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ソードアート・オンライン -旋律の奏者-

作者:迷い猫
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アインクラッド編
74層攻略戦
  久方振りの共闘を 04

 「それにしても君、いっつも同じ格好だね」
 「う……い、いいんだよ。 服にかける金があったら、少しでも旨い物をだな……」
 「その黒ずくめは何か合理的な理由があるの? それともキャラ作り?」

 心渡りの対処法を考えていたはずの2人は、いつの間にかそれを放置して、ついでに僕たちも放置してそんな話しをしていた。 彼らの後ろを歩く僕たちからすれば、あの空気はなんだか侵し難い。
 一応フィールドなので、索敵による警戒は続けているけど、2人の間に流れる空気は非常に緩い。 まあ、それだけは僕たちに言われたくはないだろうけど。
 何しろ、2人が前を歩いてくれていることをいいことに、僕の右手とアマリの左手はガッチリと繋がれている。 しかも互いに武器すら出していない。 緩い空気と言うなら、これもそうだろう。 と言うか、僕とアマリにとって、圏内だろうと圏外だろうと変わりなくデートなのだ。
 もちろん、デートだからと言って警戒は怠らない。 キリトが索敵スキルを発動してくれてはいるけど、僕もまた、索敵スキルを発動していた。

 だからだろう。 僕とキリトは同時にあることに気付き、そして同時に歩いてきた方向に振り返った。
 アスナさんが怪訝そうな声でキリトに話しかけているけど今は無視。 それよりもそのまま視線を集中させると、すぐに幾つかのカーソルが点滅した。

 カーソルの数は12。 色は全てグリーン。
 即座にメニューウインドウを開いてマップを表示させると、綺麗な二列縦隊の一団がこちらに向かっていることが分かった。

 その並びを見る限り、他の攻略組の可能性はあまり高くない。
 あまり大所帯でフィールドを行軍すると戦闘の際に連携が難しくなるため、攻略組はパーティー上限の6人以上で移動したりはしないし、腕に覚えがあるからこそここまで整然と並んだりはしないだろう。 かと言ってカーソルの色がオレンジではなくグリーンであることからもPKの一団と言う可能性も限りなく低い。 何より奴らは弱者を襲うことに快楽を見出しているクズなので、攻略組の主戦場である最前線に来ることなんて殆どない。

 「あはー、どうするですかー?」

 可視状態にしておいたマップを覗き込んだアマリが、まるで緊張感のない様子で言う。
 別にこのままここにいてもいいし、無視して進んでも問題はない。 遭遇したからと言って不都合があるわけでもなければ、たとえPK集団だったとしても丁重におもてなしすれば良いだけの話しだ。 もちろん、約束した2人の手前、殺したりはしないけど、麻痺させて放置するくらいはさすがに文句を言いはしないだろう。

 ただ、なんだか気になるのも確かなので、キリトに視線を投げた。

 「どうしよっか?」
 「一応確認したい。 その辺に隠れてやり過ごそう」
 「そうね」
 「了解ですよー」

 どうやらキリトも気になっていたようで、手早く指示を出してくれた。 アスナさんとアマリが返事をしたのを見て、まずはキリトが、その後に僕たち3人が続いて土手を上がる。
 道を見下ろす位置にちょうど良い茂みがあったのでそこに身を潜めると、僕とアマリはさっさと隠蔽スキルを発動させた。

 これで向こうからは見られずに済むだろうと楽観的に考えていると、少し離れた位置に身を潜めたアスナさんが困ったような顔をしていたので声をかけてみる。

 「どうしたの?」
 「……着替えを持っていません」
 「ああ、それだと目立つもんね。 んー、ねえキリト」
 「分かった」

 呼ばれただけで瞬時に僕の要求を察したキリトが、その真っ黒のボロコートの前を開いてアスナさんの身体を包み込んだ。 黒系統の装備はそれ単体で隠蔽効果がある場合が多く、キリトのコートもそこに含まれる上、装備者が発動する隠蔽スキルの効果をブーストしてくれる優れものだ。 アスナさん自身は隠蔽スキルを持っていないと思うし、そもそも装備者でもないのでその恩恵は受けられないけど、それでもあのコート自体にある隠蔽効果で見つかることはないだろう。

 それにしてもキリトも大胆なことをするものだ。 殆ど抱きついているのと変わらない体勢になることに躊躇いがない。
 もっとも、キリトの場合はそう言う思考に到達していないだけだろうけど。 アスナさんさんはしっかり意識しているようで、顔を真っ赤に染めながら、それでも嫌がる素振りすら見せない辺り、やっぱり恋する乙女らしい。

 「あはー、あれで付き合ってないって言うから驚きですねー」
 「だね。 ただまあ、キリトが鈍感すぎるだけだと思うけどね」
 「あそこまで鈍感だとお姉ちゃんが可哀想です」
 「それも同感」

 状況に似合わない緊張感皆無のやり取りの間に例の一団が可視範囲に入って来たので、どちらが言うでもなく押し黙る。

 現れたのは黒鉄色の金属鎧で身を固めたプレイヤーたちだ。 片手剣と盾を装備した6人と、その後に続く斧槍を装備した6人との一団。 全員が同じ濃緑の戦闘服を着ているので、その正体は簡単に分かった。

 アインクラッド解放軍。 プレイヤーの間ではそのまま『軍』とも呼ばれるSAO最大規模ギルド。
 25層のボス攻略戦で甚大な被害を被った軍は、元々の拠点だった1層に引っ込んで低層フロアの治安維持に尽力している。 その一環としてオレンジプレイヤーの捕縛を担ってもいて、厳密に言えばオレンジプレイヤーではないけど、過去に殺人を犯した僕は軍の部隊に追われたりもした。 攻略組に復帰した際にその辺りのことは精算されたとは言え、今でも軍の要注意プレイヤーリストに僕の名前があるとか。

 「やれやれ、噂は本当だったわけか……」

 12人全員が索敵範囲から脱したのを確認して、僕はそう呟いた。

 軍の一部がボス攻略を狙っていることは、不確定情報として既に知っていた。 曰く、ボス攻略に尽力しない軍に低層プレイヤーたちから批難が噴出しているらしい。 アインクラッド解放軍と名乗りながら、実際に解放のために戦っているのは攻略組なのだから、彼らの主張もそれなりに正しいだろう。
 もっとも、自分は安全な低層に引き篭もっておきながら何を偉そうに、とか思わなくもないけど。

 閑話休題。

 問題は、軍のプレイヤーたちのレベルが、果たして最前線に通用するのかどうかだ。
 追われる身だった僕は、当然の用心として軍の幹部たちやトップレベルのプレイヤーの情報、あるいは内情についての情報収集を怠ってはいない。 それは、追われる身ではなくなった今でも変わらずに続けている。 軍が僕を要注意プレイヤーとしているように、僕からしても軍は要注意の存在なのだ。
 現在の軍のギルドマスターはシンカーと言う名の男性プレイヤーで、その副官にユリエールと言う女性プレイヤーがいる。 ただ、どちらも戦闘を至上命題にしていないのでレベルはそこまで高くない。 軍で最高レベル保持者は、こちらは因縁深い名だけどキバオウ。 彼が72で、その配下も70前後だったはずだ。
 階層攻略の安全マージンが階層+10を目安にしていることからも、ここ(74層)は明らかに無理がある。

 それでもやらなきゃいけないと言うことは、彼らも余程切羽詰まっているのか、あるいはただの自殺志願者か……。
 たとえどちらであろうとも、またどちらでなかったとしても僕がどうこう言う理由はないので止めるつもりもない。

 「さて、僕たちも行こっか? 連中に遭遇したら面倒だけど、まあなんとかなるでしょ」
 「おおー、珍しく楽観的ですねー」
 「他人事だからね。 それに、彼らもまさか圏外で僕をどうこうしようなんてしないよ」

 クスリと笑って僕は言う。

 「命は大切だろうからね」 
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