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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第4話 あしらわれる武神

 次の日。
 川神学園は毎週水曜日に校庭にて、全生徒を集めた上での朝礼がある。
 そこで鉄心は、生徒達に主観的の有り難い言葉を授けながら士郎をたまに見る。
 正直、この学園の校則は士郎に合って居ないのだが、雷画の方針により入れさせられたモノだった。

 「士郎の人生に口を挿む気は無いが、人並み程度の欲を少しは取って欲しい」

 と言う望みから、士郎に川神学園を受験させたのだった。
 その意向は鉄心も聞いていたので、友人の頼みを少しは叶えてやりたいと言う気持ちと、士郎程の人材を地位や名誉欲無しのまま社会に送るなんて勿体無いと考えているのだ。
 残念ながら、未だに成果は上がっていないが。
 そして士郎は既に3年に成ってしまい、このままでは願い届かずになるのだ。
 孫たちへの将来の悩みもあると言うのに、ご愁傷さまと言えるかもしれなかった。


 -Interlude-


 昼休み。
 今日の士郎は冬馬達を連れて、屋上にて昼食を取っていた。

 「うちの学園長は相変わらず我が道を突っ走ってるよなー、若」
 「そうですね。あれでよく教育委員会や世論から突っ込まれないのか、一見すれば不思議ですね」
 「川神院総代って言うのが大きいんだろ?まぁ、やりたい放題と言うワケじゃないだろうが・・・」

 箸を進めながら話す話題は、鉄心が生徒達に語りつくした朝礼での話についてだった。

 「そういえばシロ兄、学園長から何度か視線を送られてたねぇ」
 「そうなんすか?」
 「そうだけど、よく気づいたな」
 「あれくらいボクだって気付くよ!」

 士郎の驚いた反応が不服だったのか、小雪は少し頬を膨らませて憤る。
 ちょっと可愛くて、全く怖くないが。

 「悪かったって」
 「心当たりはあるんですか?」
 「・・・・・・大方、雷画の爺さんから俺に人並みの地位や名誉欲を持たせたくて、発破掛けさせようと意識させたいんだろ」
 『・・・・・・・・・・・・』

 士郎の言葉に3人とも固まる。

 「何だよ?3人して・・・。如何かしたか?」
 「ううん!けどシロ兄って、一応は自覚あったんだなーって思って」

 小雪の真正面からの言葉に士郎は苦笑する。
 元々の世界では、凛やカレンにイリヤ辺りからよく指摘された事だった。
 あと小ギル。
 この世界に送られた後の今日までで、士郎もその当たりを持とうと努力しているのだが、中々持てないのが現状だった。以前に小ギルが、人の本質はそうそう変わらないと言われた事があったが、士郎は文字通りにそれが当てはまる。

 「分かってはいるんだけど、中々持てなくてな」
 「ですけど諦めたわけでは無いのでしょう?」
 「ああ、アイツとの約束だしな・・・!」
 『・・・・・・・・・・・・アイツ?』

 この世界に送られる直前に、凛から「自分を好きになってあげなさい」と言われた。
 自分を好きになると言うのはつまり、その自覚している部分も含まれていると言う事だ。
 士郎は何かを感じっ取った訳でなないが、大空を揺蕩う雲を見ながら感傷に浸っていった。


 -Interlude-


 3-Sは午後の授業中で、内容は日本史。
 その担当である綾小路麻呂は、気乗りしない声音で平安時代以外(・・)の時代の授業をしていた。
 彼、綾小路麻呂は、政治界に強いコネクションを持つ日本三大名家の一つである綾小路家の者だ。
 そんな教諭は平安時代の信者だったのと、川神学園の自由な校風に綾小路家の強みを利用して、テストなどでは他の時代の範囲を出すのに対して授業では平安時代しかやらなかったのである。
 士郎が入学するまでは。
 士郎が入学してから直にそれを疑問に持ち、学園長に直訴して日本史の授業でもちゃんと他の時代をやらせるように求めた。
 卒業後などその専門分野に行かなければ、歴史なんて学ぶ必要があるのかと言う生徒達も居るようだが今の時代、何時何時にその知識が役立つか判らないし、テストで範囲が提示されているのならその時代もちゃんと生徒達に受けさせるべきだと言うのが士郎の主張だった。
 そう言われては、敢えて黙認してきた学園長も重い腰を上げざる負えなくて綾小路麻呂へ言うと、矢張り抵抗して来て士郎に説教しに行った。
 綾小路家の力をチラつかせてまでしたのだが、士郎は藤村組とは別にある理由――――合法ではあるが周りにあまり知られたない仕事により、国内外問わずに強いコネクションによる力で対応してそれを打ち負かした。
 この事にまだ諦めきれない執念と、逆恨みに近い感情で報復しようとするが、士郎にこれを見破られてしまい綾小路家現当主の麻呂の父親である大麻呂さんに密告されてしまう。
 これにより、大麻呂から性根を叩き直させようと山籠もりさせてから数ヶ月後に復帰して今に至る。
 そんな経緯もあったが以前よりはだいぶマシな授業をしているが、平安時代の信者と言う彼の本質はそう感暗に抜け切る訳では無い。
 さらに言えば、心の何処かで士郎にまた報復したいとも考えているが、読心でもされているのか、時々睨まれては怯える生活をしている。
 如何やらこの2人の因縁は、まだまだ続きそうだ。


 -Interlude-


 士郎は今日、藤村組を通してからのある知人からの頼みにより、部活を休んで下校した。
 そこで川神院の仲見世通りを通った所で、柄の入った赤いバンダナを頭に巻いた男子学生、風間翔一が吹っ飛んできた。それを士郎がキャッチする。

 「おっと」
 「うわっとと!?あ、有り難うございます・・・って、衛宮先輩じゃないですか!」
 「風間か。如何して吹っ飛んできた?」
 「理由はよく解んないんですけど、モモ先輩に投げ飛ばされました」
 「まったく、アイツは」

 そのまま風間と一緒に百代たちの元に行く。
 因みに、風間は途中でおしるこを買った。

 「あっ、副部長」
 「衛宮先輩とキャップ?」

 キャップに付いてきた士郎に反応する2人。

 「あん?衛宮~?如何してこんな処にいる?」
 「部活なら今日は用事で休んだんだ。それにしても随分にごあいさつだな、川神。借金を肩代わりしてるのにも拘わらず。何なら返済期限縮めようか?」
 「すまなかった!!」

 士郎の言葉に即座に土下座する百代に、またしたのかとヤレヤレと皆して呆れる。

 「それにしても用事があるなら、こんな処でぶらついてていいんですか?」
 「それにその持ってるのって甘味系ですか?」
 「目聡いな、風間。昨夜の内に仕込んで今朝の内に作り終えて冷蔵庫に置いておいた、ミルクチョコケーキだよ。手ぶらじゃ失礼だと思って―――」
 「衛宮の作った、ミルクチョコケーキ!!」

 士郎の手作りミルクチョコケーキに、百代は勢い良く反応した。
 百代は、士郎が以前に家庭科の授業で作ったミルクチョコケーキが大好物の一つになっているのだ。

 「気に入ってくれたのは嬉しいが、お前にあげる為に作ったんじゃないぞ?」
 「えぇえええええ~~~!?くれよぉ~!ちょっと位いいじゃないかよぉ~!」
 「駄目だ」
 「チッ、ケチ」
 「ケチで結構。借金塗れよりマシだ」
 「それで衛宮先輩、用事があったんじゃないんですか?」

 このままでは延々と繰り返しそうな話をする2人に、大和が口を挿む。

 「ああ、これから直江達の寮にな」
 「私たちの?」


 -Interlude-


 士郎は、帰宅時の大和達と共に島津寮に来た。何故か一緒に百代も。

 「如何して川神が付いて来るんだ?」
 「別にー、帰り道のついでさー」
 「逆方向だろ・・・」

 士郎の言葉に百代は、しらを切り通し続ける。
 そんな百代に溜息をつく士郎は島津寮――――では無く、隣の島津家に足を向けた。

 「アレ?士郎さん」
 「寮に用があるんじゃ・・・」
 「まずは島津麗子さんに挨拶しに行く。このケーキだってその為のモノだ」
 「何ぃいいっ!!?」

 予想外の展開に、百代は驚く。
 予想通り、ケーキ目当てで付いて来ただけの様だ。
 そんな百代にはお構いなしに、士郎は島津家のインターホンのチャイムを押す。
 数秒後、インターホンから島津麗子の声が聞こえて来る。

 『ハーイ、どちら様ですか?』
 「衛宮士郎です、麗子さん。半年ぶりですが恥を忍んで来ました」
 『士郎ちゃん!?わ、わかったわ、ちょっと待っててね』

 そこでインターホンから声が引っ込んでいったので、士郎は振り返る。

 「――――って事で、暫く時間かかるから待ってくれなくていいぞ?」
 「解りました」
 「いくよ、義姉さん。それとも帰る?」
 「私のミルクチョコレートケーキがぁああああああああ!?」

 キャップを先頭に、京と大和に引きずられながら百代は女々しい言葉を発したまま島津寮に入って行った。
 彼らと入れ替わる様に、島津家から島津麗子が出て来た。

 「お久しぶりです、麗子さん」
 「士郎ちゃん!また見ない間に男前が上がっちゃって!」
 「そうですかね?こういうのは誰かに言われないと分からないモノですけど。それにしても、麗子さんも相変わらず元気そうで何よりです」

 こういうモノは、基本建前だろうが相手を褒めるところから始まるモノだが、この2人の言葉は建前では無かった。

 「ささ、こんな処で立ち話も何だから、家で話しましょうよ!」

 そうして士郎は久しぶりに、島津麗子との談話を楽しんだ。


 -Interlude-


 「早かったね士郎さん」

 島津麗子への挨拶を終えた士郎が寮に入ると、京が居た。

 「待ってたのか・・・って、そんなわけないか」
 「うん、私もそんなに暇じゃないし。着替え終わったしリビングに行こうとしたら、たまたま遭っただけだよ」
 「なら2階に上がる許可をくれ。前に京が話してくれた通り、女性の了解がいるんだろ?」

 京はたまに、士郎に自分の身の回りの事などについて話すので、聞いていたのだ。

 「いいですけど・・・・・・もしかして新しくやってきた1年生の娘が目的なの?」
 「ああ。新入生のご両親とは知り合いでな。家は北陸に在って距離があるから心配なんだろう。ちょこっと様子を見に言って欲しいと頼まれたんだ」
 「いいけど多分、今も練習中だよ?」

 京の言っていることがよく解らなかった士郎は、取りあえず了解も貰ったので上に上がる事にした。
 そして2階に上がり、気配で探して襖の前に来ると中から人の声が聞こえて来た。
 襖が僅かに開いていたので見たくなくても士郎の視力がそれを見せてしまうと言う、悪循環ではあるが結果的にも中を覗き見た。
 中にはお目当ての人物、剣聖黛十一段の長女である黛由紀恵が色鮮やかな馬のストラップを片手にとって、動かしながら一人でぶつぶつと喋っていた。

 「・・・・・・・・・・・・腹話術?京の言ってた練習って、これの事だったのか?」

 何やら真剣に取り組んでいるように見えた士郎は、声を掛けるなんて気が引けると思い、その場を後にして下りて行った。
 取りあえずこれで用事は一応終わったが、一声かけてから帰ろうとこの寮のリビングに続くだろう廊下を行き、ドアを開けると4人とも偶然に揃っていた。
 その内の1人である百代は寝そべっていたが、士郎が来たと理解した瞬間に開口一番の一言。

 「ミルクチョコケーキは!?」
 「勿論、麗子さんに渡したが?」
 「む~」

 予想通り過ぎるオチに、ふて腐れる様にまた寝そべる。
 しかし士郎はそんな百代に応対せずに、3人に帰る挨拶をする。

 「それじゃあ3人とも、俺は帰るよ」
 「もう、帰るんすか?」
 「いや、長居する理由も無いしな」
 「いや、あるぞ」

 そこに、ふて腐れる事に戻った百代が起き上がる。

 「無い。俺は帰る」

 何か嫌な気がした士郎は、踵を返して玄関に向かおうとするが、一瞬で士郎の進行方向である目の前に回り込んできた。

 「私の相手をしろ」
 「テストまでまだ時間あるぞ?それとも真面目の予習復習する気になったか?」

 回り込まれた事に驚きもせずに対応する士郎は、百代の言っている意味を理解出来てたが誤魔化す。
 そんな士郎の対応に、ミルクチョコケーキを食べれなかった事に加えて、朝の登校時にキャップにお灸をすえたので加減した程度の人を殴る行為だけでは欲求不満だったようで、不機嫌そうに言う。

 「はぐらかすな!私と戦え!」
 「モモ先輩、何を・・・」
 「理由が無い以前に必要性を感じないって事で、また明日な」
 「・・・・・・・・・・・・」

 百代の戦意もあっさり躱して横を通り過ぎる。

 「フン!」
 「っと」

 しかし士郎が百代の後ろに回った所で、不意打ち気味に正拳突きをかます。
 けれども士郎はそれを読んでいたので、最低限の動作で難なく躱す。
 だがこれはあくまでも、壁を突破した者たちのみの世界と理論であり、周りの3人からすればあまりに早すぎて、百代がいつの間にかに振り向いて正拳突きをしていた事と、士郎もその不意打ちの正拳突きをいつ躱したのかも解らないまま既に結果としてそうなっていた。

 「え?何だ?」
 「モモ先輩が衛宮先輩を殴りかかってる?」
 「私でも見えなかった・・・」

 矢張りと言うか、現状に付いて行けずに困惑している外野の3人。
 そして――――。

 「血の気が多いな、川神」
 「前々から疑ってたが、やっぱり強いじゃないか。衛宮!」

 士郎は依然として表情を変えないが、百代は待ちに待った得物を見つけた捕食者の様に獰猛な笑みを浮かべている。

 「さぁ、続きを――――」
 「したいのなら、今すぐ今日まで肩代わりしていた金額全て返してもらおうか?」
 「はぁあああ!!?」

 士郎のカウンターに、百代は戦意を保ったまま驚愕する。

 「アレについては無期限で待ってくれるんじゃなかったのか!?」
 「確かにそう言ったが、自分の思う様にいかないと駄々ばかりこねる奴との約束なんて、破棄したくもなるな」
 「駄々とは何だ、駄々とは!」

 士郎の言葉に百代は激昂する。客観的に見れば正しい見識だが。

 「違うと言うのか?肩代わりしているのだって、無期限で無利子無利息って言う風に長い目で見ていると言うのに、お前は我儘ばかりだ」
 「ぐぬ」
 「期末テストの時も毎回無理を聞いているのにな」
 「ぐぬぬ」
 「で、言いたい事はまだあるか?」

 士郎によってぐうの音も出ないほどに論破された百代は、最早戦意を維持できずに萎えてしまい、目尻に涙をため込んだまま悔しそうに見上げていた。

 「如何やら百代も納得してくれたようだから、今度こそ俺は帰るよ京」
 「あっ、はい。気を付けて」

 そのまま百代に振り返らずに、士郎は寮から出て行った。

 「卑怯者め~」

 士郎が居なくなってから百代は負け犬の如く、遠吠えをした。 
 

 
後書き
 士郎は万人に好かれているワケでは無いと言う事です。 
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