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RSリベリオン・セイヴァ―

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第十七話「いつかの記憶」

 
前書き


開けましておめでとうございます……と、いっても既に今日で九日目です。皆さんは良いお正月を迎えられましたでしょうか?
さて、今日の表紙絵はここまで読んでくださった方々にサービスってことで弥生ちゃんからパンチラサービスを……
弥生「し、しません!!!」 

 
ラウラとのいざこざが終わって、ふたたびIS学園に平和が訪れた。それから数日が経ち、臨海学校の日が近づきつつある今日この頃。一夏は、今週の三連休を利用してメガロポリスから外れたある田舎の集落へ一泊二日のツーリングに出向いた。
前々からアウトドアに興味のある一夏は、16歳の誕生日を迎えると一早くバイクの免許を取るために教習所へ駆け込んだ。そして今年の7月の中旬に念願の免許を取得し、欲しかったバイクも中古だが購入し、今日はそのバイクで念願のツーリングに行くことにした。
手始めに、自分の知っている地域へと出向き、彼は懐かしい風景をなだめながらバイクで田舎道をゆったり走っていた。
――どんなに時が経っても、ここは相変わらずだな?
幼いころよく遊び、駆けた土手道をバイクで走る夏は懐かしい眼差しでここ一帯を走り回った。
「ふぅ……腹減ったな?」
近くの河原にバイクを止めて、適当に大きな石に腰を下ろすと、流れる小川のせせらぎと蝉の鳴き声を聞きながら、バイク後部の振り分けバッグからコンビニで買ったパンを取り出して、それを齧った。ここで一先ず昼食をとってから、手始めに篠ノ之神社へ行ってみるか?
今さら気付いたが、箒の実家があの神社だったとは驚いた。小さいころに神社周辺で同い年の女の子と一緒に鬼ごっこして遊んでいたが、途中から虐めっ子こと箒が乱入してきては、いつも意地悪して境内から追い返していた。
思い出した後、ふと瞼が重くなり一夏は静かに河辺に寝そべって寝息を立てた。

夢は、一夏が幼き頃の思い出。夏休みになると必ず姉に連れられてこの田舎へ遊びに行った。大抵夏休みはそこで過ごすことになる。毎回そこの田舎の道を遊び回るのがいつものこと。そして、必ず同い年の小さな女の子と出会う。
「一夏ちゃん! また来てくれたんだね?」
女の子は彼との再会にはしゃぎ、毎日一緒に共に手を握り合って田舎の土手道を元気に走り回った。
遊び疲れると、小遣いを出し合って近くの駄菓子屋で買ったラムネを飲み、さらに疲れると涼しい風が吹く丘の上で身を寄せあいながら昼寝をしたり、女の子とも思い出はどれも楽しく懐かしい思い出ばかりだった。
しかし、時には篠ノ之神社の境内で遊んでいると、竹刀を持った箒が現れて二人に嫉妬して追い出しに来る。その時に限って必ず女の子が泣くと、一夏は必死で慰めた。
そう、毎回のように女の子は箒に虐められていた。そのたびに一夏が助けに行くのだが、箒が握る竹刀の前では敵わず、結局返り討ちに会う。
「一夏ちゃん……ひっく……えっぐ……」
「どうしたの!?」
「あのね? 箒ちゃんがね? 酷いんだよ? 『お前みたいなのは立派な巫女になれない』っていうの……」
と言って、泣きながら一夏に抱き付いたり、その都度一夏に頭をなでられながら慰められたりした。
そして、夏休みが終わりに近づく頃には、篠ノ之神社で行われる夏祭りに出向いて出店を見て回った。
「一夏ちゃん! 浴衣着てみたの、どう?」
「うん、とっても可愛いよ!」
手をつなぎ。人ごみにまみれて二人は出店を回り終えると、祭りの目玉である巫女の舞を見る。そこには、装束に着替えた箒が同い年というのに華麗な舞を披露している。いつも虐めてばかりの箒だが、今宵の彼女だけ一夏達には輝いて見えた。
舞も終わり、しばらく静かになると、二人は箒に見つからぬよう神社の裏山にある丘の展望台に向かい、そこから見える打ち上げ花火を見つづけた。ここでの見通しは絶景で、二人は花火が打ち終えるまで体を寄せあいながら夜空を見上げる。
もうすぐ夏休みも終わりを迎える頃。二人は篠ノ之神社へ訪れて互いに願いを交わした。
「また、ここに来れますように……」
「来年も、一夏ちゃんが来てくれますように……」
だが、女の子はもう一つ願い事を頼む。
「……いつか、一夏ちゃんと一緒に暮らせますように」
そして夏休みが終わり、一夏は姉に手を引かれて汽車に乗ることに。ホームには必ず箒がしつこく見送ってくる。しかし、あの女の子はホームにはいない。
しかし、列車が出発して駅を出、近くの土手道の風景にさしかかると、そこから一人の少女が電車と共にかけていく。一夏は、それを見逃さなかった。
「一夏ちゃん!」
元気に手を振りながら土手道を駆ける女の子に答え、一夏も窓を開けて思いっきり彼女に手を振り始める。そうして、少女の姿が見えなくなるまで一夏は手を振るのをやめなかった……
――また、会える……会えるよ!
しかし、この年が彼女とある最後の夏だった。5年に上がると、あの田舎へ行くことはなくなり、姉は親友の手伝いで忙しく、それからの夏休みは自宅でじっと閉じこもっていることがほとんどだった……
また、あの子に会いに行こうと思ったが、度重なる女尊男卑の津波に押し流される一夏は、次第に女性という者に対して敵視を抱き始め、徐々に女の子のことなど忘れてしまっていて、彼女との思い出も、薄れていった。

「……?」
幼いころの思い出から戻ってきた一夏は、目を覚ました。そこは、先ほど寛いでいた河原である。
――夢、か……
自分と、見知らぬ少女との思い出だが、やはり思いだせない。夢だから、夢の中だけの架空の人物だろう。
起き上がり、あくびと共に背伸びをした彼は立ち上がるとバイクを押して河原から出た。
「あとはどこへ行くっかな? ……そうだ、篠ノ之神社にでも行ってみるか?」
ツーリングの無事を祈って参拝にでも行こう。再びバイクのキーをひねり、彼は篠ノ之神社へ向かった。
篠ノ之神社は、この村で一に有名な大社だ。由緒ある有名な神社らしく、年間参拝者がたくさん訪れるとのことだ。
「懐かしいな? 久しぶりに来たぜ……?」
空まで続くかのように長い石段を登り、境内へ入る。そこは、当時と変わらない風景である。
「ふぅ……やっぱこの石段は今になっても登るのはキツイぜ?」
額から流れる汗を拭うと、そのまま手水舎へ向かう。賽銭箱の前で願い事を言う前にちゃんと手と口をき読めないとな? ちなみに、小さいころ手水舎をスルーしたら箒が竹刀を振るってきたのは言うまでもない……
手水舎で、両手と口を清めて、一夏は本殿へと向かった。
賽銭箱前の石段を登って小銭を入れて鈴を鳴らした。そして、手を合わせる。
「……」
しかし、願い事を思うよりも先ほど見た夢の少女のことをが急に気になりだしてしまう。あの、幼いころ共に遊び回った少女は誰だろうと……
――何だ……妙にあの娘と居た残像が浮かび上がる。
境内を見回すと、そこには微かに、女の子と遊んだ記憶跡が浮かび上がる。しかし、そんな少女のことが妙に思いだせないでいる。
女尊男卑という風習が訪れて、一夏は今までの思い出を度重なる嫌な事と一緒に忘れ去ってしまった。彼のことを幼馴染と主張する箒や凰という少女達との記憶も、おそらくこの風習で経験した事と共に全て閉ざしたのだ……
「……」
今一度、一夏は境内の周辺を見渡した。やはり、あの少女と共に遊んだ記憶がある。
「あの子は、いったい……?」
そんな時、ふと背後からある少女の呼び声が聞こえた。
「あ、あの……!」
「……?」
そこには、一人の巫女がこちらを見ている。栗色のお下げを揺らした可愛い娘だ。おそらく、バイトの人だろう。

「あ、コンチハー」
と言って、一夏はすぐソッポを向いて行ってしまった。
相手が女と見て、つい彼は女嫌いという悪い癖を出して、やや不愛想な態度を取ってしまった。
「あ……待って?」
だが、再び少女が呼び止める。
「……なんスか?」
と、一夏が鬱陶しそうな目で少女を見た。
「え、えっと……覚えてないかな?」
苦笑いして尋ねる巫女だが、一夏は平然と首を横に振る。
「うぅ……覚えてないの? 一夏ちゃん?」
「一夏ちゃん?」
その呼び名に、彼は夢で見たあの少女の呼び名を重ねた。似ている……
――いや、まさか……
しかし、それでも一夏はありえないと否定する。
「私だよ? ほら、小さいころ一緒に遊んだ式神比奈(しきがみひな)だよ?」
「式神……比奈?」
しかし、一夏の記憶の中にその名に見覚えのある人物は浮かんでこなかった。
「ごめん……知らないな?」
「うぅ……そんな……」
すると、比奈という少女は今にも泣きそうな顔をするものだから、一夏は慌ててしまう。
「い、いや……その? 何かな? 多分だけど、面影があるよ? うん!」
「ほ、本当ぅ……?」
と、泣くのを寸前でやめてこちらへつぶらな瞳を向ける彼女に、一夏はとっさに何か思いだせないかと必死になる。しかし、やはりあの女の子と遊んだ幼き日の残像しか境内にはない。とりあえず、そのことだけでも当てずっぽで答えた。
「……この境内で、よく遊び回ったかな?」
反応が不安になるも、しかし彼女は目を輝かせて頷き始める。
「うん! そうだよ? あのとき、いとこの箒ちゃんに虐められるのを覚悟で一緒に遊んだよね?」
「アイツを……知っているのか?」
まさか、箒がこの神社の子だということを茜は知っていた。
「当然だよ? だって、よく箒ちゃんに虐められていたところを一夏ちゃんが助けてくれたじゃない?」
「……」

「この罰当たりめ!」
「いたぁ~い! いたいょ? 箒ちゃん……」
「篠ノ之! おまえ、また比奈をいじめてるのか?」
「い、いちか……!?」
箒は、顔を真っ赤にして一夏の前から逃げていった。
「ほら? 泣くなよ~?」
駆けつけた一夏は、ハンカチを取り出して比奈の涙を拭いてやる。
「うぅ……だって、だってぇ……箒ちゃんがぁ……」
アイスを食べ歩いていたら、躓いてしまい、そのひょうしに手からアイスが飛んでいき、それが隣を歩いていた箒のワンピースについてしまったのだ。それで箒の怒りに触れてしまった比奈は、拳骨を数発くらって泣いたのだ。
「そっか……せっかくのアイスが?」
しかし、一夏は箒に殴られたよりもアイスをダメにしてしまったことに同情していた。
「よし! それじゃあ、オレが新しいアイスを買ってやるよ? ちょうどお小遣い持ってるからさ?」
「い、いいのぉ?」
「うん、一緒にアイス買おう?」
「……うん!」
泣き止んだ比奈は、一夏の手をギュッと握りしめて、一緒に駄菓子屋へ走った。

「あれ……?」
フラッシュバックのように蘇る謎の記憶。これは何だ? 一夏は、ふと我に返るとこちらを見つめる比奈へ視線を戻した。
――さっきのはいったい……?
「それよりも、雪子おばちゃんも元気にしているから早速会いに行ってあげて?」
「雪子おばさんが?」
しかし、一夏はその女性の名だけは覚えていた。と、いうよりも忘れられない大切な人だった。
その雪子という女性は、箒のおばである。そして一夏にとって母親のように母性溢れる女性であり、この地へ訪れなくなった四年生以降も、直接一夏の元を訪ねて彼の面倒をみたりもして、女尊男卑に苦しむ彼に取って唯一心を許した女性であり、また数少ない理解者でもあった。また、雪子はこの比奈という少女のおばにもあたる。
一夏は、比奈に連れられて社務所へ招かれた。久しぶりに会うので、いささか緊張する。
「雪子おばちゃん! 一夏ちゃんが来てくれたよ?」
社務所の一室で品の整理をしている着物姿の女性に茜が呼びかけると、女性は驚くかのようにこちらを振り向いて、慌てた動作で一夏の元へ駆け寄る。
「あら……一夏君なの? まぁ、大きくなったわねぇ?」
「どうも、お久しぶりです。おばさん」
懐かしい人に会えて、一夏は微笑んだ。
「そうだ、一夏君? この子、覚えてない?」
と、雪子は俺に比奈を紹介した。しかし、覚えていないのはわかっており、俺は苦笑いしながら答える。
「すみません……」
「そう? ほら、よく夏休みに一夏君といつも一緒に居た女の子よ? この村で一番仲良しだったじゃない?」
「……記憶はあいまいですけど、覚えていると思います。けど、ハッキリは……」
「そう……まぁ、いいわ? ここに居る間、ゆっくり思いだしてちょうだい?」
「は、はい……」
「ところで、いつまでここに居ることになったの? 夏休み?」
「……いいえ、たまたま今週の三連休を使ってツーリングに来ただけですから」
「そうなの……もしよかったら、今夜一晩泊まっていったら?」
「お気持ちは嬉しいですが……」
遠慮しがちに言うと、比奈は割り込むようにこう言う。
「じゃ……じゃあ! 私の家に泊まっていかない?」
「え? けど……」
いきなり、比奈の家とは……当然、一夏は動揺する。しかし、そんな彼に雪子はこう言った。
「一夏君? せっかくなんだし、比奈ちゃんのお家に泊まらせてもらえば?」
そう、ニッコリ笑って勧める雪子。彼女からして良いシチュエーションと思っているのだろう。
雪子にも言われれば、どうも断ることのできない一夏は、しぶしぶ比奈の自宅に泊まらせてもらうことに……
「一夏ちゃん! ちょうどご奉仕も終わったことだし、私着替えてくるね? 社務所で待ってて? それじゃあ、おばちゃん! お先に失礼します」
歓喜にあふれた茜は、一夏の手を引いて駆け出していった。
「若いって、いいわねぇ……?」
と、雪子はニヤニヤして二人を雪子は宥めていた……が、少し彼女としては誤算があった。
「あら? もし、箒ちゃんにこれがバレたら……?」
そう、もう一人の一夏への思い人である箒がこのことを知ったら……恐ろしくてそれ以上は考えたくなかった。本当は、箒も一夏のことが好きだったらしいが、あまりにも暴力的表現を愛情表現にして伝えるから、一夏から距離を置かれているのだ。

「へぇ? これが、一夏ちゃんのオートバイ? カッコいいね!」
「あ、うん……」
石段を降りて、普段着に着替えた比奈はバイクを押す一夏と共に田舎道を歩いていた。
「ねぇ? 一夏ちゃんって、IS学園に通っているの? もしよかったら、後でそのお話を聞かせてよ?」
「うん……いいけど?」
別に、毎日がかったるいだけの退屈でくだらない日常が三年間も続いていく。時にシャルロットやラウラのようなヘンテコリンが現れてハラハラすることもあるが、それでもやることはいつもと変わらない。授業を受け、学食を食べ、そして放課後は寮へ行って寝る。その繰り返しである。
「さ、上がって?」
比奈の自宅は神社からそう遠くはなかった。石段を下りて十分程度のところにある、かやぶき屋敷である。かやぶきとは今時珍しく、いかにも田舎らしい家だ。そして、そんな彼女の自宅のかやぶきを見上げている一夏は、微かに見覚えがあるような否かという曖昧な記憶を感じた。
「あの……お家の方は?」
と、一夏。なぜなら彼女の自宅はしんまりと静かで、比奈が「ただいま」といっても、それに返してくる声が聞こえなかったのだ。
「お父さんとお母さんは、私が小さいころに離婚しちゃったの……この家は去年亡くなったお爺ちゃんとお婆ちゃんのお家だよ?」
「そ、そうか……悪いこと聞いてすまない」
「いいよ? だって、私には一夏ちゃんがいるもん。一人じゃないよ」
と、比奈は気にしていないかのように明るく一夏に振舞う。おそらく、女尊男卑による影響で両親の仲が悪くなるのは例外ではない。それで威張りだす女親に呆れて、男親が出て行ってしまうか、不倫相手の男の元へ行くために女親が出て行ってしまうかどちらかである。
「……」
しかし、一夏はそんな孤独な彼女のことを忘れていたのだ。そう思うと、罪悪感に悩まされる。
比奈の自宅に上がってしばらくが経つと、彼女がお茶とお菓子を持ってきた。それを飲み食いしながら一夏は、IS学園での出来事を比奈に話した。勿論、リベリオンズやRSのことは秘密だ。
「そうなんだ……結構大変な思いしたね? それと……箒ちゃん、居たんだ?」
苦笑いして箒のことを問う比奈は、いかにも彼女のことが苦手そうだと言わんばかりの顔をしている。
「ああ、会って早々に屋上へ呼び出されたからまいったよ? この前なんか、腹に蹴り入れられたしね?」
「だ、大丈夫!? 箒ちゃんって、全然手加減しないから……」
そう、確かに箒は常に手を上げる時は容赦なく本気で叩いたり、殴ったりする。これは、シャレにならない……
――こいつ、箒が手加減しないことも知っているとなると……
小さいころ、顔見知りの一人かもしれないと、少しだが感じた。
「私も小さいころね? 箒ちゃんに思いっきり引っ叩かれたことがあったの。ほら、2年生の頃の夏休みで一夏ちゃん、こっちに来て夏風邪引いちゃったじゃない?」
「夏風邪……? ああ、何となくだがあったかもしれない」
これは本当だ。幼いころ、この里で酷く風邪に病んでしまい、三日間は雪子の家で寝込んでいた。
ちなみに、夏休み中はいつも雪子の自宅でお世話になっており、姉はその間親友と暮らしている。
「それでね? ちっとも具合が良くならないし、このまま一夏ちゃんが死んじゃったらどうしよう? って思ったら、急に涙が出ちゃってね? 一緒に居た箒ちゃんが『なくなっ!』って、いって私のホッペを叩いたの。そしたら、そこがジンジン腫れちゃって……箒ちゃんの手形が真っ赤になって跡になったんだよ?」
「ハハ、あいつって小さいころから容赦ないんだな?」
その後も、彼女との雑談が続いた。一夏も、次第に比奈との会話に溶け込んで気軽にお喋りを堪能した。そして、彼女と言葉を交わしていくにつれて妙な懐かしさが込み上がり、次々と当時の記憶が蘇ってくる。
「……もう、夕方だね? 一夏ちゃん、何か食べたいものある?」
夕飯時になり、比奈は一夏にリクエストを問う。しかし、大抵今の男性はそうであるが、その問いに対する答えは既に定着している。
「何でもいいよ?」
と、一夏はそんな誰もが言う定着した言葉で答える。
「何でもいいって言われてもなぁ……」
当然、答えられた女性は大抵それに困る。だからといって、何でも作れるの? って聞かれたら自信がない。
「じゃあ……式神のお得意料理で」
「わかった……って、下の名前で呼んでよ?」
「え、けど……」
「……じゃあ、いいよ? 呼びやすい呼び名で」
少々残念がるが、一夏とて完全に比奈のことを思いだしたわけでもないので今でも彼女の家に招かれて寛いでいること自体に、やや遠慮を感じるのだ。
「じゃあ、今日は一夏ちゃんのために御馳走でも作っちゃおうかな?」
「え、わるいよ? そんな……」
「いいの! お客様ってこともあるんだし、ね?」
「う、うん……」
一夏は、遠慮しがちだが、腹もすいているため、ここは甘えて御馳走になった。
比奈の作った料理は、鶏肉を大量に使ったキャベツの野菜炒めだ。それを大皿に持って二人が箸で突っつきながら食事をとり、比奈は一夏へてんこ盛りの茶碗を指しだす。
「はい! いっぱい食べてね?」
「おお! こいつは美味そうだ……」
勿論、味の方も美味く一夏は何杯もお代わりした。一時間ほどで、比奈の料理を平らげた一夏は、腹を擦りながら満足する。
「美味かったぜ? 式神って、本当に料理が上手なんだな?」
「そうでもないよ? 小さい頃からおばあちゃんと一緒に家事をしてたから慣れているだけって感じ。女の子って、誰もがそうでしょ?」
「メガロポリスの女達とは大違いだ……」
田舎自体が女尊男卑の風習に毒されていないかは定かではないにしろ、この比奈という少女だけは少なくともそのような風習に染まるような人間ではない。
「大抵、田舎の人って都会に憧れるって言うけど……式神はどう?」
田舎者といったら、誰でもメガロポリスに一度は憧れるもの。そんな中で、この比奈はどういう風に首都を思っているのだろうか。
「う~ん……今はそこまで興味ないかな? それに、『女尊男卑』っていう風習が広まっているから、何だか嫌だし行きたくはないよ?」
「そうだな……それがいい」
仮に、彼女がメガロポリスで暮らしていたとしても、女尊男卑に染まるような人間にはならないと、一夏は思った。
食事を終え、一夏は風呂に入れさせてもらうことになった。それも、客人ゆえに先に風呂へ入らせてもらったから出来るだけ入浴時間を削り、十分程度で風呂場から出て着替えると、そのまま比奈の部屋へ向かった。
「式神? 風呂空いたぞ?」
と、そのまま彼女の部屋のドアを開けてしまった。
「い、一夏ちゃん!?」
「あ……!」
タイミングが悪く、彼女は着替え中だった。パジャマに着替える途中で、比奈のパンツ越しのお尻に真っ先目がいった、一夏は慌ててドアを閉めた。
「すまん! 本当に……ごめん!」
そんな彼の謝罪に、ドアの向こうから恥ずかしそうな声で比奈の声が聞こえた。
「い、いいの……事前に伝えてなかった私も悪いんだし……今日はね? 篠ノ之神社で身体のお清めをしたの。だから、今夜はお風呂に入っちゃダメって言われたから……」
「そ、そうなのか……」
頭をボリボリかきながら、一夏は与えられた部屋へ向かった。
一夏が止めてもらう客室にはすでに布団が敷かれていた。気を利かせて敷いてくれたのだろう。彼は比奈に感謝して布団へ潜ろうとしたのだが……やはり、ノックなしに彼女の部屋へ入ってしまったことに、彼ながら罪悪感を感じてしまった。寝ようにも寝れない。
――ああ……見ちまったしな? けど、絶対に怒ってるよな? いくら何だって見ちまったんだし……
腕を組んで考えこむそして、考えだした結果を一夏を胸に彼は再び比奈の自室のドアをノックした。
「あ、あの……式神? いるか?」
「え、い……一夏ちゃん?」
寝ようとしてベッドにつこうとしたいたが、以下のノックで急に胸の鼓動が高鳴る。
「ちょっと、伝えたいことがあってさ?」
「なら、入ってきていいよ?」
「い、いいのか?」
「うん! どうぞ?」
「じゃ、じゃあ……おじゃまします」
と、一夏は比奈の自室へ入った。部屋はいい香りで満たされ、和風の可愛らしい置物や雑貨がある、いかにも女の子らしい部屋だ。
「ほら、そこに座ってよ? 立ったままだと疲れるし」
「じゃあ……」
一夏は、指定された目の前の柔らかそうなクッションに腰を下ろすと、深呼吸をして彼女にこう言った。
「さっきは、知らなかったとはいえ悪かった。仮に知っていても無意識に俺ってやっちゃうからさ?」
自分は大層なおっちょこちょいだと改めて比奈に詫びた。
「いいよ? もう気にしなくても?」
「で、でも……」
「んもう、クヨクヨしちゃだめだよ? 気にしてなんてないから、そんなことで一夏ちゃんを嫌いになんてならないよ?」
ニコニコしながら、比奈はそう言ってくれた。 
「じゃ、じゃあ……別にお詫びといっちゃ何だけど……明日、暇かい?」
「え? うん、特にないよ? 神社のバイトも明後日までお休みだから……」
「じゃ、じゃあ……明日、メガロポリスで買い物でも……どう?」
「え!?」
顔を真っ赤にして比奈は驚いた。
「あ、都会が嫌いだったよな? ゴメン、どこか別のところへ行くか?」
「い、いい……よ? 一夏ちゃんとなら、どこへ行っても楽しめそうだし?」
「わ、わかった! じゃあ……明日の朝から出かけような? な、何かほしいモンあったら買ってやるから……じゃ、じゃあ、お休み!」
ハラハラしながら、一夏は彼女の部屋から出て行った。そして、一夏が出て行ったしばらく経った後、比奈は大はしゃぎでベッドにダイブした。
「一夏ちゃんとデートだぁ~……!」
傍にあったぬいぐるみを抱きしめてベッドの上でジタバタしながら喜ぶ。
「どこへ行くんだろう……公園かな? それとも……遊園地なんて勿体ないよ~!」
その興奮状態は止まず、今夜は中々寝付けずにいた。明日が楽しみでいてもたってもいられない比奈であった。
……しかし、明日はIS学園のヒロイン達も臨海学校の準備のためにメガロポリスへ買い物に行くことを、一夏は知らずにいたのだった……

 
 

 
後書き
予告

狼「今日は、弥生に買い物に誘われちまった……どうしよう!?」
比奈「一夏ちゃんにデートの御誘い受けちゃった……どうしよう///」

箒「な、何故……あの者が、一夏と!?」

次回
「知らぬが仏?」


                       
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