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笑顔も贈りものも

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2部分:第二章


第二章

「別に」
「別にって。また?」
「またいつもの引っ込み思案!?」
「全く」
 皆その彼女の言葉を聞いてやれやれといった感じで肩を竦めるのだった。
「そんなのだから地味なままなのよ」
「もっと明るくはっきりいったらいいのよ」
「笑顔でね」
「私は別に」
 それを言われても大人しいままの彼女だった。
「それは」
「それは、じゃなくてね」
「顔もそんなに悪くはないし」
「というか地味過ぎるだけでね」
「雰囲気は暗いけれど」
 それでも素は悪くないと。皆は見ていた。
「それに成績優秀だし」
「別にそんなおどおどしてる必要もないわよ」
「しっかりしたら?」
 皆そんな彼女の背中を押すようにして言うのだった。
「わかったわね」
「もっとしっかりしなさいよ」
「どーーーーんといってね」
 一人がこんなことを言ってきた。
「前に出てね」
「一気に出てよ」
「人間思いきりも大事よ」
「そうなの」
「まあとはいっても」
「私達はね」
 ここで周りは一呼吸置いてきた。そのうえでの言葉だった。
「別に何もしないから」
「あくまであんたが前に出なさい」
「自分でね」
「自分で前に」
 それを聞いてであった。まずは静かに呟く敦子だった。だがだからといって何かをする訳でもなかった。やはり動かない彼女だった。
 しかしだ。周りの言葉は確かに届いていた。そうしてだった。
 その秀典を見る。その彼は確かに眩しいまでだった。
 笑顔もいい。クールな面持ちだがそれでもだ。笑うと実に晴れやかである。その笑顔を見ているだけで敦子も何か幸せになるかの様だった。
「やっぱり」
 その彼を見て呟くのだった。
「凄くいい人」
 それはよくわかった。しかも彼は顔や外見だけではなかった。
 性格も温和で親切であった。意地悪や悪口とは無縁で人を害するようなことはない。しかも謙虚で告白を断る時もそうだった。
「断られたけれど」
「それでもね」
「それはね」
「納得できるし」
「ショックだったけれど傷つかなかったから」
 いいという彼女達だった。
 そしてだ。中には何度も告白する娘もいた。しかしその彼女達も傷つけることはなかった。秀典とはそうした人間だった。
「つまりあれなのよ」
「いい人だから余計にね」
「好きになるのよ」
「そうよね」
 まさにそういうことだった。
「ああいう人もいるのよね」
「顔だけじゃなくて心もいいっていう人ね」
「天は二物を与えてくれたわね」
 顔がよくても性格が悪くてはどうにもならない。性格はやがて顔に出て来る。そしてやがて顔も悪くなっていくものである。人相が変わるからだ。
「それだから」
「いいのよね」
 そうした彼だった。敦子はそんな話を聞いて秀典にさらに興味を持った。やがて他の女の子達と同じようになってしまったのであった。
「中村君って」
「おやっ、これは」
「恋の芽生え?」
 周りは敦子がぽつりと言ったのを聞き逃さなかった。
 
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