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色気がない

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第一章

                 色気がない
 入来大助はよくだ、会社の同僚や親戚にこう言っていた。
「うちの女房は料理は上手で他の家事も出来て」
「いい奥さんだな」
「かなりな」
「ああ、けれどな」
 よくだ、酒を飲みつつ話すのだった。
「何かこうな」
「色気がないっていうんだな」
「御前いつも飲んだらそう言うな」
「うちの女房は色気がない」
「そうだって」
「元々結婚した時はな」
 その時のことからだ、彼は話すのだった。黒髪を短く刈って細い切れ長の目で鼻は丸い。背は一七四程で体格は痩せ気味だ。
「可愛い感じでな」
「今はか」
「色気が、か」
「二十八だけれどな」
 妻の年齢のことも話すのだった。
「もうな」
「二十八っていったらな」
「女だともうな」
「色気が凄くなってるよな」
「まして結婚してたらな」
「それが全然ないんだよ」
 それこそというのだ。
「もうな」
「色気が全くない」
「いつも言うけれどな」
「実際そうなんだよ、子供がいてな」
 男の子と女の子の兄妹がだ、彼と妻の間にはいる。
「その子供の世話と家事でな」
「備わる筈の色気がか」
「全然備わっていない」
「そうなんだな」
「そうだよ、もうな」 
 ビールや焼酎を飲みながらだ、ぼやくのだった。
「いつも動きやすいジーンズかジャージとエプロン、サンダルでな」
「それで髪は簡単にまとめていて」
「ノーメイク」
「何もなしなんだな」
「本当にいつもそんな格好だからな」
 それで、というのだ。
「もう色気なんか全くないぜ、だからもうな」
「夜もだな」
「全然やることがない」
「そうなんだな」
「そっちは本当にご無沙汰でな」
 こう言ってぼやくのだった。
「子供は二人出来たけれどな」
「もうそれ以上はか」
「ないか」
「別にいいけれどな。俺も三十五になって」
 つまり中年になってというのだ。
「元気がなくなってきてな」
「浮気もか」
「しないか」
「そんなかい性ないさ」
 自分には、というのだ。
「というかそんなことしたら後が大変だろ」
「離婚だの慰謝料ってな」
「えらいことになるな」
「というか俺は家庭があればそれでいいんだよ」
 それで充分だというのだ。
「浮気とか風俗とか興味ないさ」」
「つまりその奥さんでか」
「充分か」
「一人でな。ただな」
 それでもというのだった。
「うちの奴、本当に色気ないからな」
「それだけはか」
「厄介なんだな」
「どうしたものだよ」
 本当に、とだ。彼はビールや焼酎を飲みつつよくぼやいた。そうした話をしてそうしてだった。彼は妻の美紀を見ていた。
 一緒に寝てもそちらの営みはない、その色気のない美紀もそのことはわかっていた。そしてその彼女に対して。
 彼女の友人がだ、携帯で言ってきた。
「旦那が?」
「最近ね」
「そんなこと言ってるの」
「そう、あんたが色気がないってね」
「そういえば」
 言われてだ、美紀も言った。 
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