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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第3話 誑かす者

 「見ー付け、たーー――――」
 「おはような、ユキ」

 翌日に、士郎が登校中に小雪が奇襲じみた目元を隠すように驚かせようと仕掛けたが、目の良さと気配で既にバレており、逆一瞬の内に背後に回られてから逆襲を受けた。
 逆襲を受けた小雪は、嫌がりながら自分から士郎の手を外して距離を取った。

 「むー、今日も駄目だったかー」
 「そりゃな。あれだけ主張の強い気配があるんだから、気付けって言ってる様なものだぞ?」

 小雪は、言葉自体は拗ねている感があったが、何時もの事なので落ち込んでいる気配も無い。

 「いいよー、次こそは成功させるから!」
 「ハイハイ、そう言えば2人は?というか、鞄は如何した?」
 「トーマとボクは先に学校行ってたけど、ジュンを迎えに来たらシロ兄を見かけたから仕掛けたくなったのだー!で、肝心のジュンは―――」
 「後ろか」

 小雪に指摘される前に振り向くと、準が走って来た。

 「おいおいユキ、いくら士郎さんが見えたからって、俺を置いてくことないだろう?」
 「だって今日こそはって思ったんだもん!失敗したけどさー」
 「まぁまぁ、ユキも悪気があった訳じゃ無いんだし、許してやってくれ」
 「そうすっね」
 「2人とも早く行こうよ!じゃないと遅刻するよー!」

 いつの間にか自分達から離れた所で自分たちを呼ぶユキの姿に、2人とも見合って苦笑してから動いた。
 その時士郎は遠くから見逃さなかった。
 百代が武道家を倒したにも拘らず残念そうに気落ちしている所を。
 直に気を紛らわせるように登校を再開させるが、確実に寂しそうな顔だった事に。

 「戦闘狂っていう性質も大変だな」

 準とユキに聞こえない位のボリュームで、ぽつりと呟いた。


 -Interlude-


 「今日は遅かったな、衛宮」

 無事間に合った士郎は着席するなりクラスメイトである着物姿の友人、京極彦一に声を掛けられた。

 「まぁな。ちょっとした野暮用で朝からドタバタしてたんだ」
 「そうか」

 2人が話している時は、3-Sの女子生徒達が騒ぎ出す。

 「京極君と衛宮君が話していると絵に成るわよね~」
 「いっそもっと顔を近づけて、見つめ合ってくれないかしら!」
 「今年も京極君×衛宮君は鉄板だわ!!」

 会話の内容から察するに、如何やら腐女子達のようだ。
 イケメン四天王(エレガンテ・クアットロ)の1人である京極と、川神学園の中でもトップクラスの高スペックに、そこそこイケメンで性格良しの士郎をBL的な標的にしたがる節を持つ女子生徒達だ。
 3番目の生徒に至っては、本人たちには内緒で薄い本でも出版させているのだろう。
 そこへ、また1人遅刻せずに登校してきた男子生徒が来て、士郎の真横の席に座った。

 「おはよう!京極に衛宮!!2人とも何話してるんだい?」
 「いや、大した事じゃないんだがな――――」

 士郎達に話しかけてきた男子生徒の名は、相沢和良と言う士郎同様にそこそこイケメンで士郎には及ばないモノの中々のスペックに善良な性格の持ち主だ。
 3-Sが誇る3大イケメンズが勢ぞろいした事で腐女子達だけでなく、普通の女子生徒達も教室の内外問わずに騒ぎ出した。
 しかしある女子たちだけが、寧ろ相沢和良に冷え切った視線を送っている。
 中には、血が出るなんてお構いなしな位に唇を噛んでいる者まで居る始末だった。


 -Interlude-


 午前の授業を終えてからの昼休み。
 昼食を持参していない者たちは食堂へ行くのだが、1年~3年のS組は基本的に持参が多い。
 勿論士郎も持参で、何時もの様に食べようとする所である事に気付いた。

 「あれ?相沢は?」
 「む、確かにいない様だがそれが如何かしたか?」
 「あの後一緒に昼食でも食べようと誘ってきたんだけど・・・まぁ急用でも出来たんだろ――――」
 「シロ兄!」

 そこへ、廊下から小雪が士郎目掛けて飛び込んできた。

 「アレ、ユキ。如何した?」
 「シロ兄と一緒に食べようと思って!」
 「2人と別行動か?」
 「準はそこ!」

 小雪が指さしたのはどの教室にもあり、放送が流れるスピーカーだ。
 そのスピーカーからメロディーと共に準の声が聞こえ出した。

 『ハァイ、エブリバァディ!春と言えば恋だよね――――』
 「井上は放送委員だったか」
 「じゃあ、冬馬は?」
 「何か法廷があるとか、よく解らないこと言ってたよ」
 「陪審員でも選ばれて早退したのか?」
 「さぁ?」

 兎に角、今小雪は1人で行動していた事だけは理解出来た。

 「なら一緒に食うか?」
 「そのつもりなんだけど、ボク早弁したから無いんだ!」
 「それで衛宮に集りに来たと?」
 「うん!」

 皮肉で言ったつもりではないが、こうまで笑顔で返されると流石の京極も苦笑したくなった。
 だが士郎はもう1つの弁当を取り出した。

 「こんな事もあろうかと、毎日予備の弁当は作ってる」
 「初めて聞いたよそんな事!?それって無駄になるんじゃない?」
 「別に今迄無駄になった事は無いぞ?クラスの誰かがいつも食べるからな」

 言葉通り、毎日士郎の予備の弁当を賭けて、クラスの半分以上の生徒達がジャンケンによる熾烈な争いを繰り広げていた。
 何せ士郎の手料理の味のレベルは世界トップクラスだ。幾らいい所の家出身が集まるクラスと言えど、毎日最高級の料理を味わえるワケないので飛びつきたくもなるのだ。
 とは言え、今日の予備の弁当は問答無用で小雪が食べるわけだ。
 この事実に、毎日士郎の予備の弁当を狙っていた生徒たちは、一斉に落ち込んだ。
 しかし当の3人は明るく昼食をし出した。


 -Interlude-


 川神学園は、非公式ながらも相応の人数が集う集会が2つある。
 1つは『魍魎の宴』と言う、キモイ、ダサい或いはフラれた経験がある男子生徒及び男性教諭のみ参加資格のあるモテナイ男たちの闇の集会がある。
 トップである童帝こと育本福郎が盗撮紛いの行動でとってきた写真や、使い捨てられたゴミ(グッズ)をオークション形式で競売にかけている。
 一応、他のも内容は有る様だが基本的に上記の事がほとんどだ。
 そしてもう1つは『衛宮士郎様愛好会』で、読んで字の如くである、士郎の事が好きで好きでたまらなくなる位に好きなメンバーで構成されている。 
 愛好会などと付いているが、士郎の事が好きな女子生徒達が牽制しあっていく内に出来た集会だ。
 しかしこの集会の会長及び副会長の2人は男であり、ガチで士郎に抱かれたいと思っている男子生徒達だった。
 何と副会長は葵冬馬である。
 そして栄えある会長職に付いているのが・・・。

 「被告人の相沢和良は前へ」

 此処はとある空き教室に『衛宮士郎様愛好会』の、メンバーの一部の十数人ほどが集まっていた。
 そして中心に相沢和良が立たされている。

 「被告人の罪状は会長職の職権乱用を元に、席を衛宮士郎様の真横へと操作した事です」
 「異議あり!アレは学級委員長の決めた事によるくじ引きの結果であり、俺は何もしてないぞ!」
 「ならとっとと衛宮士郎様の席から離れなさいよ!」

 他の女子生徒からも、そうよそうよと言う非難の声が上がった。

 「ふざけないでくれ!そんな事言えるわけないだろ!俺は別に視力が悪いとか寒がりとかじゃないんだ。身勝手な理由じゃ離れられるか!」
 「建前で装ってるんじゃないわよ!ただ相沢会長は、衛宮先輩から離れたくないだけでしょう!」
 「それが如何した!例え俺は会長職から辞されようとも、士郎の横から離れるつもりは無い!」

 ぎゃあぎゃあと言い合う愛好会メンバー。
 相沢和良は、この川神学園に入学した時はまだノーマルだった。
 そこで少し話が逸れるが、よく運動神経抜群な運動部に所属する生徒は喧嘩も強いと思われがちだが、全員が全員強い訳じゃ無い。
 そして相沢和良もその1人だ。
 まだ彼が高1の時に不良に絡まれていた所を、士郎に助けられた。その時に葵と同様に士郎に憧れじみたよく解らない感情に襲われたそうだ。
 その日から、士郎を無意識に追うように視界に入れ続けて気づいたのだ。

 「そうか、俺は衛宮に恋をしてるんだ・・・」と。

 そんな非常識の思いに戸惑わずに、相沢は士郎を友人でも同級生でもなく異性のような目で見続けていったのである。
 そうして今に至る。
 しかし相沢は知らなかった。
 今日から数えて約1ヶ月半後、彼の栄華は1日で消えゆく事に。

 因みに、この裁判長は冬馬だった。


 -Interlude-


 士郎は、藤村組の仕事をたまに手伝っている。
 それが冬木や川神の夜の見回りだ。
 とは言っても、この2つの市の全域を1人で見回る訳では無く、十数人がエリアごとに見回りをしている。
 士郎が今日任されたのは川神市の親不孝通り近辺だ。
 それにしてもいくら信頼があるからと言って、未成年の士郎に親不孝通りを担当させるのは如何なものかと問いたいものだ。
 しかし当の士郎は気にした様子も無しに見回りを続けていく。

 「おっ!」
 「あ」

 声の方に振り替えると、宇佐美代行センターの社長兼川神学園人間学の教諭である宇佐美巨人と、同じく宇佐美代行センターの社員兼川神学園2-F生徒の源忠勝の2人が居た。
 士郎は気配で気づいていたので特に驚きも無く挨拶する。

 「こんばんわ、宇佐美さん(・・)

 以前は放課後であろうと敬語を使っていたのだが、本人である宇佐美巨人が堅苦しくない方が良いと言う希望により、ため口とまでは行かないまでも親しい叔父のような対応に変えたのだ。

 「おう!衛宮。今日の此処の担当はお前だったのか」
 「ええ、忠勝も何時もお疲れさん」
 「いえ、衛宮先輩もお疲れ様っす」

 士郎の労いに相変わらずと言えるような仏頂面で返す忠勝だが、それが彼の照れ隠しだと宇佐美は気付いていた。何もツッコまないが。

 「年なんて1つしか離れてないんだ。学校じゃないしため口聞いてくれていいんだぞ?」
 「いえ!そう言うわけにはいかないっす。衛宮先輩に対してそんなこと、畏れ多いですから」

 そうか?と士郎は返す。
 言うまでも無く士郎は過剰なほどに謙遜するので、自分が周りからどれ程凄いと思われているのかにも気づいていないのだ。
 宇佐美はそれにも気づいていたが何も言わなかった。

 「そう言え――――」
 『誰かーーーー!』

 そこへ、各店のキャッチセールス員などを押しのけて、肩もはだけたピンク色を基調とした私服に身を纏う少女――――2-Fの小笠原千花が走って逃げて来た。

 「ん?」
 「小笠原千花さん・・・・・・だったかな」
 「何で知ってるんだ、衛宮」
 「それは学校で見かけた事があるからですよ。・・・・・・っと、大丈夫か?」

 真正面から突っ込んできた小笠原千花を、士郎は自分をクッションにして優しく受け止めた。

 「えっ、あっ、はい・・・・・・って、もしかして衛宮士郎先輩ですか?」
 「ああ、俺だ。それで、如何したんだ?」
 「そ、それが――――」
 「オイオイ!逃げるこたぁねぇだろうよ、嬢ちゃん!」
 「俺達とイイ事しようぜ!」
 「ゲヒヒヒ」

 人混みをかき分けて、体格の良さそうなプロボクサー崩れを先頭に、げすい笑みを浮かべ続ける3人組が近づいて来た。
 その状況を瞬時に把握した士郎は、彼女を庇う様に前へ立つ。
 それに対して、崩れの巨漢はドスの聞いた声を唸らせながら近づいて来る。

 「オイオイ、坊主。痛い目見たくなきゃとっととけぇんな」
 「見逃してやるからよ!」
 「ゲヘヘヘ」

 それに対して士郎は溜息を吐いて呟いた。

 「群れないと何もできないのか愚図共が・・・」
 「餓鬼が・・・!見逃してやろうと親切心で言ったつーのに、馬鹿野郎だな!」

 巨漢の崩れのストレートは、まるで避けるそぶりも見せない士郎の鳩尾に入った。
 この事に口ほどにも無いと言いたいのか、連れの2人がさらに笑いを漏らし、巨漢も笑った。

 「ガッハハハハ!だから言ったじゃ――――」
 「もう終わりか?」
 「んな!?」

 殴った腕を引くと、士郎はけろりと別段苦しくもなさそうだった。

 「そんな馬鹿な事があるかよォオオオオオオ!!」

 自分の力に自信を持っていた巨漢は、両手で士郎の顔、肩、腹などを十発ほど殴りつけていく。
 そして肩で息をしながら両腕を引いても、士郎はまるで動じていないのか、つまらなそうな目線を向けたままだ。

 「今度こそ終わりか?アンタの拳は蚊にも劣るな」

 この現実に、顔を真っ赤に染めて額に何棒もの血管を浮き上がらせている巨漢は、怒りと羞恥に貌を彩られていた。
 そうして自分の力の前に倒れない士郎に対してしびれを切らしたのか、懐からナイフを取り出した。
 この事に流石に不味いのではないかと、小笠原千花は不安になっていたが、宇佐美巨人と源忠勝は別段心配する事も無く何もしようとも思わなかった。

 「こぉの!クソ餓鬼がぁああああああ!!」

 巨漢は士郎目掛けてナイフを突きだしたが、士郎はそれを裏拳で刃だけを上に飛ばした。

 「は!?」
 『え・・・』

 何が起こったのか理解できない3人だったが、上に飛んだ刃が落ちてきたのを士郎がキャッチして見せるように持つと、そこでやっと気づいた3人は震えあがる。
 しかしこれで終わりでは無い。
 その刃を掌の中に入れてから力を入れると、あら不思議。手の力を僅かに緩めると下に落ちたのは刃の原形を留めていない鉄製の粉の様な粒だった。
 それらが全て地面に落ちると、掌の中にはもう何もないと見せるようにぐーぱーぐーぱーと手を動かす。

 『ヒィイイイイイイイイ!!?――――――――ガッ』

 まるで化け物に遭遇したかの様に震え上がるも、一瞬の内に背後を取られた3人は首に手刀を当てられてから敢え無く意識を刈り取られた。
 それを小笠原千花は茫然と見ていたが、宇佐美巨人は皮肉気に言う。

 「衛宮、お前ホントは川神百代より強いんじゃねぇのか?」
 「この程度の相手なら川神はしょっちゅう懲らしめてると思いますよ?それに如何でしょうね?戦った事は無いし、これからもやりたいとは思えませんね」

 士郎は小笠原千花に近づきながら苦笑する。

 「確か君は小笠原千花さんだったよね?」
 「え!あっ、はい!助けてくれてありがとう御座いました!」
 「お礼は受け入れるけどその前に・・・・・・如何してこんな時間帯でこの周辺をうろついてたんだ!もし俺達が居なかったらどうなってたか解ってるのか!」

 説教が始まった。
 この事に、全て士郎の言う通りだと小笠原千花は素直に説教を受け続けていた。
 しかしこのままでは話が長くなりそうだと思い、宇佐美巨人が止めに入る。

 「衛宮、正論だとは思うがこんな処でこれ以上説教しても、あまり宜しいとは言えないと思うぜ?」
 「んん、そうですね。――――それじゃあ、これに懲りたらもうしない様に!」
 「はっ、はい!すいませんでした!」

 本心からの謝罪と受け取った士郎は、一息ついてから宇佐美達に言う。

 「忠勝たちはもう仕事終わりだよな?」
 「そうっすけど・・・」
 「よく分かったな」
 「2人の気の昂ぶりや静まりからの推測ですよ。それでですね、彼女――――小笠原千花さんを送ってもらえますか?俺はコイツらを警察に引き渡してから見回りの続きがあるので」

 警察に連絡するために、スマホを片手で操作しながら士郎は頼み込む。

 「その程度ならいいぜ?」
 「でしたらお願いします。宇佐美先生(・・)
 「それじゃ、失礼します」
 「ああ、お疲れ。・・・・・・警察ですか?私は――――」

 士郎は片手間で宇佐美達に挨拶しながら警察に連絡を取った。
 その士郎に、小笠原千花はもう一度深々と礼をしてからその場を離れて行った。


 -Interlude-


 親不孝通りから離れた3人は、士郎の頼みにより小笠原千花の自宅に向かって行った。

 「あのー、源君。衛宮先輩って、やっぱり凄いの?」
 「見た通りの筈だが?噂位も聞いてるんじゃねぇのか?」

 忠勝は、小笠原千花の質問に仏頂面で答える。
 そんな2人に宇佐美が言う。

 「小笠原、それに忠勝も覚えておけ。この世の中で、衛宮みたいなタイプこそが一番敵に回すと恐ろしいんだぜ?普段は温和だからこそ、一度逆鱗に触れると、もう説得は無理だ」
 「それ位重々承知だぜ」
 「わ、わかりました」

 宇佐美の言葉にそれぞれらしい言葉で受け取る。
 その後自宅に送り届けられてからシャワーを浴びて就寝しようとするところで、千花はふと士郎の事を思い出した。

 「親でもないのにあんなに真剣に怒ってくれるなんて・・・噂通りなんだ。衛宮先輩」

 自分の事を心配してくれたからこそ、本気で叱ってくれた士郎の顔を思い浮かべる。

 「衛宮先輩か・・・。同年代の男って誰も彼もガキに見えるけど、すごく大人って感じだったな」

 暴漢たちから逃げた所で、自分を優しく受け止めてくれた士郎を思い出す。
 そして――――。

 「高レベルのスペック過ぎて諦めてたけど、本気で狙ってみようかな」

 何時もの様に誑かしたのであった。 
 

 
後書き
サブタイトルつけた方が良いですかね? 
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