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SAO二次:コラボ―Non-standard arm's(規格外の武器達)―

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prologue:Unexpected weapon(予想外なる武器)―――episode last

 
前書き
これでprologueは終了です。
次回よりキリト達も登場します。

では、本編をどうぞ。 

 
 

 景色の全てが斑を描く帯に見える様な、凄まじいスピードで後ろへ置き去りにされていく。
 
 百数十km以上、二百㎞未満のギリギリを捉えているだろう事が、誰の目にも明白な景色だ。

 目を奪われる暇もない、ついでに態々眺めるまでもない。
 煩雑かつ複雑な光景を……リュウもまた、瞳に映してはいなかった。


[“ギギギギイイイッ!!”]
「うわっち!」


 ……尤も今現在の状況の所為か、一般客の抱く『観る価値もない』という事と、彼の内にある心境は全く異なっているが。


 列車の屋根に乗ったお陰で踏み潰される事は無くなり、横側に幅が無い為後ろからだけ接近させる事態にもつながっている。
 が、列車はそれなりな車高を持つ所為で、振り降ろすだけだった腕が横からも迫ってくる羽目になり、敵の攻撃のバリエーションが増えてしまってもいた。

 左右にズレれば良かった回避も、今ではそれなりに変化をつけてを身を翻さねばならない。
 しかも、ただ上に跳躍しては風圧の所為で飛距離が稼げない。
 なので、腕をも『足場』と捉えて二段ジャンプしなければ、車体から殴り落とされる可能性が首を擡げていた。
 ロボ本体が壁となって後部から落とされることはあり得ないが……面倒くさいことこの上なかろう。

 そして砲塔の長さから、射撃を無効化するには接近戦をせねばならなくなっていた。
 それが故に列車自体へのダメージは蓄積しており、後部車両三つは既に潰されて連結が切れ、後ろへ吹き飛んでしまっている。


 現に今、リュウ達が居る車両は『この時点での』最後部なのだ。


「あー……なんでこんな大変な事、俺がやらなきゃいけねぇの―――」
[“ギュオオオォォォォン!!”]
「―――かっ! ……っと」


 何やら準備中らしきアマリから意識を背けさせるべく、目の前でちょろちょろと動き回るリュウを振り落とそうと、意志持つ鉄塊の腕が力いっぱい薙がれた。

 そうはさせるかとリュウは、脚から力を抜いた重力を活かすダッキングでそれをかわす。


「まあ、自分から言い出したんなら完遂しないと……なっ!」


 そう……そもそも自分が短時間だがオトリとなり、アマリから一旦は注意を外させるよう、眼前で立ち回る策は他ならぬ、リュウ自身が発案したもの。
 
 だから泣き言をボヤくのは兎も角、投げ出す道など残されてはいない。

 叩きつける癖に隙間にも侵入する横風と、己に課された労働量からリュウは目を細めた。
 そして叩き付けられる腕を側転にて回避した。








 同時刻、高速道路上。

 リュウが思いついた作戦をアマリ経由で聞き届けたセツナは、片手で通信を切り再びハンドルを深く握りこむ。

 またも上半身を振れさせながら、しかし目標から目を離さずニヒトが叫ぶ。


「セツナさん!?」
「先程通信で、アマリさんから作戦が伝えられました! 曰く、リュウさんの合図でやってほしい事があると!」
「……あいよ! 何だか知らないけども、兎に角了解っス!」


 上から観ているからだろうか。


 下方に伸びた線路を走る列車を……正確には其処に乗るリュウとアマリをロボが追いかけ、車輪でも装備されていたか脚を動かす事も、スピードを落とすこともなく、ある程度は安定した状態で後方から攻撃を仕掛けているのがハッキリ分かる。

 接近戦ならば鋼鉄の腕と光源体ドリルが襲い、押し返せば砲口が向いて射撃を開始。
 逃走中の方がよほど、相手の手の内を看破出来ていたかもしれない。


「とにかく、ドリルはコッチで何とかしますかい……!」


 言いながらも放たれた弾丸が、ドリルの回転と突きの勢いを阻害した。
 彼の口角が僅かに上がった。









[“オオオオオオオオン!!”]
「あぶねえ……サンキュー、ニヒト」


 今しがた弾かれた援護射撃に、聞こえなくともリュウは礼を述べた。
 当然これで終わる訳ではないが、しかし次の行動を限定させる事は出来る。


「やっぱりそうくるよな!」


 振り上げられた腕が繰り出すは、もうそれしか出来ない同軌道でのスラストだ。

 右手の変則ドリルを稼働させ徐に突き放ってくるのには、流石に肝を冷やすらしいが予測していた事もあり迷いなく前方へダッシュ。
 軸をずらして向かうは胸部、其処を蹴りバック転を決めて列車に戻る。 


[“ウゥオオオオオオオン!!”]
「よっと!」


 着地の衝撃と曲げた脚を活かして、軽く跳躍。
 そのまま三撃目を足場に、空中前転まで決めて着地した。

 ―――此処で幸運が舞い降りる。

 上に走る高速道路からニヒトの狙撃が叩きこまれ、スイングした左腕と持ち上げた右腕が派手にぶつかったのだ。


「チャンスっ……!」


 ニヤリ、悪どく笑うと反転しながら居合切りをかまし、更に『鞘銃』で牽制してから右手の刀を左へ振り抜き、両腕を一瞬遅れで鋭く開く。


「そーら、あっはぁ!!」
[“ギガガガガガガァァッ!!”]


 一回転して更に斬撃。
 斜めに二本の紅線を刻んだ。


「……やべっ……アマリがうつった……」


 言いながら反撃の鉄塊を押して受け流し、次なる殴打をローリングで避ける。
 待ってましたと硬く冷たい掌が迫る―――――瞬間、頭部分を狙撃で揺らされ、ロボはタタラを踏んだ。

 敵は最早間近で動くリュウ、そして頭上から狙うニヒトの方にばかり気を取られており、着々と準備を続けるアマリには目もくれていない。


(何処が目か分からないけどな)


 自身の思惑が順調に進むからか、心の内で冗談を言える余裕まで出てきたリュウ。

 ロボの動きが素早くなり、右に左に上に下に、鋼鉄の腕が乱暴に振り回される。
 負けじとリュウもギアを上げ、身のこなしで躱し回避し、刀で捌き受け流す。


[“ギイイイイイイイイイィィィィィッ!!”]


 耳障りな掠れた音色をかき鳴らし、冷血な唸りをコレでもかと上げてドリルが駆動。
 そのまま乱暴に叩きつけられ、遂に現最後尾車両も大破寸前に持ち込まされた。

 しかしリュウは慌てず騒がず跳躍すると、逆さまの体勢から連結部分へ『鞘銃』の空撃弾を射出。
 重苦しい音と一緒に砂利を散らしながら車両は離れていく。

 着地からまたもニヤリと口角を上げて、すぐに追いつき構えを見せてきたロボへ、余裕の態度を見せつける。


[“ギキュウゥゥゥゥン……!”]


 ―――と、同時に追随を止めて数メートルロボットが身を引く。
 何をやる気かなど考えるまでもない。


“バララララララララララララァッ!!”
「またこれか!」


 走行しながらで狙いが雑ではあるが、それでも数発は身体へヒットしそうになる。
 上からの援護で稀に大きく狙いもずれるが、毎回期待できる要素でもない。

 それでも慌てず……リュウはどこぞの侍よろしく、刀と鞘銃刀で次々反らし、小気味良い音と共にそれは何とかやり過ごした。


(銃弾を近接で防ぐとか他のVRMMOなら吃驚仰天だが、『此処』これ位なら出来なけりゃな。それで………やっぱ銃じゃあ、HPはほぼ減って無いか)


 彼の思考の中で飛び出した二つの単語―――VRMMOとHP
 MMOとはネットゲームの事で有り、HPとは御馴染の“ヒットポイント”の略称。
 どちらも現実では、ホビー関係の話題でなければまず不要な言葉の筈だ。

 しかしリュウの言葉が何の間違いもないと言いたげに……ロボットの頭上には、『緑色のバー』が三本浮かんでいた。
 一体それは、何なのだろうか。


「最初はそれなりに食らってたんだけどよ……」


 傍から見れば不自然そのものな単語を紡ぎながら、リュウは刀をクルリクルリと玩び、思案顔からニヒルな笑みへ緩慢にチェンジさせる。


「さーて、幾らでも撃って来たがれ。全部刀で吹き飛ばしてやるよ」
[“オオオオオオオォォォン!!”]


 サイバーチックなサウンドを鳴らしながら、挑発に乗ったロボが怒りにかられたが如く、砲塔より派手に撃ち放った。



 ―――青白いレーザーを。


「ちょ!? それは無理!!」


 あの思わせぶりな表情はなんだとばかりに、コンマ数秒で表情を驚愕へ変更。
 身体を半身にして光線を必死こきながらやり過ごした。

 束の間も無く、間隙置かずに二射目が襲いかかる。


 ―――されどそれもニヒトの狙撃で砲塔がずれ、線路脇に命中し爆光が鮮やかに輝いた。


「またまたナイスだ!」
[“ウウウゥゥオオオオオオオオオオッ!!”]
「よし! 何度でも来いよ!」


 弾切れか再度ロボが急加速で接近し、質量差が何倍かも分からない肉弾戦が勃発する。

 普通なら立ち向かうという発想自体起きないし、仮に渡り合えたとしても精神力が尽きるのがオチだ。それを踏まえなくとも集団相手に圧倒するなど、今までの立ち回りはどれも『異常』の一言に尽きる。
 リュウは勿論、アマリ然りセツナ然り、ニヒト然り……彼等はどれだけ“人間離れ”しているのだろうか。


 と―――



「『弾込め』の準備完了したです! そっち行くですよー!」
「ああ、頼む! 後はタイミングを計るだけだ!」


 其処でタイミング良くアマリの準備も終わったか、リュウの背後より彼女の喜色満面が容易に浮かぶ、はずんだ調子で声を掛けられた。

 リュウもまた、刀を打ちつけて空中側転する、と言う離れ業を行いながら後ろも見ずに返答した。


 間、髪を入れずにドリルが振り下ろされてくるが……もうリュウの顔に焦りは一辺もなかった。


「そーら、あっはぁ!!」
(あ、さっきの俺と同じ……)


 アマリの何処か気の抜けた掛け声と、反する狂気染みた笑いとともに、気を引き締めざるを得ない轟音で斧が振り切られドリルは高々跳ね上げられる。

 そこへ余計な事を考えながらも、待ってましたとリュウが接近。
 居合切りで胴体を傷つけ……たかが数ミリ、されど数ミリ、緑色のバーを確実に削った。

 慣性の法則に全力で抗おうとするロボットは―――しかしバキン! と言う音を上げながら更に上半身を仰け反らせ、それを引き起こしたであろうニヒトの狙撃で三度邪魔される。
 当然、攻撃は不発に終わり、リュウも安全地帯へ避難できた。


[“ギュオオオオオオオォォン!!”]

「次頼むぞ、アマリ!」
「合点なのですー」


 突き出される鋼腕の正拳突きにも、両者ともに狼狽する事は無い。

 寧ろリュウは敢えて突貫し、腕の軌道を先ず刀で反らしてから一秒と置かず、鞘銃の風撃発砲にてより外側へそらす。

 其処をアマリがフルスイングで追撃。
 豪快な音響を轟かせながら、派手に鉄腕を打ち上げた。


「Thank you、アマリ!」
「のーぷろぶれむー、です」


 正反対な語調での対話に、リュウは思わず苦笑する。
 そんなやり取りをしながら、彼は鞘を腰へ付けポーチ内へ左手を伸ばし、何やら探り始めた。


[“ギュオオオオン”!!]
「あっはぁ!」


 その間にもアマリとロボが打ち合う。


[“グオオオオァァァァッ!!”]
「あっはぁっ!!」


 叩いて、叩き合う。


[“ギィイイイィィィィイイ!!!”]
「あーっはぁっ!!」


 殴って、殴って、殴り合う。
 超重量級の鉄塊が、縦に横にと暴れ狂う。


[“ギュウウウゥゥゥウ!!]
「はいやーっ」

「ちょ、まっ、あぶっ……!」

[“ドオオォォォッ!!”]
「あっはー!!」

「ぬぉおっ!? バカか! 向き考えろ向き!!」


 ……そしてがっつりリュウも巻き込まれる。

 誘導も出来るし攻撃方向は変えられるのだし、激甚抱くも妥当だとも言えるが……同時にこんな状況でむちゃを言うな、と言う理不尽も混ざってしまい、結果プラマイゼロまで落ち込んでいる。
 そんな不毛な口論を呼びそうな怒鳴り声を上げてなお、ちゃっかりアイテム取り出して何やら工作してたリュウはバックステップで下がっていき、


「アマリ! ぶっ叩け!!」
「りょーかいですー――――――っとぉ……あっはぁ!!」


 リュウの指示と共に飛び出した瞬間……アマリの瞳が『紅色の獣目』に変わったかと思えば、爆発を伴い今まで以上の金剛力を発揮し、鋼の巨体をもっとも単純な力技で押し返した。

 思わぬ特大のインパクトでロボットの体勢が崩れる物の、やはり一筋縄ではいかず車両の端を掴んでくる。
 カーブに差し掛かった勢いで振り回されるのも厭わず、此処が撃ち時とばかりに砲塔を向けてきた。


「狙い通りだ、どうも有難うな?」


 ―――直後にロボットの両手が爆発。

 どうも先に『爆弾』を仕掛けて居たらしいリュウは、口角を釣り上げ皮肉たっぷりに告げた。


[“ドドドドドドドォォォッッ!!”]


 が、何とロボットは転がったままに、無茶苦茶な発砲をしてきたのだ。


「ってマジか――――うぉぉおおおっ!?」
「あはー……危ないですねー。またまた出番ですよ、《でぃーちゃん》」


 慌ててリュウはアマリの形をつかみ側転して、盾代わりにと構えられた斧の後ろに二人で隠れる。

 そんな事お構いなしにロボットは乱射を続け、実弾に魔法の様な弾丸にレーザーにと、最早周囲は何でもありな射出物の雨霰だ。

 と―――――


「……そういえばこれって、全方位にヤバ気ですよ? セツナ様達どうなってるです?」
「あ」









「わ、ちょ、うおおおぉぉぉぉっ!!?」
「喚かないでください! 五月蠅いです!」


 木の葉みたく揺らされるニヒトの叫びに、風の所為で自然とそうなってしまうセツナの声が重なる。


「そ、そういうセツナさんも十分にね!!」
「叫ばないぐらい出来るでしょう!」


 本気で醜い口論をしながら高速道路を行くセツナ・ニヒトのチームは、リュウやアマリの危惧通りな状況を迎えてる。

 それは道路を貫いてくる、現実的なモノからSF的なモノまで、要らないまでの千差万別な遠距離攻撃に…………



「無理っスよ“車”とか飛んできてんのに!!」


 否、銃弾でのタイヤパンクにレーザー着弾による爆発の影響で、あっちこっちでポップコーンよろしく跳ね回る車と言う名の障害物を避け続けていた。


「だからこっちも必死なんです!」


 口調こそ焦りが感じらそうだが、しかし表情では笑みが無いだけでまだまだ余裕のセツナ。

 ハンドルを握る彼女が本気でパニックを起こせば、どんな事態を招きどんな破目を被るか等それこそ自明の理だ。

 下方向からの射出に加えて、前方から横から空中からと、破片やら乗用車やらバイクやらがすっ飛んでくるため、必要とされる集中力が馬鹿にならないのに、この冷静さを保つにはかなりの集中力を要するだろう。


 ……だからかもしれない。
 ニヒトの悲鳴で(個人的な)煩わしさ倍増しているのは。


「前方から第二波です! 確り“バイクに”捕まって下さい!!」
「其処を強調せんでも……ってぬおおおおぉぉ!?」


 右に左にハンドルを切り、緩やかな左から大きく右に、浅い右から深く右に、時にはスタントマン宛らの急角度な蛇行までかまして、次々襲い来る車体を躱していく。
 ニヒトの身体が柳の如く揺れ動く。


「っ!」


 曲がりきれないならばと、水平に近い軌道になりながら回避するあたり、セツナのテクニックも中々の物だ。


「こん……の!」


 ……だが起き上れないと判断するや、何時の間にか二丁状態に戻している銃本体でバイクを支え、銃撃にて障害物を逸らす辺りニヒトのサポートも中々上手く噛み合っている。


「また来ます!」
「だろうな!」


 本当に見境なく着弾していたらしく、車自体の爆発もあって、高速道路上はもうシッチャカメッチャカな状態だ。

 乱暴にも程があるこのパーティーを歓迎する者など、ましてや狼狽せぬ者など居はしないだろう。



 だが―――それでも尚慌てる事はないと、セツナは頼もしい所作で悠々ハンドルを切った。




「「なに!?」」


 車体が右を向いた……正にその途端、脈絡も無く足場が思い切り崩れた。
 漏れる言葉も、思わずと言った異口同音だ。

 否応無しに空中へ放り出されるセツナとニヒトが周囲を見やれば、柱も道路も崩壊しており、今迄の大事故に鑑みれば寧ろコレが妥当な結果といえる。
実弾系なら未だしも、謎エネルギーの弾丸にレーザーが尽く飛び交っていたのだから。


 周囲でコンクリート塊が落下し、街灯もオブジェも漏れなく落ち行くその崩れ方たるや、ド派手な銃撃に相応しいド派手さだった。


「安全に着地できるっすかねぇ!?」
「やり方次第です! まずは何とか武器を構えて―――――あっ」
「えっ?」


 またもや唐突なセツナの呆け文句にニヒトも気を取られ、思わず下を見てみればそこにはリュウとアマリの姿が。

 破片等の所為で列車の速度が落ちた事と、各謎に思うセツナ達自身も落下と同時に吹き飛んでいる事から、ちょうどこの位置に来てしまったのだろう。


 だが問題は其処ではない。


 一番の問題は―――――


「アマリさんの武器、光ってません?」
「あー、多分『高威力魔力弾』詰め込んだんっスねぇ」


 暴風+崩壊音+焦って大いに構わない状況にもかかわらず、二人の声は至極平坦だ。
 にも拘らず、互いに良く通り齟齬無く耳まで届いている。

 そして視界に広がるカーブという地形に、ロボットがそこへ背を向けて居ると言う事実。


 だからこそ見間違いも、判断違いも出来ない状況の中……トドメを刺した聞き間違えようのないニヒトの言葉で、セツナの顔が冷静な顔から真顔にまで一瞬で変化する。
 

「と言う事はもしかして?」
「……い、いや若しかしなくて―――」



“ズグゥァアアアアアァァァァァァァッ!!!”


 言い切る前に眼下が大爆発。

 貨物列車はいっそ気持ちい位に脱線し、ロボットも勢いよく転がっていく。
 セツナとニヒトもまた、爆風で二度目のふっとばしを喰らう。

 ニヒトの顔はもうやる気マイナスまで落ち込んでいる上に、セツナに至っては真顔で固定されたままピクリとも動かない。
 

「―――ぅぉぉぉおおおわあああっ!?」
「―――ぃぃゃっほーーーーー」


 が、車両が爆ぜたからだろう……よく見ればリュウも、そして当のアマリでさえ一緒に吹き飛び、彼女等の傍まで飛びあがっていた。


 これも、一種の自業自得だろうか。


「お空飛んでるですよー、ぴゅんぴゅーん」
「ブッ飛んでるんだよ!? このままトマトな運命とか嫌だぁああっ!!」
「やっぱりこうなってしまうのですか……チャレンジ料理をお兄様に振舞った罰ですか……?」
「ちょ、あんたら阿呆やってないで着地っス! 着地!!」


 一名を覗き、皆が皆に間の抜けた事を言いながらも、しっかり武器を握り、周りを目で見渡している。


 まず最初に動いたのは―――――アマリ。

 バズーカモードのままだった得物の柄部分を脇に挟み、砲口を真下へ構え、二発爆破弾を発砲してコンクリートの塊を無理槍作り出す。
 更に追加で砲撃すれば……轟音とともに塊が回転し、中空目掛けて吹き飛んできた。


「リュウ殿ーっ」
「任せてくれ!」


 続いてリュウ。

 刀を鞘に納めたまま風撃銃を発砲し、空中で軌道を変えてコンクリート塊の上に着地した―――刹那、青い稲妻が三度閃き、大きな斬り込みが刻まれる。


「もう一撃頼む!」
「りょーかいですよー……あっはぁ!!」


 トドメとばかりにアマリが砲撃し、斬り込みのお陰かそれなりに形の整った塊群となりバラけていく。


「バラバラですー」
「うっし、今だ!」
「はい!」
「よっしゃ!」


 それらを足場として皆迷う事無く、次々飛び移りながら地上を目指す。


「っぅあぁっ! おぉ、変な声出たっス……」


 気合い一発、詰まった物が一気に飛び出した様に叫ぶと、まずニヒトが執拗なまでに銃撃して着地した。


「よっ、ほっ、とっ、たっ! っと、完璧ぃ!」


 スピード型なのか軽快に蹴り続けていたリュウは、鞘銃で完全に勢いを殺しふわりと降り立つ。


「……む」


 セツナは途中で瓦礫が無くなった事で一瞬詰まるも、まだ形を保っている柱を見つけ体の向きを変更。

 そして彼女の鎌から奇妙な音がしたと思ったのも束の間――――何と刀身が一回り小さくなった上に柄側に少々引っ込み、オマケに柄も3/2の部分が細かく分かれていき……あろうとこか【鎖鎌】となってしまった。


「……セェッ!!」


 遠心力を付けて投擲すれば、見事柱に引っ掛かってくれた。
 そのまま大鎌モードへ移行して、瞬時にそこまで移動し螺旋を描いて降下しながら、見事地へ辿り着いて見せる。



[“ギイイィィィンン……!!”]

「お、なんかオーラっぽい物が消えたっスね。地味だからあったとは気が付かなかったけども」
「銃撃が無効化されてた原因はそれかよ……面倒くさい事してくれるぜ」
「しかしこれで此方の攻撃がほぼ通用します。畳み掛けるのが“吉”でしょうね」


 三人が居るのはカーブ傍に有る開けた空き地であり、リュウの作戦とはこれを狙ってな事のようだ。
 弾き出されたロボットもようやく立ち上がり、リュウ、セツナ、ニヒトと正面から向き合う。


「……なあ、アマリは?」
「へ?」
「そういえば見当たりませ―――」

「あーーーーーっはーーーーーっ!!」

「「「!?」」」


 数秒遅れてアマリが『着弾』。
 凄まじい衝撃波で三人とも吹き飛ばされるが、バック宙にトンボ切りに側転にと全員すぐ体勢を整えた。


「あ、ごめんなさいです」
「お前だけ煤無いって良いな!? 俺ら今ので黒ずんだぞ!?」
[“ギュオオオオオン!!”]
「バカやってないで! 来ますよ!」
「みたいだねぇ……!」


 ロボットの突進に四人そろって散開し、まずは東西南北の四歩に陣取って狙いを狂わせる。

 ターゲットが分散し迷っている隙をつき、セツナが声を上げた。


「リュウさん、アマリさんは私と接近戦! ニヒトさんは援護をお願いします!」


 ニヤリと笑い、満面の笑みで、ニヒルに笑んで三人は答え、それぞれ突っ込んでいく。

 リュウの体に青い雷が纏わりつき、セツナの鎌にローマ数字と黒い靄が浮かび上がり、続いてアマリの瞳がまたも獣じみた物へ変わり、


「あっはぁ!!」
[“ギィィィィィィ……!!”]
「フッ!」
「リィァッ!」
[“ォオオオオン……!!”]


 豪快な吹き飛ばしからの関節狙い、制動しようとすれば高速の足払い、更に顔を上げれば後方からの狙撃で打ち戻され、ロボットの頭上に表示されたHPバーもググッと減っていく。

 それでもタダではやられないとドリルを起動させて、爆ぜるような威力を叩きだし無理矢理起き上がって来た。


「行くぜぇ!」


 背後に回り込んだリュウが、ロボの猫背を利用し巨体を駆け上がっていく。
 切り刻みながらの置土産付きだ。

 居合切りから此方を向きかけたロボットの顔を蹴り付け、回転しての袈裟切りに振り上げと、突きからの鞘銃発砲を組み合わせていく。

 すると如何いう訳か、彼はいきなり後ろへ倒れ込んだ。


「セツナ!」
「お願いします!」


 そのまま横に付きだしていた鞘に鎖鎌が巻きつき、リュウは刀をロボへ突き刺して体を固定した。

 セツナは途中まで鎖から柄に戻して距離を縮め、リュウの武器から鎖が抜けるや否や横回転しての連続切り。

 そして胴体へ攻撃を撃ち込みながら、このまま落ちる―――かと思いきや今度はアマリの斧に着地する。


「しっかり支えてください!」
「はいな」


 宙に居ながらも確り足場として成り立つ怪力を発揮して、アマリはセツナの方向転換をスムーズに手伝う。
 その途上でロボの胴体へ、鎌での横薙ぎを打ち込むあたり、抜け目がない。

 ニヒトの援護でロボットの攻撃は事如く邪魔され、その隙にまたもう片方の肩に数撃見舞い、鎖鎌モードに変えてターザンもかくやのロープアクションでロボの背後に着地した。

 最後にリュウが肩から肩へ移動し様に切り裂けば……ロボの両肩は脆くも剥がれ落ちていく。


「次は脚です!」
「勿論だ!」
「いっくですよー」


 姿が掻き消えんばかりな超高速の二刀流でまず右足が、地を揺るがすと言っても過言ではない剛力の迫撃で左足が、それぞれ前方へ投げ出され見っとも無い隙を晒す。


「シュッ……!」


 黒い靄を纏った鎖鎌を悠々振りまわして乱れ切りしたかと思えば、セツナはそのまま大鎌モードに移行して大きく飛び上がる。

 それと同時にニヒトが、片方の足に集中して弾丸を撃ち込む。


「セェェッ!」
「……壊れな!」


 両足が無様に転がっていくのは、ほぼ同時だった。

 全員の顔に笑みが浮かび……仕上げとばかりに全員で突貫していく。


「セアアァァッ!!」


 マフラーをたなびかせながら、セツナが一番に迫る。
 猛回転しながら“赤い線の濃く残る”胴体を三度切り裂き、鋼鉄の巨体を飛び越す。


「ふん!!」


 何処まで驚かせれば気が住むのか……度重なる銃撃で亀裂を入れ、今度は大型拳銃の側面を揃えて『剣』に変形させたニヒトが、邪魔な砲塔を切り裂いていく。


「……こうしてと……オラぁ!!」


 刀と鞘刀での二連撃から、リュウは鞘銃で発砲しスライディング。
 滑りながらもう片方の砲塔を斬り落とす最中、“何か”を背中部分に落としていく。

 そこで二人とも息ぴったりに飛び退いた。


「あっはぁ!!」
「……も一つオマケ、ってな?」


 お決まりの高笑いを決めてアマリの斧が爆撃を巻き起こし、リュウがニヤリ笑えば仕掛けて居た罠に引火してより派手に大爆発。
 哀れなロボを、上空へ巻きあげていく。


 情けない位ブンブン振り回され、宙を舞う鋼の向かう先は……セツナ。

 頭上で鎌を回転させ、頬笑みに似合わぬ眼光で睨み据える。


 そして落下するロボットから目線を外した瞬間――――




「終わりです……」


 そんな一言と共に、ロボットの胴体に刻まれたライン目掛けて一閃。

 豆腐か何かと見紛うほどきれいにロボットは両断され、セツナを避けて地に落ちていく。



 そして彼女のバックで……清々しいまでの大爆発を巻き起こした。















 貨物列車とは言えどれだけ列車に被害が出たのか、高速道路上で跳ねまわった車から見てどれがけ犠牲者が出たのか。

 見当もつかない大事件に巻き込まれ、何とか解決したリュウ、アマリ、セツナ、ニヒトの四人は今―――




「やー今回のクエストも何とかなったですねー」
「……お前、結構俺の事巻き添えにしてたけどな……」
「なに、終わり良ければすべてよしっス、リュウ」
「あそこでストーリークエストが終わるのは、正直勿体なさすぎますから」


 ファミリーレストランで休息を取っていた。

 殺してしまった人間の数や、被害の確認などを、当事者たちが行っなわず寛いでいて良いのか?


 ―――実は良いのだ。


「しっかし、コレがリアルじゃなくてで良かったよな。現実ならどれだけ被害が広がるか、分かった物じゃねえし」
「意外と変な箇所でリアルですよね。このVRMMO『Non-standard(ノンスタンデッド) arm's(アームズ)』は」


 なぜなら彼等が言った様に、この奇妙な世界は現実の物ではなく、ヴァーチャルリアリティ技術を用いて稼働する娯楽……一種の“ゲーム”であるのだから。

 だから敵であったテロリストたちも現実には生きて居らず、跳ね飛んでいた車にも人は乗って居ない、現実には存在しない0と1で作られたデータ。

 彼等が躊躇いも無く武器を振う理由や、トンデモない構造の武器群が存在出来る理由、そして数々の謎言語の正体は、此処にあったのだ。


 テーブルの上に置いてある各人の飲み物(リュウがLサイズコーラ、アマリがストロベリーシェイク、ニヒトがジンジャーエール、セツナがミルクティー)は勿論用意されている。
 他にもみんなでつまむ為にと、オニオンフライにチョコが掛ったフライドポテト、ビーフジャーキー(の様な何か)すらも置いてあった。


 暫く己々でほっと一息つく中……リュウがさて、と言った感じできりだしてきた。


「で、この四人で《トーナメント》に登録するのか?」
「それがいいと思うっスよ? オレぁ、このチーム好きだし」
「お兄様に勝る殿方は居ませんが……友人としてなら私としても、とても好意を抱けます」
「というか、もう登録しちゃったです」
「「「は?」」」


 三人がそろってアマリの持つタブレットを覗き込む。

 そこにはチーム名とチームメンバーが既に入力されており、最後のOKボタンまでクリックして後に引けない状況を作り出していた。

 三人とも顔を見合わせ、まあ面倒な事が先に済んだ良いかと、溜息を突きながら席に戻る。


「大会はもう一つあるし、せめて確認ぐらいさせてくれてもなぁ……」
「大丈夫ですよ。どの大会でもドンパチやる事に変わりはないでしょうし」
「え? お魚です?」
「……それは“()ンパチ”」
「あ、工具ですかー」
「そりゃ“()()チ”っス」


 非常に抜けに抜けた会話を交わしながら、自分なりに納得いかせたアマリが笑顔でシェイクを口にする。


「♫ ……むぅ? !? フンブーッ!?」


 そして思い切り噴き出した。


「「!?」」
「かや、かやいれすぅーーー!!」
「くひひっ……!」


 見るとリュウだけ笑っており、恐らく恨みと本人の趣味で悪戯をしかけただあろう事が窺えた。


「ひろいれすよー、こんにゃことっ」
「うるせ、例え非道でもこれ位やらなきゃ気が済まないんだっての」
「なやこうするれすー!」
「あ」


 傍にあったグラスをつかみ、思い切りの良さを発揮してコーラをリュウへ投げつけた。
 ……その途上で腕がぶち当り、地味にニヒトのジンジャーエールも犠牲になった。


「うぶふっ!? ……やったなこの野郎!」
自業自得(じごーじとく)なのです」


 其処から言いあいに発展した二人を見て、セツナとニヒトは呆れ笑いを浮かべながら眺めるばかり。
 勝手知った仲だからこそ、いずれ収束するのが目に見えて居るからだろうか。


「優勝したいっスねぇ」
「当然です。したいではなく、優勝しますよ」
「はは、こら厳しいなぁ……」


 言いながら煙草を吸うニヒトに顔をしかめながらも、ちゃんと笑みに戻りセツナは答えて見せる。

 ドタバタな彼らが出場すると言うトーナメントは、刻一刻と迫り―――今だけはと二人はともに、一時の休息に身を預けるのだった……。











「あっ、危なっ……」
「ぶへっ!!」



 そしてニヒトの顔に、巻き添えのパイが命中するのであった。

 
 

 
後書き
村雲さんすいません……結局、プロローグまでに「彼」を登場させる事ができませんでした……。 
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