフ――

シャマルの声が、空より振ってきた深紅に光り輝く特大(ミナレットのカリブルヌスよりさらに大きい)の砲撃の飛来音に掻き消された。天上より落ちた来た8本の砲撃は、無情にも着弾してしまった。着弾点の1つであるシュトゥラはディトマルシェン領の方角から爆炎と黒煙が上った。遅れてここまで届く着弾音と爆発音。言葉がない、とはこういう事なんだろうな。
人間だった29年間にも、“界律の守護神テスタメント”となってからの2万年にも、戦争なんて慣れてしまうほど体験してきた。だからあのような戦禍も見慣れている。だと言うのにショックだった。ここまで深く関わったベルカだ。情も当然ある。

「なんなのだ、アレは・・・!」

「酷い・・・。いくらなんでもやり過ぎよ」

「さすがに看過できないな。・・・・グラオベン・オルデン全騎!」

「「「「はい!」」」」「おう!」「「うん!」」

凄惨な光景に絶句していたみんなに呼びかけると、無理にでも気を取り直して私に向き直って、それぞれ応じてくれた。私の言葉を待っているみんなに「ここで別れる。全騎はこのままシュトゥラへ帰還だ」と指示を出す。すると、みんなは今しがた起こったエテメンアンキの砲撃の惨劇とは別の意味で絶句した。

「待ってください! お一人じゃ危険すぎますっ」

「そんなの嫌だっ、あたし達も一緒に行く!」

「アギトお姉ちゃんの言うとおりだよっ」

私の指示にシャマルとアギトとアイリが真っ先に反論してきた。

「・・・判りました。満足に戦い抜けるだけの魔力がない以上、我らは足手まといになるでしょう」

「・・・それに、アンナを送り届ける、という役目もある」

シグナムとシュリエルが努めて冷静に言い、「シャマル、アギト、アイリ。ここは主の命に従うぞ」ザフィーラが反論した3人を諭すようにそう言った。続いてヴィータも「しゃあねぇ。今のあたしら、オーディンを護れるだけの力も残ってねぇし」と渋々だが折れてくれた。アギトとシャマルとアイリは黙り、そして小さくコクリと頷いた。私の指示に従ってくれるようだ。
それを確認してエテメンアンキへと向き直って仰ぎ見る。うっすらとだが頂上の建築構成が見える。エテメンアンキは、例えるなら開いた傘の骨組みのような形をしていた。どうやって破壊するか、そして待ち構えているであろう防衛戦力を、どれだけ魔力消費をせずに潰すか思案しているところに、

『ベルカに生きる全ての民よ、聴いてください。私は、イリュリアの女王にして、天地統治塔エテメンアンキを統べる天界王テウタ・フリーディッヒローゼンバッハ・フォン・レーベンヴェルトです』

少女の――テウタの声が、エテメンアンキより発せられた。

(しかしそれにしても“フリーディッヒローゼンバッハ・フォン・レーベンヴェルト”か)

騎士世界レーベンヴェルトの王の血筋が絶えずに残っていたのか。これまでファーストネームしか聞いていなかったし、驚いてしまった。そのテウタから声明が出た。簡潔にまとめると、武装解除、騎士団解体、その上で降伏し、イリュリアの傘下に下れ、というものだ。
でなければ、現在イリュリアと敵対している筆頭シュトゥラとバルト三国を含む8ヵ国に、エテメンアンキの砲撃、カレドヴルフを先と同じように撃ち込む、と。しかもテウタは今のところ参戦していない国々にも脅しをかけた。敵になれば、8ヵ国と同様に撃ち込むぞ、と。

「何と卑劣な。あのようなモノを見せられては、参戦する気力も、戦いを続ける意志も挫かれてしまう」

「ミナレット以上に戦争に持ち出しちゃいけねぇもんなだな、アレ」

シグナムとヴィータの怒りを完全に買ってしまっているテウタ。すぐにでも破壊しなければ、と判断した私は、エテメンアンキへ向かおうとした。が、テウタは最後に、明日の正午までは降伏勧告の返答を待ち、そしてそれまではイリュリア国内に入るな、それが破られれば問答無用でカレドヴルフを撃つ――こう告げた。

「オーディン、どうなさいますか? このままイリュリア国内に留まれば、カレドヴルフが撃たれてしまいます」

シュリエルにそう訊かれ、みんなの視線を一手に受ける。一撃でエテメンアンキを破壊するとなれば、おそらく真技が必要になるだろう。だが、2つある私の真技は発動できない。ともに使用魔力がEXランクと必要だからだ。しかし今の私に扱える魔力は最高でSSSランク。4倍近く足りない。
必要魔力量を限定的に少なくすれば、片方の真技は扱えるかもしれないが、それでは威力が足りない。つまり今この場でエテメンアンキを単独で、その上で反撃を許さないように一撃破壊する方法はない。だから・・・

「全騎、一時退却だ。各国の王たちの返答が出るまでは、迂闊に動けない」

退却を決める。各々「ヤヴォール」と応じ、最後にエテメンアンキを睨み付けるように見、私に続いてシュトゥラへと飛行再開、一路エリーゼ達の待つヴレデンへ向かう。国境近くにまで戻って来て、もう少しでシュトゥラ国内に入るというところで、「アレは・・・クラウス・・・?」眼下に広がる平原に、クラウスと一個騎士団の姿があった。彼らの姿を見て、「ん?」まず1つの疑問が生まれた。それを確かめるために念話でみんなに『先に行ってくれ』と指示を出し私1人だけ降下、クラウス達の元へ向かう。

「クラウス!」

「っ、オーディンさん! よかった、ちょうど連絡を取りたかったのです!」

降り立ったと同時にクラウスが駆け寄って来て、私の疑問であったオリヴィエとリサが居ない理由を語った。テウタの声明に従って退却を始めた時、ゼフォン・エグリゴリが襲撃してきたのだという。この瞬間にすぐにでも破壊しに行きたくなったが、クラウスの話を最後まで聞かなければ、と思い留まる。

「オリヴィエと騎士リサは僕たちを逃がすための殿となり、今なお戦い続けているはずです。ですから――」

「話は判った。任せてくれ、クラウス。今すぐ助勢へ向かう」

「お願いします」

クラウス達と別れ、すぐにイリュリアへと引き返す。そう間もなく、「これは、神秘!」この時代で扱う者が限定される“力”――神秘を感じ取った。ゼフォンが堕天使化したに違いない。そうなれば、いくらオリヴィエであろうと勝ち目はない。

――神秘を打倒するにはそれ以上の神秘を以ってあたるべし――

それこそが魔術を扱う者の鉄則であり、当時の世界の真理でもある。魔術を扱う者と戦うには必須である神秘は、現代の人間の魔力には宿っていない。ゆえにオリヴィエでもゼフォンに勝つ事は出来ない。当然、私の魔力にも基本的に神秘が宿っているが、この体を構成するのは神秘であり魔力であり概念だ。だから“堕天使エグリゴリ”との戦い以外は、現代の神秘の無い魔力と同じ状態にしている。そうなると現代の騎士の攻撃でも私に通用してしまうが、神秘を消費して消滅するよりかはマシだ。

(・・・ん?・・・なんだ・・・?)

飛行速度を上げようとし、ある事に気付く。神秘の反応がもう1つ発生している。しかも「私の神秘と同率・・・?」だった。魔術師が発する魔力が有する神秘の波も、指紋のように1人1人違う。とは言え、その違いが判別できるのは自分のモノか他人のモノかだけで、アレはこの人、ソレはあの人というように正確に誰のモノかはさっぱりだ。

「一体どうし――って、あぁファルマコ・ネライダか」

オリヴィエの両腕の治療の助けになると思って差し上げた腕輪型神器・ファルマコ・ネライダ。私の神器制作能力によって創造した神器。当然私の神秘を発っしてもおかしくないんだが、ここまでハッキリと強く発するとは予想外だ。とにかく「急がなければ」飛行速度を上げ、オリヴィエとリサ、破壊対象のゼフォンの居る地点へ向かった。そして私は遠目にだったが、確かにこの目で見た。オリヴィエがゼフォンを破壊したその光景を。

†††Sideオーディン⇒エリーゼ†††

エテメンアンキと呼ばれる、イリュリア王都に現れた天を衝く塔から放たれた砲撃カレドヴルフによって起きた混乱も、腹立たしい事に元凶だったイリュリア女王テウタの声明のおかげでようやく収束した。収束はしたけど、別の問題が生まれた。イリュリアに降伏しないと、またカレドヴルフを撃つって。あんな光景を見せられたら、一般人の心はもう屈する事しか選択できなくなっちゃう。

「前途多難だなぁ~・・あいたた・・・」

「大丈夫エリーゼ? 結構強く殴られたよ・・・?」

「うん、大丈夫。冷やしておけば治るよ」

わたしの心配をしてくれたモニカに、そう微笑みを向ける。カレドヴルフが撃ち込まれたディトマルシェン領は、ここラキシュ領から結構離れているけど、それでも空に立ち上った爆炎と黒煙はハッキリと目視できた。だからヴレデンの街の人たちが死の恐怖に襲われて、一斉に街の中を逃げ惑い暴れ出した。
駐屯している騎士団の人たちや、戦争を肌で知ってしまった事で逆に冷静になれたアムルのみんなと一緒にそれを収めようとしたんだけど。荒れる人ごみの中でもみくちゃにされている時、偶然振り下ろされた男性の拳がわたしのこめかみに当たっちゃった。そして今、わたしはちょうど休める公園で濡らしたハンカチで冷してる。

「モニカ。ルファは?」

「暴動を押さえるのに負傷したアムルの人たちを診てるよ。エリーゼみたいに偶然怪我した人、結構いるんだよ」

「あ、ごめん。わたしはもういいから、モニカもルファの手伝いに行ってあげて」

軽傷なわたしに付きっきりにさせるのは申し訳なくて、だから気を遣って言ったんだけど。でもモニカは「ううん。今はエリーゼを1人にしちゃいけないって、ルファと決めたから♪」ニコッ❤って、とても可愛くて、そして今まで見せた事のない真剣さが滲み出た笑顔を見せた。その心遣いが嬉しくて、「ありがとう」でもちょっと申し訳なくて「ごめんね?」だ。
モニカはフルフルと首を横に振って、歳が2つしか変わらないのに明らかにわたしと大差のある豊満な胸(いったい何を食べたらそんなに育つのか教えてほしい)にわたしの頭を抱き寄せた。蘇る記憶。うんと小さかった頃、母様にもこうして胸に抱いて(母様も大きかったんだけどなぁ~。なんでわたしだけ・・・orz)もらったんだよね。

「エリーゼ! モニカ!」

ふにふにふわふわだからウトウトしだしていた時、すごい剣幕で公園に全力疾走して来たルファ。あまりの眼力に「ごめんなさい!?」つい居住まい正して謝ってしまう。モニカはそんなわたしを見て「あはははっ!」大笑いするんだけど、なぜ笑う? 滑稽に見えるの?

「帰ってきた! 帰ってきたの!」

「帰ってきたって・・・・オーディンさんが!?」

真っ先に思い浮かんだのがオーディンさん、そしてシグナムさん達グラオベン・オルデン。するとルファは今にでも泣きそうな顔になって首を横に振った後、「アンナが帰ってきた!」って頭の中に浸透して、理解できるまで時間がかかってしまうような事を言った。そしてハッキリと理解して、「アンナが・・・帰ってきた・・・?」ポロポロ涙が零れた。モニカも「ほ、ホントに・・?」って立ち上って、ルファに訊き返した。わたしも何度も頷く。

「うん、うんっ! アギトやシグナムさん達と一緒に帰って来たっ!」

もう決壊した川の水のように涙が溢れ出して、モニカと一緒にルファに駆け寄って、3人で抱き合って喜び合う。そして喜び合うのも切り上げて、すぐにアンナが運び込まれたっていう医院(仮)へ走る。もう生きて逢えないって思って、でもオーディンさんやオリヴィエ聖王女殿下が助けてくれるって約束してくれて、それを信じて待っていた。まさかこんなに早く逢えるなんて。涙で視界がぐにゃぐにゃだけど、でも転ばないように、必死に走る。

「・・・あっ、アギト! シグナムさんっ、ヴィータっ、シャマルさんっ、ザフィーラさんっ、シュリエルさんっ、アイリっ!」

医院(仮)の前に居るアギト達に大きく手を振る。

(あれ? オーディンさんが・・・居ない・・・?)

きっとヴレデンのどこかで誰かと大切な話――会議をしているんだ・・・うん、きっとそうだ。だから今は「アンナを助けてくれてありがとうございます!」モニカとルファと一緒に深く頭を下げる。

「アンナを救ったのはオーディンです。我々は、何も・・・」

シグナムさんがそう言った。オーディンさん、本当に約束を守ってくれたんだ。感謝してもしきれない。それに「オーディンさん・・・」への想いもさらに強く募っていく。笑顔を思い浮かべるたびに胸がポカポカするし、声を思い出すたびに心がドキドキする。

「アンナはここに来るまでにオーディンとシャマルにすでに診てもらっているから、体の問題については安心してくれていいです」

「ええ。疲労で眠っているだけだから、そう時間を置かずに目覚めるはずよ」

シュリエルさんとシャマルさんの話に、すべての心配事が消えた。疑問はまだあるけど。どうしてアンナは王都に居なかったのか、とか。ヴィータがわたし達の背中をポンって叩いて「顔見てこいよ。実際に見た方が安心できるだろ?」って送り出そうとしてくれた。わたし達は最後にもう一度「ありがとうございましたっ!」お礼を言って、医院(仮)のアンナが居る部屋へ向かう。

「・・・オーディンさん、居なかったね」

「戻ってきたの、クラウス殿下たちとグラオベン・オルデンのみんなだけだったから」

「えっ? それじゃあオリヴィエ聖王女殿下や騎士リサさんは・・・?」

「ううん。アンナとみんなの姿を見てすぐに2人に教えに行ったから、何も聞いてない」

「でもここに帰って来るまでは一緒だったみたいだし、たぶんすぐに帰って来るんじゃない?」

モニカが気楽に言う。でもそれはオーディンさんを信じているから。だからわたしとルファも「うん」って首肯。きっとすぐに帰ってくる、そう信じて。医院(仮)内を歩いて、「この部屋だ」アンナの名前が記された名札の付いた一室の扉の前で立ち止まる。
わたしが代表として扉をノック・・・返事はなし。そろ~りと扉を少し開けてみると「アンナ・・・!」寝台の上で眠っているアンナが見えた。バッと扉を開けて室内へ。アンナの病室は狭いけど個室で、他の患者様に迷惑を掛けずに居座れそう。

「アンナにはちょっとごめんなさいだけど・・・」

布団から右手を出して、わたし達はその手に自分の手を重ねる。アンナは確かにここに、触れ合えるところに居る。夢じゃない、幻じゃない、現実だ。そして3人一緒に「おかえり」アンナを迎え入れる。起きた時にもう一度言わないとね。
それからちょっとの間、アンナを見守って・・・「エリーゼ、オーディンさん達が帰って来てる」窓辺に居たルファが、アンナを気遣って声量を落として教えてくれた。早足で窓に駆け寄って外を見る。オーディンさんとオリヴィエ聖王女殿下、そして「騎士リサ・・?」だけは、オーディンさんに横抱きにされていた(っく、羨ましい)。

「ほら、行っておいでよエリーゼ。アンナは私とルファで見てるから」

「うん。オーディン先生に抱きついておいで」

「んなっ!?」

ルファの発言に顔が赤くなるのが判った。でも急いで駆け寄って行きたいのも事実で。モニカとルファが「ほら、早く」って送り出そうとしてくれる。アンナの横顔を見て、「ごめん、ちょっと行ってくるね」部屋を後にする。出来るだけ靴音が大きくならないように注意して走り、医院から出る。
きょろきょろオーディンさんの姿を走って捜して、角を曲がるオーディンさんの特徴である銀髪が見えた。急いで追いかけて、「オーディンさん!」背中に呼びかける。オーディンさんは「エリーゼ?」振り返って、わたしの名前を呼んでくれた。もう止まらない、止まりたくない衝動に駆られたわたしは勢いよく「オーディンさん!」の胸に飛び込んだ。

「おっと」

抱き止めてくれたオーディンさんの腕の中で走って乱れた息を整えようとするけど、ダメだ、緊張から収まるどころか激しくなる。さすがにこれじゃわたしの心身が持たないと判断してオーディンさんから離れる。深呼吸を繰り返して、見苦しくないように努めて笑顔をつくる。

「えぅ、えっと、オ、オーディンさんに、ど、どうしてもお礼を言いたくて! あのっ、アンナを助けて下さって、本当にありがとうございましたっ!」

「ああ、どういたしまして。エリーゼも大変だったそうじゃないか。さっき会ったターニャから聞いた。こめかみ、大丈夫か?」

オーディンさんはそう言ってわたしの頬に触れて、少し腫れてるこめかみを覗いて来たから、「っ!」ドキッとなる。オーディンさん、顔が近いです。ちょっと困ります、けど嬉しかったり。収まりそうだった心臓がまたバクバクだ。
そして「モニカやルファの魔導で治してもらわなかったのか?」と訊かれて、「わたしのは軽傷ですから」と答えた。だから無駄に魔力を消費させたくなかった。オーディンさんもそれを察してくれたようで「なら私が」って、指先でこめかみに触れてきた。

――水精は癒しを司る(ネオナーレ)――

微かな蒼い光に目を細める。少し残っていた痛みが引いていく。手を放して「よし」満足そうに頷くオーディンさんの微笑みをまっすぐ見れない。嬉しさと恥ずかしさで頭の中がぐるぐるごちゃごちゃ。

「オーディン先生・・・!」

「オリヴィエ王女殿下」「オ、オリヴィエ王女殿下!?」

「あ、エリーゼ卿。ごきげんよう。オーディン先生、今よろしいですか?」

突然のオリヴィエ王女殿下の登場に面を食らって、わたしはあたふた慌てちゃう。オーディンさんは「すまないな、エリーゼ。またあとでな」そう言ってオリヴィエ王女殿下に向き直った。あ、もうオーディンさんの意識はわたしから外れて、オリヴィエ王女殿下へ完全に向いちゃった。まだ話したい事とか・・あっ――しまった、“エグリゴリ”の事を訊くのを忘れてた。俯いてしまっていた顔を上げて、「っ・・・」でも、もうお2人は居なかった。

「はぁ・・・戻ろう・・・」

しょんぼりしながら医院へ向かって歩き出す。胸が苦しい、不安でしょうがない。この嫌な気持ち・・・どうにかするには「オーディンさんに、やっぱりちゃんと訊かないと・・・!」手遅れになる前に。すぐに追いかける。
行き先はたぶん会議場にもなっているヴレデンの屋敷だ。そこに向かえばきっと合流できる。そう思って走って・・・「やっぱり・・!」オーディンさん達はクラウス殿下とご一緒だった。オーディンさんとオリヴィエ王女殿下とクラウス殿下は、屋敷の庭園の椅子に座って真剣な表情で話し合ってる。

(さすがにあの中に飛び込んでいけるだけの勇気はないよ・・・)

「――はい。ですからアウストラシアはザンクト=オルフェンに、今後の事を話し合う場を設けるとの事です」

「そうか。しかし会議に集う国の代表って、国王直々なのか?」

「いえ。シュトゥラからの代表は僕だそうです。父デトレフ王の使者から聞きました。バルトは、ダールグリュン陛下自らが三国代表としてお越しになるそうです。他の国の代表は誰かは判りませんが、おそらく王族の誰かかと思います」

8ヵ国の代表による会議って、歴史的な大事件だっ。すごい事を耳にしちゃった・・・じゃなくて、これって立ち聞きしていていい話じゃないよね。でもいつオーディンさんとお話が出来るように待っていたいし。心の中で、ごめんなさい、と土下座で謝りながら、オーディンさん達の話が終わるのを待つ事にした。

「――日没まであと残り僅か・・・移動は夜になりますね」

「ええ。徹夜になりそうです。ですが明日の正午までに答えを出さなければ、我々8ヵ国だけに留まらず、他国まで潰されるかもしれません」

「そう考えた他国がイリュリアに下る可能性もまた捨てきれないのが悲しいがな」

「エテメンアンキの砲撃カレドヴルフを目の当たりにすれば、8ヵ国に付くよりイリュリアに付いた方がいいと思えても仕方がありませんね」

「そこのところは他国を信じるしかありません」

オーディンさん達に沈黙が満ちる。最初に沈黙を破ったのは「そこでなのですが、オーディンさんに僕たちに同行していただきたいのですが」と頼み込むクラウス殿下だった。ちょっと待ってもらえます? それではオーディンさんと落ち着いてお話が出来ないのですが・・・。

「私を? 私のような者が同席してもいいのか?」

「ミナレットを単独で破壊できたとなれば、誰もがオーディンさんを認めるはずです。・・・・すいません、完全にオーディンさんを頼りにしてしまっています」

「こちらとしてもエグリゴリという異物を招き入れてすまない。だからクラウス、互いに利害が一致しているんだ、気にしないでくれ」

「そう言ってもらえると助かります。ではオーディンさん、すぐに出立しますから準備ができ次第、僕に声を掛けてください」

「ではオーディン先生、また後ほど。そして改めて、リサを救っていただきありがとうございました」

クラウス殿下とオリヴィエ王女殿下が屋敷の中に入って行った。今こそ好機。いざ「オーディ――」駆け出そうとした時に、「何やってんだエリーゼ?」すぐ傍から声を掛けられた。振り向いてみると・・・誰も居ない。「いやいや、わざとだろ」うん、わざと。目線を下に移すとわたしを見上げてるヴィータの呆れ顔が。

「オーディンさん! お呼びですか・・・?」

「「マイスター!」」

あぁ、シャマルさんやアギトにアイリがオーディンさんの元へ。ううん、みんな揃っている中でもお話し出来る内容のはず。だから「オーディンさん、お話があります」わたしもオーディンさんの元へ。

「エリーゼ。・・・すまない、エリーゼ、今はちょっと。あとにしてもらえると助かる。みんな、聴いてくれ。これより私はアウストラシアへ向かう事になる」

オーディンさんはもうわたしを意識の外に置いて、グラオベン・オルデンのみんなと話し始めた。一歩下がって遠見で見守る事にする。オーディンさんの話を聴いたみんなは、オーディンさんに同行するって流れに。

「・・・むぅ、何人かをここの防衛に置いていきたい。出来れば志願を」

「ならば我が残ります」

「えっと・・・それじゃあ私も。負傷者の治療が少し残ってますし」

「ザフィーラとシャマルか。せめてあと1人・・・・シュリエル、頼めるか?」

「えっ、あ、・・・はい、オーディンのご指示であれば」

しょんぼりするシュリエルさん。きっと今のわたしと同じ気持ちなんだ。寂しい。オーディンさんはシュリエルさんの気持ちを察したようで「頼りにしている」とシュリエルさんの頭を撫でた。ズキッ。心が軋む。わたしも見てよ、オーディンさん。お願いだよ・・・。

「はいっ」

「では。アギト、シグナム、ヴィータ、アイリ。私と共に来てくれ。シャマル、ザフィーラ、シュリエル。ここヴレデンへ残り、防衛に当たってくれ」

「「「「「「「ヤヴォール!」」」」」」」

「それでは解散」

シャマルさん達は屋敷の庭から出て行って、それぞれの思うところのある場所へ向かった。そして「待たせた、エリーゼ。話があるんだよな」オーディンさんがわたしのところへ歩いてきた。時間がない。でも訊きたいこと、その答えはすぐに出るのか判らないし、その答えに反発とかしてしまう自分が居るかもしれない。ううん、難しく考えない方がいい。今はただ・・・

「あの、オーディンさんがベルカに訪れた理由・・エ、エグリゴリ、が、その・・・イリュリア王都に居るって、オリヴィエ王女殿下に聞きました」

「そうか。確かに私の生きる目的、戦い続ける存在意義、エグリゴリの救済が、あと少しで叶おうとしている。偽者の1機はオリヴィエ王女殿下が破壊したが、あと1機存在しているし、オリジナルもおそらく何体か王都に居るはずだ。この好機を逃すわけにはいかない。だから・・・・」

オーディンさんがイリュリア王都へと目をやった。それはもうとても遠い目で。だから「あ・・・」気づく。オーディンさんの心はもうベルカから離れていく一歩手前だって。ダメだ、どうにかして引き止める方法を考えないと。ふと、ターニャが言っていた事を思い出す。

――ディレクトアがもし王都に向かう前に戻ってきたら、告白でも口付けでもして引き止めなさい――

「・・・・それじゃあエリーゼ。行って来るよ」

オーディンさんが踵を返して、屋敷の前で待ってるアギト達のところへ歩き出した。ハッとして「ま、まだいいですか!?」って呼び止めると、オーディンさんは少し困ったような顔をして振り向いた。

「オーディンさんは、ベルカに居るエグリゴリを救った後、本当にベルカを離れるんですか!?」

「それもオリヴィエ王女殿下から・・・?」

オーディンさんの問いに首肯する。それが不安でしょうがない。ターニャから、別にベルカを離れなくてもアムルを拠点にして捜索を続けるっていう選択肢があるって教えてくれた。オーディンさんは少し黙ってから、「一応、そのように考えている」と選んでほしくない選択肢を言った。

「・・まま・・・・このままアムルに、ベルカに残ってもいいじゃないですか! 世界間の転移移動に魔力が必要だって言うのであれば、わたしがいつでもどこでも供給しますっ! なんならエグリゴリ捜索の旅に同行だってします。男爵の仕事は、帰ってから一気に済ませますからっ。お願いですから・・・ベルカから、アムルから、わたしから離れるなんて言わないでっ!」

子供のように駄々をこねているのは判ってる。それでも手放したくない男性(ひと)が居る。だからこそ最後まで諦めずにあがいて見せる。たった16年しか生きていないわたしだけど、この想いだけは誰にも否定させない。

「はぁはぁはぁ・・・帰って来てください。わたしは待ってます。待ち続けます。帰って来ないっていうのなら追いかけます。追いかけ続けます。わたし、この1年にも満たない時間の中で、かなり悪い子になっちゃったんですよ?」

嫉妬を覚えた、やきもちを覚えた、独占欲に目覚めた、他にもいろいろ。オーディンさんと出逢う前、そんなものは何もなくて、ただひたすらに目標に向かって走っていた。その頃に比べれば、なんとなく良い子より悪い子になったかなって思う。
でもそれが嫌じゃない。きっと誰にでも生まれる思い。わたしはそれを得られた。まぁもうちょっと自制出来ればいいんだけど、もうどうでもいい。手に入れたいんだ。オーディンさんの心、想い、願い、祈り、望み、そのすべてを。でもどうか軽蔑しないでください。

「エリーゼ・・・しかし私は――」

オーディンさんに全力で駆け寄って胸の中に飛び込む。わたしが抱きついた勢いを殺そうと踏ん張る事で生まれた隙に、オーディンさんの首に手を回して、

「大好きですっ、オーディンさん!」

精一杯頑張ってオーディンさんの目を見ながら告白、そして唇を重ねる。オーディンさんとわたしのやり取りを黙って見守ってくれていたアギトは、

「あ?・・・・・あああああああああああああああッ!」

アイリは、

「へ?」

シグナムさんは、

「ほう」

ヴィータは、

「おおう」

それぞれの反応を見せた。唇を離して、真正面からオーディンさんの綺麗な紅と蒼の双眸をもう一度見詰める。あはは、困惑の色しかないよ。わたしの人生最大一大決心の告白と口づけへのドキドキは無いっぽい。ズキズキ心が痛む。オーディンさんにとってわたしは女じゃなくて、家族であり妹だって解ってるよ。だけどその関係を打ち砕いて修復するには“力”が必要だった、この告白と口づけっていうものが。

「今はオーディンさんに届かない想いでも、きっと必ず届けて見せます。そしていつかわたしを認めて求めてくれるように、行動を起こしちゃいますから♪ あ、逃げても無駄ですからね、絶対に逃がしませんから。ですからお覚悟のほどを❤」

――乙女の祝福(クス・デア・ヒルフェ)――

もう一度オーディンさんの唇を奪う。今度は、魔力を供給する能力を発動するために。アギトが「またぁぁぁああああああああ!」って絶叫。今度はオーディンさんの為の口づけなんだからそう怒鳴らないでよ。オーディンさんの首に回していた両腕を戻して、自分の胸の上に手の平を添えて一歩二歩と後ろに下がる。

「わたしの想い、告白、決心を無かった事にしないでくださいね? 約束ですよ。・・・・よしっ。オーディンさん、いってらっしゃい。必ず勝って帰って来てください」

それだけを告げて、踵を返して門構えから逃げるように走り出る。背後ではオーディンさんに詰め寄ったアギトが何か言っていた気がするけど、もう遅いよ。さぁ告げたよ。わたしのすべてを。ここからが勝負だ。オーディンさんにわたしを好きになってもらうための。

(負けてやるもんか。絶対に勝つ、勝ってみせる!!)

「やったじゃん、エリーゼっ♪」

「ひゃうっ?」

いきなり背後から抱きつかれたからビックリした。振り向いてみれば、全快したターニャがニコニコ笑顔を見せていた。というか「さっきの、まさか見てた・・・?」そう訊いたらターニャは「バッチリ♪」それはもうキラキラ輝く笑みだった。そこから場所を移して、公園の椅子に2人並んで腰掛ける。

「にしても大胆だったね~。抱きついてた上に口づけ、そんでもって告白、さらに口づけ♪」

「っ!!」

今さらに恥ずかしくなって、顔を両手で覆って首を横に振りまくる。熱い、どうしようもなく顔も全身も熱くて堪らない。今、水を掛けられたら一瞬で蒸発させるほどに体温が上がってるかも。ターニャが「うわぁ、首まで真っ赤っかだ♪」面白そうに言う。ぅく、見世物じゃないぞっ。

「でもよくやったよ。うん、エリーゼは体格の起伏に乏しいけど、良い女だよ」

「良い女発言はありがとだけど、体の起伏とか余計だよ・・・!」

わたしはまだまだ成長する、してみせる。だから待ってて、オーディンさんっ。救いなのは、オーディンさんはただ大きければいいっていう思考じゃないこと。もうちょっと大きくなれば、それだけでいいはずだ、うん。

「・・・ディレクトアに、エリーゼの想いが届くといいね・・・」

「届けてみせるよ。どんな手を使ってでも、ね」

「ホント逞しくなっちゃって。応援するよ」

「うん。ありがとう、ターニャ」

それからわたしとターニャは、聖王家の収める国アウストラシアへ向けて飛び立つ戦船の艦影が見えなくなるまで見送った。オーディンさんはもちろん、アギト、シグナム、ヴィータ、アイリ。必ず帰って来てね。

「約束だよ」

空に向かって手を伸ばして、相手の居ない指切り。明日の正午、どういった形でイリュリアの提案に決着がつくのか判らない。それでも信じて、わたしは待とう。みんなの居場所として、何が起ころうとも。
 
 

 
後書き
ボン・ジュール、ボン・ソワール。
あ~あ、やっちまったよ。エリーゼの告白にまるまる一話を使っちまったい。
前半のオーディンサイドが余計だったか。チッ。

はい、みなさん、どうもです。
ついに思いの丈を恋するオーディンに勇気を振り絞って?告げたエリーゼ。
予定では告白パートを前半に収め、後半でアウストラシアでの話し合い、そして・・・と決めていたんですが。
予定通り進まないのが私のダメなところ。10年前から変わらずっス・・・。
予定外の一話を費やし、次回から本当の決戦パート。あぁ、早く『なのは達』と逢いたい。
っと忘れるところでした。今回のサブタイトルのドイツ語の訳ですが・・・

Ich mag dich/イッヒ・マーク・ディッヒ/あなたのことが好きです

となります。告白です。青春です。オーディンもといルシルにも在ったなぁ~、一万年前くらいに。

では次回『進撃の円卓に王たちは集う~Könige des runden tischeS~』をお送りします。
 
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