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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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24話 ティターンズの新鋭 UC0086.1.5

 
前書き
*ちょっとマウアーの出番は後回しにしました。 

 
* ヨーロッパ ベルリン基地 1.5 10:00


この頃になると、ティターンズの地球至上主義が前面に現れ、各地での連邦政府与党の強引な手法に抵抗する市民の弾圧が地球内外で勃発していた。

コリニー自身も政界に転じ、中立派のゴップ議長を抱え込み、与党第一党としてスペースノイドへの圧政と地球上の貧困層への負担、富裕層向けの政治を主導していた。

それに対抗する議員とすれば野党のジョン・バウアー、ガルマ・ザビ、ブレックス・フォーラ、ローナン・マーセナス等だった。彼らは各々のネットワークで各々の手法で戦っていた。

バウアーはカーディアスとパイプを持ち、来たるべく災厄に待ち構えながらもティターンズのやり方を批判。ガルマはスペースノイドとの融和での対立の上でハヤトのカラバに支援。

ブレックスもガルマと同様で反地球連邦軍組織エゥーゴの指導者。ローナンはやり方の批判はすれど、敢えてティターンズには直接的な関与はしなかった。

ティターンズの若き士官のジェリド・メサ中尉はベルリン基地での地球重力下実験で同期のカクリコン・カクーラー中尉、そしてエマ・シーン中尉と共に赴任していた。

重力下でのティターンズの最新鋭量産機バーザムの実験をこの基地で行われていた。近隣のフランスでダグラス率いる反連邦組織部隊がティターンズの基地を制圧してはこちらに向かっている状況をジェリド達は聞いていた。

ダグラス大将麾下の精鋭部隊は7年前の戦いからの兵士構成で、テネス大佐、キッシンガム少佐、ウォルフ中佐、サミエック中佐と聞くと粛正部隊と恐怖されるティターンズでも怖気づいてしまう。

そして彼らの操るジムⅢはジム、ジムⅡを経た量産機での最新鋭だった。それに為す術なく少数ながらも敗北を期していたティターンズ首脳部はジャミトフ大将を筆頭に最新量産機の着手を始め、ジムⅢの性能に上回ると目されるバーザムを作り上げた。

ジェリドがカクリコンとその機体を眺めていた。

「乗ってみてどうだった?」

ジェリドがカクリコンに尋ねた。カクリコンは少し笑みを浮かべていた。

「ああ、いいぞ。ハイザック、マラサイ、ガルバルティと経てきた機体だ。ガンダムの流れも組み込まれている。ジムとは違う規格だから、あのジムⅢに対抗できるはずだ」

「そうか。ジム系は地力勝負だからな。小細工を凝らしたマラサイ等だと器用さだけでジリ貧になる」

「ジェリドの言い分は良く分かる。ジム系には芸がないがそれが短所で長所だからな。機動性能を上げると制御が難しいやら、そういう難点を無くして平均的に伸ばしてきた機体と違って、癖がある我々の機体はそこが運用が難しい」

「だが、それを活かせればジムなど問題ではない」

ジェリドがカクリコンに向かって胸を張ったが、カクリコンが一笑した。

「フッ、だから言っている。癖があると。今も尚、地球圏を制し切れないのもその癖とそれを扱う者の熟練の無さが物語っている」

ジェリドはカクリコンの話に言葉を詰まらせた。言い返せない自分が悔しかった。ティターンズも様々な戦線に地球圏統一の為、部隊を派遣していた。あの3年前のコリニーの政界転身、ジャミトフのティターンズ総帥の就任と地球連邦軍の最大派閥のトップとなった。

現在の連邦軍はすぐさま始まった内紛とジオン軍との争いにより、軍としての回復が果たせていなかった。それに加え、圧政により治安が悪化し、それを弾圧するティターンズ。手が届かない地域は地球、宇宙問わず無法地帯と化していた。

現在の正規軍はティターンズだった。しかし、そのティターンズもルナツーとソロモン、サイド7の宙域と地球内ではジャブローとヨーロッパの半分、アジア、アフリカを部分的に管理統治するのみだった。

それだけ軍縮から脱することができずにいた。それ以外の地域は各々の自治体任せ、若しくはエゥーゴ、カラバの管理下にあった。

ティターンズはジャミトフ・ハイマン大将が連邦軍主席として占め、次席に実戦司令官バスク・オム中将、パプテマス・シロッコ中将、宇宙方面でジャマイカン・ダニンカン大佐。地球方面ではベン・ウッダー准将が指揮を取っていた。

ティターンズはジャミトフが特権意識を部隊内に広めるため、所属している士官は現在の地位より1階級上の扱いとした。ティターンズに組する軍高官内でも増長に危険視した者たちがいた。そのためジャミトフの元帥位の就任を嫌った。そのためジャミトフは自身の実質的な元帥位就任と選民意識を高めるためにそのように取り計らった。コリニーの後援もあった。

コリニーにせよ、ジャミトフにせよ、思想としてはギレンの考え方に近かった。一旦地球圏は均した方が良い。そこから地球圏の再生を目指す。

この頃、各勢力の思想は大体統一見解を示していた。地球再生と宇宙移民政策。その手法がギレンとコリニー、ジャミトフ、シロッコが総人口の間引き。それに反対するブレックス、ダグラス、ガルマ、バウアー、ゼナ。強引か柔和かの違いだった。

それにしても、7年間戦争状態にある市民は厭戦気分が最高潮に達していた。中には絶望を覚える人たちが増えていった。ジェリドも各地へ治安維持と言う名の弾圧に出向いていた。

最初は特権の下、逆らう者をアリの様に踏みつぶす気分に優越感を感じていた。しかし、昨今おかしいと感じてきた。それは弾圧しにいった地域の市民が無抵抗、むしろ無気力だった。

生きることへのストライキ。街が死んでいた。各地から現体制に反抗する情報が入って来ていた。納税をしない市民が逆らっていると言う理由での反抗がティターンズになんとかせよと言う指令が下りてきたため、ジェリドたちは市民をいつも通り圧力で従わせようとしていた。

それが何をされても従うどころか無抵抗、無関心だった。ジェリドはその事に異質を覚えた。

「なあ、カクリコン」

「なんだ」

「先の治安維持の活動のことだが・・・。アレは我々の活動以前に何か問題があるのでは」

カクリコンはジェリドが言わんとすることが分かっていた。それについて私見を述べた。

「あんまり考えることはないさ。オレら特権士官と言えども一兵卒。恵まれた環境にいるのだ。奴らは言わば負け組さ。政府は負け組を一掃して、世界をスッキリさせたいと考えているらしい」

「それは・・・、何と言えばよいか・・・」

「お前だって、圧力で人を屈服させることに優越感を感じていたんだろ」

ジェリドはカクリコンの話に自分のした行為とその感情を思い出し、そうだと思った。

「オレなんかは仕事だと割り切っている。しかし、普通のひとのやることではない。オレらは人をゴミのように扱っている」

「カクリコン!」

ジェリドはカクリコンがティターンズの行為に苦言を呈したことに注意を求めた。カクリコンは笑い、手を挙げてジェリドに謝罪した。

「ハハハ、悪いな。まあ、オレの伝えたいことはそう言うことだ。組織は人を都合よく使うということさ。今ターゲットにされているのはあのような負け組だ。それがいつ自分の身に降りかかるか分からないということだ」

ジェリドもカクリコンの話を理解しない訳ではない。ただ特務部隊に所属する自分の立場を否定する訳にはいかなかった。しかし、この異質を考えない程ジェリドも人として正常であった。

「オレらは仕事のためにやることはやる。それが任務不能に陥ったとき、どの程度で一定の成果として受け入れられるのかというところが気になるのだ。盗みを働いた者を捕らえる、だが働いていない者を如何にしょっぴくのか?」

ジェリドはカクリコンに向き合って、自分の気持ちを訴えていた。

「抵抗するならまだやりようがある。脅し掛けても無抵抗、無関心と来たものだ。街一つを虐殺するか?いいだろう。オレらの仕事はあくまでやらせることだ。強制をすることだ。

 政府の言う通りに動いてもらえれば解決できる話だ。それができない状況でオレらが仕事ができない。それはオレらのせいではない」

カクリコンはジェリドのもどかしさを感じていた。ジェリドも現体制の問題を知っている。弾圧のし甲斐が無い相手をすることほど苦労なことはない。強制しようがないからだ。あくまで強制の効果は結果やらせることにある。

カクリコンはジェリドを(なだ)めて、仕事に打ち込んで忘れようと伝えた。ジェリドもそれに同意し、バーサムの話に戻した。

ベルリン基地にはベン・ウッダー地球方面軍司令官が視察に来ていた。彼は元々ジャブローを拠点としていた。3年前にダグラス大将の猛攻を凌いだことでジャミトフが地球方面軍司令官に抜擢していた。

基地司令官室にはブラン・ブルターク少佐が多くの書面に目を通していた。その傍でウッダーがカップのコーヒーを飲んでいた。

「ブルターク少佐。バーサムの重力下実験は好調のようだな」

「・・・ああ、見事なものだ。既にデータは製造元へ送ってある。数日後、バーザムの量産が始まるだろう」

ブルタークは一息付いて、椅子の背もたれに背中を預けた。

「ウッダー准将。先のフランスでの戦いで新兵、ベテラン込みで多くの死傷者を出した。全てはジムⅢの性能もさることながら、ダグラス部隊が原因だ。せっかくならば将軍がジャブローの時に仕留めていただけたなら助かったのだが・・・」

ブルタークはウッダーの皮肉を伝えた。ウッダーは一笑して、ブルタークに向かって話し掛けた。

「すまんな。奴らを駆逐するには並大抵の犠牲ではすまない。故にあの時は兵糧攻めにしたんだ」

「ほう、補給線を断った訳か」

「そうだ。あんな歴戦の勇士たちを真向から戦いを挑むなど馬鹿の所業だ。しかし、この基地の兵士は案外馬鹿が多いみたいだ」

ブルタークはウッダーの意見に鼻を鳴らして、不満を漏らした。

「フン。オレもその一人だ。モビルスーツ乗りとしての矜持が許さん。オレのアッシマー部隊が奴らを粉砕してやる」

ウッダーは冷ややかな目でブルタークを見ていた。ウッダーはその回答にホントに馬鹿だと感想を思った。

その日の午後、ジェリド達はバーサムに乗り込み、フランス方面へ斥候に出ていた。少し木々の多い林の地域でその道中、ダグラス部隊の斥候と偶然にも出くわしてしまった。

「カクリコン!エマ!散開するぞ」

ジェリドの掛け声で、ダグラス部隊のジムⅢを囲む様にバーザムが散開した。ジムⅢも3機で斥候に来ていた。ジムⅢは密集隊形を取って、カクリコンの方へ各個撃破するべく向かっていた。

「ぐっ・・・オレが狙われたか・・・」

カクリコンはジグザグで逃げた。ジムもそれに倣い追って行った。しかし、カクリコンの機体はバランサー、ジョイント部共にジムⅢを上回っていた。そのため、旋回スピードに限界が来た1機のジムⅢがバランスを崩した。

「(しめた!)」

カクリコンの追跡をしていたジムの後方を追っていたエマはバランスを崩したジムに対し、ビームライフルで狙撃した。見事命中し、ジムが大破した。

それを傍で見た友軍の2機がその場で立ち止まった。その隙をもジェリドは見逃さない。

「そーら!戦場で止まるのか!」

ジェリドはジムの側面より、ビームサーベルで袈裟斬りでジムを撃破。残りの一体も戻ってきたカクリコンによって狙撃されて、ジム全機が撃破されてしまった。

「ふう。焦ったな」

カクリコンが額の汗を拭うと、ジェリドがモニター越しでからかった。

「おい、カクリコン。額の汗が一段と輝いて見えるな」

「うるせえ」

カクリコンはジェリドと同い年ながらも若干頭髪が心配な青年であった。そのやり取りをエマをクスクス笑っていた。

「ジェリド。前線でホントに呑気ね。少しはカクリコンに見習って緊張しなさい」

エマの忠告にジェリドはふんぞり返った。

「ヘン。このバーサムに掛かれば、こんなもんさ!」

カクリコンはジェリドの自嘲はいつも通りながらも、それに裏付けされる戦闘センスに関心していた。

「(さすが、オレたち同期のエースだ。散開タイミングも戦術もこうでなくては短時間で今まで苦戦していたジムを3機も片づけるなんてできやしない)」

しかし、ジェリドの自信過剰ぶりを心配してかカクリコンはいつも口にはしなかった。
ジェリドはエマとカクリコンに周囲の警戒を促しながら基地へ帰投するように伝えた。

「今日はここまでだ。敵はこの地域まで進軍する気配が分かった。ブルターク司令官に伝えに帰るぞ」

ジェリドらが基地に引き返そうとすると、退路を塞ぐように1機のジムが立ち憚っていた。

「(1機だけか・・・先の斥候の生き残りか?)」

ジェリドがエマとカクリコンに撃墜して戻る事を伝え、3機でそのジムに襲い掛かっていった。
ジムはライフルを構えて、ジェリドに向かって威嚇射撃を行った。

「おっと!」

ジェリドはかすりもしない射撃に少し驚いた。エマとカクリコンも威嚇と知って、怯むことなくジムに近付く。

ジムは近づくジェリド達に今度は狙いを付けて、ライフルを放った。
その狙撃にカクリコンが回避するため、後れを取った。

「カクリコン!」

「大丈夫だ、ジェリド」

編隊が崩れたのを見計らって、ジムは逃走しようとした。それをジェリドとエマが逃がすまいとライフルでジムに目がけて放った。

「逃がすかよ!」

「ええ、逃がさない」

ジェリド達の放った弾道はジムを掠めていった。ジムは木に隠れながらもその射撃を避けていた。
ジェリドは隠れていると思う方面に射撃を行った。しかし、余り手ごたえがなかった。

「(くそっ!逃げられたか)」

そう思った矢先、ジェリドの側面より先ほどのジムがビームサーベルでジェリドの左腕を切り裂いた。

「ぐっ・・・なんと・・・」

ジェリドは辛うじて撃墜を免れた。エマとカクリコンジェリドの傍により、そのジムに発砲した。
そのジムは再び木々に隠れながらも後退していった。

ジェリドの機体の破損状況をカクリコンは確認していた。

「・・・まあ、大丈夫だろう。基地まで持つと思う」

「そうか・・・。迂闊だった」

ジェリドは不覚を取ったことに悔やんでいた。するとエマがそんなジェリドを慰めた。

「まあ、戦果としてはこちらは撃墜された機体がないんだから上々よ。ジェリド隊長さん」

「茶化すな!オレは完璧に任務を遂行せねばならないんだ」

いつも通りの強気のジェリドが戻ってきたとカクリコンは安堵し、ジェリドに基地に帰投しようと改めて声を掛けて、その場を引き揚げていった。

一方の交代したジムⅢはダグラス部隊の前線部隊に合流を果たしていた。
その部隊は1隻の新造巡洋艦クラップ級のラー・アイム。大気圏突入機能を備えたミノフスキークラフト飛行可能な戦艦であった。

ラー・アイムが地表に着陸しており、そのデッキよりジムが帰投した。ジムの中から降りてきたパイロットをメカニックのモーラが労った。

「よく無事で帰ってきたなキース」

最愛の人であるモーラをキースが頬に軽くキスをした。

「あったりまえだろう。お前を残して逝きやしないって」

「よく言うよ!」

モーラはキースの背中をバシッと叩くと、キースは思いっきり咽ていた。
そんな光景を格納庫へやって来たコウとルセットが微笑みながらやって来た。

「キース、大丈夫だったか?」

「斥候がやられたと聞いたから、貴方のことだと思って心配したわよ」

咽返っていたキースは息を整えて、前かがみで軽く手を挙げて答えた。

「・・うう・・大丈夫・・・。生憎、他の部隊の話だったから・・・」

「そうか」

コウは顎に手をやり、キースの様子を見ていた。ルセットは不満げな顔をしながら、タブレット端末を片手にキースに伝えた。

「キース中尉。アナハイムはジムⅢでなく、こちらのゼータシリーズでテストして欲しかったのですよ」

キースはその話を聞いて、軽く首を振った。

「・・・ガンダムは、連邦の象徴だ。おいそれとオレの様な脇役が乗るようなものじゃないよ・・・」

キースの謙遜にコウ、ルセット、モーラと呆れていた。

「キース・・・。アンタちょっとは自覚してもいいんじゃない?この戦争で3年も戦い抜いて、撃墜スコアも稼いで、生き残ってきたんだよ。アンタも立派な主役だよ」

モーラが腕を組みながら、キースに説教をした。コウは格納庫にあるゼータシリーズをふと眺めていた。

アナハイムとカラバの技術、そして神童カミーユ・ビダンとその両親の傑作機であるフル・サイコフレーム機体のZ(ゼータ)ガンダム。そこからの量産派生であるゼータシリーズのZプラスがこの艦内に3機格納されていた。

カラバのハヤト・コバヤシの構想であり、「ガンダムが如何なる危機をも覆す象徴となる」と宣伝故に、アナハイムと掛け合った結果、カラバの量産機の試作機としてこの艦にも納品されていた。

しかしながらこの艦はエゥーゴであった。協力体制であるため、そしてこの艦の指揮官のエイパー・シナプス准将の絶対的な信頼故にハヤト自身から託したかった。

そして、この艦にはその神童も乗り合わせていた。4人がブリッジに上がると、シナプスと見慣れたアルビオン時代からのスタッフ、そしてカミーユとファが居た。

カミーユがキースに近付いて、報告を求めた。

「キース中尉。ジムで死にかけたらしいじゃないか」

カミーユの窘めるような口調をキースは頭を掻いて謝っていた。

「すみませんビダン大尉。モーラやルセットさんの言う通りゼータシリーズで行けば良かったです」

カミーユはキースの肩を叩いて、労った。

「まあ、生きて帰ってきた訳だから、これを機に少しは自重するんだね」

キースはカミーユに敬礼をした。

「はっ。己の我がままを恥じて、今後は人の意見を取り入れることにします」

カミーユはキースの殊勝な態度に理解を示した。

「そうだね。で、どうだった?敵の新型は?」

キースが持ち帰った映像をブリッジのモニターに接続して皆に見せた。
ルセットは吹き出していた。

「ジムに毛が生えた位の機体だわ。まるでゼータシリーズの足元にも及ばない」

コウも同意見だった。しかしながら、量産機とは汎用性と費用に見合ったものが最善だった。このゼータシリーズがとてもそれに見合っていると思えなかった。

「でも、数が揃うと厄介な代物には違いないな」

コウがそう語ると、シナプスが頷いた。

「そうだな。あの新型機で斥候に出していた別部隊のジムⅢ3機が撃墜された。ジムよりは明らかに上と見てよいだろう」

カミーユも頷いていた。

「艦長に同意します。戦はある程度は数だからね。量産が整う前に早めにベルリンを攻略するようダグラス司令に打診した方が良いかもしれない」

カミーユの意見に一同頷いていた。シナプスは後方の本隊と連絡を取ると決め、その場は解散となった。

各自が各々の部屋に戻っていったが、カミーユはブリッジで物思いにふけっていた。するとファがカミーユに話し掛けてきた。

「何を考えているの?」

カミーユはファの質問にゆっくりと答えていった。

「・・・カーディアスさんと出会い、ロンデニヨン・・・バウアーさん、メラン中佐を紹介され、共に来たるべき災厄に備えての機動部隊<ロンド・ベル>の結成。アムロ中佐、シナプス准将、ブライト准将の加入。今はエゥーゴに協力をしている」

「カミーユ・・・」

「カラバのシャアさん、そしてガルマさんとも会った。そしてララァさんがシロッコによって拉致された・・・。全ては災厄に向けての道筋を辿るように推移しているように思えるんだ・・・」

もうじき17歳を迎えるただの少年であるはずだった。カミーユはそう思っていた。家庭内のイザコザが自分を反抗期に迎え入れようとしているところに思いっきり水を差したような感触だった。3年前に触れたあの忌まわしい箱が・・・

「皆、争っている場合じゃないんだ。・・・アレは・・・あの箱は、この時代の推移によって引き起こされた負の感情を全て感じ取っている。この7年間の厭戦気分が全てのひとにもたらされなく、継続して争っているのも、あの箱のせいで皆が気付かないだけなんだとオレは思っている」

カミーユは確信していた。フロンタルという見えない巨悪が何をもたらすつもりなのかを日を追うごとに理解を深めていた。ファはカミーユのそんな話をいつも聞いてあげていた。カミーユの傍で見守ってあげられるのは私しかいないと。

カミーユはファの顔を見て、優しく微笑んでいた。

「ファ。君はいつもオレの傍にいてくれる。変わらない顔がいることがオレを休めてくれる。ありがとな」

ファはカミーユの肩をポンと叩き、ブリッジを後にしていった。最初は気恥ずかしいものがあったが、もう慣れたものだった。恋愛というよりも、家族愛のような感情だった。それでもカミーユはファを大事に思い、ファも同じだった。


一方、機体を損傷負いながらも無事に帰投を果たしたジェリドたちは、基地にて訪れていたシロッコと対面した。報告の為にブルタークの基地司令官室に訪れた時、シロッコがブルタークの傍に立っていた。

ジェリドはシロッコという組織のNO2とも目された男を眼前にし緊張が走った。シロッコは着慣れた白の軍服の埃を掃うような仕草で入って来たジェリドに声を掛けた。

「・・・君が、ジェリド君か?」

ジェリドは中将と呼ばれるシロッコに対して最敬礼をした。軍という組織では上官が絶対であるためだった。シロッコは少し笑い、ジェリドの緊張を解くように促した。

「別に取って食べようとも思わん。男はそれ程趣味じゃないからね。しかし、君の才能には興味があるんだよ」

この頃、シロッコはある程度優秀な士官にはシロッコが独自に生成した感応波試験を課していた。シロッコは今後戦を左右するのは所謂ニュータイプの存在と認識していた。

フラナガン機関より流れてきた技術がムラサメ研究所にて形となり、オーガスタ研究所の情報を併合して、ニュータイプという人的兵器が実用化されていた。強制したものも中にはあった。それは人工ニュータイプと呼ばれた。

シロッコはなるべく自然なものを欲した。どうしても仲間に引き込めないときには強制を課したりした。あのララァのように。

ジェリドはシロッコの自分に興味があるという発言に戸惑った。何の話か分からなかったからだった。
シロッコはジェリドの肩を叩き、語り掛けた。

「ジェリド君。ちょっと私に付いてきたまえ」

ジェリドはブルタークの顔を見た。ブルタークは静かに頷いた。ジェリドは仕方なくシロッコの後に付いて行くため、報告を後回しにして、部屋を後にしていった。

シロッコに案内された場所はシロッコがこの基地に乗り付けるために利用したスードラという輸送船だった。シロッコの後について格納庫に入ると、4機のモビルスーツが格納されていた。

ジェリドはそのモビルスーツを眺めていた。一つは黄色い巨体。黒いシャープなガンダム。この2機は見たことがなかったが、残りの2機は新製品カタログで見たことがあった。

「これは、バウンド・ドック・・・。サイコミュ搭載型の最新鋭モビルスーツ」

ジェリドが驚きながらも発言していた。シロッコは「ほう」と感心していた。

「流石この基地の有力株だけのことはある。ちなみにこのモビルスーツの特性は知っているのかな?」

シロッコの問いにジェリドは頷いて答えた。

「可変モビルスーツで巨体ながらの機動性能。しかしながらそれを引き出すための能力を有さない限り、ただのガラクタと聞いている」

シロッコは高らかに笑っていた。

「ハッハッハ・・・そうだ、ガラクタだ。ニュータイプ性能が伴わないと、これを乗りこなすことができない。それもかなりの高い能力だ。さもなくばただの的だ」

シロッコはジェリドにバウンド・ドックのライセンスキーを手渡した。そしてジェリドに搭乗するよ促した。

「ジェリド君。君にこの機体を操れるかな?私はこの機体を操れる人材を探していたのだよ。さしあたって、このサイコガンダムが君の手解きをしよう」

ジェリドはライセンスキーを受け取りながらも、サイコガンダムという言葉に疑問を呈した。

「サイコガンダム?」

「ああ。この黒いガンダムだよ。搭乗者はこのコだ」

シロッコはサイコガンダムのコックピットよりパイロットをジェリドの前まで案内してきた。とても小さな人だった。ノーマルスーツを着込んでいたからか、そのシルエットは女性だと分かった。しかし、その姿にジェリドは異質なものを感じた。

全身漆黒のノーマルスーツに口元が見えるが、それ以外の頭が黒いヘルメットのようなもので覆われていた。そのヘルメットは至る所に緑の光の線が走っていた。

ジェリドの反応にシロッコはそのパイロットについて説明を付けた。

「この子は才能があるのだが、調整中だ。あまり言うことを聞かないのでな。私はとりあえずメシアと呼んでいる」

ジェリドは救世主(メシア)という名前に物々しさを感じた。シロッコの救世主ということなのだろうかとジェリドは考えていた。それを勘付いたかのようにシロッコは補足した。

「その通り、私の救世主だよ。彼女の存在で私の願いが叶うのだからな」

「願いですか・・・」

「そう。人類は苦難の末、新たなステージに立つことができる。ギレンは自分がいつまでも主役で成り下がろうと思っているが、私はそこまで過大評価してはいない。ただ・・・」

「ただ?」

「ただ、人類の可能性というものを私は知りたいのだ。気が付いているのはごく少数だろうが、この戦争状態の継続はおかしいと思わないか?」

ジェリドはニュース等で7年前より継続している戦争に繋がりとしては問題ではないと思った。しかし、シロッコがそう問いかけてくるには理由があると考えた。

「・・・ある場所へ治安維持で職務遂行をした。しかし、そこは無気力な人たちの街だった。余程の圧政だったのかと思った。普通は民衆が不満で蜂起するはずが、それは生きることの放棄だった。絶望を形として体現したかのようだった」

ジェリドがそうシロッコに話すと、シロッコはジェリドを見て真剣な表情で頷いた。

「そうだ。この世の歯車が抵抗することへの希望を失わせようとしている。嫌な事に対して、すぐ忘失させては詰み将棋のように人の絶望へ導いていく。その希望が全て奪われた時、人は立ち直れない。そんなシステムをある男が作り上げた」

ジェリドはシロッコの言葉の理解に苦しんでいた。人々の希望を奪う?何のために。
シロッコは気にせず話を続けた。

「奴のシステムは絶望を糧とする。その絶望を誘うための仕掛けとして、この厭戦気分ながらの世情を決して飽和させないように上手く支配している。その絶望を収めるサイコフレームを奴は開発をした」

ジェリドには思念・概念というもので世界が回っていると話すシロッコに胡散臭さを覚えていた。
ジェリドはその本音をシロッコにぶつけてみた。

「しかしながら中将。そんなサイコフレームが世界の意識をコントロールしていたなんてお伽話じゃありませんか?」

シロッコはジェリドの質問に当然そんな反応だろうと思いながらも話を続けた。

「私はその箱を奴に紹介され、直視し、触れたことがあった。とても恐ろしいものだと思った。破壊はできなかった。その所有者が世界の黒幕だったからもあったが、個人的な好奇心の方が上回ったのだ。この箱がもたらす脅威は地球圏全体を圧縮するような力をもたらす。ひいては地球を崩壊させる可能性がある」

「それは・・・大変ですな」

ジェリドの反応はそっけない。シロッコはさらに話を続けた。

「人類は近い将来究極の選択に迫られる。地球を棄てても生きるか、心中するかだ。この戦いの全ての原因は地球に帰するものだ。それがなければイーブンになる。私がこのような地位を率先して、犠牲を払いながらも恨まれながらも直感に頼り、築いたには結果が次のような理由だった」

シロッコは傍にある愛機ジ・Oに触れて、語った。

「人類は生存の選択に迫られたのだ。新たなる進化の過程で。勿論進化の果て、人類には生き残って欲しい。私が先導者となって人類の危機を警鐘し、様々な苦難を与えてはその箱の開放より乗り越えられる力を与えなければならないと。仮に私の課題に人類が答えられないときはそれは滅ぶ運命となるだろう」

ジェリドは腕を組んでいた。何故自分にそんな話をしたのか疑問だった。
シロッコはジェリドに向かい、バウンド・ドックの搭乗を促した。

「君は私のこの話を聞いたうえで、バウンド・ドックに乗ってもらう。今現在の状況下でその機体を操れるものは世界の危機を感じることができるだろう。それが感じられなければ、お前に用はない。大人しく滅びを待つが良い・・・」

ジェリドはシロッコに勝手に突き放された感が癪に触っていた。ジェリドがバウンド・ドックに乗り込むと一通りのマニュアルを読み流した。

「(・・・バーサムの流れもある。ティターンズ仕様でもある訳だな)」

ジェリドはバウンド・ドックの機体をスードラの外へ操縦して出した。
すると、いつの間にかサイコガンダムと呼ばれた機体も外に出ていた。

ジェリドがその黒い機体に対峙すると、異様なプレッシャーを感じた。

「(なんだ・・・あの悲しみは・・・)」

サイコガンダムに取り巻く悲しいイメージがジェリドを困惑させていた。ワイプモニターにシロッコが映ったことをジェリドは確認した。

「ジェリド君。バウンド・ドックのフィードバックが上手く言っているようだな」

「どういうことですか中将?」

モニター越しのシロッコは少し間を置いて、ジェリドに語り掛けた。

「それはニュータイプ専用機だ。君の表情を見れば分かる。メシアの事を悲しいと思ったのだろう」

「それは・・・」

シロッコに心を読まれたことにジェリドはさらに困惑させた。シロッコは話し続ける。

「メシアの心は慈愛に満ちている。世界に対してな。今の世界はとても悲しい状態だ。彼女なりに世界を憂い、サイコガンダムに乗っている。少しでも私が求める同志を探す為に。君はそれに見合うか確かめさせてもらう。今まで幾多の能力ある士官たちをテストしていた彼女だ。ほとんどが脱落者だった」

シロッコがそう言い切ると通信を終えた。それと同時にサイコガンダムが躍動し、ジェリドに襲い掛かってきた。

「ちぃ!」

サイコガンダムの右ストレートをジェリドは横にひねって躱していた。しかし、メシアは即座にソバットのような動きでバウンド・ドックの頭を狙った。

ジェリドはそれも避けた。さらにメシアの攻撃は続いた。蹴りを躱したバウンド・ドックはしゃがみこんだ態勢になっていた。それをメシアは宙に飛び、バウンド・ドックの頭上を捉え、手でバウンド・ドックの体ごと地面に抑えつけようとした。

ジェリドは後方に転がるように飛び、それを躱した。するとメシアは着地したとき一連の行動が止まった。それをジェリドは逃さず、逆に攻勢に出た。

ジェリドはクローでサイコガンダムに攻撃を加えた。しかしその攻撃は届かなかった。

「なんだと!・・・なぜ止まる?」

ジェリドの攻撃はサイコガンダムの手前で静止していた。サイコガンダムの周囲で何らかの磁場フィールド現象が起きていた。

「ええい!ならば」

ジェリドは持ちうるビーム兵器でサイコガンダムに放った。しかし、全てがメシアの一歩手前で静止していた。

「ば・・・バカな!」

とても非科学的な現象にジェリドはうろたえた。力学的法則を無視している。サイコガンダムは手で飛んできた眼前のものを払い、払われたビームは全て空へ飛んでいった。

メシアはゆっくりとジェリドに近づいて行った。ジェリドはビームライフルを放った。しかし、メシアには届かない。

「ぐっ・・・何で・・・」

そしてジェリドの眼前にサイコガンダムが到着し、その手にはビームサーベルが握られていた。ジェリドの体が金縛りにあったかのように動かない。その状況を見ていたシロッコは残念そうに語った。

「・・・また外れだったか。貴官ならばと思った。私の勘だったのだがな」

サイコガンダムのサーベルが頭上より振り下ろされる。ジェリドは死を実感した。しかしまだ死んでいない。だが様々な死の感情が自分に入り込んできた。

「・・っぐ・・何なんだ!この苦痛は!」

痛みの感情、決して痛くはないが心がバラバラになりそうだった。その意識下の中、全ての時が止まったかのようだった。

「目の前にガンダムが・・・そうだ、此奴にやられそうだった」

ジェリドはバウンド・ドックのクローをガンダムの腹に目がけて打ち込んだ。メシアはその咄嗟の動きに驚いた。振り下ろしたはずのサーベルよりジェリドのボディーブローの方が早かった。

「おお!」

シロッコはジェリドの動きに感嘆した。ジェリドのクローはサイコガンダムの腹に届いてはいない。しかしその磁場たる空間がガンダムを突き飛ばそうとしていた。

「うおおおおお!」

ジェリドは雄たけびを上げながらガンダムを押していた。ガンダムもスラスターを全開にし、ジェリドの攻撃を押し返そうとしていた。

「うらーっ!」

ジェリドが何とか競り勝った、ガンダムを後方へ飛ばした。ガンダムは見事に着地し、その場で静止した。ジェリドは息を切らしていた。

「ハア、ハア、・・・なんだ・・・これは・・・」

ジェリドは自分に起きた現象に戸惑いを覚えていた。シロッコに出会ってから何度戸惑ったことか。
すると、再びワイプにシロッコが映し出された。

「見事だジェリド君。君もニュータイプとして今後の戦いに参加できる権利を得られたのだ」

「権利・・・ニュータイプ・・・何でオレが・・・」

シロッコは腕を組み、説明をした。

「ふむ。君はサイコミュを操ったのだ。その結果、メシアを押し返すことができた。これからはサイコミュ同士の戦いになっていくだろう。メシアの持つサイコ・フィールドはI・フィールドとは比較にならない程の斥力を持つ」

「サイコ・フィールド・・・」

「そうだ。サイコ・フィールドが今後君を守ってくれる。その敵と対峙したときもそれを使えば戦える。しかし、それを使えないで戦うことはできない。一方的な戦いになる」

「そんな・・・最早戦闘とは呼べん。一般士官らの出番がない・・・」

「そうだな。まあ、火力によるがな。サイコ・フィールドも束になった砲撃には弱い。容量があるためだ。その容量を解決したのがフロンタルの持つシステムだ」

「無尽蔵のサイコ・フィールドシステム・・・」

「君も気が付いただろう。バウンド・ドックに(いざな)われ、沢山の死の感情を実感したはずだ。それを汲み取れるのはニュータイプである証だ。一般人の感覚としては知らずうちに負の感情を回収されている。それを君は感じ取った。世界が死につつあることを感じた。フロンタルシステムの恐ろしさを」

「・・・成程な・・・」

ジェリドは俯き、自分のやるべきことを考えた。世界は終わりかけている。世界が生き残るためには自分を含めて、色々な苦難に取り組まなければならないと考えた。

「わかりました中将。微力ながら手伝わせていただきます」

この日より、ジェリドはシロッコの配下となった。ジェリドはカクリコンたちをシロッコに説明すると同志のサポートということならば喜んで連れてくるが良いと伝えた。ただし・・・

「ジェリド君。君も含め、君たちも人類の敵に回る覚悟の下付いてくるならば説明するがいい」

「人類に苦難を与えるためですか?」

「そうだ。人類に更なるストレスを与え、想いを集結せねばこの戦は勝てない。既に私は恨まれている。結果、私が礎になることになれるならば、喜んで地球にコロニーを落とし、サイドを壊滅させよう。元々そんな役回りなんだがね」

シロッコは笑っていた。ジェリドは憮然としていた。

「そんな私でも、憂いを覚えている。人の革新を見たい以前に滅んでしまっては元も子もない。7年前よりその直感があった。何か未曽有の危機に迫られているような気がすると。最初は考え過ぎかと思った。しかし、アムロ・レイとの出会いで修正を余儀なくされた」

「あの・・・アムロ・レイと」

「ああ、彼との出会いが私の退屈しのぎの木星行きを断念させた。全ては結果論になるが、フロンタル、メシア、アムロ。世界の特異点と接点を持つことができた」

「世界の特異点ですか・・・」

「歴史の道標として、私は悪役(ヒール)になるのだ。その恨みと生存本能を一丸となって、私を砕き、フロンタルへぶつける。誰かがその準備をしない限りは不可避だろう」

「中将がそれを敢えて被ると」

シロッコはジェリドの問いかけに力強く頷いた。

「・・・私のすべきこと。人の革新、現体制の終幕。俗物共の粛正の後に選別されたものが(まつりごと)を行えばよい。私ではない。それは無責任な発想だろうが、人にそれ程悲観してはいない。人は最終的に最善の道を選択できると確信している。そのためには多くの苦難が必要だ。この7年間もそうだが、まだ痛みが足りない。そしてフロンタルがいる。人類をここで終わらせる訳にはいかない」

シロッコの告白はここで終わった。ジェリドはバウンド・ドックから降りて、シロッコに再び対面した。傍にはメシアが居た。ジェリドは改めて決意を伝えた。

「オレも、このような部隊で・・・。自信持って言えるが、やっている行為は弾圧だ」

「そうだな」

「もはや、正義の味方を気取るつもりもない。オレもバウンド・ドックで感じ取った危機感を胸に、中将の行動に付いて行くことを約束する」

「・・・私は新たな同志を得た。他にも同志がいる。機会があればそれを紹介しよう」

シロッコはジェリドに手を差し伸べた。その手をジェリドは固く握手をした。

その後、ブルタークの下へジェリドが訪れ、先の偵察の報告をした。そしてシロッコと共にダグラス部隊の攻撃をするとブルタークに告げた。

「・・・シロッコ中将のお墨付きなんだろ?」

ブルタークは忌々しくそうジェリドに話した。ジェリドは無言で頷いた。

「なら、出る幕はないな。健闘を祈るだけだ」

ブルタークは再び書類の山に目を通し始めたので、ジェリドは敬礼し退出した。
部屋の外にはカクリコンとエマが居た。

「ジェリド・・・、先までシロッコ中将と一緒だったと聞いたぞ。どういうことだ?」

カクリコンがジェリドに説明を求めた。ジェリドは2人を見て、シロッコの話をそのまま伝えた。
後は彼らに任せるしかないと考えた。

カクリコン、エマ共に物凄く複雑な、訝し気な顔をした。そして、エマが口を開いた。

「・・・無理があるわ。信じろなんて。世界が悪くなっているのは理解できるけど、人類が滅ぶなんて・・・」

カクリコンがエマに同意して続く。

「そうだな。いくらうちの自慢のパイロットだって、それを信じて付いて来い、人類の敵になろう、なんて与太話信じられる訳がない」

ジェリドは2人の反応に当然だと考えた。つい先ほどまでの自分と同じ反応だったからだ。
ジェリドは腕を組んで別の提案をした。

「ならば、今からオレたちの部隊はダグラス部隊を殲滅しにいく」

カクリコンとエマはその発言に爆笑した。

「ハッハッハ・・・バカな!あの精鋭を前にオレらが殲滅?」

「ッフッフ・・・ジェリド。冗談はさっきの話だけにしてくれる?」

ジェリドはその挑発を逆手にとり、2人に取引を求めた。

「ならば、もしできたら付いてくるか?」

ジェリドは同期の仲間として、茨の道ながらも付いてきてほしいと思っていた。
カクリコンとエマはジェリドの誘いに乗った。


フランス地域境 ダグラス部隊 ビック・トレー艦橋 1.6 11:10


ダグラスは艦橋で信じられない光景を目のあたりにした。
オペレーターがそれを報告していた。

「ウォルフ大隊通信途絶!キッシンガム中隊全滅!テネス大隊戦線崩壊!・・・」

ダグラスの目視できるぐらいティターンズが迫っていた。
ダグラスは自身もモビルスーツに乗り、決戦を挑まねばならないと覚悟を決めていた。

「まさか・・・たった5機の敵に我々が敗北するとは・・・」

7年前から一緒に戦ってきた仲間たちがたった1日で全てを失う。その事実がダグラスを戦慄させていた。

「後は任せる・・・」

ダグラスは艦橋のクルーたちに司令部を一任し、自身は格納庫へ足を運んでいった。
格納庫に着いたダグラスの姿を見たメカニックたちは皆最敬礼をしていた。
ダグラスも敬礼を返し、自身の搭乗するジムⅢを眺めた。

「・・・無念だ・・・。我々の後を別の者が必ずや受け継ぐであろう・・・」

ダグラスは今の圧政に立ち向かうために立ち上がった。当面の敵はティターンズであった。その敵に倒される。本望だった。

「ダグラス・ベーダー、出るぞ!」

ダグラスは激戦の最中ビック・トレーを飛び出した。

サミエックはジムⅢを操り、周囲の部下と共に幾多のマラサイを撃破してきていた。しかしある1機のモビルスーツに部隊壊滅寸前まで追いやられていた。

「くっ・・・何故当たらない!」

パラス・アテネに乗っていたシーマは搭載されたサイコミュを最大限に活用し、高らかに笑いながらサミエックの部隊を駆逐していた。

「ハッハッハッハ!当たらない。お前らの攻撃は当たらないよ!」

シーマはサミエックの隣にいるジムをただのパンチのみで殴り倒した。サミエックは大振りのシーマに隙だらけと見て、即座にサーベルでパラス・アテネの頭上より振り下ろした。

「覚悟ー!」

サミエックはパラス・アテネを両断できると確実に踏んだ。しかし、それが寸前ではじかれた。

「ぬあっ!」

サミエックのジムがサイコ・フィールドの反発でのけぞった。シーマはゆっくりと振り返り、サミエックに目がけてミサイル群を放った。

「・・・ダグラス将軍・・・すまない・・・」

ミサイルは全てクリーンヒットし、サミエックのジムは四散した。その光景にシーマは満足した。

「はあ~。シロッコ、やったよ・・・」

シーマは恍惚な表情を見せていた。

ディミトリー部隊もサラ・ザビアロフ操るボリノーク・サマーンに壊滅寸前だった。
こちらもサラの機体にまるで当たらない。

「何なんだ・・・あの機体は!」

ディミトリーは恐怖した。ティターンズの新兵器だと考えた。ディミトリーはI・フィールドというものを知っていたが、アレはビーム兵器に対してだった。冷静に分析しても、サラの機体は物理攻撃を全てはじくというものだと認識した。

「アレ相手では、戦にならん!」

ディミトリーの部隊は全ての火力をサラに向けて集中して放った。それにサラは最大出力でサイコ・フィールドを展開した。

「この・・・下郎が!」

サラが叫んだが、その火力にボクリーノ・サマーンは後方に吹っ飛んだ。

「キャア!」

その吹っ飛んだサラをシロッコのジ・Oが支えた。

「大丈夫か、サラ」

「シロッコ様・・・」

サラはシロッコに支えてもらえたことに感動していた。
シロッコはサラに後方に下がるように伝えた。

「後は任せろ」

シロッコはビームサーベルを抜き、ディミトリーに向かって襲い掛かった。ディミトリーは部隊と共にシロッコに向かって、サラと同じように集中砲火を浴びせた。

「愚かな。私の力を見えないとは・・・。お前らは生き残れない」

シロッコは全ての攻撃をはじき、ディミトリーのジムを一刀両断した。一瞬だった。その電光石火の動きに周囲の部下たちは驚愕した。

「たっ・・・隊長!」

ディミトリーの仇を打とうとシロッコへ皆が襲い掛かった。

・・・

ダグラスは前線で単機で戦っているテネスに合流を果たしていた。

「テネス!」

「大将!何故、前線に!」

テネスはダグラスの登場に驚いていた。対峙していたのはジェリドの部隊だった。
ダグラスはテネスの労を労った。

「今まで、よくぞ尽くしてくれた」

「・・・申し訳ございません・・・」

テネスは悔しさを滲ませていた。ダグラスはジェリドのバウンド・ドックに目がけライフルを放った。
しかし、そのライフルはジェリドのフィールドにはじかれていた。

「他の部隊からの報告通りだな。ビームどころか実弾兵器、物理攻撃が利かないとは・・・」

ジェリドはダグラスとテネスのジムを仕留めようと突進してきた。2人共サーベルを構え、応対した。
ジェリドのクローがテネスのサーベルもろとも、ジムの腕を捥ぎ取った。

「なんと!」

テネスは衝撃で後方に倒れ込んだ。その眼前にダグラスのジムがクローの餌食になろうとしていた。

「大将!」

テネスが叫んだとき、ジェリドのクローによるダグラスへの右ストレートに間より、ビームサーベルが振り下ろされ、ジェリドのバウンド・ドックの腕を切断した。

「なんだと・・・」

ジェリドは自身のサイコ・フィールドを無視して攻撃できた敵に驚いていた。ジェリドは咄嗟に後方に飛んでいた。その邪魔した機体をジェリドは目の前で見ていた。

「ガンダムだと・・・」

ジェリドがそう呟いた。後方より援護でカクリコンとエマがジェリドに接近していた。

「ジェリド!」

「ジェリド、大丈夫なの!」

その2人にジェリドは警告した。

「来るな!2人共下がれ!」

その願いは無情にも届かず、そのガンダムのビームライフルにより、カクリコンとエマのバーサムは足と腕を撃ち抜かれていた。エマとカクリコンのバーザムはその場に倒れ込んだ。

「この・・・よくも!」

ジェリドはそのガンダムに向かってメガ拡粒子砲を放った。しかしガンダムに触れることなく、その粒子砲は四散した。

「バカな!・・・消えるだと!」

サイコ・フィールドの斥力でビームを弾くことは知っていたが、ビーム兵器の粒子の四散など聞いたことが無かった。

ガンダムに乗っていたカミーユは機体のサイコフレームでサイコ・フィールドを操り、周囲全ての物理的な活動を止め、そのビーム粒子に働きかけて無効化させていた。

カミーユはビームライフルをジェリドに打ち込んだ。ジェリドもサイコ・フィールドを展開したが、関係なくもう片方の腕を撃ち抜かれた。

「・・・オレのフィールドを超えてくるだと・・・」

ジェリドは悪寒を感じ、回避行動を取っていたため直撃は免れたが、代償としてもう片方の腕を失った。

カミーユの操るゼータガンダムはジェリドのバウンド・ドックを上回る攻撃力を有していた。というよりも、カミーユがジェリドを凌駕するニュータイプ能力を発揮していた。

「あのガンダムのパイロットの方が、オレよりも上だということなのか・・・」

ジェリドは悔しさを滲ませ、カクリコンとエマのバーサムに近寄っていた。

「カクリコン、エマ。大丈夫か!」

ジェリドの応答に2人が答えた。

「ああ、大丈夫だ」

「こちらも問題ない」

「そうか。しかし、賭けはオレの負けかな?」

ジェリドは壊滅できず、後退することに殊勝な意見を2人に伝えた。それに2人とも否定した。

「いや、お前の勝ちだ」

「そうね、壊滅って言って良い程の戦果だわ」

ジェリドは2人にお礼を言った。

「有難う。後は基地で話そう」

「おう。そうだな」

「分かったわ」

そう3人は話し、煙幕を張ってカミーユの前より基地へ撤退していった。
その姿をカミーユが確認した。カミーユはそれを追撃はしなかった。それよりもダグラス部隊の救援を優先させた。

「ダグラス大将。後どこが危機的状況でしょうか?」

カミーユの問いかけにダグラスが答えた。

「ほぼ全部隊壊滅だ。ディミトリー隊がつい先ほど音信が途絶えた」

「分かりました。その部隊の配置を転送してください」

カミーユの願いにダグラスは即座に送った。

「頼む。1人でも多く助けてやってくれ」

カミーユは頷き、送られたデータを確認し、ディミトリーの部隊へガンダムをウェーブライダーに変形させて、救援に向かって行った。







 
 

 
後書き
*サイコフレームの思念によるフィードバックを遠隔操作と機体能力の向上、操縦者の反射神経伝達の向上のみならず、アクシズ・ショックの流れから、コロニーレーザーまで湾曲する力より、斥力・引力の物理的な干渉、物質の運動停止まで有り有りにしました。

ちょっとドラゴ〇ボール的になってきてしまうかもしれません。
それでも、力には制限があります。 
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