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『愛花-アイカ-』

作者:零那
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『愛花の散り様』



急に、家に帰ってる愛花サンの事が心配になった。
鍵開けたら締まった。
鍵開いてた?
いつも絶対鍵だけは閉めろってウルサイ愛花サンが?

風呂場から、浴槽にお湯を溜める流水音がする。
愛花サンは根本的にシャワーだけの人やから嫌な予感しかない。
勘弁してや...
覚悟して風呂場に行く。

上下、下着姿。
足を伸ばしてお湯に浸かってた。
お湯は胸辺り。
お湯を止めて栓を抜いた。

愛花サンの右手には包丁。
スグ傍にはナイフが在った。
お湯は紅い。
脈はある。
でも意識が無い。

愛花サンの携帯を捜した。
救急車を呼ぶ。
テーブルの上には赤玉(エリミン)とハルシオン。
それと日本酒。
あと注射器。

睡眠薬とシャブと日本酒って...
あんな風に寝れるか?
異様なテンションなりそうな気がするんやけど...
効果も体質によって個人差あるんやろうけど...

不思議に思いながらも風呂場に戻る。
ビックリするくらい冷静だった。
お湯が抜けきった。

右足の太もも真っ赤。
タオルを軽く押しあてる。
浮かび上がったのは字。

『マリカ ゴメン』

左手は、肩から手首迄、縦に切ってた。
なんか...なんなんやろ...
零も此処で逝こうかな...
茉莉花先輩とまた逢えるかな...

あの世に逝けば、都合の悪い事は全部忘れて、皆でまた仲良く過ごせるかな?

救急車のサイレンで我に返る。
左手首から痺れが走る。
あ―...やってしもたんや...
逝けんの解っとんのに...
適当なタオル巻いて救急隊の質問に応える。
一緒に病院に向かう。
なんか慌ただしい。

『脈ありますよね?
助かりますよね?』

『...脈はあります』

『助からないんですか?』

『受け入れ先が...今は何とも...やれるだけの事はやってますから...』

あんな喧嘩するんや無かった。
零が追い詰めた。
零が殺してしまう。
もし死んだら零のせいや。
なんで優しくせなんだんやろ。

茉莉花先輩を強く想い過ぎて、愛花サンにキツくあたり過ぎた。
今更悔いても遅い。

助かって!
とにかく生きて!
謝らして欲しい...

愛花サンはやっと病院に搬送された。
零も、タオルに気付いた看護婦さんに手を引かれ、手当てされた。

状況を聞かれ、ありのまま話した。
原因を聞かれ、サムライの話に。
自分が追い詰めた事も。
更に聞かれ、茉莉花先輩の話も。
それが全て。

看護婦さんが警察を呼んだ。
警察は知ってるから面倒そうな態度。
自殺未遂。
事件でも何でもない。
すぐ帰っていった。

愛花サンが出て来た。
輸血はしたけど意識が戻らん。
意識が戻れば帰って良いって。

はぁ?
んな軽いもんちゃうやろ!
苛立ってしゃあない。

世の中や大人の汚さ、醜さ、理不尽さ...解ってるつもり。
何とか怒りを抑えた。
病室に一緒に行った...

此処暫くの事、整理する。
零は自分の家の事もある。
毎日耐えれんほどの屈辱に耐えてる。
殺したい気持ちを抑え、養父の玩具として生かされてる。
正直、自分の事だけで限界越えてるし精一杯...。

茉莉花先輩、サムライ、愛花サン...
皆が逝ってしまえば、どうしたらいいか解らんなる。
救いがなくなる。

でも、零には、感情を殺す、痛みを消す...そんな術があった。
零には、もう1人の零が居た。
大丈夫。
何が起きても平気。
零は乗り切れる。

冷酷で残酷、心やか一切無い零になる。

愛花サンの両親に電話する為、公衆に行く。
パニくる両親。
質問に応える零。
両親は信用せなんだ。
愛花サンは良い子で、そんな子じゃ無いと。
本当の愛花サンを何ヒトツ知らなんだ。
30分位話した。
テレカがもう無くなる。
とにかく来たら解るから来て欲しいってお願いして切った。

病室に帰ったら何かが変。
置いてたナイフが無い。

落とした?
誰か持って行った?

愛花サンも、さっきと変わらず。

両親が看護婦さんと一緒に来た。
優しそうというよりは、か弱そうな母親。
ほんわかした雰囲気の、目の細い父親。
此の両親なら、パッと見だけの判断やけど...子供は優しくてニコニコしてて良い家庭になりそう...
人間、見た目じゃ解らんって事なんやろな、やっぱり。

看護婦さんが血圧測る為に少し布団をはぐった。
其処に伸びてたはずの手がない。
代わりに紅く染まったシーツが...

なんで...!
もしかして、電話の間に意識が?
あかん...零が殺した。
完全に零の責任。

泣き叫んだ。
壊れた。
感情が狂った。
気を失った。

気付いたらベッドの中。
点滴抜いて看護婦さん処に行った。

愛花サンは、両手でチカラ強くナイフを握ったまま...
心臓ひと突きだったらしい。


 
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