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魔法少女なゼロ!

作者:回廻輪
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本編
  第七話

 
前書き
久々に早く更新できた
しかしいろいろ書きたいことがあって話が進まん
次回こそは虚無の曜日からのデルフリンガ―からの土くれのコンボに入る…たぶんきっとメイビー 

 
平賀サイト、元学生、現在トリステイン魔法学院見回り、の朝は早い。

早朝、やっと日が昇り始めたが辺りはまだ薄暗い中、サイトは刀を抱えたまま魔法学院の周りを走っていた。

サイトが異世界、ハルケギニアに召還されてはや一年近くになる、暫くの間は召還された場所であるヴァリエール邸に厄介になっていたが、流石にいつまでも世話になっているのはサイトとしては耐えられる物ではなかった。一応はルイズに召還された使い魔という役割であったが、金を稼がないのは無職と同じ、そこでルイズの魔法学院入学に併せて、ヴァリエール家の口利きの元、サイトは学院で働くことにしたのだった。

地球では元々、とある伝手からそれなりに腕っぷしを鍛えられていたサイトは、学院の警備員のような形に落ち着いた。ただし、この魔法学院は貴族の子、すなわちメイジ達の学校であり、使用人たちを除いたほぼ全ての人員がメイジなのであった。当然、メイジと平民の絶対的な力の差を理解している者ならば不用意に近づくことはあるはずもなく、また他国からも幾人か留学生がやってきていることから戦争の標的になるような事も殆どない。つまり警備員とは名ばかりの仕事、一応の体面の為と、その他雑用の為の職であった。

サイトとしてもハルケギニアに骨を埋めるつもりは今のところないので、いざとなればすぐに辞めても問題無さそうな仕事であったことはありがたかったが、如何せん、前述のように彼は地球ではそこそこ鍛えていたので、あまり暇な仕事であるとぶっちゃけ体が鈍ってしまうのであった。

そこでサイトは自主的に訓練としてそれなりの広さを持つ学院の周りをランニングしていたのである。

とりあえず軽く早朝ランニングということで二十周を目途にし走っていたサイトが十五周目を走り終えたところでひょこっと学院の入り口から人影が現れた。それを見てサイトは走るペースを少し落とす。

「よおギーシュ」

「ああ、おはようサイト」

その人影はミスターキザ野郎ことギーシュであった。軽く手を上げ挨拶を交わすとギーシュもサイトの隣に並んで走り始めた。

「で、今日は何周するんだ?」

「とりあえず五周を目途にしておこうと思うよ」

走り始めたばかりの自分はともかく、先ほどまでランニングを続けていたサイトが呼吸を乱さずに会話を交わしてくるのを見て、ギーシュは自分の未熟さを改めて理解した。もっとも比較対象であるサイトは自分でも気が付いていないが、一般的なハルケギニアの平民や地球人と比べてもかなり超人的な事になっているので、未熟だと嘆くギーシュも平均からすればかなりの体力をつけているのだが、その事に気が付いていない。

「そっか、まあがんばれ」

「ああ」

会話はそれで終わり、サイトはペースを上げギーシュを置き去りにして走り去っていく。ギーシュはその背中に羨望の眼差しを向けながらも無理に追い縋ろうとはせず自分のペースを維持する。自分の限界を理解しているギーシュは無理をすることの意味の無さをよく分かっていた。故に、自分のペースで一歩一歩、少しずつ前へ進むと決めていた。

この光景は、平賀サイトとギーシュ・ド・グラモンの毎朝の日課であったが、多くの者はその事実を知らない。

トリステイン魔法学院の何気ない早朝の一コマであった。

そしてギーシュがサイトに一周ほど差を付けられてランニングを終えたころ、学園の生徒や講師よりも少しばかりはやく使用人達が働き始める。夜番の者と交代する者、朝食の準備を始める者、洗濯やその他雑用を行う者。仕事は様々であるが、彼らの内の多くの者が仕事を始める前に、中庭の広場に集まる。

中庭には平民の使用人だけでなく、殆どの生徒達がやっとのことベットの中で目を開けている中、早起きな生徒達が幾人かと、未だナイトキャップを被ったままで起きているのか寝ているのか分からない様子の学院長、それと講師達も幾人か混ざっており、頭の毛が少々寂しい者や風の強さを妄信している者などがいた。

最後に、ランニングを終え息を整えながらギーシュが参加すると、集団の先頭にいたサイトがどこからか自らの身長の半分程のサイズの木箱を用意し、集団から少し離れた所に置く。その木箱の上に一番始めにやってきていたルイズが昇ると、集団の視線がルイズに集中する。尤も、まだ半分ほど眠っているような状態の者もいるので、瞼を閉じかけている彼らの視線が集中というよりは顔が集中であった。

ルイズは皆が自分の方を向いたのを確認すると、首から下げていたクリスタルのアクセサリー、つまり彼女の相棒であり杖であるテゥ―スを外し、自分の立つ木箱の前方に置く。テゥ―ス、とルイズが一言言うとテゥ―スは数度点滅しやがてその体の表面に文字を浮かばせる。そして自らに保存されているとあるデータの再生を開始した。

「ラジオ体操第一」

あまり抑揚の無い機械らしい声質でテゥ―スが日本語で歌い始めると共に、イッチ二サンシとリズムを取る音楽が流れだす。音楽と共に、テゥ―スが歌うように読み上げる指示にルイズ達はその通りに動き始める。ルイズとサイト以外の者達はテゥ―スの流す音声の意味は理解出来なかったので木箱の上に立つルイズに倣う。

言わずと知れた、地球の日本の、特に夏の早朝の風物詩、ラジオ体操であった。始めはこのラジオ体操もルイズとサイトが二人でやっていたことだが、それを見ていたギーシュが興味本位で参加。次に偶然早起きしたルイズの同級生とは思えない程スタイルの良い紅髪の少女が参加し、彼女に誘われた小柄な青い髪の少女も参加。そしてルイズが偶々見ていたメイドを誘い、朝からテンション高く異国のダンスに興味を持った髪の寂しい講師も参加した。

そしてサイトやメイドが使用人仲間に声を掛けチラホラと使用人も増え。禿…失礼、髪の寂しい講師もまた同僚達に声を掛けていった結果、いつのまにやら大所帯になっていた。更にはどこから嗅ぎつけてきたのか、寝起きの少女の顔もいいものだとか言いながらぽっちゃり体系の変態予備軍の生徒や、時折怪しい薬を作成する自称香水、他称マッドサイエンティストな少女が想い人であるギーシュの姿を見つけて混ざっていた。

彼らの殆どは始めはただの興味本位であったが、一度ラジオ体操をやってみると、その人体を効率よく解すその動きに感心し、体の調子も良くなったといって二回目以降も参加していた。

あまりにも人数が増えたのでルイズも時間を決め、毎朝ラジオ体操の手本を務めていた。

そうしてラジオ体操が異世界のとある学校で広まった経緯を説明している内に、ルイズ達は最後の深呼吸を行いゆっくりと体操を終了していた。まだ瞳を閉じかけていた者達もいつのまにやら目をぱっちりと開け、もう一度背伸びをしたりしていた。

体操は終了したが、皆まだそれぞれの仕事に戻ることはなく、何かを待つようにざわざわとしながらその場に留まっていた。

「はーい皆並んで並んで」

ひょいっと木箱から飛び降りたルイズは、いままで乗っていた木箱の上の砂埃をさっさっと払い除けると、ポケットから何か直方体の小さな物と、これまた手のひらに収まりそうな程のサイズの板のような物を取り出し木箱の上に置く。隣ではサイトもまた同じ物を取り出していた。

「よ~しスタンプ押すぞ~、ちゃんと二列に並べー。 あ、おいこらそこ横入りしてんじゃねえよちゃんと並べスタンプは逃げねえから」

ルイズとサイトの様子を見ていた者達が仲良く列を作り始める、人数が人数だけにうまく列が作れないところもあったが、その辺りはサイトが誘導する。よく見ると参加者達は皆手に一枚の板切れのような物を持っていた。小さな穴を空け紐を通したそれを、参加者全員が首から下げていた。

「ほいぺったんぺったんっと」

「ちょっとサイト、誰がペッタンコよ」

「んなこと言ってねえだろ、ボケるのは後にしてお前も押していけよ人数多いんだから」

サイトとルイズが手に持った直方体の物体の先を、赤い塗料の染み込んだ布きれに押し当て、それをまた参加者が持つ板切れに一人一回ずつ押し当てていく。そしてその物体を押し付けられた板切れには、赤い色で四角い枠線とその中にレイピアのような形状の絵が移りこんでいた。

サイトとルイズの持っていたものはハンコであった、因みに彼らの自作のハンコで、デザインはルイズが担当、勿論彼女の相棒がモデルである、そして製作はサイト担当した、培った剣技を生かすかのように無駄に洗礼された彫刻刀捌きで彫り込んだ。

「あ、キュルケ五十個溜まったみたいね。 はいこれ」

ルイズの同級生である紅髪の少女にスタンプを押し、板切れについていたスタンプの数を数えたルイズはその数が丁度五十あるのを確認して、スタンプを押す机として使っていた木箱の中から一枚の紙と新しい板切れを取り出した。

「ありがと、それで今回は何なの?」

「ふっふっふっ、聞いて驚きなさい、今回は調理長であるマルトーさんが半年間の試行錯誤の末に生み出した特製デザートのお試し引換券よ。 あ、試食も兼ねてるからちゃんと感想もよろしくね」

「あら、今回はやけに豪華ね? いつもならサイトの彫ったちっちゃな置物だったりするのに」

「まあね、マルトーさんがいつも参加させてもらっているお礼にってくれたのよ」

ルイズ達の会話を聞いていた者達は、皆自分の持つ板切れを見つめ、そこに押してあるスタンプの数を数えてそれぞれ一喜一憂していた。つまりスタンプの数が足りている者はおいしいデザートにありつけるがそうでないものはおあずけということだった。

ルイズ達は皆が自主的に参加してくれるのが嬉しく、出来るなら毎朝来て欲しいと思い、参加者に毎回スタンプを押してあげることで、溜ったら賞品が貰える仕組みにしていた。ただ取り合いや、賞品目当ての参加を防ぐために、普段はあくまでもちょっとした物で誰でも入手しようと思えば出来るような、本当に気持ち程度の物であった。

「皆安心して、数は結構あるからこれから数日はチャンスはあるわよ」

「おう、そういうこった皆是非食べに来てくれよな!」

ルイズの言葉に列に並んでいた者達の顔に笑顔が浮かぶ。そして同じく列に並んでいた賞品を提供した張本人が胸を張って大きな声で宣伝していた。

「それで、古いほうのスタンプ台はどうするの? いらないならこっちで引き取って薪にでも流用するんだけど」

「ん~……折角だから貰っておくわ、これも何かの記念でしょうし」

「そ、なら次がつかえてるから悪いけど早いとこ離れて頂戴」

「はいはい、じゃあまた食堂で」

キュルケが去ったあとも残った人達にスタンプを押し続け、そして皆の分を押し終わった最後に、自分達の板切れにスタンプを押す。スタンプが溜まり、不要だと言われた板切れは薪に流用出来るように最後まで残っていたメイドに渡す。

「じゃあシエスタお願いね」

「分かりました、ルイズ様達も朝食に遅れないようにしてくださいね」

「いつも言ってるけど、いちいち様付けなんてしなくてもいいって。 別に貴族の屋敷や王宮じゃあるまいし」

「そうだぞシエスタ、ちゃんとした場所だとなんか貴族っぽくみえるけど、中身はそんな大層なもんじゃないからなルイズは」

「いえ、私達みたいな平民にも優しくしてくださるルイズ様を、そんな馴れ馴れしく呼べません!」

「まったく、そんなこと気にしないで良いって言ってるのに。 それとサイト、確かに私は大したことないかもしれないけどアンタが言うな。 まあいいわ、それじゃあまた朝食の席で」

「はい!」

板切れを抱え走り去っていくメイド、シエスタの後ろ姿を見送ったルイズは授業の用意をするためにいったん部屋に戻り、一応ルイズの使い魔ということになっているサイトもルイズに続く。

本日の朝もトリステイン魔法学院平和であった。
 
 

 
後書き
新ジャンル、ラジオ型デバイス
これは流行る(嘘

ルイズ達にラジオ体操をやらせたかった、書いている途中で小学生の頃の夏休みの記憶がフラッシュバックしてきてなんか涙が出そうになった。 
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